remove
powerd by nog twitter

★★       条 文 の 解 説        ★★

建物の区分所有等に関する法律

(この解説においては、略称:区分所有法 と言う)

第1章 建物の区分所有 第1節 総則

T-b.第4条(共用部分)から 第10条(区分所有権売渡請求権)まで

◎はじめに 
第一条 建物の区分所有  
第二条 定義
第三条 区分所有者の団体
第四条 共用部分
第五条 規約による建物の敷地
第六条 区分所有者の権利義務
第七条 先取特権
第八条 特定承継人の責任
第九条 物の設置又は保存の瑕疵に関する推定
第十条 区分所有権売渡請求権

マンション管理士・管理業務主任者を目指す方のために、区分所有法を条文ごとに解説しました。 

試験問題は、過去の問題から出されるのではありません。条文から出題されます。

条文を勉強することが、合格への道です。

前へ前へ次へ次へ

凡例:各条文は、黒字にて表示。解説は条文の下に緑字にて表示

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

(共用部分)

第四条

1項 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
過去出題 マンション管理士 H18年、H16年、H15年、H13年
管理業務主任者 H15年、

*共用部分とは...また、建物の定義に戻ります。
             数個の専有部分(各室)に通ずる廊下が誰かの専用となり、他の人が通れなくなったのでは他の人の専有部分の使用に支障が生じます。
            従って、玄関、廊下、階段室、エレベーター室などの部分は区分所有権の目的、即ち専有部分として扱うことができなくしました。
            これら、玄関、廊下、階段室、エレベーター室などは専有部分に対応して共用部分と呼ばれ、また、法律で明確に定めているため「法定共用部分」と呼ばれます。

*区分所有権の目的とならない...共用部分は建物の中にあっても、個人の権利(区分所有権=専有部分)とは別のものとする。

 このことは、既に説明しました第2条4項の「共用部分」の定義と同じ結論ですが、第2条4項が、「専有部分」以外という定義であるのに対し本条はみんなのために使われる部分は何かと、共用部分を「廊下、階段室、その他構造上」と例示して定義しています。

★共用部分の例
 それでは、建物のどの部分が共用部分に該当するのでしょうか。
法律的には、それは本条でいう、専有部分以外の共用に供されるべき建物の部分ということになります。(注意:建物の部分であって、土地は入っていない。)

 もう一度、共用部分とは、で第2条4項に戻りますが、
  @専有部分以外の建物本体の部分(廊下、階段室など)
  A専有部分に属しない建物の附属物
  B規約によって共用部分とされた専有部分または附属の建物(第4条2項) です。

 従って、通常は外部の第三者が客観的に見ても、数個の専有部分(室)が共に使用していると見られる部分が共用部分ということになります。
しかし、法律の条文ではこのようになりますが、具体的な区分が明確でないことも多く、どの部分が共用部分に該当するかは個々のマンションの構造に応じて判断されます。

  建物の躯体部分、外壁・屋上は勿論のこと、一般には本条で例示された廊下、階段室のほか、玄関、エントランスホール、エレベーターホール、エレベーター機械室、電気室等がこれに該当します。
 また、建物に附属した、電気の外部にある配線、ガス・水道のメインの配管、消防設備なども共用部分にあたります。

 なお、条文の逆の解釈として、同じ廊下や階段室でも、1個の専有部分だけに通じる場合には、法定共用部分に該当しませんから注意してください。

★法定共用部分(登記が不要。逆に登記ができない)となると
 これら1項の要件として例示された廊下・階段室などの共用部分は誰が見ても共用部分ですから、法律上当然の共用部分として「法定共用部分」といわれ、且つ共用部分であることに関し紛争が生じる恐れがありませんので(ただし、法律の理論の上でそうであるだけで、実際には共用部分であるかどうかの紛争がかなりあります。)、紛争当事者間の権利関係決定基準たる登記を必要とせず、かえって登記をすることができないものとされています。

*配管、配線について

 水道やガスの配管、電気の配線の設備に関する専有部分と共用部分の区分についても説の分かれるところですが、その物の性質とか、設置目的によって判断するほかありません。

 各専有部分のためにのみ存在する枝管・枝線は、本管・本線の分岐点あるいは戸別の専有メーターがある場合にはそのメーターまでを共用部分とし、専有部分内の配管・配線は専有部分に属することになると解せます。

 「標準管理規約(単棟型)」では例をあげて、かなり明確に「共用部分」の範囲を示していますので、イメージがつくれます。
なお、この共用部分の中には「法定共用部分」とあとで説明します「規約共用部分」も入っていますので注意してください。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」第8条、「別表第2」の共用部分の範囲

1.  玄関ホール、
   廊下、
   階段、
   エレベーターホール、
   エレベーター室、
   電気室、
   機械室、
   パイプスペース(PS)、
   メーターボックス(MB)(給湯器ボイラー等の設備を除く。)、
   内外壁、
   界壁、
   床スラブ、
   基礎部分、
   バルコニー、
   ベランダ

   屋上テラス、
   車庫等
  専有部分に属さない「建物の部分」

2. エレベーター設備、
   電気設備、
   給排水衛生設備、
   ガス配管設備、
   火災警報設備、
   インターネット通信設備、
   ケーブルテレビ設備、
   オートロック設備、
   宅配ボックス、
   避雷設備、
   塔屋、
   集合郵便受箱、
   配線配管(給水管については、本管から各住戸メーターを含む部分、雑排水管及び汚水管については、配管継手及び立て管)等
専有部分に属さない「建物の附属物」


3. 管理事務室
   管理用倉庫、
   集会室及び
    それらの附属物

★設備、配管、附属物など、読んだだけで、どこにあるのかイメージを描いてください。パイプスペース(PS)やメーターボックス(MB)も、一度開けて覗いてください。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」第8条、「別表第2」:別表第2関係コメント
@ ここでいう共用部分には、規約共用部分のみならず、法定共用部分も含む

A 管理事務室等は、区分所有法上は専有部分の対象となるものであるが、区分所有者の共通の利益のために設置されるものであるから、これを規約により共用部分とすることとしたものである。
B 一部の区分所有者のみの共有とする共用部分があれば、その旨も記載する。

  なお、ここで、注意すべきことは、「標準管理規約」では、以上のとおり専有部分と共用部分を区分していますが、その区分は、必ずしも費用負担と連動しないということです。
例えば、下水管が詰まって、費用負担の原因が、専有部分の使用にある場合には、たとえ共用部分の配管等に故障があった場合でも、その専有部分を所有する区分所有者の責任となります。

   (よく、判例などでも問題になっている。下の階の室に漏水の責任問題がからむ。)

  ★上の階からの水漏れの場合:このような事故の際のトラブルを避けるためには、配管について、どこまでが専有部分でどこまでが共用部分かを、できるだけ具体的に規約やできれば図面で明確にしておく必要がありましょう。

床下コンクリートスラブと階下天井板との間の空間に設置された階上者専用の排水管の枝管は、「専有部分に属しない建物の付属物」にあたり、区分所有者全員の共用部分にあたるとし、同排水管からの漏水について、階上者の損害賠償責任を否定した最高裁の判決が平成12年3月に出されています。

  ★屋上に広告塔の設置:屋上は、特定の人がテラス等で専用使用するなど特殊な例外を除いて、通常は区分所有者全員のための法定共用部分になります。従って、広告塔の設置は共用部分の変更になりますので、総会において組合員総数および議決権総数の3/4以上の賛成があれば、設置可能と思われます。(第17条参照)


 (注意)屋上は共用部分であることは認めたが、屋上に携帯電話会社の基地局としてのアンテナを設置するための短期でない賃借権の設定(10年間)は、区分所有者の団体(管理組合)の決議ではできない。つまり、区分所有法での多数決ではなく民法の共有者の全員の合意必要であるとした判決が、平成20年5月30日;札幌地裁でありました。
 その後、平成21年2月28日、同件の控訴審の判決が札幌高裁であり、今度は、民法ではなく区分所有法の適用を認め、契約は総会の普通決議事項とされました。

@「地裁での判決」概要:携帯電話会社がマンションの管理組合に対し,屋上に携帯電話の基地局を設置するために締結した賃貸借契約に基づき設置工事の妨害禁止等を求めた請求について,契約を締結するのに必要な区分所有者全員の同意を得ていないとして,これを棄却した事案。

A「札幌高裁での判決」概要:携帯電話側の請求を棄却した一審判決を取り消し、管理組合に工事妨害の禁止を命じました。「基地局の設置で屋上に著しい変更が生じるとは言えず、電磁波が住民に健康被害を与える証拠もない」と判断。10年間の賃貸借契約締結に住民全員の同意は必要なく、総会の普通決議の過半数の賛成で足りると判示しました。民法602条の短期賃借権の規定は管理組合に適用されず、3年過ぎる契約でも無効とはいえないとのことです。

(注)このように、論点が「電磁波の影響」や、短期賃貸借の契約締結で民法の適用か区分所有法の適用か、また区分所有法第17条の「著しい変更に該当するか」など多くの問題を含んでいますが、裁判官の勉強次第で解釈は大きく変わります。
 なお、私は、「屋上に基地局の設置」は、区分所有法第17条の「その形状の著しい変更」に該当すると判断します。(特別多数決議要:区分所有者及び議決権の各3/4以上の決議)。
そして、設置状況によっては、最上階の区分所有者等に特別の影響を及ぼすこともあると思います。その際には、その専有部分の区分所有者の承諾を得る必要があります。
 また、賃貸借契約は、管理組合の自主的な判断を尊重して、契約期間に関係なく総会での普通決議(過半数)で可能と考えます。

<参考>平成21年マンション管理士試験 「問6」


★住居侵入罪 −マンションの共用部分は刑法での住居にあたる?ー  

*最近気になっている事件に、次のような判決がありました。

事件の概要:被告は、支援する共産党の「都議会報告」などを配るために東京都葛飾区にある民間7階建のマンションに入り、各戸のドアポストに投函していたところ住民に通報されて警察に逮捕され、23日間の身柄拘束の後に起訴された。

東京高裁判決の認定によると、マンションにはオートロック方式の玄関は無く、管理人も常駐していなかったが、管理組合理事会はチラシやビラ配布のために立ち入ることを禁止していた。玄関ホールの掲示板には「敷地内に立入り、パンフレットの投函、物品販売などを行うことは厳禁です」などと記した紙が貼り出されていた。

 ◎住居侵入罪の成立を認めた

マンションの構造に加え、ビラ配布のための部外者の立入りを許容していないことを被告が知っていたと認められることなどを考慮すると、被告の行為は、ビラ配布のために玄関内東側ドアより先への立入りはもちろん玄関ホールへの立入りを含め刑法130条前段の住居侵入罪を構成すると認めるのが相当。なお罰金5万円です。

マンションの構造などに照らせば、ビラの配布を目的として住民らの許諾を得ることなく立ち入り、7階から3階までの多くの住戸のドアポストにビラを投函しながら滞留した行為が相当性を欠くことは明らかであり、被告は相当な理由がないのに本件マンション内に侵入したとの事実を認定する。(東京高裁:平成19年12月11日)

*これは、政治ビラだから、問題になったという意見がかなりあります。
 通常、ポストには商売上の宣伝ビラや風俗的なチラシが毎日のように入っていますが、誰も住居侵入まで問題にしていませんよね。


★上の住居侵入で最高裁の判決が出た  −平成21年(2009年)11月30日 −(朝日新聞より)

 政党のビラを配布するために東京都葛飾区のマンションに立ち入ったことで、住居侵入罪に問われた住職の荒川庸生(ようせい)被告(62)の上告審判決が30日、あった。

 最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は「表現の自由の行使のためとはいっても、管理組合の意思に反して立ち入ることは管理権を侵害する」と述べて弁護側の上告を棄却した。一審・東京地裁の無罪判決を破棄して罰金5万円を言い渡した二審・東京高裁判決が確定する。

 関与した4人の裁判官全員の一致。

 判決は、マンションの入り口に「チラシ・パンフレット等広告の投函(とうかん)は固く禁じます」などの張り紙があったことを挙げ、「張り紙の内容や立ち入り目的などからみて、立ち入りが管理組合の意思に反するものだったことは明らかで、荒川住職もこれを認識していた」と判断。荒川住職がマンションのドアを開け、7階から3階までの廊下に立ち入ったことを考えると「法益侵害の程度が極めて軽微とはいえない」と述べた。

 そのうえで、ビラ配布のための立ち入りを罰することが、憲法で保障された表現の自由を侵害するかどうかについて検討。「表現の自由は無制限に保障されるものではなく、公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受ける」というこれまでの最高裁判例を引用し、「表現そのもの」でなく、「表現の手段」を処罰する今回のケースは、憲法に反しないと結論づけた。

 二審判決などによると、荒川住職は2004年12月23日午後2時20分ごろ、共産党の「都議会報告」などを配るためにマンションに入り、各戸のドアポストにビラを投函していたところ住民に通報されて逮捕され、23日間の身柄拘束の後に起訴された。マンションにはオートロック方式の玄関はなく、管理人も常駐していなかった。



  ★バルコニー(ベランダとの区別は明確ではありません)については、それが共用部分か専有部分かで争いがないわけではありませんが、一般に避難通路の役割をしているものが多く、その種のものは共用部分と考えられています。(「標準管理規約(単棟型)」は共用部分説を採用しています。同規約第8条別表第2参照。)

