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★★       条 文 の 解 説        ★★

建物の区分所有等に関する法律

(この解説においては、略称:区分所有法 と言う)

第1章 建物の区分所有 第8節 復旧及び建替え

第六十一条 建物の一部が滅失した場合の復旧等
第六十二条 建替え決議
第六十三条 区分所有権等の売渡し請求等
第六十四条 建替えに関する合意

[-b.第62条(建替え決議)から 第64条(建替えに関する合意)まで

マンション管理士・管理業務主任者を目指す方のために、区分所有法を条文ごとに解説しました。 

試験問題は、過去の問題から出されるのではありません。条文から出題されます。

条文を勉強することが、合格への道です。

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凡例:各条文は、黒字にて表示。解説は条文の下に緑字にて表示
 

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(建替え決議)

第六十二条

1項  集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。

過去出題 マンション管理士 H18年、H13年
管理業務主任者 H19年、H17年、H15年、H13年

★特別に多数の賛成が必要で「特別決議事項」と呼ばれる。(その8の6)

   ただし、「建替え」はもっと重要なので、「5分の4(80%)以上の決議」がいる。規約でも変更できない。

★建替えの必要性と団体生活の関係 −民法と区分所有法の妥協点−

 建物は、木造であろうと鉄筋コンクーリト造であろうと必ず、物理的に老朽化します。また地震等の天災や事故などによる倒壊その他の事由によっても、いずれは「建替え」という時期が到来します。
 その場合、区分所有建物は通常多数の区分所有者の共同所有ですから、区分所有法で何らかのルールも定めずに建替え問題を議論する場合には原則的に民法
「共有」の関係が適用されることになります。

 その民法の規定では、共有となると、既存建物の無断解体は建替反対者の所有権を侵害し、解体後の無断新築は建替反対者の土地利権利を侵害するため、”全員の合意(同意)”がなくては「建替え」ができません。(民法第251条)。

<参考>民法第251条:(共有物の変更)
第二百五十一条  各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない

 しかし、この民法に従うと、大多数の者が建替えを希望しても、たった一人の区分所有者の反対があれば建替えができず、建物の劣化した状態で居住を継続しなければならないことになります。
それは、他の多くの区分所有者にとって不利益ですし、その地域にとっても、危険な状態での建物があることや、多くの居住者がいなくなるスラム化した建物が存続することは社会問題となります。

★区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数決は、団体としての妥協点 −全員の合意を得ることは不可能

 そのために、事実上不可能な全員の合意は不要として、多数決の要件(5分の4(80%)以上の決議)により建替えを認めて、憲法および民法で保障された個人の財産権と共同生活を営む他の多数の区分所有者及び周辺社会との利益の調和を図ったものがこの規定です。

★どうして、区分所有者及び議決権の各4/5以上としたのか?
  建替え決議が成立すると、建替えに反対する区分所有者は、室(区分所有権)と敷地利用権を強制的に買い取られて、建物から退去することになります。(第63条参照)

 また、賛成の区分所有者も、多額の費用を負担することになります。
 そこで、共用部分を変更する場合(第17条参照)や大規模滅失での建物を復旧する場合(第61条5項参照)の3/4以上よりも、重大な状況になると判断して、さらに厳しい要件として、10分の9(90%)以上とする案も検討されたようですが最終的に4/5(80%)以上としたようです。

★建替えに賛成しない人は、その区分所有建物から排除される。
  区分所有者及び議決権の各4/5以上の賛成により、建替えが決議されると、反対者は賛成者(又は買取指定者)から、区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡せとの請求を受けて、該当の区分所有建物から出て行くことになります。(第63条)


★逆に、4/5以上の賛成さえあれば、まだ新しいマンションでも建替えができる。 −所有権の侵害−

  この条文だけを、そうかと読んでいましたが、マンションでは、4/5以上の賛成があれば、個人の財産である室が、正当に奪われてしまうのです。

  特に、建替えに反対している少数者の立場は、実に厳しいものがあります。

  建替えに反対している人は、多くが高齢者や建替え費用の負担ができない人です。
  これらの人にとって、今まで住んでいた土地を強制的に追われることになる建替えは、近所付き合いが変わる、面倒な引越がある、たとえマンションを売っても現状と同じ規模の部屋には住めない、
  など、寂しい現実が控えていますが、区分所有法は関知していないとしています。


★採決に当たっての注意点
  建替えは、建物という財産を失うことになるため、建替え決議を採択した集会は、法律的にも非常に重要です。
  特に共有では、事前に共有関係を確認し、正しい区分所有者の数、議決権の確認が必要です。
  また、将来の紛争を防止するため、招集通知は「配達証明付き郵便」での送付が適切でしょう。
 当日の採決も、挙手ではなく、賛成・反対が後日の証拠として残る書面を使った「投票用紙」によるべきです。

区分所有者数および議決権の各5分の4以上の賛成が必要
 ここで注意することは、建物の専有部分が数人の共有にある場合です。
 専有部分が数人の共有にあっても、区分所有者の数は 1 として扱われます。
 議決権も民法で定めるような、持分に応じて行使は出来ません。区分所有法第40条により、「集会においては、議決権を行使する一人を共有者間で決めておく」ことが必要です。
 建替えは、専有部分の共有者全員の利害に強く関わるため、その共有者全員の賛成が無ければ議決権の行使が出来ません。(民法第251条)。
 共有関係にある専有部分がある場合は、事前に共有者間の話し合いが必要になります。
 共有となっている専有部分の議決権行使書には、共有者全員の署名・捺印を求めて後日の紛争を防ぐことです。

建替えとは...現にある区分所有建物を取り壊して、新たな区分所有建物を建てること
           建物が、地震などで全部滅失した時には、区分所有法の適用から外れ、民法または「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」の適用になる。

  全部滅失では、元の区分所有者には、敷地利用権である土地の所有権の共有関係、またその土地が借地なら準共有関係が残るだけ。

   一部でも建物が残っていれば、区分所有法による「建替えの決議」ができる。

★過去(昭和58年の改正)に建替えで問題が多かった要件を廃止した。

  平成14年の改正区分所有法での、新しい要件は、

  *建物の年数(老朽化)や、傷み具合(損傷・一部の滅失)は問わない

  ◎現在の建物の敷地と少しでも重なっていればいい...現在の建物がある敷地の隣に新しく隣地を購入とか借りて、またがって建築していい。

  ◎現在の敷地の一部を売却して、その売却代金を建設費用にあてて、建築していい。

  ◎新しい建物の使用目的は問わない...今まで住宅専用のマンションであっても、住宅・店舗・事務所などが入った建替もいい。

  しかし、必ず、新たに建物を建てること。 

 

