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朝日新聞記者によりK・Yと落書きされた珊瑚礁
1989年(平成元年)5月20日土曜日 朝刊3面事実の追及に甘さ 点検・教育のあり方反省

読者のみなさまへ

読者のみなさまに。あらためておわび申し上げます。

本日付の紙面でお伝えしましたように、四月二十日付の本紙夕刊の写真取材で、
傷のないサンゴに文字を彫りつけたのは、撮影した本社カメラマン自身であったことが
明らかになりました。

前回の説明に誤り

真実を伝えるべき新聞人がニュースを創作し、環境の保護を訴える記事のために
わざわざ自分で傷つけたのです。弁明の余地のない行為です。朝日新聞社は責任者の
社内処罰をあらためて行いましたが、カメラマンの行動などについては、さらに
関係諸機関の調べを待ちたいと思います。

五月十六日付の紙面では、事実関係について「このサンゴには、もともと『KY』
という傷がついていた。撮影効果を高めるため、その傷を深くした」とご報告しました。
しかし、現地調査ともつき合わせてさらに調べたところ、十九日になって、サンゴに
新しい傷をつけたのは、本社のカメラマン以外には考えられないとの結論に達しました。

朝日新聞社は、この問題について、現地調査をするほか、当のカメラマンに何度も
事情をただしました。その過程で、五月十五日夕に「小さい傷を太くした」と認め、
「それ以上のことは絶対にやっていない」と述べました。

現場は沖合約五百メートル、水深一五メートルの海底であり、当事者の二人以外には、
第三者のいない状況でした。

結果として、その追及に甘さがあったことを認めざるをえません。事実調べに時間が
かかったこともあります。しかし、それ以上に、経験豊かな同僚カメラマンが「これが
真相だ」と打ち明けた内容については、いささかの懸念を抱きながらも、信用せざるを
えませんでした。

前回は、その時点での調査結果を紙面に掲載しました。読者に一日も早くおわび
したかったからですが、結果的に誤った説明をしたことはまことに遺憾です。

不祥事防げたはず

今回の不祥事はなぜ起きたのでしょうか。間違いを起こしたカメラマン個人の
問題があることはもちろんですが、朝日新聞社の組織自体に問題があったことも、
否定できません。

第一は、紙面づくりの上でのチェック体制です。取材に当たって、上司である写真部
デスクが、記事のねらいや撮影の方法について、担当カメラマンと十分に話し合い、
「適当な対象がなかったら、そのまま帰ればよい」と指示していれば、起こらなかった
ことかもしれません。

取材のあとも、上司が現場の状況を克明に聞いて、不審な点を問いただしていれば、
このような不祥事に対する新聞社としての善後措置も、もっと適切・敏速にとることが
できたろう、と反省します。

次は、記者やカメラマンの教育についてです。
新聞記者の競争は、あくまでも、社会通念からみて許される範囲でなければなりません。
今回のような「手段を選ばず」という取材が許されないことはいうまでもなく、
自然保護を訴える記事を書くために、その自然を傷つけるなどとは、言語道断であります。

全社を挙げて対策

こうしたことが再び起こらないよう、全社を挙げて対策を考えます。
十六日付の紙面で伊藤邦男・前東京本社編集局長が申し上げましたように、
取材の基本的姿勢、モラルについて、一線の記者やカメラマンはもちろん、
幹部にもあらためて教育をいたします。とりわけ、無用の功名心に走らないよう、
節度ある取材態度を守ることにいっそう努めます。

今回の事件につきまして、これまでに全国の本支社、総・支局、通信局、
販売店に、みなさまから多数の電話や手紙をいただきました。当然のおしかりと
受け止めております。

読者のみなさまの信頼を回復する道は、朝日新聞のすべての記者やカメラマンが、
今回の事件の反省に立って、それぞれ自らのあるべき姿を問い直しつつ、
日々の仕事にいっそう励むしかない、と思います。自然保護や環境問題については
もちろん、あらゆるニュースや話題を今後も全力で追っていく決意であります。

朝日新聞

事実の追及に甘さ 点検・教育のあり方反省
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