   なお、標準管理規約(単棟型)では、玄関の扉のうち、錠と内部の塗装部分は専有部分ですが、それ以外の外部などは、共用部分としています。
  また、窓枠及び窓ガラスも専有部分から除き、外観を構成する部分については加工等外観を変更する行為を禁止しています。
 具体的には、区分所有者は、玄関扉の外側の色の変更は勝手に出来ませんが、玄関扉の内側(室内側)の色の変更は、独自にできます。また、錠前も自己の負担で交換できます。
 窓枠(窓サッシ)や、網戸があれば、これは勝手に変更できません。窓ガラスが壊れれば、同じガラスの入れ替えは自己負担で可能ですが、今までの透明ガラスを、刷りガラスにすることは、マンション全体のデザインにも影響しますので、勝手に変更できません。

  マンションに住むということは、戸建と異なり制約が多いということです。マンション購入前に、これらの制約があることを、販売が中心のマンション業者に代わって、マンション管理士が説明する機会が法定されるといいですね。

<参照>標準管理規約(単棟型) 7条:(専有部分の範囲)

第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2. 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
   一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。

   二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする
   三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする

3. 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。

★専用使用権について

  特定の区分所有者が、区分所有者全員の共有部分(=共用部分)を、排他的、独占的に利用できる部分を専用使用部分といい、専用使用部分を使う権利を専用使用権とよびます。
  例としては、1階の居住者だけが使える専用庭、屋上のテラス、また特定の区分所有者だけが使える駐車場がこれに該当します。
  区分所有法にはない権利ですが、標準管理規約(単棟型)では、バルコニー(ベランダ)も共用部分として、専用使用権を認めています。

  マンションの分譲形態にもよりますが、全戸に設置されているバルコニーなどでは、別途バルコニー使用料は徴収しないのが普通ですが、専用庭、専用テラス、また駐車場では、専用使用権者が別途使用料金を管理組合に支払います。

  そして、通常の使用での管理は専用使用権者が行います。(例:窓枠は共用部分で勝手に変更できませんが、窓ガラスが割れたら、その区分所有者が自分の負担で入れ替えます。)

<参照>標準管理規約(単棟型) 21条 「ただし」書き:(敷地及び共用部分等の管理)

第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。

ただし、バルコニー等の管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。

<参考>標準管理規約(単棟型) 21条 コメント;
@ 駐車場の管理は、管理組合がその責任と負担で行う。
A バルコニー等の管理のうち、管理組合がその責任と負担において行わなければならないのは、計画修繕等である。
B 本条ただし書の「通常の使用に伴う」管理とは、バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入れ替え等である
C 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。
D 配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。


★区分所有法で専用使用権の用語がないわけ
  どうも、「使用権」という権利の用語なのに、区分所有法で明確にしていないのは、おかしいと思っていたので、あちらこちらの本を読んでいたら解答に近いのがあった。

  平成7、8年頃に裁判になった古いマンションの分譲(実は、最近もあった例)で「駐車場専用使用権」を分譲会社が、マンション本体の分譲とは別に分譲してその代金を分譲会社が取っていた。
 これは、既に販売の対象となったマンションの敷地を二重に売買しているので、民法の公序良俗違反で無効ではないか、また有効であってもその駐車場の分譲代金は、敷地の共有者の団体である管理組合に帰属するものではないかという争いがあった。

 下級審では、管理組合に帰属するとの判決もあったが、最高裁は平成10年10月22日;ミリオンコ−ポラス高峰館事件、また平成10年10月30日;シャルム田町事件の一部で、「駐車場専用使用権分譲は有効であり、分譲代金は、分譲業者に帰属する」との判決内容です。

平成10年10月22日;ミリオンコ−ポラス高峰館事件 判決の要旨:
  マンション分譲業者が、マンションの分譲に伴い、区分所有者の共有となるべきマンション敷地の一部に駐車場を設け、マンション購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して右駐車場の専用使用権を分譲し、その対価を受領した場合において、分譲業者が営利の目的に基づき自己の利益のために専用使用権を分譲したものであり、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたなど判示の事情の下においては、分譲業者が区分所有者全員の委任に基づきその受任者として専用使用権の分譲を行った等と解することはできず、右対価は、専用使用権分譲契約における合意の内容に従って分譲業者に帰属すべきものである。

理由:
 1 前記一の売買契約書、重要事項説明書、管理規約案の記載に照らすと、本件駐車場の専用使用権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人(分譲業者)が特定の区分所有者に分譲したものであるところ、右専用使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得ることを、右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を承認すべきことをそれぞれ認識し理解していたことが明らかであり、分譲業者である上告人が、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約が公序良俗に反すると認めるべき事情も存しない。なお、本件のように、マンションの分譲に際し分譲業者が専用使用権を分譲して対価を取得する取引形態は、好ましいものとはいえないが、このことのゆえに右契約の私法上の効力を否定することはできない。
 2 そして、右売買契約書の記載によれば、分譲業者である上告人は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は、売買契約書に基づく専用使用権分譲契約における合意の内容に従って上告人に帰属するものというべきである。この点に関し、上告人が、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右専用使用権分譲契約における当事者の意思に反するものであり、前記管理委託契約書の記載も右判断を左右しない。また、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くものといわなければならない。
 3 したがって、委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき右対価の引渡しを求める被上告人の予備的請求は、理由がない。
 4 そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の予備的請求は理由がないから、第一審判決中、右予備的請求に関する部分を取り消した上、これを棄却することとする。

 この判決に対して、
 遠藤光男裁判官の補足意見が以下のようにあります。

 私は、本件におけるマンション販売方式ないしマンション管理業務に関連して、若干補足して意見を述べておくこととしたい。
 一 分譲業者がマンションを分譲するに当たり、建物専有部分(敷地の共有持分を含む。)とは別に、駐車場の専用使用権を分譲してその対価を取得する販売方式については、
 (1)分譲業者が、購入者に対して分譲したはずの敷地について二重の利益を得ている疑いが持たれるのみならず、
 (2)マンション分譲後においても、専用使用権の譲渡、存続期間、有償化ないし使用料の増額などをめぐって専用使用権者と管理組合との間に紛争が生ずる等の問題の存することは、被上告人の指摘するとおりである。
 したがって、既に建設省が行政指導において明らかにしているように、このような販売方式は好ましいものではなく、速やかに根絶されなければならないと考える。
 しかし、立法論や行政指導としてであれば格別、基本的に契約自由の原則が妥当する現行法の下における解釈論としては、おのずから限界があるものといわざるを得ない
 二 まず、(1)の二重の利益の点については、右の販売方式が分譲業者に常に二重の利益をもたらすものということはできない。
 分譲業者がマンションを分譲するに際しては、まずもって、その原価、諸経費、利益金等を念頭に置き、分譲代金の総額を定めた上、各建物専有部分につきできる限り分譲しやすい販売価格を設定するべく、その一つの方法として、購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して駐車場専用使用権付きでマンションを分譲し、別途その対価を支払わせることによって、その分だけ建物専有部分を廉価に販売することも十分に考えられるところである。このように価格の設定が経済的合理性に基づいて行われている限り、専用使用権の分譲代金は、自己の利益のために専用使用権を分譲した分譲業者に帰属するものと解するほかはない。
 原審の判示するように、価格の設定が合理的なものかどうかを判定するのは実際上容易なことではないが、このことのゆえに、右の販売方式の効力を否定したり、分譲代金の帰属について当事者の意思と異なった解釈を採ることはできない。
 また、(2)の点については、このような問題が生ずる可能性があるからといって、直ちに右の販売方式の私法上の効力を制限する解釈を採ることは困難というべきである。これらの問題は、別途、建物の区分所有等に関する法律の規定の解釈などを通じて、妥当な解決を図るほかはない。
 三 そうすると、購入者の無思慮に乗じ、専用使用権分譲代金の名の下に分譲業者が暴利を得ているような場合には、公序良俗違反(暴利行為)として専用使用権分譲契約自体の効力を否定することができ、また、分譲業者が二重の利益を得たことが客観的に立証された場合には、不当利得返還請求を認めることができるとしても、前記のような問題が存することのみに依拠して、契約当事者が合意の上で締結した専用使用権分譲契約の効力を否定すべきいわれはなく、いわんや、分譲業者において、管理組合が活動を開始するまでの間、管理業務の一部を代行している事実があるからといって、契約に明示された当事者の意思に反し、専用使用権の分譲までもが委任事務の一環であるとして、その収受金を委任事務処理上受領した金員と評価することなどはできない筋合いである。原判決の意図するところは理解し得ないではないが、結果的な妥当性を追求する余り、解釈論としての範囲を超えた無理な法律構成、法律解釈を採るものといわざるを得ない。
 四 私は、法廷意見も、以上の言わば現行法の下における解釈論上の当然の帰結を明らかにしたにとどまるものであり、本件の販売方式を積極的に容認したものではないとの理解の下に、法廷意見に賛成するものである。

 これらを受け、「専用使用権」が持つ曖昧さから、区分所有法では「専用使用権」の用語を規定していないようです。
また、一時は標準管理規約でも「専用使用権」の用語は廃止されていたとのことですが、今は規定されていますね。


 なお、判決にある分譲業者が定めた原始管理規約の衡平については、区分所有法第30条3項が平成14年に追加されています。


★専有部分と共用部分の基準を法律で定めたら?

 区分所有法では、建物を 1.専有部分 と 2.共用部分 に分けていますが、その区分けが難しく、どちらに属するかの争いが、管理人事務室や水道の配管などで数多く起きています。

 そこで、法制審議会でも、専有部分と共用部分の基準を法的に明確にしようとする動きがありましたが、管理人事務室はその形態が多すぎる、水道などの配管も千差万別で基準ができない、との判断で、改正に至っていません。

 当分、裁判でマンションごとに決めることになります。


★まとめ:1棟の建物の部分わけ (建物の部分は必ず、@専有部分、か A共用部分 に属する。)

建物 @専有部分 @構造上、
A利用上の独立性があること
住居、店舗、事務所、倉庫など 住居に限っていないことに注意
A共用部分 @法定共用部分 廊下、階段室、エレベーター室など 法律上当然
A規約共用部分 本来は専有部分、物置、管理人室、集会室など 登記をすれば、第三者に対抗できる。


{設問-1}法定共用部分は、規約で定めても、区分所有者以外の者が排他的に使用することとすることはできないか

答え: 出来ることがある。例えば、ピロティー内は、広場やホールなど区分所有者全員の共用に供されるので法定共用部分と解されるのが適当で、そのピロティー内に設けた駐車・駐輪場所等も法定共用部分であると考えられるが、駐車場などは使用契約により、区分所有者でも外部の者でも使用可能な排他的使用権が設定されることがある。つまり、規約で定めれば、法定共用部分も、第三者が排他的に使用できることがある。


{設問-2}法定共用部分を専有部分とする場合には、これについて、その共有者全員の同意が必要か。

答え:全員の同意が必要である。今までの解説を読んできた人には、廊下や階段等の法定共用部分を専有部分に変更するという設問に戸惑うだろうが、それは、区分所有法での制限であり、例えば、ある部屋の前の廊下であっても、権利者全員が認めるなら、個人の所有にしてもそれは自由である。つまり法定共用部分も専有部分に出来る。しかし、法定共用部分を専有部分とするのは処分行為であり、区分所有法上の多数決の原理の変更行為から外れ、民法の共有(民法第251条)により、原則として全員の合意(同意)なくして処分できないとなる。必要である。


{設問-3}あるマンションで301号室に水漏れ事故があった場合に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定並びに判例によれば、最も不適切なものはどれか。

1 401号室に居住している区分所有者が401号室内の水道栓を閉め忘れたため301号室に水漏れした場合には、401号室の区分所有者が水漏れによる責任を負う。

答え:適切である。 401号室に居住している区分所有者は「401号室内の水道栓を閉め忘れた」という故意・過失による不法行為につき、「301号室の水漏れ」について責任を負う。専有部分での行為が原因なのは、そこの人の責任である。民法第709条参照。

2 給水管の本管に経年による劣化が原因で穴があいたため301号室に水漏れした場合には、通常区分所有者全員が水漏れによる責任を負う。

答え:適切である。 給水管の本管は明らかに共用部分である。共用部分の管理で、経年・劣化が原因の時は区分所有者全員が責任を負う。区分所有法第16条参照。

3 301号室の専有部分である天井裏にある401号室の専用の排水管に、401号室に居住している区分所有者が物を詰まらせたため301号室に水漏れした場合には、401号室の区分所有者が水漏れによる責任を負う。

答え:適切である。 401号室の区分所有者は、「401号室の専用の排水管に物を詰まらせた」という個人の不法行為につ き、「301号室に水漏れ」について責任を負う。専有部分での行為が原因なのは、そこの人の責任である。民法第709条参照。

4 301号室の専有部分である天井裏にある401号室の専用の排水管に、経年による劣化が原因で穴があいたため301号室に水漏れした場合には、401号室に居住している区分所有者が水漏れによる責任を負う。

答え:適切でない。 301号室の専有部分である天井裏にある401号室の専用の排水管は、「排水菅が排水管使用者の専有部分に存在しておらず、排水管使用者の専有部分において排水管のメンテナンス工事を実施することが出来ない」ことにつき、「共用部分とすることが相当である。」という判例がある。よって、経年劣化が原因の共用部分の瑕疵による責任は区分所有者全員が負う。区分所有法第16条参照。