★ただし、老朽化したマンションを取り壊して、平面駐車場にすることは、建替えの決議では出来ない。(建替えの決議は、新たな建物を建築することが必要。)
  この場合は、民法第251条の適用となり、区分所有者全員の同意が必要となる。

★新たな土地に新たな建物を建てることは、建替え決議ではできない。

  平成14年の改正で、建替えの決議があれば、敷地の同一性を廃止して、どこでもいいから新しく建物を建ててもいいのではないかという議論もされたようです。
 これに対しては、現在の土地から極端に離れた場所での建物は、もう建替えと云えない。また、多くの人は現在地での所有や使用を望んでいる。
などで、見送られたようです。

 確かに、東京のマンションの建替え後の建物が北海道にあるとなると、いくら区分所有者が希望したといっても、これはもう通常の建替えの概念からは外れていますね。

★建物の建替えに関する費用は「修繕積立金」勘定から充当する。

  建替えの決議に至るまでには、調査や合意の形成に時間と費用がかかります。
  まず、建物の損壊があれば、その程度を調査し、修理可能か、費用はいくらかかるのか、建替えとするならどのような設計にするのか、新しい建物の建設費用はいくらか、取り壊しや建設費用の分担はどのようにするのか、など建設の専門的な知識が要求され、調査の費用もかかってきます。

 そこで、「標準管理規約」では、これらの「建替えに係わる合意形成に必要となる事項の調査」費は「修繕積立金」勘定から支出することが認められています。

<参考>標準管理規約 28条1項 4号;(修繕積立金

第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更

四 建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査

五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

2. 前項にかかわらず
、区分所有法第62条第1項の建替え決議(以下「建替え決議」という。)又は建替えに関する区分所有者全員の合意の後であっても、
マンションの建替えの円滑化等に関する法律(以下本項において「円滑化法」という。)第9条のマンション建替組合(以下「建替組合」という。)の設立の認可又は円滑化法第45条のマンション建替事業の認可までの間において、
建物の建替えに係る計画又は設計等に必要がある場合には、
その経費に充当するため、管理組合は、修繕積立金から管理組合の消滅時に建替え不参加者に帰属する修繕積立金相当額を除いた金額を限度として、
修繕積立金を取り崩すことができる

★建替えに係わる合意形成に向けての過程は、国土交通省のマニュアルでは、次のようになっています。

A.建替え決議までのプロセス

(ア)準備段階:一部の区分所有者から建替えの発意がなされ、それに賛同する有志により、建替えを提起するための基礎的な検討が行われる段階であり、「管理組合として建替えの検討を行うことの合意を得ること」を目標とする。

(イ)検討段階:管理組合として、修繕・改修との比較等による建替えの必要性、建替えの構想について検討する段階であり、「管理組合として、建替えを必要として計画することの合意を得ること」を目標とする。

(ウ)計画段階:管理組合として、各区分所有者の合意形成を図りながら、建替えの計画を本格的に検討する段階であり、「建替え計画を策定するとともに、それを前提とした建替え決議を得ること」を目標とする。

B.建替え決議後のプロセス(マンションの建替えの円滑化等に関する法律=マンション建替え円滑化法 参照)

(ア)建替組合の設立段階:定款及び事業計画を定め、都道府県知事等の認可を受けて建替組合を設立する段階。

(イ)権利変換段階:権利変換計画を策定し、同計画に関し都道府県知事等の認可を受け、権利変換を行う段階。

(ウ)工事実施段階:建替え工事を施工し、工事完了時にマンション建替事業に係る清算を行う段階。

(エ)再入居と新管理組合の設立段階:新マンションに入居し、新マンションの管理組合が発足する段階。

また、コメントは以下のようになっています。

*プロセスのうち、A(イ)及び(ウ)の段階においては、管理組合が建替えの検討のため、調査を実施する。
調査の主な内容は、再建マンションの設計概要、マンションの取壊し及び再建マンションの建築に要する費用の概算額やその費用分担、再建マンションの区分所有権の帰属に関する事項等である。

*プロセスのうち、B(ア)の段階においても、修繕積立金を取り崩すことのできる場合がある。

*このプロセスによらず、円滑化法第45条のマンション建替事業の認可に基づく建替え、又は区分所有者の全員合意に基づく任意の建替えを推進する場合であっても、
必要に応じて、修繕積立金を取り崩すことは可能である。
ただし、任意の組織に関しては、その設立時期について管理組合内で共通認識を得ておくことが必要である。

建替えに係る調査に必要な経費の支出は、各マンションの実態に応じて、「管理費から支出する」旨管理規約に規定することもできる

★建替え決議と専有部分の賃借人の関係

  たとえ、建替え決議が成立しても、この効力は、その建物の区分所有者以外の人には及びません。
 そこで、ある専有部分に賃貸借契約で賃借人がいれば、建替え決議はこの賃貸借契約には及ばないため、その契約が有効である限り賃借人はその専有部分を使用できます。その場合、建物を取り壊すことになると、賃借人は差止め請求ができます。

 また、正当の事由があれば、賃貸人(区分所有者)から、賃貸借契約の期間満了時に更新拒絶の通知を出したり、途中解約の申し入れもできますが、「建替え決議」が正当の事由に該当するかどうかの判断は、建物の利用状況、建物の現況などが個々の事案ごとに判断されることになります。(借地借家法第28条参照)

<参照>借地借家法第28条 (建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条  建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

 この、面倒な賃貸借関係や抵当権などの権利も含めて「建替え」を進めるために、マンションの建替えの円滑化等に関する法律 が制定されました。

★なお、建替えについては、

<参照> マンションの建替えの円滑化等に関する法律 を作りました。

★今後、増大する老朽化マンションと、合意の形成
  建替えに対して、国土交通省は簡単にマニュアルを作っていますが、現実の世界では、建替えで区分所有者の意見をまとめることは、至難の技です。
 余命少ない高齢者は、今更建替えても無駄だと最後まで反対します。

 容積率が大きくできれば、大手ディベロッパーも参加して、区分所有者の負担も少なくできますが、合意に至るまでの時間がかかるため、最近の不況では、大手企業も、乗ってきません。
 一番の問題は、管理組合内で賛成・反対の争いが発生して、今まであった良好な近所付き合いも壊れる場合がかなりあることです。

