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朝日新聞記者によりK・Yと落書きされた珊瑚礁
1989年(平成元年)5月20日土曜日 朝刊5面社説「厳しい批判を糧として」

沖縄・西表島沖の海底にある巨大サンゴの写真記事の取材・報道について、
朝日新聞社は本日、二度目の「おわび」を掲載した。

その後の調査によって、四月二十日付夕刊に掲載された写真の「KY」という
「落書き」は、取材したカメラマンが自分で、落書きがなかったサンゴの表面に
傷をつけ、撮影したとの判断に達したからだ。現場にいたもう一人のカメラマンも、
部分的にこの事実を知っていたと考えざるを得ない。

これは取材の「行き過ぎ」といった事態ではない。ニュースの「ねつ造」であり
「虚報」といわねばならない。きわめて悪質な自然破壊だ。いかなる弁明も、
通用しない。

本社は今月十六日付で、この問題について「おわび」を載せたが、その段階では
「カメラマンの一人が、落書きの撮影効果を上げるため、うっすらと残っていた
部分を水中ストロボの柄でこすり、白い石灰質をさらに露出させた」と説明した。
これは、本社カメラマンが落書きした、とする地元のダイビング組合などの主張と
大幅に食い違っていた。

最初の本社の調べは、いわば身内に甘く、結果的に誤りだった。事実の追及を
使命とする報道機関としてまことに残念であり、この点も心からおわびしなければ
ならない。

さらに、私たちの報道によって多大のご迷惑をかけたダイバーはじめ地元の
人たちに、深く謝罪する。豊かな自然に恵まれた西表島で、世界一とされる巨大
アザミサンゴの周辺はとりわけ「聖域」である。その保護に地元ではつねに気を
くばっている。そうした人たちの証言の重さを大切にすべきだったのに、当初の
私たちの事実調査は、本社カメラマンの主張に比重をかけすぎた。

地元からカメラマン個人に対して最初に抗議があったのは、四月二十七日の
ことだ。なぜ、事実の確認にこれほど長い時間を要したのか。そうした疑問が
出るのは当然である。

ひと言でいえば、問題の重大さについての認識が私たちの組織に足りなかった
ためだと思う。それが、社内連絡の悪さにもつながり、事実調査の不徹底、遅れをも
招くことになった。今回の報道は事実と相違する、との指摘があったにもかかわらず、
私たちの組織は敏感に反応しなかった。

最初の「おわび」で、本社は「取材に行き過ぎがあった」と書いた。しかし、
その時点までの調査でも、取材の名のもとにサンゴを傷つけた事実ははっきりしていた。
「行き過ぎ」という表現はすでに、私たちの認識の甘さが表れていたと自省している。

その点をふくめ、多くの厳しい批判が続いている。東京都内のある読者の投書は
次のような内容だった。「判断の基準になっていた新聞が信頼しにくくなった。
私たちにとって、これは大変な事件です。これは、単なる個人の行き過ぎでしょうか。
そのような土壌はなかったのでしょうか。この問題についての朝日新聞の報道が
簡単すぎるのも、大いに気になります」

サンゴを削って撮影するなど、考えもおよばぬ、常軌を逸した行為だ。しかし、
これを例外的、突発的とだけみることは、許されない。地元から「ねつ造」と
指摘されたあとの対応をもふくめれば、本社の組織のあり方になんらかの問題が
あるのは確かである。できうるかぎりの点検と対策を緊急に実行し、過ちを
重ねないようにするほかはない。

前回、十七日付の社説の結びをあえて繰り返させていただきたい。

――私たちは批判を謙虚に受けとめるとともに、今後の紙面の内容で、それに
お答えする決意である。

社説「厳しい批判を糧として」
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