正解:4


{設問-4}マンション(マンションの管理の適正化の推進に関する法律第2条第1号イのマンションをいう。以下同じ。)の法定共用部分(区分所有法上当然に共用部分とされる部分をいう。以下この問いおいて同じ。)に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。{平成15年 マンション管理士 問2}

1 構造上区分所有者の共用に供されるべき建物の部分は、専有部分ではなく、法定共用部分である。

答え:正しい。共用部分とは、区分所有法第2条4項「この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。 」とあり、
法定共用部分とは、区分所有法第4条第1項、「数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。」をさす。よって、構造上区分所有者の共用に供されるべき建物の部分は、専有部分ではなく、法定共用部分である。

2 区分所有者の現実の共用に供されていない建物の附属物であっても、専有部分に属しないものは、法定共用部分である。

答え:正しい。選択肢1でも述べたように、法定共用部分は、区分所有法第2条第4項「この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第2項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。」と定める。現実の共用に供されていなくても専有部分に属しない建物の付属物は、法定共用部分となる。

3 区分所有者全員の共用に供される附属の建物がある場合、この建物は、法定共用部分である。

答え:間違いである。区分所有者全員の共用に供される建物の部分は、選択肢1及び2で述べたように、法定共用部分であるが、ここには附属の建物は含まれていない。附属の建物は、区分所有法第4条第2項本文、「第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。」と定める。たとえ、区分所有者全員の共用に供されていても、附属の建物は規約によって初めて共用部分となる。

4 法定共用部分であるためには、区分所有者の共用に供され得る状態にあれば足り、現実に共用に供されていなくてもよい。

答え:正しい。法定共用部分であるためには、区分所有者の共用に供され得る状態にあれば足り、現実に共用に供されていなくてもよい。

正解: 3

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

第四条

2項  第一条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

過去出題 マンション管理士 H21年、H20年、H19年、H18年、H16年、H15年、H13年
管理業務主任者 H20年、H18年、H15年、

することができる...専有部分(単独で所有できる部分)や附属の建物を規約で共用部分(みんなのもの)にできる。でも、しなくてもいい。任意である。古い、小さなマンションでは、管理人室などがあっても、規約もなくまた登記していない場合が多い。だから、トラブルも起きるわけですが。

対抗することができない...登記してなければ、第三者には内情が分からないので主張できない。第三者に対して主張できないだけで、マンションの内部的には、規約で定めれば共用部分であることに変わりはない。

<参照>区分所有法 第1条(建物の区分所有)

第一条  一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

民法からの原則として、不動産(土地・建物)の権利は、登記しなければ、第三者に対抗できない(権利を主張できない)、があります。

<参照>民法177条 (不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない

★現実にはマンションでは、廊下や階段やエレベーターなどの法定共用部分だけで共同生活をしていません。多くのマンションでは受付や警備用(業務委託契約には正式には入っていませんが)に管理人室があります。また集会室や災害用倉庫などが必要な規模のマンションもあります。

  これら、管理人室や集会室などの室はマンション内部で使用する立場からは共同利用施設といえますが、普通の室としての転用が可能である以上、共同利用施設であるとの認識はあくまでマンション内部の利用者の主観的なものであり、外部からの客観的な判断では、権利関係がどうなっているのか不明です。

 また、トイレや給湯設備がある集会室などは、区分所有法第1条で定める「建物として構造上区分された部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することのできる部分」に該当し、本来的には専有部分にもなることができる部分でもあります。
従って、このような部分をマンションの内部では、みんなの物として、共用部分と決める必要性がある一方、外部からは使用実態が分からないため、共用部分なのか専有部分なのか権利上の紛争の生じる可能性があることになります。

 そこで、このような建物の部分を規約により共用部分とすることができるとすると共に、共用部分であるの旨の登記をしなければ、これをもって第三者に対抗(主張)することができないこととしました。

★規約で共用部分とする理由

 独立して利用できるマンションの一室や別の建物を内部的に集会室(集会所)、管理人室にするなど、一見すると他の室(専有部分)と区別のつかないものは、規約で共用部分と定め、そして第三者(外部の人)にもはっきりさせるため、「登記」する。
規約により共用部分と定められると「規約共用部分」と呼ばれる。どのような形態でも、区分所有権の目的建物は規約があれば、専有部分でも共用部分にできる。

★規約共用部分とするには...建物の専有部分でも規約があれば共用部分にできる。登記は任意。登記がないと、ただ第三者に対抗できないだけ。

   ◎登記:建物登記簿の「専有部分の建物の表示」に1つの家屋番号がついて登記される。

   「原因及びその日付」の欄に「平成x年y月z日 規約設定 共用部分」として登記はされるが、持分(x分のyとか)までは記載されない。
   (区分所有者が専有部分を譲渡しても、規約共用部分として登記されている権利変更に影響が無く、登記上も簡単に処理できる。)

 <参照> 分譲業者など最初の全部の所有者がする公正証書による規約の設定 第32条に入っている項目(その1/4)。

★規約共用部分とすべき場合
 該当の建物の部分や附属の建物を規約で共用部分とした場合としない場合の違いは、適用される法律が民法か区分所有法かの違いとなって現れます。

 規約で共用部分とした場合は区分所有法が適用されますからその扱いは他の共用部分と同じですが、規約で共用部分としない場合は民法が適用されます。
民法が適用される場合には、その施設の保存行為は単独で、管理行為は持分の過半数で、変更(処分も含む)行為は全員の合意で行い、各自の持分は全て登記され持分の処分や分割請求も自由となります。
従って、附属の建物の性格、用途にもよりますが、他の共用部分と同様の全員の共同利用施設である場合は規約で共用部分とすべきでしょう。

★規約共用部分の登記
 共用部分である旨の登記の手続きは、不動産登記法第44条に規定されており、登記簿の表題部又は甲区に記載された所有者が規約を添付して申請し、受理されると表題部に共用部分である旨が記載されて表題部又は甲区に記載された所有者名は抹消されることとなっております。(所有権者がいなくなる。)
 なお、登記簿上では、単に「共用部分(または、団地共用部分)」と記入されるだけで、「規約共用部分 」とは記入されません。

<参照>不動産登記法44条:(建物の表示に関する登記の登記事項)
第四十四条  建物の表示に関する登記の登記事項は、第二十七条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
   一  建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である建物にあっては、当該建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)
   二  家屋番号
   三  建物の種類、構造及び床面積
   四  建物の名称があるときは、その名称
   五  附属建物があるときは、その所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番(区分建物である附属建物にあっては、当該附属建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番)並びに種類、構造及び床面積

   六  建物が共用部分又は団地共用部分であるときは、その旨

   七  建物又は附属建物が区分建物であるときは、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の構造及び床面積
   八  建物又は附属建物が区分建物である場合であって、当該建物又は附属建物が属する一棟の建物の名称があるときは、その名称
   九  建物又は附属建物が区分建物である場合において、当該区分建物について区分所有法第二条第六項 に規定する敷地利用権(登記されたものに限る。)であって、区分所有法第二十二条第一項 本文(同条第三項 において準用する場合を含む。)の規定により区分所有者の有する専有部分と分離して処分することができないもの(以下「敷地権」という。)があるときは、その敷地権

★共用部分には、権利の設定ができない
  当該部分が、登記され名実共に共用部分(法定共用部分と規約共用部分の区別はありません)になりますと、この共用部分が単独で所有権移転や担保権設定の目的となることがなくなりますから、それらの権利事項の記載欄である甲区・乙区は不要となるためこれらは閉じられ、表題部のみの登記簿となります
(参照:不動産登記法第58条)

 なお、新築分譲時の規約共用部分の設定は、分譲業者が公正規約証書を作成、添付の上、規約共用部分の設定・登記を行います(第32条参照)が、入居後に規約で共用部分を設定する場合は規約事項のため規約変更手続き(第31条参照)で行うことになります。このことは規約共用部分を廃止する場合でも同様です。

<参照>不動産登記法58条:(共用部分である旨の登記等)
第五十八条  共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記に係る建物の表示に関する登記の登記事項は、第二十七条各号(第三号を除く。)及び第四十四条第一項各号(第六号を除く。)に掲げるもののほか、次のとおりとする。
 一 共用部分である旨の登記にあっては、当該共用部分である建物が当該建物の属する一棟の建物以外の一棟の建物に属する建物の区分所有者の共用に供されるものであるときは、その旨
 二 団地共用部分である旨の登記にあっては、当該団地共用部分を共用すべき者の所有する建物(当該建物が区分建物であるときは、当該建物が属する一棟の建物)

2  共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記は、当該共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記をする建物の表題部所有者又は所有権の登記名義人以外の者は、申請することができない。

3  共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記は、当該共用部分又は団地共用部分である建物に所有権等の登記以外の権利に関する登記があるときは、当該権利に関する登記に係る権利の登記名義人(当該権利に関する登記が抵当権の登記である場合において、抵当証券が発行されているときは、当該抵当証券の所持人又は裏書人を含む。)の承諾があるとき(当該権利を目的とする第三者の権利に関する登記がある場合にあっては、当該第三者の承諾を得たときに限る。)でなければ、申請することができない。

4  登記官は、共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記をするときは、職権で、当該建物について表題部所有者の登記又は権利に関する登記を抹消しなければならない。

5  第一項各号に掲げる登記事項についての変更の登記又は更正の登記は、当該共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の所有者以外の者は、申請することができない。

6  共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物について共用部分である旨又は団地共用部分である旨を定めた規約を廃止した場合には、当該建物の所有者は、当該規約の廃止の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。

7  前項の規約を廃止した後に当該建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。

★注:既に、別の所有者が登記されていたり抵当権が設定されている場合には、共用部分としての登記はできない。
    共用部分(法定共用部分と規約共用部分の区別なく。また団地共用部分も含めて)として登記されますと、その後、その建物の該当部分の権利関係は登記できなくなりますから、既に建物の表題部の所有者と異なった所有者が登記されていたり、抵当権がその部分に設定されているときには、異なった所有者や抵当権者の承諾がなければ、共用部分の登記はできません。不動産登記法第58条3項参照。

ところで、本第4条及び第2条より区分所有権には共用部分の権利は含まれないことになりましたから、
 

  区分所有者が有する権利は、

 1.建物に対して、  @区分所有権 及び 
              A共用部分の権利 と 

 2.土地に対して、  B敷地に対する権利(敷地利用権)

    の3つということになります。

*注;何度も言いますが、共用部分は建物についての言葉。土地には関係していない。(私は、よく混同するので!)


{設問-1} 集会室として使用している専有部分について、所有者である区分所有者の同意を得たが、抵当権者の承諾を得ないで、共用部分とすると規約で定めることはできるか。

答え:できない。通常の場合、専有部分の所有権者の同意により所有権は処分可能で、抵当権者の承諾がなくてもいいが、規約で共用部分とすると、登記上、所有権者がいなくなり、抵当権の設定も出来なくなる。これは、既存の抵当権者の権利を侵すことになる。既に専有部分が抵当権の目的になっている場合、抵当権者が承諾をしない限り、規約共用部分と定められない。不動産登記法第58条3項参照


{設問-2}下の書面は、あるマンションの区分建物全部事項証明書の例であるが、この書面に関する次の記述のうち、不動産登記法及び区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。注:赤字の枠は、ついていません。答え用につけています。

1 甲マンションの敷地は、面積が932.74uの一筆の土地である。
2 東京建設株式会社から専有部分の一つを購入した甲野太郎が、その所有権保存登記を行った。
3 甲マンションの203号室(床面積71.01u)は、甲野太郎の所有であり、この専有部分には抵当権設定の登記はない。
4 甲マンションの1階部分の面積は、480.17uであり、これは共用部分の面積は含まない。


答え:不動産登記法及び区分所有法の規定によれば、

1 正しい。表題部(一棟の建物の表示)により、甲マンションの敷地は、表題部1棟の建物の所在の地番と敷地権の目的たる土地の表示の地番が一致し、この個数は1であるから、地積の部分の面積が932.74uの一筆の土地である。

2 正しい。表題部(専有部分の建物の表示)により、表題部の所有者である東京建設株式会社の下に下線が引かれて抹消されているから、元の所有者は東京建設株式会社であり、甲区の表示により、専有部分の一つを購入した甲野太郎が、その所有権保存登記を行った。

3 正しい。専有部分の表題部および甲区より甲マンションの203号室(床面積71.01u)は、甲野太郎の所有であり、抵当権などを記載する「乙区に記載されている記録事項はない」とあるので、この専有部分には抵当権設定の登記はない。
  (なお、マンションでの専有部分の登記簿の床面積は、マンションでは「内法計算」です。壁の中心からの「壁芯計算」より狭くなっています。<参照:不動産登記規則115条>(建物の床面積)
第百十五条  建物の床面積は、各階ごとに壁その他の区画の中心線(区分建物にあっては、壁その他の区画の内側線)で囲まれた部分の水平投影面積により、平方メートルを単位として定め、一平方メートルの百分の一未満の端数は、切り捨てるものとする。 )

4 間違いである。表題部(一棟の建物)の床面積より甲マンションの1階部分の面積は、480.17uであるが、これには、玄関、廊下、エレベーター室などの共用部分が入っている。(注意:建築基準法52条6項後段:「・・・に規定する建築物の容積率の算定の基礎となる延べ面積には、共同住宅の共用の廊下又は階段の用に供する部分の床面積は、算入しないものとする。」とあり、建築基準法の延べ面積からは、マンションの廊下・階段部分は除かれている。)