 建替えでは、当初から、マンション管理士が参加する仕組みが必要でしょう。

 なお、老朽化での建替えは、建築後、平均して38年程度でしているようです。また、建替えの発意から新しいマンションが建つまでに、平均7年もかかっているとのことです。


{設問-1」 マンションの管理組合(区分所有法第3条に規定する区分所有者の団体をいう。以下同じ。)の集会において区分所有者及び議決権の各4/5の多数こよっても決議をすることができないものは、区分所有法及び民法の規定によれば、次のうちどれか。

1 老朽化したマンションを取り壊して、平面駐車場にする旨の決議

答え:決議できない。建替えは新たに建物を建築することが必要(区分所有法第62条1項参照)で、壊して平面駐車場にするには、民法第251条「共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」により、区分所有者全員の同意が必要。

2 居住用のマンションを取り壊して、その敷地に新たに区分所有された住居の部分のある商業用ビルを建築する旨の決議

答え: 決議できる。 区分所有法第62条の建替え決議は平成14年の法改正により従前と同一用途である要件が外れたので決議可能。*改正前の情報との混同を狙った設問。*

3 新たに建築されるマンションの敷地利用権の帰属に関して何らの定めをしない建替え決議

答え: 決議できる。 区分所有法第62条2項「集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる」の規定により、敷地利用権については決議の要件ではない。ただし、建替決議では、再建建物の区分所有権の帰属に関する事項は定めなければならない。(区分所有法第62条2項4号)

4 単棟のマンションを取り壊して、その敷地に新たに2棟のマンションを建築する旨の決議

答え: 決議できる。 区分所有法第62条の建替え決議で再建建物の棟数に制限は無い。

正解:1

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第六十二条

2項   建替え決議においては、次の事項を定めなければならない。

  一  新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要

  二  建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額

  三  前号に規定する費用の分担に関する事項

  四  再建建物の区分所有権の帰属に関する事項

過去出題 マンション管理士 H18年、
管理業務主任者 H15年、

建替えの「決議」で定めるもの...これらは、通知で出す「議案の要領」プラス「建替えの事項」(5項参照)と混同しないように。あくまでも「建替え決議」で決めるものである。
 しかし、建替えの決議で定めるために、これらについても、議案の要点と、主な内容を通知することになる。

★復習になりますが、通常の集会の招集では、(第35条1項)

      A.「会議の目的」 を示し、

      B.以下の項目では、「会議の目的」のほかに「議案の要領」も通知して、前もって検討させる。(第35条5項

 @第17条1項(共用部分の重大変更):
  共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

 A第31条1項(規約の設定・変更・廃止):
  規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

 B第61条5項(建物の大規模滅失の場合の復旧):
  第一項本文:(建物価格の2分の1以下に相当する部分が滅失したときは、各区分所有者は滅失した共用部分および自己の専有部分を復旧することができる)に規定する場合を除いて、建物の一部が滅失したときは、集会において、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数で、滅失した共用部分を復旧する旨の決議をすることができる。

 C第62条1項(建物の建替): 
  集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。

     ★さらに、建替決議では、A.会議の目的、 B.議案の要領 のほかに 

          一  建替えを必要とする理由

          二  建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳

          三  建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容

          四  建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

         も必要。(第62条5項)

 D第68条1項(団地規約の設定): 
  次の物につき第六十六条において準用する第三十条第一項の規約を定めるには、第一号に掲げる土地又は附属施設にあっては当該土地の全部又は附属施設の全部につきそれぞれ共有者の四分の三以上でその持分の四分の三以上を有するものの同意、第二号に掲げる建物にあってはその全部につきそれぞれ第三十四条の規定による集会における区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による決議があることを要する。
  一  一団地内の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)が当該団地内の一部の建物の所有者(専有部分のある建物にあっては、区分所有者)の共有に属する場合における当該土地又は附属施設(専有部分のある建物以外の建物の所有者のみの共有に属するものを除く。)
  二  当該団地内の専有部分のある建物

<参照> 第30条1項:
 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

 E第69条7項(団地内の2以上の特定の区分所有建物の建替について一括して建替承認決議に付す旨の決議): 
 前項の場合において、当該特定建物が専有部分のある建物であるときは、当該特定建物の建替えを会議の目的とする第六十二条第一項の集会において、当該特定建物の区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、当該二以上の特定建物の建替えについて一括して建替え承認決議に付する旨の決議をすることができる。この場合において、その決議があつたときは、当該特定建物の団地建物所有者(区分所有者に限る。)の前項に規定する合意があつたものとみなす。

<参照> 前項=第69条6項 :
  第一項(団地内建物)の場合において、当該特定建物が二以上あるときは、当該二以上の特定建物の団地建物所有者は、各特定建物の団地建物所有者の合意により、当該二以上の特定建物の建替えについて一括して建替え承認決議に付することができる。

◎まとめ

◎集会の決議で「会議の目的」以外に「議案の要領」が必要なもの
番号 条文 内容  決議 さらに必要な「通知事項」
第17条1項 共用部分の重大変更  区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数、ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる  
第31条1項 規約の設定・変更・廃止  区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議  
第61条5項 建物の大規模滅失の場合の復旧  区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数  
第62条1項 建物の建替 

区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数

(*建替え決議は、4/5以上に注意)

一  建替えを必要とする理由
二  建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに 要する費用の額及びその内訳
三  建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
四  建物につき修繕積立金として積み立てられている金額
第68条1項 団地規約の設定 土地または附属施設 共有者の四分の三以上でその持分の四分の三以上を有するものの同意  
専有部分のある建物 区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による決議  
第69条7項 団地内の2以上の特定の区分所有建物の建替について一括して建替承認決議に付す旨の決議  特定建物の区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数
(建替え決議は、4/5以上に注意)
 

★建替えでは、その重要性から、必要的決議事項(建替え集会で必ず決議する必要のある事項)の4項目を決議する。
  これらがない決議は無効となりますから、注意してください。

★決議事項1: 一  新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要

 1号の「再建建物の設計の概要」とは、建物全体の用途・構造材料・階数・建築面積・延べ面積等に関する事項の概略ですが、その詳細の程度は明らかではありません。
しかし、単に建物の概要ではなく「設計の概要」として建替え決議参加者が、建替え事業参加の判断の要素や次号の費用概算額の根拠となることを予定しているとみられることから建築確認申請に必要な詳細な実施設計までは要求されないまでも、概算見積りをとれる程度の基本設計図程度のものは必要と思われます。