正解:4

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

(規約による建物の敷地)

第五条

1項 区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。
過去出題 マンション管理士 H21年、H18年、H17年、H15年、H13年
管理業務主任者 H18年、

敷地とすることができる...規約で敷地にしなくてもいい。任意である。
                   実際には、その土地の上に、マンションが建っていないが、 マンションが上に建っている土地(法定敷地)と共に管理・使用することにした土地である。

この第5条は、マンションの土地について規定する。

 

★法定敷地と規約敷地の違い
  現実にマンションが上に建っている土地(法定敷地)は、外部からも見て分かるが、マンションが上に建っていなくても、そのマンションで利用、管理することにしている庭・通路・駐車場・遊園地・テニスコートなどは、規約でマンションの敷地にできる。(規約敷地と呼ばれる。)

★建物の敷地となると、建物の専有部分と分離処分ができなくなる(区分所有法第22条 参照)
 マンションの土地(敷地)として規定すると、もう勝手にその土地だけの処分ができず、「建物の敷地」となり、建物の権利と共に移動する。

<参照>第22条(分離処分の禁止)
1項 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。

 ◎別に、基本となるマンションの土地と隣接してなくてもよい。離れていてもいい。登記が建物のある土地とは別になっている土地でも可。(*よく出題される*)

 ★ 登記:その敷地の権利が

      1.所有権なら...甲区に(甲区は所有権に関する事項を記載するところだから)「所有権敷地権

      2.地上権・賃借権なら...乙区に(乙区は所有権以外の事項(他にも抵当権・地役権なども)を記載するところだから)「地上権敷地権

       のように「敷地権」と記載される。(これを相当区事項欄という。)

       ◎これは、登記官が職権でする。

    この登記がなされると、もう土地登記簿は閉鎖されたと同じになり、今後はマンションの建物と共に動き、土地だけ勝手に処分できない。

<参照> 分譲業者など最初の全部の所有者がする公正証書による規約の設定 第32条に入っている項目(その2/4)。

★「規約敷地」とするには、その土地が

   @建物の所在する土地(法定敷地)以外の土地で、

   A建物及び「法定敷地」と一体として管理・使用される土地であることです。 そして最後に

    B規約で敷地に取り込む必要があります。

@建物の所在する土地(法定敷地)以外の土地
  これは、当然です。建物が上に所在している土地(底地)は、区分所有法第2条5項により当然に建物の敷地になります。そして、いくら建物から離れていても建物の登記簿に記載された所在地の地番(複数ある場合もあります。)と当該公園等が同じ土地の場合には法定敷地となるので規約敷地にすべきかどうかの問題は発生しません。

A建物及び「法定敷地」と一体として管理・使用される土地であること
  しかし、Aには多少問題があります。
  建物及び法定敷地との、一体性の要件は法定要件ですから当事者の主観において一体であることでだけでは足らず建物と法定敷地との関係においてその利用なり管理の実態が、他の状況からも客観的に見て一体性を認められることが必要でしょう。
そのような一体性が認められる限り法定敷地に隣接しない離れた土地であっても規約敷地となしうるものと考えられます。また、法定敷地を別とする一団のマンション群が中央公園等を共同する等の場合は中央公園等の土地を各々規約敷地とするようなことも考えられます。

B規約で敷地に取り込む必要がある
  @及びAの要件を満たした土地は、Bの規約で定めることにより規約敷地とすることができます。その方法は、規約の敷地の表示に当該規約敷地の所在・地番等を法定敷地と同様表示することで可能です。

★敷地の種類
 第2条5項の定義で建物の敷地には、
   @建物が所在する土地と
  A本第5条により敷地とされる土地の
 2つのものがあることとなっています。
前者@は敷地の要件が「建物が所在すること」と法定されていますから法定敷地と呼ばれ、後者Aは規約敷地と呼ばれています。

 規約敷地とするか否かで、当該土地が区分所有者の団体(管理組合)の管理対象となるか否か、敷地に関する権利の分離処分ができるか否か、敷地権の設定ができるか否かが違ってきますので(分離処分と敷地権の点は敷地であっても原則と異なる取扱いがありますが。)、法定敷地と一体として利用される土地であれば法定敷地と運命を共にさせる意味からも規約敷地とすべきでしょう。
 なお、特に用途のない「空き地」であっても、規約で敷地にできると解されます。

★規約敷地の登記方法 −法定敷地と同様に「敷地権」と登記される−
 建物の登記の場合、規約共用部分は「共用部分」と登記されますが、土地の登記では、規約敷地としても、「規約敷地」という記載の特別な登記があるわけではありません
登記簿には、法定敷地の登記と同様に「
敷地権」と登記され、建物の専有部分と分離処分ができなくなるだけです。
法定敷地は一定の要件(敷地利用権が全員の共有又は準共有で且つその旨登記されていること)を満たしたときに敷地権の登記が可能ですが、規約敷地も同様な要件の下に敷地権登記が可能であるにすぎません。

<参照>不動産登記法第44条(建物の表示に関する登記の登記事項)第1項第9号:
九  建物又は附属建物が区分建物である場合において、当該区分建物について区分所有法第二条第六項 に規定する敷地利用権(登記されたものに限る。)であって、区分所有法第二十二条第一項 本文(同条第三項 において準用する場合を含む。)の規定により区分所有者の有する専有部分と分離して処分することができないもの(以下「敷地権」という。)があるときは、その敷地権

<参照>不動産登記規則118条
(表題部にする敷地権の記録方法)
第百十八条
 登記官は、区分建物である建物の登記記録の表題部に法第四十四条第一項第九号に掲げる敷地権を記録するときは、敷地権の登記原因及びその日付のほか、次に掲げる事項を記録しなければならない。
一 敷地権の目的である土地に関する次に掲げる事項
  イ 当該土地を記録する順序に従って付した符号
  ロ 当該土地の不動産所在事項
  ハ 地目
  ニ 地積
二 敷地権の種類
三 敷地権の割合

<参照>不動産登記法第46条(敷地権である旨の登記)
第四十六条  登記官は、表示に関する登記のうち、区分建物に関する敷地権について表題部に最初に登記をするときは、当該敷地権の目的である土地の登記記録について、職権で、当該登記記録中の所有権、地上権その他の権利が敷地権である旨の登記をしなければならない。

<参照>不動産登記規則119条
(敷地権である旨の登記)
第百十九条
 登記官は、法第四十六条の敷地権である旨の登記をするときは、次に掲げる事項を敷地権の目的である土地の登記記録の権利部の相当区に記録しなければならない。
   一 敷地権である旨
   二 当該敷地権の登記をした区分建物が属する一棟の建物の所在する市、区、郡、町、村、字及び土地の地番
   三 当該敷地権の登記をした区分建物が属する一棟の建物の構造及び床面積又は当該一棟の建物の名称
   四 当該敷地権が一棟の建物に属する一部の建物についての敷地権であるときは、当該一部の建物の家屋番号
   五 登記の年月日

2 登記官は、敷地権の目的である土地が他の登記所の管轄区域内にあるときは、遅滞なく、当該他の登記所に前項の規定により記録すべき事項を通知しなければならない

3 前項の規定による通知を受けた登記所の登記官は、遅滞なく、敷地権の目的である土地の登記記録の権利部の相当区に、通知を受けた事項を記録しなければならない。

(注)2項を読むと、敷地権(敷地利用権)が、マンションから離れた土地も想定していることが分かる。

この関係で単に規約で規約敷地を定めたとしても、登記簿に敷地権の登記をしないと善意の(実情を知らない)相手方に規約敷地であることを対抗(主張)できません。

★なお、区分所有法では「敷地利用権」と呼ぶが、不動産登記法では、登記された敷地利用権を「敷地権」と呼んでいる。

★敷地利用権には、所有権、借地権(地上権および賃借権) そして、ほとんどありえませんが使用借権もあります。
 なお、不動産登記法では、この内登記できる権利は、所有権、地上権、賃借権だけで、使用借権は登記できません。(参照:不動産登記法第3条)

<参照> 不動産登記法 (登記することができる権利等)
第三条  登記は、不動産の表示又は不動産についての次に掲げる権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅をいう。次条第二項及び第百五条第一号において同じ。)についてする。
一  所有権
二  地上権
三  永小作権
四  地役権
五  先取特権
六  質権
七  抵当権
八  賃借権
九  採石権(採石法 (昭和二十五年法律第二百九十一号)に規定する採石権をいう。第五十条及び第八十二条において同じ。)

★区分所有法での「敷地利用権」が不動産登記法で「敷地権」として登記されると、所有権移転や担保の登記ができない
 建物の専有部分とその専有部分に係わる敷地利用権は、原則として分離処分の禁止(区分所有法第22条)となり、 敷地利用権が不動産登記簿で敷地権として登記 されると、その後は、所有権移転の登記やその敷地権を目的とする担保の登記はできなくなります。(ただし、規約で認めたり、敷地利用権となる前の登記原因は可能)

 法定敷地と同様に、規約敷地の登記簿も閉ざされたのと同じになり、今後の権利関係の移動は建物の専有部分の登記簿が中心になります。

<参照>不動産登記法第73条2項(敷地権付き区分建物に関する登記等)

第七十三条
2項 第四十六条の規定により敷地権である旨の登記をした土地には、敷地権の移転の登記又は敷地権を目的とする担保権に係る権利に関する登記をすることができない。
ただし、当該土地が敷地権の目的となった後にその登記原因が生じたもの(分離処分禁止の場合を除く。)又は敷地権についての仮登記若しくは質権若しくは抵当権に係る権利に関する登記であって当該土地が敷地権の目的となる前にその登記原因が生じたものは、この限りでない。

3項 敷地権付き区分建物には、当該建物のみの所有権の移転を登記原因とする所有権の登記又は当該建物のみを目的とする担保権に係る権利に関する登記をすることができない。
ただし、当該建物の敷地権が生じた後にその登記原因が生じたもの(分離処分禁止の場合を除く。)又は当該建物のみの所有権についての仮登記若しくは当該建物のみを目的とする質権若しくは抵当権に係る権利に関する登記であって当該建物の敷地権が生ずる前にその登記原因が生じたものは、この限りでない。

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

第五条
2項  建物が所在する土地が建物の一部の滅失により建物が所在する土地以外の土地となったときは、その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められたものとみなす。建物が所在する土地の一部が分割により建物が所在する土地以外の土地となったときも、同様とする。
過去出題 マンション管理士 H15年、
管理業務主任者 未記入

★注意して読むこと。土地が多くて実に分かりにくい。よくこんな文章を造ったものだと、立法者をうらみ、これをちゃんと解釈する学者を尊敬します。

★以前建物があれば(区分所有法第2条5項の「法定敷地」である)、地震や災害で建物の一部が破壊されて建物がなくなっても、その土地はもとのマンションの敷地とみなす。また、建物が無くて空いていた土地を分割しても、マンションの敷地とみなす

滅失...物がその効用を失う程度に破壊されること。

みなす...Aは本来Bではないが、法律的に同一とする。法律上当然になる。この「みなす」により、いかなる反論もできない。
         (参考:推定する...当事者が反証できれば効果がなくなる。)

★この規定がないと、土地と建物とを一体化した原則が、その後の一部滅失などで崩れてしまい、土地だけ別の所有者が現われる可能性がある。これでは、復旧や建替えも困難になる。

★土地の上に建物がなくなったので、区分所有法で定める法定の敷地でなくなる。すると、第三者からはマンションの敷地でないと認識されてトラブルが発生するかもしれないので、それに準じた規約敷地とみなして対応する。

★また、以前は建物があった1筆の敷地が登記簿上で新しく分割(分筆ともいいます)され、マンションが建っていなくなっても、これも当然に規約で敷地にしたとみなす。
これは、土地の分割後に専有部分を購入した区分所有者も元の区分所有者と同じように全部の土地を共有できるようにしてトラブルを防ぐ。

「みなし規約敷地」とも呼ばれる。(一部滅失後に、特に新しく規約で敷地と規定しなくても敷地として扱うことになる。)

★建物の一部滅失や分割(分筆)の場合の取り扱い。

  法定敷地は建物がその上に現実に建っているという状況と建物の登記の敷地の所在の表示で建物の敷地であることを公示していますが、マンションの建築後に、建物の一部が損壊した場合や土地を分割(分筆と同じ)した登記上の変更により建物がその土地の上に所在する土地でなくなる場合がありえます。

しかし、区分所有法で規定する「法定敷地」という概念は、もともと建物の専有部分の権利と一体化した敷地として利用・管理されていた土地ですから、滅失などの状況の変化で建物の一部がなくなり、もとの法定敷地の規定に該当しなくなった土地となっても原則として建物の敷地の要件は満たすものと考えられます。

このような考えから、本第5条2項では建物の一部滅失や土地の分割により、その土地の上に建物がなくなった土地の場合には当該土地は、区分所有法での法定敷地には該当しなくなりますが、それに準じた規約敷地として扱うことにしたものです。

このことは法律の「みなし規定」の効力によりますので法律上当然に生じ、その状況の発生時に、別途規約を設定することを必要としません
この規約敷地とみなす効果として、建物の一部滅失や土地の一部分割があっても、区分所有法第22条の適用があり、敷地利用権は原則として専有部分の処分と分離できなくなっています。(規約で別段の定めはできます。)

しかし、建物の敷地が広大な土地の一部であるような特殊な場合には、分割後に建物やその法定敷地と、もともと一体性のない部分にはこの規定の効力は及ばないものと思われますし、規約敷地だった土地の場合は建物の一部滅失に影響されることはなく、土地が分割されても当該土地全部が規約敷地であることは当然ですからこのようなみなし規定は必要ありません。

★なお、この規定により、法定敷地であった一部を分割して処分しようとするときには、区分所有法第31条1項(規約の廃止)に該当するため、この「みなされた規約」を特別決議により廃止する必要があります。

<参照>区分所有法第31条:(規約の設定、変更及び廃止)

第三十一条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

 前条第二項に規定する事項についての区分所有者全員の規約の設定、変更又は廃止は、当該一部共用部分を共用すべき区分所有者の四分の一を超える者又はその議決権の四分の一を超える議決権を有する者が反対したときは、することができない。

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

(区分所有者の権利義務等)

第六条

1項 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
過去出題 マンション管理士 H21年、H19年、H17年、H16年、H14年、
管理業務主任者 H14年、

★いままでは、建物と土地についての規定でしたが、この第6条では、マンションの居住者として、共同生活上守らなければならない規則(ルール)があることを明示しています。

共同の利益とは...各区分所有者が持っている利益とは、所有物(資産価値、使用価値と交換価値の双方を含みます。)を維持し、これを自由に使用・収益・処分できることと考えることができます。

★区分所有者の義務の種類
  第6条は、区分所有者の権利・義務規定です。このうち1項は義務を、2項は一定の権利とそれに付随する義務を、3項で占有者(賃借人など)の義務を規定しています。 

共同の利益に反する行為とは、 - どうして、この規定が必要か -

 マンションは、戸建と異なり、壁・天井で隣室とつながり、エントランスホール、階段、エレベーターなどは、他の居住者と共に使用します。このため、戸建と違って自由・気ままに生活することができないと制限規定(義務)を設けています。

他にも、共同生活を維持するために、マンションでは騒音・異臭対応や管理費を滞納してはいけないなど守ることが多くあります。これは、マンションでは重要な規定です。

 マンション管理士は、この共同生活上の制限規定があることを、マンションの購入者に説明してあげましょう。
 販売業者は、自己の営業に支障があるので、この部分は説明しません。

この共同の利益に反する行為としては、
 1. 積極的に共同の利益を侵害する行為と
 2. 消極的に共同の利益を守らない行為に分けることができ、

 1.積極的に共同の利益を侵害する行為は、さらに
   @所有物たる建物(専有部分を含む。)を毀損しその価値を減少させる行為と
   A他人の所有権の行使を妨害する行為に分けることができます。

 2.消極的に共同の利益を守らない行為は、
   B区分所有者として負担する諸義務の履行を怠る行為のことです。

 @の例としては、壁を壊すなど建物を物理的に毀損したり汚損する行為、看板を出すなど美観を毀損する行為等により建物の交換価値や使用価値を減少させる行為です。

 Aの例は、ピアノやステレオの騒音、振動等により他人の専有部分の円滑な使用を妨害したり、廊下など共用部分に物品を廃棄・放置する等により他人の使用を妨害する行為等がこれにあたります。

 Bの例は、管理費等の負担の支払義務、決められた用法違反、その他管理規約や使用細則に定められた義務の違反行為が広くこれに該当すると思われます。 


 区分所有者はこの第6条のほかにも、規約に禁止事項などがあれば、規約に基づく義務も発生することがある。(区分所有法第30条参照)

★共同の利益に反する行為
{具体的な例-1}
  ・耐力壁の撤去、
  ・専有部分に爆発物(危険物)の持ち込み、
  ・住居専用使用と決めているのに事務所・店舗とする、
  ・廊下や階段室に私物を置く、
  ・勝手に自動車を停める、
  ・外壁やベランダに家庭教師の宣伝用看板を取り付ける、
  ・プライバシーの侵害、
  ・騒音、悪臭の発散
  ・猛獣や規約で禁止されているペットの飼育
 などが「共同の利益に反する行為」

{例−2}管理費等の滞納が原因で、建物の修繕に重大な支障が生ずるような状況に至っている場合は、こ の滞納は、建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為に当たる。

{例-3}占有者が野鳩に餌付けをして、飼育をしていて他の居住者の迷惑になり、使用賃貸借契約の解除、占有者の退去、占有者に対する損害賠償請求が認められた。

占有者(借りている人、また不法占拠者)も入る。(第6条3項で準用)

★義務違反者に対しては、区分所有法第57条以下で出てくる、「行為の停止(第57条)、専有部分の使用禁止(第58条)、区分所有権及び敷地利用権の競売(第59条)、占有者に対する引渡し請求(第60条)」もある。

★  多くの出題は、この第6条と第57条以下の「義務違反者に対する措置」に絡んでだされます。
   何が、共同の利益に反するかは、マンションにより異なるため、判例も多く、判例からも出題がありますので、注意しておいてください。

★強行規定:第6条は当事者が欲していなくても適用される強行規定です。
 マンションの規約や合意で第6条を変更したり排除することはできない。
   しかし、規約で第6条の「共同の利益に反する行為」と違反時の制裁措置は具体的に定めていい。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」第3条:(規約及び総会の決議の遵守義務)
第3条 区分所有者は、円滑な共同生活を維持するため、この規約及び総会の決議を誠実に遵守しなければならない。
2. 区分所有者は、同居する者に対してこの規約及び総会の決議を遵守させなければならない。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」第5条:(規約及び総会の決議の効力)
第5条 この規約及び総会の決議は、区分所有者の包括承継人及び特定承継人に対しても、その効力を有する。
2. 占有者は、対象物件の使用方法につき、区分所有者がこの規約及び総会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。

第5条関係コメント
包括承継は相続、特定承継は売買及び交換等の場合をいう。賃借人は、占有者に当たる。


★後から出てくる、第57条以下の義務違反者との関係について
  まだ、勉強を始めたばかりで、この第6条の持つ「共同の利益に反する行為の禁止」が、いかに通常の「所有権」や「財産権」を制限しているかの怖さが分からないと思います。

 その例として、ペットで想像してください。
  戸建に住んでいれば、犬や猫を飼っても、近所からは、鳴き声がうるさいとか嫌な臭いがするなどと文句を言われても、「ああ、そうですか」って程度に聞き流すことができますが、マンション生活では、それだけではすみません。

  まず、犬や猫を飼っていいか、どうかの規約があります。もし、犬や猫を飼うことが禁止されていれば、大金を払って購入した自分のマンションでも、犬や猫を飼うことができません。
 次に、犬や猫を飼うことが許されていて、犬を飼ったとしても、多くのマンションでは、その大きさが足元から背中まで何cmなどの制限があります。通常のマンションでは大型犬は飼うことが制限されています。
  さらに、マンションの通路やエレベーター内では、ペットは抱きかかえることなどの、面倒な決まりがあります。

 ペット問題だけでなく、騒音や自転車の置き方など、この第6条が持つ「共同の利益に反する行為の禁止」は、内容が深いですよ。


↑このページトップへ←区分所有法トップへ

第六条
2項  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

保存行為...現状維持。修繕工事などで共用部分(廊下・広場など)は当然に使用できる。また、必要なら、他の人の室も使える。

          ただし、その行為で損害を与えた時は、損害弁償をすること。

★区分所有者が持っている権利で、最も重要なものは区分所有権の目的である、室「専有部分」を使用できる権利ですが、専有部分はその建物の躯体から電気・ガス・水道など諸設備にいたるまで他の人の専有部分や共用部分と密接に関連しあって存在しています。

 例えば、水漏れ事故があれば、原因と考えられる配管の調査や修理で下の階の専有部分への立ち入りが必要になります。
この場合に、下の階の室への立ち入りができないと区分所有者相互の建物の保存・利用に支障をきたし、また社会的にも不経済なことになりますから、2項で立ち入り権=使用を認めています。

 これは民法で定める相隣関係(民法第209条以下を参照)と同様の考え方ですが、民法では認めていない他人の建物内への立ち入りを認める点で民法の特則となっています。

<参照>民法 第209条 (隣地の使用請求)
第二百九条  土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2  前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

 対象となるのは他人の専有部分のほか、自己が権利を有しない一部共用部分です。
自己が権利を有する共用部分はその権利に基づき当然に使用することができるのでこのような定めは必要ありません。

★区分所有者は他の人の室の使用請求が出来るが、占有者(借りている人)からは請求できない。占有者が問題を見つけたときは、持ち主(区分所有者)に話して、解決する。

 ★保存行為などの詳細は、第17条(共用部分の変更)を参照。


<参考>「標準管理規約(単棟型)」20条:(区分所有者の責務)
第20条 区分所有者は、対象物件について、その価値及び機能の維持増進を図るため、常に適正な管理を行うよう努めなければならない。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」21条:(敷地及び共用部分等の管理)
第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の管理のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。

2. 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。

第21条関係コメント
@ 駐車場の管理は、管理組合がその責任と負担で行う。

A バルコニー等の管理のうち、管理組合がその責任と負担において行わなければならないのは、計画修繕等である。

B 本条ただし書の「通常の使用に伴う」管理とは、バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入れ替え等である。

C 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。

D 配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」22条:(窓ガラス等の改良)
第22条 共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。

2. 管理組合は、前項の工事を速やかに実施できない場合には、当該工事を各区分所有者の責任と負担において実施することについて、細則を定めるものとする。

第22条関係コメント
@ 窓枠、窓ガラス及び玄関扉(玄関扉にあっては、錠及び内部塗装部分を除く。
  以下「開口部」という。)については、第7条第二号及び第三号において専有部分に含まれないこととされていること、専有部分に属さない「建物の部分」については、
第8条に基づく別表第2において共用部分とされていることから、開口部は共用部分として扱うこととなる。

A また、区分所有法は、その形状又は効用の著しい変更を伴わない共用部分の変更について、
集会の普通決議により決することを定めている。

B 第1項は、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上のため行われる開口部の改良工事については、原則として、他の共用部分と同様に計画修繕の対象とすべき旨を規定したものである。

C 第2項は、開口部の改良工事については、治安上の問題を踏まえた防犯性能の向上や、
結露から発生したカビやダニによるいわゆるシックハウス問題を改善するための断熱性の向上等、一棟全戸ではなく一部の住戸において緊急かつ重大な必要性が生じる場合もあり得ることにかんがみ、計画修繕によりただちに開口部の改良を行うことが困難な場合には、各区分所有者の責任と負担において工事を行うことができるよう、細則をあらかじめ定めるべきことを規定したものである。

D また、第2項は、マンションでは通常個々の専有部分に係る開口部(共用部分)が形状や材質において大きく異なるような状況は考えられないことから、
当該開口部の改良工事についてもその方法や材質・形状等をあらかじめ定型的に細則で定めることにより、その範囲内で行われるものについては施工の都度総会の決議を求めるまでもなく、各区分所有者の責任と負担において実施することを可能とする趣旨である。

E 「共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、
防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するもの」の工事の具体例としては、防犯・防音・断熱性等により優れた複層ガラスやサッシ等への交換、既設のサッシへの内窓又は外窓の増設等が考えられる。
F 各区分所有者の責任と負担において行うことができるものとしてあらかじめ定型的な工事内容を定めるに当たっては、専門的知識を有する者の意見を聴くことを考慮する。

G 本条の規定のほか、具体的な工事内容、区分所有者の遵守すべき事項等詳細については、
細則に別途定めるものとする。

H 申請書及び承認書の様式は、専有部分の修繕に関する様式に準じて定めるものとする。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」23条:(必要箇所への立入り)
第23条 前2条により管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入りを請求することができる

2. 前項により立入りを請求された者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。

3. 前項の場合において、正当な理由なく立入りを拒否した者は、その結果生じた損害を賠償しなければならない。

4. 立入りをした者は、速やかに立入りをした箇所を原状に復さなければならない。

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

第六条
3項  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
過去出題 マンション管理士 H20年、H16年、H13年
管理業務主任者 H17年、H13年

★準用が1項(共同の利益違反行為の禁止)だけで、2項(保存行為・改良行為での他の区分所有者の専有部分や共用部分の使用)が入っていないことに注意。試験の出題者は、例外規定から問題を作るのが好きです。

占有者とは...区分所有者以外で自分の利益のために専有部分を支配している者。ただし、他の区分所有者の専有部分や共用部分の使用請求はできない。

 専有部分の占有者とは、当該専有部分を事実上支配している者をいい、例えば賃貸借契約に基づく賃借人が代表的ですが、転貸借契約に基づく転借人、使用貸借契約に基づく借主、また受寄者、管理人、破産管財人等の正当な占有権限者の他、さらに法律的な権限のない不法占拠者等も占有者です

 また、家族、同居人等正当な権利者の権利の履行補助者の地位にいるものは占有者に含まれ共同の利益の反する行為をしてはなりません。

★準用の範囲。
 3項は準用規定ですから、1項の全てが占有者に適用されるのではなく、占有者と区分所有者との地位の差から区分所有者に適用されるべき規定のうち

  @所有物たる建物(専有部分を含む。)を毀損しその価値を減少させる行為と
  A他人の所有権の行使を妨害する行為 
は所有の有無に係らず誰でも遵守すべきですが
  B区分所有者として負担する諸義務の履行を怠る行為のうち所有者としての経済的負担(管理費の延滞、修繕積立金の支払など)部分は適用がありません。