  ◎各専有部分の用途、配置、床面積、間取は示すこと。

★決議事項2: 二  建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額

 2号の「建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額」は、1号の基本設計に基づく見積り額で、いずれも1棟全体の建物の総額です。
各区分所有者の個別の負担額は3号の費用分担として規定されています。
そこには、建替え工事期間中の仮住まいの費用や引越代・新居の家具備品代その他の個人的経費は含まれません。
新築費も建物の用途や広さによっては専有部分の全設備が詳細に含まれるとは限らず、別途内装代の負担が発生することがあります。

 具体的に考えられるのは、
  1.取り壊し、建設工事費、設計、測量、工事の近隣対策
  2.建替え事業のためのコンサルタント
  3.建替え管理組合設立費用、権利変換計画策定費用
  4.管理組合運営、事務費

最終の建設実費がこの概算額を超えても、決議は有効です。

  ◎概算額:区分所有者の賛否の判断に支障のない限度でのある程度の幅のある決め方でいい。

★決議事項3: 三  前号に規定する費用の分担に関する事項

 3号は前2号で算出された概算費用の負担方法の定めです。
負担額の基準・決定方法やその支払方法等が定まればよく、この段階では特定の個人がいくら負担するかを定める必要はありません。
新築費の負担は専有部分や共用部分を包含する1棟の建物の新築費の分担ですから、建物のどの位置にどの程度の広さのどのような用途の専有部分を取得するかにより異なります。
このことは新築マンションの各部屋の価格が同じ広さでも階数や方位により異なることからも容易に理解できるでしょう。

 新築ですから、既存建物の管理の基準である区分所有法第19条(共用部分の負担及び利益収取)や管理規約の費用分担の定めは適用になりませんから、適正妥当な負担方法を決定することが建替事業参加者間の公平を保つ上で重要です。
従って、必要に応じて不動産鑑定士等の専門家に依頼してその基準を策定することになります。また、取り壊し費用は、現存建物の大きさや附属施設などにより決まります。

★決議事項4: 四  再建建物の区分所有権の帰属に関する事項  −敷地利用権は入っていない−

 4号は再建建物の区分所有権の帰属先、即ち誰が建物のどこを取るか、又はそれをどのように決定するかに関する事項です。

 区分所有法では、簡単に規定していますが、この決議事項を作成した段階では、建替えに対して、現在の区分所有者のうち誰が賛成で誰が反対かはまだ確定していませんから、再建建物の総戸数も確定することは難しいのが実情です。
また、平成14年の改正により、住居だけでなく店舗や事務所を加えるなど用途の選択の自由も認められましたから、建替え後で得られる部屋(専有部分)が必ずしも建替え前と同じ階数や方位になるとは限りません。
そして、ディベロッパーの参加も考えられ、その際は、ディベロッパーの取り分となる部屋もでてきます。

 できれば、区分所有者が取得する住戸の広さ、位置、 階数などが確定できればいいのですが、この段階では、最終的に賛成・反対の数も未定であり、再建建物に希望の床面積がとれるかどうかも未定で、この時点での確定は難しいのが現状です。
 建替後に抽選その他の決定方法を採用すると定めることになるでしょうが、紛争を未然に防ぐため、かなりの部分で建替え計画を煮詰めておくことが肝要です。
せめて、住戸選定のルールや基準は決めておくことが推薦されます。
一般的な基準としては、各区分所有者が自由に希望の住戸を選定でき、重複希望の住戸があった場合は、抽選としています。しかし、高齢者や資金的な弱者を優先する方法も検討すべきです。

 なお、4号では建物の権利である区分所有権の帰属とだけ規定し、土地の権利である「敷地利用権」については規定していません
これは土地の敷地利用権は、以前のままで、建物だけを新しく建替えることを予想しているためですが、これでは、新規に土地を購入したり、土地を分譲した場合には、既存の建物とその敷地利用権とのバランスが再建築建物では維持できない事態が生じる惧れがあります。

 3項に定める「各区分所有者の衡平を図るため」には、本来、敷地利用権も含めた再配分が図られる必要がありますが、区分所有法自体にそういう規定がない以上、あらためて敷地利用権の一部譲渡でバランスをとるか、またはそのような手当てのある「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」を適用して事業を行うかしか方法はないようです。

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第六十二条

3項  前項第三号及び第四号の事項は、各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

衡平(=公平)...釣り合いのとれていること。当然といえば、当然だけど、公平にやること。

前項第3号及び第4号項とは、
 三  前号に規定する費用の分担に関する事項
 四  再建建物の区分所有権の帰属に関する事項

★公平の原則

 3項は事業における各参加者の公平の原則を定めた規定ですが、それ自体は条文化しなくても当然のことです。
ただし、上の2項でも説明しましたように、建替えに対する賛成・反対が確定していないこの時点での参加者の負担や再建後の建物およびその敷地利用権での公平を図るのは至難の業であり、この公平の原則を満足するためには「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」を適用するしか方法はないでしょうから、この3項は事実上建替えは「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」によるものとする、と記載するのと同義のように思われます。

 もっとも、それはこの規定が効力のない精神規定であるというのではありません。
建替え賛成者内部での多数の横暴を禁じ、少数者の保護はこの規定だけですから公平を害する取り決めはこの規定に違反して無効となると解します。

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第六十二条

4項  第一項に規定する決議事項を会議の目的とする集会を招集するときは、第三十五条第一項の通知は、同項の規定にかかわらず、当該集会の会日より少なくとも二月前に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸長することができる。

過去出題 マンション管理士 H20年、H16年、
管理業務主任者 H15年、

伸長することができる...「建替え決議」を目的とした集会の招集通知の発送は、会日の2ヶ月前を伸ばすことを規約で、できる。短くすることは出来ない!建替えは充分に時間をかけて検討すること。

★建替えの集会の招集の特則

 4項では建替え決議の集会招集通知の発送を第35条の一般の「会日の1週間前の発送」から、その重要性を考えて「2ヶ月前」に伸ばし、この期間を変更するなら更に伸長(伸ばすこと)は認めても短縮(短くすること)は認めないものとしています。

 会日よりも少なくとも2ヶ月前に発しないでなされた建替え集会の決議は無効となりますので、注意してください。

★通常の集会の招集通知は、会日の1週間前までに出せばいい(第35条1項)し、また規約があれば、1週間を伸ばしても、短くしてもいい。

  しかし、建替えは重大な事項なので、区分所有者に熟慮させるため最低、会日の2ヶ月前に出すこと。これは、規約で伸ばす(プラス)ことだけは可能。短縮(マイナス)はできない

     これが、ポイント。

 ★そして、なお建替えでは、集会日の1ヶ月前までに説明会も開かなければならない。(後述:第62条6項)

<参照>第35条1項:
 集会の招集の通知は、会日より少なくとも一週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる。

★また、区分所有者全員が同意している時には、招集の手続きを経ないで、集会を開ける(第36条参照)ため、この4項で定める「2ヶ月以上前の招集通知発信」も建替えの決議の前に区分所有者全員の同意があれば、省略できると考えられます。(現実的には、適用は少ない場合でしょうが。)

<参照> 第36条 (招集手続の省略)
第三十六条  集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。

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第六十二条

5項  前項に規定する場合において、第三十五条第一項の通知をするときは、同条第五項に規定する議案の要領のほか、次の事項をも通知しなければならない。

   一  建替えを必要とする理由

   二  建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳

   三  建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容

   四  建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 H15年、

通常の議案の要領のほか、次の事項...建替えの通知では、通常の@会議の目的、プラスA議案の要領、さらにプラスB4項目がいる。(これは、通知での規定。決議事項についても当然「議案の要領はだす。さらに5項の通知事項もだす。混同しないように

 <参照>第35条5項:
 第一項の通知をする場合において、会議の目的たる事項が第十七条第一項、第三十一条第一項、第六十一条第五項、第六十二条第一項、第六十八条第一項又は第六十九条第七項に規定する決議事項であるときは、その議案の要領をも通知しなければならない。

★会議の目的たる事項

  基本的な内容は、「建替えをした場合にどうなるか」の情報を区分所有者に伝え、建替えをするメリットとしないときの比較判断ができるものです。

  招集の通知には、会議の目的として「○○マンションの建替え決議に関する件」など該当のマンションで建替えを行う集会であることを明確に示します。

★復習...普通の集会の通知では、「会議の目的の事項」を示せばいいが、以下の6つは、「議案の要領」も通知がいる。(第35条5項)

   @共用部分の重大変更(第17条1項)、(4分の3=75%以上、ただし区分所有者の数だけ 過半数 まで少なくできる

   A規約の設定・変更・廃止(第31条1項)、(4分の3=75%以上)

   B建物の大規模滅失の場合の復旧(第61条5項)、(4分の3=75%以上)

   C建物建替(第62条1項)、(5分の4=80%以上)

   D団地規約の設定(第68条1項)、(4分の3=75%以上)

   E団地内の2以上の特定の区分所有建物の建替について一括して建替承認決議に付す旨の決議(第69条7項)(5分の4=80%以上)

ただし、集会では、区分所有者全員の同意があれば、招集手続きの省略ができる。(第36条)
  これは、建替えの決議の集会でも適用される。

<参照>区分所有法第36条 (招集手続の省略);
第三十六条  集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。

★議案の要領
  新たに建築する建物の計画概要として、次の事項の要点と主な内容を示します。

  A.建替え決議で定める4つの事項を要約したもの(内容は、2項参照)

  1.新たに建築する建物(以下この項において再建建物」という。)の設計の概要
  2.建物の取り壊しおよび再建建物の建築に要する費用の概算額
  3.上記2の費用の分担に関する事項
  4.再建建物の区分所有権の帰属に関する事項
    

◎さらに、建替えでは、下の4項目も記載し通知が必要。(通知の狙いは、「建替え」とこのまま、維持・回復する方法との比較検討材料を、区分所有者に提供すること。)

   ★1号:建替えを必要とする理由

      ◎当然に、なぜ建替えが必要かその説明。出来るだけ具体的に問題点を指摘し賛否の検討が可能な程度に、内容を明らかにしたもの。
      例:@老朽化により、補修や取替え等では、相当額の費用がかかる。
        A各専有部分の床面積が少なくて、住戸として狭すぎる。
        Bエレベーターが設置されていない など。    

   ★2号:建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳

     2号は、費用対効果の判断材料の提供ということで旧法の考え方を引きずったものですが、建替えか否かを判断するときの重要な事項であることは改正前と同じです。
     ただし、この点は旧法でも恣意的に作成することが可能な不明確事項として問題のある項目ですから、その判断には注意が必要です。
     1号で規定する「建替えを必要とする理由」となった老朽化や毀損の場合の、当面かかる補修費および通常の管理費と狭く考えるのが妥当ではないでしょうか。
     以後の補修関係の情報は3号の長期修繕計画にて提供されます。
     老朽化した部位を具体的に、壁や配管、電気の容量、エレベーターの速度・台数 などで示すといいでしょう。

   ★3号:建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容

     3号は長期修繕計画の内容であり、長期修繕計画は何時、何の工事をいくらで実施することを予定するかの一覧表です。
     長期修繕計画や次の4号の修繕積立金は国土交通省の指導もあって現行の管理組合ではおなじみの制度になりつつありますが、平成14年の区分所有法改正ではじめて区分所有法上登場した言葉です。
    近時多くの管理組合が長期修繕計画を作成することになりましたが、長期修繕計画がない組合はこのために特に作成することまでは要求されず、なければ出す必要はないとされています。
    この規定は、2号の当面の必要工事とこの3号の大規模工事計画とをつきあわせれば、近々の予定工費が予想できますから、それと建替え費用との比較を行ってもらおうというものです。

   ★4号:建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

    4号の修繕積立金は、3号の長期修繕計画を根拠に大規模修繕費を予め積み立てる工事準備金で、これも近年多くの管理組合で採用されています。
    建替えするとなれば既存建物の修繕は不要となりますから、この修繕積立金を建替え費用の一部に充当することが考えられますからそのための規定といえます。
   ◎もっとも、管理組合の清算時には管理費や専用使用料等の繰越金・保険料の精算金等積立金以外の余剰金もありえますから、本来は実務上もそうやるであろう管理組合の仮清算による区分所有者への返還金とするほうが良かったかもしれません。
    ただし、この修繕積立金は使途の定まった準備金で建替えに反対している区分所有者も含めた全区分所有者の総有に属しますから(組合法人でも実体は同様)、その使途以外の使用である建替えに使用するには建替え反対者も含めた全区分所有者の合意が必要です。