★占有者(賃借人など)の義務;

 占有者の通常の形である、賃借人等は、管理組合の構成員ではなく、建物などの管理に関与するものではありません。
しかし区分所有関係を共同生活という面から見た場合、住んでいる賃借人等はマンション生活で極めて密接な関係を持っており、秩序ある区分所有関係を維持するために、賃借人も区分所有法上の義務を負うのが適当であることから、区分所有法には、賃借人等、区分所有者以外の専有部分の占有者の義務に関する定めがあり、一方、義務を負わせる見返りとして一定の限度で総会に関与する権利の規定も設けられています。

 区分所有法第6条3項は、賃借人等専有部分の占有者の義務を定め、区分所有者と同様に建物の保存に有害な行為、その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないとしています。
また、これに違反した場合その行為の停止等の請求(第57条3項)や、それによる解決が困難な場合には、集会の特別多数決議に基づき、賃貸借契約の解除とその専有部分の引き渡しを求める訴えを提起することができるとしています(第60条)。

 また区分所有法第46条2項には、占有者に対する規約および総会の決議の効力に関する定めがあり、賃借人などの占有者は、建物やその敷地もしくは付属施設の使用方法につき、区分所有者が規約または総会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負うとされています。
ただしこの義務は、建物などの使用方法に限定されていますから、バルコニーや自転車置場などの使用を規制することはできますが、管理費や修繕積立金の支払いなど管理上の義務を強制することはできません。管理上の義務は、当然貸主である区分所有者の義務になります。

 このように、賃借人も使用上の義務を負うため、区分所有法第44条では占有者の意見陳述権の定めを設け、賃借人に利害関係があるような決議(例えばペットの飼育)をする場合は総会に出席して意見を述べることができるとして、賃借人の利益保護を図っています。
この場合の利害関係とは法律上を指し、単なる事実上の利害関係は含まれないと解されています。また、総会では意見を述べるだけで、議決権はありません。

 なお賃借人の義務を徹底するため、国土交通省の「標準管理規約」(単棟型)には貸主は賃貸借契約に規約および使用細則に定める事項を遵守する旨の条項を定めるとともに、賃借人がこれを遵守する旨の誓約書を管理組合に提出しなければならないとする条文があります。

<参考>標準管理規約(単棟型)19条

(専有部分の貸与)
第19条 区分所有者は、その専有部分を第三者に貸与する場合には、この規約及び使用細則に定める事項をその第三者に遵守させなければならない。

2項 前項の場合において、区分所有者は、その貸与に係る契約にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の条項を定めるとともに、契約の相手方にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の誓約書を管理組合に提出させなければならない。

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

(先取特権)
第七条
1項 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
過去出題 マンション管理士 H21年、H19年、H17年、H16年、H13年
管理業務主任者 H19年、H16年、

<参照> 民法第303条 先取特権;
先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

先取(さきどり)特権とは...民法で定められた、物権の一つ。抵当権と同様に担保物の価値で債権(財産権の1つ)を担保する方法の一つで、担保される債務の履行がないときに担保権を実行(民事執行法に基づく競売)して債権を他の債権者より優先的に回収することができます。他の債権者よりも先に債務を払ってもらえることが特権たる所以です。

債権..債権者が債務者に対して、その行為(給付)を請求することのできる権利。 他人に対してある行為を請求できる権利です。

   <参考>物権:債権に対応する言葉として、物権があります。物権は、一定の物を直接支配し、処分できる権利です。債権との大きな違いは、他人の行為を必要としないで、処分などの行使ができることです。所有権、占有権、地上権、留置権、質権、抵当権、先取特権など10種が定められています。

 ◎競売について ー権利と動産ー:
  競売できる債務者の財産は、
  @権利関係...区分所有権(建物の専有部分についての権利)、言い換えると不動産
             (共用部分に関する権利と敷地利用権があれば、含まれる)
  A動産関係...建物(専有部分=室)と個人的に共用部分に備え付けた動産(衣服・家具など)です。

  このうち、動産の範囲は、建物使用に伴いある程度継続して建物に置かれる家具、電気器具その他の設備で単に建物内に存在する物では足りないものと思われますが、この規定に類する民法第313条に関しある程度継続して置いてあれば金銭、有価証券、宝石類もこれに該当するとするのが判例です(大判大3.7.4民録20―587)。ただし、個人の生存に不可欠なものとして差押禁止財産とされているものが除外されることは勿論です(民事執行法第131条)。
  ただし、別の解釈として、動産を畳、建具、家具調度等に限定し、衣服、宝石等は含まない説もあります。

★先取特権の効力
 この先取特権は、債務者の特定財産に関する担保権であるのにもかかわらず、共益費用即ち民法第306条1号の一般の先取特権(債務者の全財産を本来対象とするもの)とされていますので、登記なしに一般債権者(対抗力ある担保権等の優先的権利を持たない者)に優先して債権を回収することができます。

 なお、一般にこの先取特権の登記はなされませんから、現行の過剰担保の状況下で抵当権実行の手続きに参加して配当要求を行っても配当を受けられる可能性は低いでしょう。
この点に対しては民法第329条2項但し書きの「共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。」、という趣旨からこの先取特権の被担保債権は建物保存の費用で抵当権者の担保価値保存に利益を与えているはずとの考えから抵当権に優先して配当を受けられるべきだ、とも思われますが、この先取特権の被担保債権にはいろいろのものがありますので、真に建物保存の費用で抵当権者の担保価値保存の有益なものである場合は、抵当権に対する優先権が認められている民法第325条1号の
不動産保存の先取特権として登記しその順位を保存しておくべきでしょう。

★先取特権の被担保債権
 この先取特権をうけられる被担保債権は、

  @区分所有者が、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権、

  A規約又は集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権です。

 @の債権は保存行為等で個人の区分所有者が立替えた現在の債権をいい、
 Aの債権は管理費・修繕積立金・義務違反者の違約金等団体としての区分所有者の全員が共同して(または管理組合が)有する債権をいうとするのが一般のようです。(コンメンタールマンション区分所有法(日本評論社 稲本洋之助・鎌野邦樹共著)P58・59、区分所有法(丸山英気)、新しいマンション法(法務省民事局参事官室編))。


*該当する債権の例:
{例−1} 規約により各区分所有者が共用部分に係る管理費を各自の共有持分に対して有する管理費の請求に係 る債権

{例ー2}管理者が、その職務を行うにつき必要な費用について、各区分所有者に対して共有持分に応じて分割的に有する費用償還債権。

*該当しない債権の例:
 管理者が、管理組合との間に報酬を受ける特約がある場合において、管理組合に対して有する報酬債権。

 報酬債権は組合に対する業務実施の対価であり、業務を行うにつき組合員に対して有する(費用 )債権に該当しない(なお、組合がこれを管理費の一部として組合員に転嫁するものは該当する)。

★区分所有者だけでなく、管理者、管理組合法人も先取特権をもつ。
  管理者の権利義務は、区分所有法第28条の規定により、
民法の委任の規定(民法第643条から)が準用されています。
  この
民法第649条、同第650条1項の規定により、管理者はその職務を行うために必要な費用は前払いを請求でき、また費用を出したときにはあとから償還も請求できます。
 また、遅延損害金(延滞利息)も請求できます。

  これらの債権も、管理上の債権として先取特権として保護されています。
  この保護は、管理組合が法人化されても同様に必要なため、管理組合法人にも先取特権が認められています。(第7条後段)

<参照>区分所有法第28条;(委任の規定の準用)
第二十八条  この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。

<参照>民法第649条:(受任者による費用の前払請求)
第六百四十九条  委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。

<参照>民法第650条:(受任者による費用等の償還請求等)
第六百五十条  受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。

 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。

 

*ただし、{判例}管理組合が後で設立された場合、組合設立以前の区分所有者全員が持っていた、債権は管理組合には引き継がない。
この請求は、各区分所有者がする。後で設立された管理組合は代理できない。

民法では、一般に先取特権は、債務者の総財産を目当てに行使できるが(民法第306条以下参照)、区分所有法では、総財産ではなく、@区分所有権A動産の上に先取特権が行使できる。


★先取特権と登記してある抵当権との順位 −この規定で、現実に滞納金が回収できるのか? −
  管理費や修繕積立金などの滞納金が本当に、先取特権で回収できるのかの疑問からの勉強です。
  先取特権といっても、登記していないと登記した抵当権より劣るようだ。
  これについては、あちらこちら探したが、明確なものがなかった。

   参考までに、下の質問があった。

【質問−1】
 私のマンションでは、7階の705号室に住んでいるAさんがすでに5年も管理費を滞納しています。月額25,000円ですから、すでに150万円以上になっています。 理事長から何回も督促状を出しましたし、簡易裁判所に支払い命令を申し立て、その命令も確定しています。 その支払い命令で705号室を差し押さえようと思っても、3,500万円のB銀行の抵当権がついています。売買の時価もすでに2,500万円ぐらいに下落しています。マンションの管理費には先取特権があるということですが、一体、滞納管理費はとれるのでしょうか。


【答え】
 マンションの管理費は共益費として一般の債権に対し、先取特権という優先債権になっているのですが、登記した抵当権の方が、この管理費のような未登記の先取特権より優先すると民法では定められています。従って、B銀行が3500万円の抵当権をつけ、登記していますと、返済済みの金額を差し引いたとしても剰余(余り金)がなければ抵当権が滞納管理費より優先します。マンションを競売したときにマンションの競落額がB銀行への返済額より高額でなければ、あなたのマンションには滞納管理費が支払われないのです。

 抵当権が登記されていて、区分所有法第7条の先取特権が未登記だと、抵当権が優先します。
抵当権と区分所有法第7条の先取特権が共に登記されていると、優先順序は、その登記の前後によって決まります。(先に登記した方に優先権があります。)
抵当権と区分所有法第7条の先取特権が共に未登記の場合には、区分所有法第7条の先取特権が未登記の抵当権よりも優先すると解されます。


【質問−2】
 管理費の滞納者に対し、訴訟による回収を検討しているのですが、「先取特権による回収」という手段があると聞きました。先取特権とはどのようなものですか。訴訟よりも有効なのでしょうか。

【答え】
 滞納管理費を回収する方法の1つに、「先取特権」による方法があります。
債権(ある人〔債権者〕が他の人〔債務者〕に対し金銭の支払いや義務の履行(例えば、物の引渡しなど)を請求し、これを実行させることを内容とする権利)について、管理費のような特定債権については、他の一般債権より優越(優先)して、債権の請求ができることを先取特権といいます。

区分所有法の第7条の規定によれば、区分所有者が負担する管理費・修繕積立金等(他に規約や総会の決議による負担金)は、不動産及び動産の上に先取特権を認めています。この趣旨は、区分所有者が区分所有者全員の共有に属する共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設を共同して維持管理すべき立場にあるので、管理費等の請求権は一般の債権よりも優先的な立場を与えているのです。

そこで、管理費等を滞納した場合、管理組合は滞納者のマンションの建物(室)と敷地又は自分のマンションの室内に設置している家財などの動産について先取特権をもって、裁判所に申し立てて実行することができますし、裁判の判決を必要としないことから有効かつ簡便な手段となる場合があります。

しかし、マンションの建物(室)について言えば、この先取特権の優先順位は登記された抵当権に劣ります。
住宅ローンなどの抵当権が設定(登記)されており、かつ、競売落札価格より多額のローン残高がある(オーバーローン)場合には、この先取特権によって競売しても、管理組合は滞納金等を回収できないことになります。

また、家財などへの先取特権の行使には、滞納者が差押えを承諾することなどが条件であり、滞納者の協力を得られにくいといった問題もあります。
このような場合には、滞納金の回収をより確実に行うために、訴訟手続を活用し、滞納者に支払い方法などの言い分を聞き、裁判所から滞納者が支払いやすい方法などを考えた上での判決をえて、滞納者に自主的に支払いをさせることが有効な方法といえますし、これを怠った場合に、訴訟の確定判決により、先取特権では行使できなかった滞納者の預金、給与、賃貸している場合の家賃などを差押えて、滞納管理費を回収していくことがよいといえるでしょう。


 {設問}区分所有法第7条に規定する先取特権によって担保される債権に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

1 特定の区分所有者が、他の区分所有者の負担すべき共用部分に関する費用の立替払をした場合におい て、当該他の区分所有者に対して有する立替金償還債権

答え:△? 立替金償還債権自体は被担保債権とはいえないが、立替金償還債権の行使は民法第499条により弁済による代位で被担保債権である共用部分に関する費用請求権を行使することになる。

2 規約により各区分所有者が共用部分に係る管理費を各自の共有持分に対して有する管理費の請求に係 る債権

答え:正しい。 規約により他の区分所有者に対する債権である。

3 管理者が、その職務を行うにつき必要な費用について、各区分所有者に対して共有持分に応じて分割的に有する費用償還債権。

答え:正しい。 管理者が業務を行うにつき有する債権である。

4 管理者が、管理組合との間に報酬を受ける特約がある場合において、管理組合に対して有する報酬債権。

答え:間違いである。報酬債権は組合に対する業務実施の対価であり、業務を行うにつき組合員に対して有する(費用 )債権に該当しない(なお、組合がこれを管理費の一部として組合員に転嫁するものは該当する)。

正解:4

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

第七条
2項  前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

 ★先取特権は特定の行為にしか認められないので、民法で定める共益費用の先取特権の扱いで処理する。 
  また、先取特権間の優先順位も、
      1位...共益費用
      2位...雇用関係債権
      3位...葬式費用
      4位...日用品供給の費用
  の順位で支払を受ける。(民法第329条 参照)

   ただし、他の法律(税法)もあり、1位は国税、2位 地方税、3位 社会保険の保険料 が、共益費用などに、優先して支払をうける。

<参照> 民法第306条:
 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
   一  共益の費用
   二  雇用関係
   三  葬式の費用
   四  日用品の供給

  そして、共益の費用とは、
民法第307条:
  共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。
 2  前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。」

<参照>民法第329条 (一般の先取特権の順位)
第三百二十九条  一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。
2  一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

 そこで、先取特権の実行に当たっては、まず、建物に備え付けられた債務者の動産ついて弁済を受け、それでも債権が満足しないときには、債務者の不動産、具体的には、区分所有権(共用部分に関する権利と敷地利用権を含んで)弁済を受けることになります。(民法第335条1項)

<参照>民法第335条 (一般の先取特権の効力)
第三百三十五条  一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。

2  一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。
3  一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
4  前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

第七条
3項  民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。
過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

<参照> 民法 第319条:
  第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。

★ この先取特権の対象物は、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産とされます。
  このうち、区分所有権、共用部分に関する権利および敷地利用権は不動産担保権の抵当権の対象となるため、登記すれば、抵当権に優先されますが、建物に備え付けた動産(テレビ・タンスなどの家財道具)は抵当権の目的とならないため、理論的にはこの先取特権で優先して債権を回収することが可能です。

 ただ、現実的には、テレビや冷蔵庫、家具など、この種の動産は新品価格の数%になるか、ほとんどは競落されません(粗大ごみ扱いです)のが通常ですから、回収金額はあまり期待はできません。
  また、生活関係の動産は差し押えができませんので(民事執行法第131条参照)、区分所有法で先取特権として規定されていても、債権の回収は難しいと考えてください。

<参照> 民事執行法第131条(差押禁止動産)
第百三十一条  次に掲げる動産は、差し押さえてはならない
一  債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二  債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三  標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭

四  主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
五  主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
六  技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
七  実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
八  仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
九  債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
十  債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
十一  債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
十二  発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
十三  債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
十四  建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

★東京地方裁判所では、民事執行法の上記の差し押さえ禁止規定について、次のようなものをさらに詳細に例示しています。
  *差し押さえできない物
   ●整理ダンス
   ●洗濯機(乾燥機つきを含みます)※
   ●ベッド
   ●鏡台※
   ●洋ダンス
   ●調理用具
   ●食器棚
   ●食卓セット
   ●冷蔵庫(容量は問いません)※
   ●電子レンジ(オーブンつきを含みます)※
   ●瞬間湯沸器※
   ●ラジオ※
   ●テレビ(29インチ以下)※
   ●掃除機※
   ●冷暖房器具(エアコンは除きます)
   ●エアコン※
   ●ビデオデッキ※

    ※複数ある場合は1つだけです。


 3項でこの先取特権に民法第319条により、同法第192条から第195条が準用されていますから、この先取特権成立時即ち被担保債権取得時点において建物に備え付けた動産が債務者の物であることについて善意無過失(そうでないことを知らず、知らないことに過失がないこと。)の場合は、たとえそれが他人の物であってもこの先取特権の目的物となります。 (
民法第192条)

<参照>民法 第192条から第195条

(即時取得)
第百九十二条  取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

(盗品又は遺失物の回復)
第百九十三条  前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

第百九十四条  占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。

(動物の占有による権利の取得)
第百九十五条  家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。

 ただし、上の民法第195条の準用は、区分所有法での先取特権に準用することは、無意味ですけど。

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

(特定承継人の責任)

第八条
 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
過去出題 マンション管理士 H21年、H 20年、H18年、H17年、H15年、
管理業務主任者 H21年、H19年、H16年、H15年、H13年

★承継人には、@包括承継人とA特定承継人の2つの場合があります。

 1. 包括承継人(一般承継人)とは

 他人の権利義務を一括して承継することを包括承継(一般承継ともいいます。)といい、承継する者を包括承継人といいます。
 相続により被相続人の権利義務を承継する相続人がその例です。
 包括承継の場合はその人の年金等一身専属的な権利を除きその人の権利義務の一切(包括的地位)を包括的に承継します。

 2. 特定承継人とは

  他人の権利義務を個別的に取得することを特定承継といい、承継する者を特定承継人といいます。
 売買、交換、贈与などによる普通の権利の承継は、みな特定承継で、売買契約の譲受人(買主)などが特定承継人の典型例です。
 また、抵当権の実行により競売物件を競落して所有権を取得した競落人(買受人)も、特定承継人に該当します。

★なぜ、区分所有法で特定承継人について定めるのか

 一般に、合意による取決めは、その合意の当事者及び相続人等の包括承継人のみを拘束するのが原則であり、売買による譲受人(買主)のような特定承継人を拘束しません

 区分所有者間の合意による取決めである規約と集会の決議を単なる債権契約にすぎないものとすると、相続人のような包括承継人を拘束する効力はありますが、例えば売買等で区分所有権が譲渡された場合に、その契約は譲受人を拘束する効力がないため、未払の管理費などがある場合には、目的を十分に達することができなくなります。

 そのため、区分所有法では、区分所有者の特定承継人に対しても、規約設定時及び集会決議時での当事者と同視して、その効力を受けるものとしています。

◎包括承継の場合は前第7条の債務を当然に承継しますから、この第8条のような規定は必要ありませんが、特定承継の場合は承継された特定の財産に内在又は付着した物的・法律的な瑕疵や負担しか承継しないことが原則ですから、本第8条がなければ前第7条の債務を特定承継人が承継することはありません。

★特定承継人...買った人・競売で落とした人、贈与を受けた人など。 

 ★請求は、もともとの債務者である前の区分所有者にも請求できるし、新しく買った特定承継人に対しても請求できる。

      参照:包括承継人...相続人など他の権利・義務も全部を受け継いでいる人。この人は当然請求される。

 ★前条第1項=第7条1項...区分所有者に対する債権(管理費など)の先取特権。

       買った人・貰った人は債権の存在を知らなくても、債務を引き継ぐ。

       また、滞納している管理費などは売主が払うという約束があっても、買主にも売主にも請求できる。

(ただし、管理組合と売主の間で売主が支払うという和解が成立していれば、買主は責任がない。) 試験にでた!(平成14年 マンション管理士 「問31」

★なお、この特定承継人の責任を定めた区分所有法第8条は、元々の民法第254条を基本にして、構成されたようです。

<参照>民法第254条(共有物についての債権)
第二百五十四条  共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。


{設問} Aは、B所有の中古マンションの一室を取得したところ、管理組合からBの管理費滞納分を請求された。この場合におけるAの主張に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、正しいものはどれか。

1  「滞納分はBが全責任をもって管理組合に支払い、Aには一切迷惑をかけない。」という念書をもらって売買したのだから、私に支払義務はない。

答え: 誤 建物の区分所有等に関する法律第7条第1項は、「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。」と定め、同法第8条は、「前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。」と定める。
よって、管理者(管理組合)が他の区分所有者に対して有する管理費等の債権については、債務者である区分所有者の特定承継人(A)に対しても行うことができる。前の所有者Bが全部支払うという念書は、AB間の問題であり、管理組合に対しては、何らの効力もない。Aに支払義務はないとの本肢は誤り。

2  私は競売代金全額を裁判所に支払って買受人となったが、この物件の現況調査報告書に管理費の滞納分について記載がなかったので、私に支払義務はない。

答え: 誤 肢1で述べた区分所有者の特定承継人(A)の支払義務は、その義務につき特定承継人が債務の存在を知らなかったとしても負わされるものである。現況調査報告書に管理費の滞納分についての記載がなかったとしても、特定承継人はその義務を免れない。よって、本肢は誤り。

3  仲介業者からBに滞納分があると聞いていたので、私に支払義務があるのはやむを得ないとしても、支払いを遅延したのはBであって私ではないから、私に遅延損害金の支払義務はない。

答え:誤 遅延損害金も管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権である。よって、区分所有法第8条により、区分所有者の特定承継人も支払い義務を負う。支払いを遅延したのが滞納者Bであったとしても、特定承継人Aは、遅延損害金の支払義務を免れるものではなく、本肢は誤り。

4 管理組合とBとの間に、Bが滞納分の全額を支払う旨の和解が成立しているから、私に支払義務はない。

答え: 正 本肢においては、管理組合と滞納者Bとの間でBが全額支払うとの和解が成立している。これにより、特定承継人Aには、滞納分の支払義務はなくなる(民法第696条)。よって、本肢は正しく、本問の正解肢となる。

正解:4

<参考>民法 第696条(和解の効力):
  当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。

<参考>「標準管理規約(単棟型)」26条:(承継人に対する債権の行使)
第26条 管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の包括承継人及び特定承継人に対しても行うことができる。


{判例-1}特定承継人に、中間の取得者がはいるか? −旧の不動産登記では、争いがあった事項ですー
    管理費の滞納者AがBに売り、BがまたCに売ったときBに対して管理費の支払請求ができるか?

    まだ、判例は確定していないようだ。 
    ア.できない説...ここの特定承継人は、区分所有権を現に有する人で、B(中間取得者)は入らない。
    イ.出来る説...特定承継人を縮小解釈する根拠がない。


 この、中間の取得者については、改正(平成16年)不動産登記法の説明も参照   


{判例-2}滞納した管理費・特別修繕費などの債権の消滅時効は? −5年で決着

    ア.10年説...定期金債権の消滅時効? 民法第168条

    イ.最新の判例:定期給付債権で 5年の消滅時効(平成16年4月23日、最高裁) 民法第169条に該当する。

   理由: 管理費等の債権は、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法第168条所定の債権にあたるものというべきである。
その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い、総会の決議により増減することがあるとしても、そのことは、上記の結論を左右するものではない。

 で、5年の時効となった。


★ 特定承継人の責任。
 本第8条により、前第7条の債務について特定承継人と本来の債務者が連帯して弁済する責任が生じます。

 この関係は、別個の原因により数人が同一内容の給付をする債務を負担するため、民法上の不真正連帯債務とされますが、実体は本来の債務者の肩代わりをするのですから通常の場合(当事者の合意により承継人が支払うこととした場合以外の場合)は、保証債務の規定を準用して催告・検索の抗弁権を認めても良いでしょう。
 通常の場合に承継人が支払った場合は本来の債務者に求償する訳ですから、管理組合としてもまず本来の債務者から回収することを要求されても不当とはいえないでしょう。

 なお、この特定承継人の承継義務は本条に基づく法定責任ですから、特定承継人がその債務(未払い管理費など)の存在を予め知っていることを要しません。無過失責任です。
 従って、通常の売買(重要事項説明書にどういう記載があろうと)であろうと競売(物件調書にどういう記載があろうと)であろうと買主が知らなかったというのは言い訳にはなりません。
 ただし、この特定承継人の負担は当該売買契約や手続きの瑕疵として売買当事者間等で精算されることとなります。

 宅地建物取引業者は、マンション売買を代理、仲介するにあたっては、未払の管理経費について、重要事項として説明が必要です。(参照:宅地建物取引業法第35条1項5号の2、国土交通省総合政策局不動産課長からの解釈・運用の考え方について。)


{設問-1}管理費、特別修繕費(修繕積立金)支払わないままマンションの専有部分が売買(譲渡)された時は、誰に対してその滞納金を請求することができますか。

 答え:結論的には、売主(譲渡人)と買主(譲受人)の双方に対して請求することができます。  管理費等の管理経費が未払いのまま専有部分が譲渡された場合には、売主(譲渡人)に対してその未払金を請求することができます。  譲受人たる現区分所有者に対しても前区分所有者(譲渡人)の管理費等管理経費の滞納金を請求することができるのです。


{設問-2} マンションの管理費の滞納に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1.管理組合は、管理費の滞納者が死亡した場合、その相続人に対し、滞納管理費を請求することができる。

答え:正 民法第896条によれば、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
、とされる。滞納管理費の支払義務も承継しているので、管理組合は、相続人に請求できる。

2.滞納管理費の額が60万円の場合に、管理費の滞納者が一部の弁済であることを明示した上、5万円を支払ったとき、その残額については、時効は中断しない。

答え:誤 民法第147条3号によれば、時効は、次に掲げる事由によって中断する。
  一  請求
  二  差押え、仮差押え又は仮処分
  三  承認
、とされ一部の弁済であることを明示した場合は残額の承認となるので残額について中断する。(これまでの時効期間はなかったものとなる。)

3.マンションの売却が行われた場合、管理組合はその買主に対して、売主である区分所有者の滞納管理費について、その遅延損害金と共に請求することができる。

答え:正 区分所有法第8条によれば、前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる、とされ、この場合、滞納管理費と共に、債務不履行による損害賠償として遅延損害金の請求もできる。民法第415条参照。

4.管理組合は、規約に管理費についての遅延損害金に関する定めがない場合でも、その遅延損害金を請求することができる。

答え:正 民法第419条1項によれば、金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
、とされ
民法第404条;利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。に より年5%を請求できる。規約で定めがなくても、遅延損害金の請求はできる。