    従って、実際には次第63条の「売渡請求」前に修繕積立金を精算する場合は反対者には返金し、賛成者分だけ建替え費用に回すことになり、売渡請求後(全員の合意が得られる状態)の精算の場合は全員の合意を得てその全額を建替え費用に充当することになるでしょう。
後者の場合には積立金を含めた管理組合余剰金の清算分が売渡代金に反映されて個別に清算されることになります。

★建替えか修繕かの判断基準

 建替えか、このまま修繕を続けていくのかの判断にあたっては、現在のマンションの老朽化と区分所有者の不満やニーズを掴み、それらを費用と比較して判断します。

  ◎老朽化の判定基準

    @構造上の安全性

    A防火・避難の安全性

    B躯体及び断熱仕様に規定される居住性

    C設備の水準

    Dエレベーターの設置状況

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第六十二条

6項  第四項の集会を招集した者は、当該集会の会日より少なくとも一月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について区分所有者に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない。

過去出題 マンション管理士 H20年、
管理業務主任者 H15年、

説明会の開催...建替えの集会の少なくとも1ヶ月前に説明会も開くこと。書面を交付しただけでは、説明会ではない。

★「説明会」は、「集会」ではない...「説明会」は区分所有法で定める「集会」ではありませんから、成立の要件や決議の要件はありません。ただ、説明をする事項(6項)と開催方法(7項)とが決められています。

★建替決議の集会を招集した人(管理者等)は、建替えの集会日よりも、最低1ヶ月前までに、

    A.決議事項

      一  新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要

      二  建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額

      三  前号に規定する費用の分担に関する事項

      四  再建建物の区分所有権の帰属に関する事項

    B.建替の通知事項

      一  建替えを必要とする理由

      二  建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに 要する費用の額及びその内訳

      三  建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容

      四  建物につき修繕積立金として積み立てられている金額

   のA.Bについて「説明会」を開かなければならない。

★建替えの決議事項を充分に検討させる期間が1ヶ月以上必要とみている。

*この説明会の通知は、普通の集会と同じように、1週間前までに出せばいいが、規約でも短縮はできない。伸ばすことはできる。(第62条7項)

★建替えの説明会

 6項では説明会の開催を要求して建替え事業計画の各区分所有者への周知を図っています。

この説明会は、建替えを目的とした集会(総会)を招集した者(管理者等)が開催し、その内容は集会議案、即ち2項各号の「要領」と、5項各項の招集時の「通知事項」です。



 そして、この説明会は建替え集会の会日より少なくとも一月前までに行うものとされ、この期間は伸長(プラス)はできても短縮(マイナス)は許されていません。(7項参照)
プラスだけが許されているのは、建替えの内容を理解して賛否を検討するのに必要な熟慮期間を少なくとも一か月は保障しようという趣旨です。

 また、建替え決議の前に、この説明会が開催されないと、建替えの決議も無効になりますので注意してください。

★必要ならば、建替えの説明会は何度でも開くこと
 説明会の回数は規定されていませんから、1回の説明会で全部を説明しても、また数回に分けて一部ずつ説明してもかまいませんが、上記の趣旨から全部の説明が終わってから最低1ヵ月以上後に建替え集会が開催されるように説明会を行う必要があります。
ただし、補習の意味で再度説明する場合はこの規定による説明会ではないので、建替え集会直前でもかまいません。

◎なお、説明会も開催の場所や時間その内容を区分所有者に知らせて参加の機会を保障する必要がありますので、招集手続きが必要でありそのため第35条1項から4項までの集会招集手続きがこの説明会の招集の場合に準用されています(7項)。

この場合、説明会が数回に亘る場合は予めその全部又は一部につき事前にこの招集手続きを踏んでない場合は、そのつどこの招集手続きを踏む必要があります。

★説明会での重要項目
  建替え後の建物の建設費用の負担とどこへ入居できるかが最大の討論項目になります。
  利便性が高いマンションでは、建替えても分譲の可能性があったり、容積率が以前より高くなる時には、余った室を販売したりして、建設費用もうまく回収できます。
  しかし、高齢者が多いマンションや利便性の悪いマンションでは、高齢者は新規ローンも組めないため費用負担も難しく、また建替えをしなくても、余生分は修繕でまかなえるなどの主張があり、合意をえることは至難の業です。

  再建建物の入居場所の決定は、各区分所有者の思惑が入り乱れて纏まりません。現在の広さ、階数を原則にした戻り入居から説明をして、余裕があれば、抽選などがよさそうです。

★ここが、マンション管理士の出番!
 今後、増加する建替え対象のマンションにこそ、専門のコンサルタントが必要です。
 当初から、建設会社やディベロッパーが入ると利益中心となりますので、居住者の立場に立った専門の知識を持ったマンション管理士が登場します。

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第六十二条

7項  第三十五条第一項から第四項まで及び第三十六条の規定は、前項の説明会の開催について準用する。この場合において、第三十五条第一項ただし書中「伸縮する」とあるのは、「伸長する」と読み替えるものとする。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 H15年、

★説明会における通知、招集の規定(第35条、第36条)の準用

<参照>区分所有法第35条1項;(招集の通知)
 集会の招集の通知は、会日より少なくとも一週間前に、会議の目的たる事項を示して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる

<参照>区分所有法第36条;(招集手続の省略)
第三十六条  集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の手続を経ないで開くことができる。

★説明会の開催も、第35条、第36条に規定されている集会の「招集の通知」にそって通知がなされるが、建替えの説明会である重要性から、会日よりすくなくとも1週間前の発信を「伸ばす」ことにしてある。

★説明会の開催は、建替え集会に先立ち1ヶ月前に開催すること。この通知は最低1週間前に出すこと。開催と通知の違いを明確にしておくこと。

★ただし、区分所有者全員の同意があれば、招集の手続きは省略できる。(第36条参照)。手続きが省略できるだけで、説明会の開催は必要。

★建替え集会開催までの流れをまとめると、

 

★なお、説明会での、議事録の作成やその保管は要求されていません(第42条の準用がない)が、建替えをめぐるトラブルが多いことを考えると、議事録を作成し、ちゃんと保管しておいてください。

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第六十二条

8項  前条第六項の規定は、建替え決議をした集会の議事録について準用する。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

*建替えでは誰が賛成か反対かを記録すること。

<参照>前条6項=第61条6項:
 前項の決議をした集会の議事録には、その決議についての各区分所有者の賛否をも記載し、又は記録しなければならない。

★建替え決議の議事録には、一般の議事録のほかに(第42条2項)「賛成・反対」が記録されること。賛否は後の、売渡請求で使用する重要な記録となる。

<参考>標準管理規約47条関係 コメントE
建替え決議の賛否は、売渡し請求の相手方になるかならないかに関係することから、賛成者、反対者が明確にわかるよう決議することが必要である。