正解:2


{設問-3}甲マンション管理組合の区分所有者Aが管理費を滞納している場合に関する次の記述のうち、区分所有法、民法及び民事訴訟法の規定によれば、正しいものはどれか。

1 Aの死亡後、専有部分の登記名義がAのままになっている場合、甲は、Aの相続人に対して滞納管理費の支払請求訴訟を提起することはできない。

答え:誤 Aの死亡後、相続では民法第177条の登記は適用されず、第882条、第896条によりAの債務は当然に相続されるから専有部分の登記名義がAのままになっている場合でも、甲は、Aの相続人に対して滞納管理費の支払請求訴訟を提起することができる。

2 Aが滞納管理費の支払をしないままBに専有部分を売却した場合、甲は、Aに対して滞納管理費の支払を請求することはできない。

答え:誤 区分所有法第8条により滞納者Aと購入した特定承継人Bは不真性連帯債務を負うからAが滞納管理費の支払をしないままBに専有部分を売却した場合、甲は、A及びBに対して滞納管理費の支払を請求することができる。

3 甲が裁判所にAに対する支払督促の申立てを行った場合において、Aがそれに対し適法な異議の申立てを行ったときは、甲の支払請求は、通常の訴訟に移行することになる。

答え:正 民訴法第395条により甲が裁判所にAに対する支払督促の申立てを行った場合において、Aがそれに対し適法な異議の申立てを行ったときは、甲の支払請求は、通常の訴訟に移行することになる。

4 甲がAに対し6ヵ月ごとに配達証明付き内容証明郵便で支払を督促し、その郵便が配達されていれば、滞納管理費の支払請求権の消滅時効は、中断する。

答え:誤 民法第153条の催告は、6ヶ月以内により強い中断事由を取る必要があり、甲が滞納者Aに対し6ヶ月ごとに配達証明付き内容証明郵便で支払を督促し、その郵便が配達されていても、時効中断事由にならず、滞納管理費の支払請求権の消滅時効は、中断しない。

正解: 3


{設問-4} マンション(マンション管理適正化法第2条第1号に規定するものをいう。)の管理費の滞納に関する次の記述のうち、民法及び区分所有法の規定によれば、正しいものはどれか。

1 管理費を滞納している区分所有者が、マンションの専有部分を売却した場合、当該売買契約において、「買主は、売主が滞納している管理費に係る支払債務を承継しない」旨の明確な合意がなされているときでも、買主はその滞納している管理費の支払義務を負う。

答え:正 区分所有法第8条により滞納区分所有者の買主である特定承継人は滞納区分所有者と不真性連帯債務を負い、この間の取り決めは管理組合に主張できない。

2 管理費を滞納している区分所有者が、勤務先である会社の倒産によって収入がないためその管理費を支払うことができない事情にあることが真実であれば、当該区分所有者は債務不履行にならない。

答え:誤 事例の事実では滞納はやむを得ないが、管理費支払債務等の金銭債務については不可抗力でも責任を免れない(民法第419条 2 項)。

3 区分所有者が管理費を納付すべき期日に納付しなかった場合、規約に特別の定めをしていない限り、当該区分所有者は、遅延損害金の支払義務を負わない。

答え:誤 確定期限のある債務は期限到来により履行遅滞となる(民法第412条 1 項)。履行遅滞となると遅延賠償の損害賠償義務が生じる。(民法第415条) 遅延損害金も払わなければならない。

4 管理費を滞納している区分所有者が死亡した場合、遺産分割により当該区分所有者の区分所有権を取得する相続人が決定するまでは、管理組合はその滞納している管理費を請求することができない。

答え:誤 相続は死亡と同時に開始し(民法第896条)、相続債務はその区分建物の帰属如何にかかわらず相続分に応じて当然に承継される(民法第899条)。具体的にそのマンションの相続人が未定でも、滞納管理費は請求できる。

正解: 1

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定)
第九条
 建物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。
過去出題 マンション管理士 H21年、H14年、
管理業務主任者 H15年、

瑕疵(かし)...キズや欠陥のこと。当事者の予期する状態や性質が十分に満たされていないこと。

推定する... 一応それがあるものとして効果が生じますが、事実と異なる反証が成立すれば、効果はなくなります。

★参考:みなす...「みなす」とされれば、みなされた事実と異なる立証は出来ません。「推定する」では、推定された事実と異なった事実の立証ができます。
            参考:区分所有法第5条「規約敷地」2項

 マンションの建物は不動産即ち土地工作物に当たりますから、一般不法行為責任(民法第709条)のほか、いわゆる民法第717条の土地工作物責任が生じます。
本第9条は民法第717条の土地工作物責任の特則としての責任者および因果関係の存在の推定規定です。

<参照>
民法 第717条1項:
  土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

この規定により、民法では、建物の設置や保存に瑕疵があり、他人に損害を与えたときは、その建物の占有者(第一次)か所有者(第二次)が、損害賠償責任を負うことになっている。

 しかし、瑕疵の発生が建物の専有部分が原因ならその区分所有者の責任として追求できるが、マンションでは、多くの場合、水漏れなど、原因が専有部分にあるのか、共用部分か分からないことが多い。
そこで、一応共用部分が原因として区分所有者全員の責任とした。これが、「推定する」の意味です。
なお、 損害を受けた他人には、そのマンション内での被害者も区分所有者全体との関係では含めていい。

★立証は被害者がする。

★「推定する」なので、請求を受けた加害者側は、どこか特定の専有部分が原因だと反証できれば、全員の責任から、その専有部分の所有者の責任とすることができ、損害賠償は該当の専有部分の区分所有者となる。

★外壁などが原因の雨漏りなどは、共用部分の瑕疵とみなして、修繕積立金から補修費を充当する。

★責任発生の例。
 建物での事故として一般に想定されるのはいろいろありますが、建物本体に起因するものとして
  ・看板、外壁タイルやコンクリート片の落下による人損や物損事故、
  ・エレベーター内閉じ込め事故等があり、

被害者の過失も競合する例として
 ・エレベーターやエントランスドアの挟まりや衝突事故、
 ・建物内外の転倒事故や駐車場設備に係る事故等があります。

また、加害者が競合する例として
 ・ベランダからの落下物事故、

加害者が発生時には不明確なものとしての
 ・漏水事故などがあります。

★推定規定が必要な理由
 マンションでの事故の被害者が損害を賠償してもらおうとするときには、賠償責任のある相手を特定する必要があります。つまり、責任者として、誰が占有しているのか、だれが所有者であるかが問題となります。
即ち、建物から被害を受けても正当な責任者である占有者や所有者を相手にしなければ賠償を受けることはできません。

ところが、区分所有建物を含む一棟の建物の場合は、配管などの共用部分と専有部分が存在しそれぞれ所有者と占有者が異なりますから、誤った相手に請求しても賠償を得ることはできません。

このように、一棟の建物を区分することにより被害者に一般の建物より不利益な結果となるのは不当ですし、更に一般には被害者が加害の部位を特定して当該部位が共用部分か専有部分か調査判定することも困難です。

そこで、区分所有建物を含む一棟の建物から被害を受けたときには、共用部分に起因する損害と推定することにより、裁判時に被害者が共用部分の所有者と占有者を相手に損害賠償を請求すればよいとして被害者の便宜をはかる必要があります。

 一般的な事例として、マンションの外壁タイルやコンクリート片の落下事故、エレベーター内閉じ込め事故や駐車場設備事故等を考えても外壁・躯体・諸設備等他人に損害を与える惧れのある建物の部位はほとんど共用部分ですから一般常識にもかなった規定といえます。

★推定規定の効果
 この規定の存在により、被害者は建物の設置・保存の瑕疵により損害を蒙ったことを主張立証すればよく、具体的に共用部分からの損害かどうかを立証する必要はありません。

そして、被害者は建物に起因する損害について管理組合に請求すれば管理組合が占有者や所有者(正確には組合員全員)として土地工作物責任を負うこととなります。

勿論、被害者に過失があれば過失相殺として賠償額がそれだけ減額されますし、また加害者が競合する場合は他の加害者に相当額の分担を求償することができます。

更に、原因が明確に建物の特定できる専有部分にある場合には、この規定の効力は推定ですから、原告たる被害者はその専有部分からの被害であることを主張立証して損害賠償を請求することもでき、被告たる管理組合も専有部分に起因するものであることを主張立証して責任を免れることができます。

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

(区分所有権売渡請求権)
第十条
 敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。
過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 H18年、

収去...取り去ること。建物の収去とは、建物を取り壊して、土地を更地に戻すことになる。

★ここも、当初は理解が難しい。民法の形成権などもでてくる。

◎本来なら、後で説明します、第22条により、建物の専有部分の区分所有権と土地の敷地利用権が一体化されているので、敷地利用権のない区分所有者はいないはずですが、敷地利用権が賃借権であって、賃料の不払いなどにより賃貸借契約が解除され、敷地利用権が無くなることもあり得ます。

 また、古くからあるタウンハウスのように、建物は連なっているが、敷地を各専有部分ごとに分筆し、各区分所有者が単独に所有している場合には、土地と建物は分離して処分できます。
このタウンハウス(棟割長屋ともいう)の形式は、旧住宅公団などの分譲住宅で、現在も存在しています。それらの現状に対応した規定です。  

 このようなときには、土地だけの権利を有する者は、建物の所有者に建物の収去を求めることができますが、区分建物の場合は複数の別の区分建物が繋がっており、該当の区分建物(室)だけを壊して収去することは、壁や柱があり他の室にも影響を与え不可能です。

 そこで、土地だけの権利者が建物の区分所有者に対して建物を時価で売り渡せという請求権を認め、土地の不法占拠者たる区分所有者を排除できるようにしました。

★売渡請求権の行使方法・性質 −形成権 −

 本第10条は売り渡し請求権という権利を認めた規定ですから、通常の売買契約と異なり申込みと承諾という意思の合致は必要ではなく、土地権利者からの一方的な意思表示により売買が成立します。相手がその申し出を拒んでも、申し出は成立します。

 このような権利を民法では「形成権」とよびます
民法の法文に形成権という概念が示されているわけではありませんが、講学上、法律行為の分類として用いられています。
具体的には、他にも、解除権・予約完結権・取消権・相殺権などが形成権として認められています。

債権のように明文化されてはいないため、時効期間が問題となりますが、判例は債権に準じて10年としています。 もっとも、形成権の中には独自の時効・除斥期間が規定されているものもあり(例:取消権)、その場合には規定によります。

★区分所有法での形成権

  この、区分所有法第10条での売渡請求権のほかに、これから説明がある、第61条7項の「大規模滅失での買取請求権第63条4項での「建替での売渡請求権」も、形成権です。


★おまけの話。形成権は、所有権を侵す?
  上の、形成権の説明を、「そうか」と思った人は関係ないのですが、「オヤッ」と思った人用に。

  所有権は、物権として保護され、所有者の承諾(合意)がなければ、移転は許されていないはずです。
 しかし、区分所有法第10条の「区分所有権売渡請求権」を行使すると、所有者の意思に関係なく、区分所有権を移転させられます。怖い話です。

<参考>民法第206条 (所有権の内容)
第二百六条  所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。


★時価とは

 売買代金は、区分所有権(建物)の時価とされ、その内訳は勿論土地(敷地利用権)のない建物だけの価格となりますが、売買当事者の協議により決定されるものであり、協議がまとまらない場合は不動産鑑定を参考に裁判所の決定する価格となります。

★敷地利用権は所有権が基本だけど、地上権や賃借権でも可能。

 そこで、敷地利用権が土地の賃借権の時、マンションの1室を持っている人が土地の賃料を滞納し、地主が契約解除したら、区分所有者は土地の不法占拠となり室(専有部分)の撤去を求められる。

 1室だけが壊されては、他の住民は住めなくなるので、区分所有者は地主に時価で区分所有権(建物)を売り渡さなければならない。区分所有者(マンションの持主)は、これを拒めない。

    ★ただし、この売り渡し請求は地主からできるだけで、マンションの持主の方からは、「買い取って」といえない。

    ★この請求を受けた、区分所有者は、もう「売渡」を拒めない。

      地主からの売り渡しの請求があったときに、売買契約が成立する。これを「形成権」という。

<参照> 建替の決議での賛成しない人:第63条4項 でも同じ。マンションの持主からは「買い取って」といえない。

↑このページトップへ←区分所有法トップへ

ページ終わり

謝辞:Kzさんの了解により一部転用・編集をしています。

最終更新日:
2010年5月31日:先取特権など、ちょろちょろと
2010年4月19日:第4条の携帯電話会社の札幌高裁判決を追加
2010年1月23日:H21年の出題年を記入
2009年12月1日:住居侵入での最高裁判決を加筆
2009年11月3日:専有部分と共用部分の基準 を加筆
2009年10月9日:ちょろちょろと加筆
2009年7月5日:専用使用権に判例入
2009年6月18日

前へ前へ次へ次へ


全体のトップへ戻る
*総合ページへ*映画・演劇評論へ*日記へ*楽しいゴルフへ*投稿者のページへ*写真集へ*目指せ!マンション管理士・管理業務主任者へ*ヨーロッパ旅行記へ*ヨーロッパ 写真集へ*金町団地の建替闘争の記録へ ★「マンション管理士 香川事務所」へ