★建替え議事録への重要性 −必ず賛否を記録すること−

 建替え決議は、あとで出てきます(第63条)反対者に対する「売渡請求の根拠となる重要な議事」ですから、前第61条6項の「大規模復旧の場合」と同様に該当の集会(総会)議事録には各区分所有者ごとの賛否も記載することが要求されます。

 なお、平成14年の改正でIT化により集会議事録としては、従来からの書面による方式の他、電磁的記録も追加されましたから(第42条)、この決議の議事録も当然に電磁的記録であっても問題はありません。

★賛成・反対の採決の記録 −投票用紙に記載して残すこと−
 建替え決議での「賛成・反対」はその重要性から、別途「議決権投票用紙」を作成し、各区分所有者に「署名・捺印」の上提出してもらう方法が確実です。
 挙手での採決は、後日の証拠がなく、望ましくありません。

 この「議決権投票用紙」は議事録の添付書類として保管してください。


{設問-1} マンションの建替え決議に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1 新たに建築する建物(新建物)の主たる建物の使用目的は、建替え前の建物(旧建物)の使用目的と同一でなくてもよいので、住居専用のマンションを店舗又は事務所のみの区分所有建物に建て替えるための決議をすることができる。

答え:正しい。区分所有法第 62 条による。区分所有法の旧規定では、「建物の敷地に新たに主たる使用目的を同一とする建物を建築する」と規定されていたが、改正により新法では、 「集会において、区分所有者及び議決権の各 5 分の4以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下、「建替え決議」という。)をすることができる。 」となった。建物があればよく、元はマンションでも建替え後は店舗だけでもいい。

2 旧建物の敷地の全部とこれに隣接する土地を合わせた土地に新建物を建築するための建替え決議をすることもできるが、旧建物の敷地の一部とこれに隣接する土地を合わせた土地に新建物を建築するための建替え決議をすることもできる。

答え:正しい。選択肢1と同様。区分所有法第 62 条により可能である。

3 建替え決議のための集会招集通知をするときには、その議案の要領のほか、建替えを必要とする理由、建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳、建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容、建物につき修繕積立金として積み立てられている金額をも通知しなければならない。

答え:正しい。 区分所有法第62条第5項:「(前略)第 35 条第1項の通知(建替え決議のための集会招集通知)をするときは、同条第5項に規定する議案の要領のほか、次の事項をも通知しなければならない。
   一 建替えを必要とする理由
   二 建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効用の維持又は回復(建物が通常有すべき効用の確保を含む。)をするのに要する費用の額及びその内訳
   三 建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
   四 建物につき修繕積立金として 積み立てられている金額」とある。

4 建替え決議のための集会招集通知は、当該集会の会日より少なくとも2月前までに発しなければならず、また、当該集会の会日より少なくとも1月前までに区分所有者に対する説明会を開催しなければならないが、これらの期間は規約で伸長又は短縮することができる。

答え:間違い。 区分所有法第 62 条第4項により、設問の前半の記述は正しい。しかし、「規約で伸縮又は短縮することができる」は誤りで、「規約で伸長することができる」が正しい。短縮はできない。

区分所有法第 62 条第 6 項:「第1項に規定する決議事項(建替え決議)を会議の目的とする集会を招集するときは、第 35 条第1項の通知は同項の規定にかかわらず、当該集会の会日より少なくとも2月前に発しなければならない。ただし、この期間は規約で伸長することができる。」
「第4項の集会を招集した者は、当該集会の会日よる少 なくとも1月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について区分所有者に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない。」とある。

区分所有法第 62 条第 7 項:「第 35 条第1項から第4項まで及び第 36 条の規定は、前項の説明会の開催について準用する。この場合において、第 35 条第1項ただし書中「伸縮する」とあるのは「伸長する」と読み替えるものとする。」

正解: 4


{設問-2}甲マンション管理組合では、建替えの時期が近づいてきたので、建替え決議を行う場合の進め方等についてマンション管理士Aに相談したところ、Aから次のような回答があった。これらの回答のうち、標準管理規約によれば、適切でないものはどれか。

1 建替えに関する合意形成に必要となる事項に係る調査費用は、通常の管理に要する費用ですから、管理費から支出しなければなりません。

答え:適切でない。 標準管理規約28条「修繕積立金」1項4号「建物の建替えに係わる合意形成に必要となる事項の調査」により、管理費でなく修繕積立金から取り崩すことになっている

2 建替え決議を目的とする総会の招集通知は、少なくとも会議を開く日の2ヵ月前までに組合員に発しなければなりません。

答え:正しい。 標準管理規約43条1項「総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない」の規定のとおり。

3 少なくとも総会の会議を開く日の1ヵ月前までに、招集の際に通知すべき事項について組合員に対し説明を行うための説明会を開催しなければなりません。

答え:正しい。 標準管理規約43条6項「建替え決議を目的とする総会を招集する場合、少なくとも会議を開く日の1か月前までに、当該招集の際に通知すべき事項について組合員に対し説明を行うための説明会を開催しなければならない」の規定のとおり。

4 建替え決議は、どの組合員が賛成で、どの組合員が反対であるかが明確に分かるようにするため、建替えに賛成か反対か、どちらかに○を付けさせるなどの方法でしなければなりません。

答え:正しい。 標準管理規約コメント第47条関係E「建替え決議の賛否は、売渡し請求の相手方になるかならないかに関係することから、賛成者、反対者が明確にわかるよう決議することが必要である」のとおりで、○付けも可能。

正解:1

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(区分所有権等の売渡し請求等)

第六十三条

1項  建替え決議があつたときは、集会を招集した者は、遅滞なく、建替え決議に賛成しなかつた区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告しなければならない。

過去出題 マンション管理士 H15年、H14年、
管理業務主任者 未記入

書面で催告...建替えの決議がされても、再度、賛成をしなかった人(反対者、欠席者、棄権者)に確認をする。後日のトラブルを回避するために、配達証明付きの内容証明郵便がいい。

★建替えに賛成か、反対かを確定させること

 第63条は全体で建物に関する区分所有権及びその土地に関する敷地利用権の「売渡請求」について定めています。

 前の第62条により、建替え決議が成立すると、マンションを取り壊して建替えに着手することになりますが、そのためには既存の権利関係を整理しなければなりません。
 区分所有者の全員が建替えに参加する場合には、建替え決議で定まった方法により、敷地関係はそのままで既存の建物の区分所有権は建物取り壊しにより消滅し、新築建物の竣工引渡と同時にその区分所有権を新たに取得することになるので区分所有者の権利関係は割合単純です。

 しかし、建替えに反対や不参加の者がいる場合には、反対者の権利をそのままにして、建物を取り壊すと民法上の不法行為(民法 第709条)、刑法上の建造物損壊罪(刑法第260条)となり、建替賛成者の行為が許されないことになります。

<参考>民法第709条(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

<参考>刑法第260条(建造物等損壊及び同致死傷)
第二百六十条  他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 そのため、全員の合意による建替え事業を進める必要があり、それは具体的には、非賛成者をマンションから立ち退かせることになります。
ここでの手続は、もともとあった区分所有者の団体から、少数の非賛成者を排除し、多数の賛成者で構成される別の集団への移行です。
最終的には、賛成者で構成される別個の集団が「建替え」を実行します。

 法改正の時点で、区分所有法第3条で規定される「区分所有者の団体=管理組合」が存続して、建替えまで実行する案が検討されたようですが、複雑になるのでやめたとのことです。

 そこで、建替え反対者の利益を守りつつその権利関係の解消が図られる必要があります。
その手段が本第63条の中心となる非賛成者への「売渡請求権」です。

★催告をする者
  建替えに賛成か反対かの回答を催告するのは、「建替えの決議があった集会」を招集した人です。
管理者となっていないことに注意してください。
 ここは、管理者(理事長)とすると、建替えを実行するのが、区分所有法第3条で定める区分所有者の団体=管理組合となるおそれがあるため、それとは別個の建替えに賛成する集団が建替えを実行すると構成したものです。
 「建替えの決議があった集会」を招集した人が、「遅滞なく」替え決議に賛成しなかつた区分所有者(その承継人を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書面で催告します。(1項)

 ★注意:区分所有法では、買取請求(復旧)と売渡請求(建替え)がある
  復旧の場合(区分所有法第61条7項)には、非賛成者からの「買取請求」が、建替えにおいては賛成者からの「売渡請求」と、請求をする行為者が逆転しているのは、復旧の場合には、まだ建物は存在しているので、権利関係の整理が不要のため区分所有者関係からの離脱は決議反対者の意思に任せていても手続きの進行に問題がなく、一方、建替えの場合には、将来建物が無くなるため権利関係の整理をしなくては手続きが次へ進みませんから反対者の意思に任せて置けないと考えた結果です。

◎建替えで影響を受ける区分所有者以外に対する関係 −建替え決議は、マンションの区分所有者ができるが、そのあとはどうするか−

 なお、建替えにあたって整理すべき権利関係は、建替え当事者の賛成・反対だけではなく、敷地利用権が地上権であるときの敷地の所有者との関係、区分所有者の専有部分の担保権者の補償や賃借人との賃借権をどうするか等、第三者についても、法に従った解決方法が必要となります。

 しかし、これらは民法借地借家法の問題としてとらえ、区分所有者関係に関する区分所有法の担当外の事項として区分所有法には規定がありません
そのため、期間の定められた賃貸借契約が、まだ契約期間内であるにも関わらず、借りている人が追い出しにあうなど問題が発生しています。

 同時に、建替えでは、建替決議のあとの、建替え計画の立案からその実行・完成にいたるまでの過程が大変に重要ですが、これも既存建物の解体と多数人が共同して(管理組合でも既存の区分所有者の立場でもなく、共同建築者または建替え組合の立場で)行う新規建物の建設過程であり、既存建物の区分所有者関係を守備範囲(建物解体で既存の区分所有関係は消滅してしまいます。)とする区分所有法の範囲外事項のため規定がありません。

  そこで、賃借人や担保権などについては「マンションの建替えの円滑化等に関する法律(マンション建替え法)」が設定されこの法が担当することになりました。

       <参照> マンションの建替えの円滑化等に関する法律

◎建替え決議をすると、非賛成者を排除する必要がある。

  排除というと言葉は、出ていく方からみるとは、建替えに反対したために住み慣れたマンションからの「追い出し」の処分を受けることになります。
 その手順は以下のようになります。

★要件1−当事者の確定− 建替参加者と不参加者の区分けをする

  売渡請求を行うためには、まずその当事者がだれかを確定する必要があります。

      A.売渡請求をする者は(売渡請求権行使者)即ち買主は、

         @建替え決議の賛成者 または

         A当初の建替え決議に反対又は棄権したが、あとで建替えには参加することにした者、

     B建替えに参加する全員から買受指定者として指名された者がなります(4項)。

     @とAの場合は既存の区分所有者又はその承継人(特定承継・包括承継)ですが、Bの場合は既存の区分所有者以外の外部の者(大手不動産屋、ディベロッパーなど)の場合もありえます。

  B.売渡請求を受ける者即ち売主は、

    建替え反対者ですが、建替え決議後で賛成に変る可能性もあります。
    また建替えの決議での棄権者(意思表示なく欠席した者も含む。)もいますので、最終的に不参加者を選別することになります。

    ★注:一度、建替え決議に賛成した区分所有者には、あとで不参加への変更は認められていません。

  この区分けの方法として、再度、建替えに賛成しなかった者に確認の届出をさせることにし、

   1.建替え決議のための集会招集者(招集には管理者の場合に限らず区分所有者の少数招集権による場合もある(第34条参照)ので集会招集者とされます。)は、決議に賛成しなかった者(決議反対者と棄権者・欠席者)またはその承継人(包括、特定承継人ともに含む)に対して遅滞なく建替えに参加するのか否かを回答するように文書で通知(催告、ここ建替の通知には第35条の準用はありませんから掲示等では足らず個別に住所地に通知することが必要です。)することとし(1項)、

   2.この通知を受けた決議反対者と棄権者・欠席者は、通知を受けた日から2ヶ月以内(民法第140条により初日不算入)に参加するのか否かを回答する(口頭でも書面でも発信すればいいでしょうが、後日のトラブルを防ぐためには、書面がいい)ものとしています(2項)。

   建替えに参加の回答をした者は参加で確定し、建替えに不参加で回答した者および期限内に回答しなかった者は不参加で確定します。(3項)
  多数者が関係する手続きにおいては、態度のはっきりしない者は不参加として手続きを進める方が混乱がありません。
   これで売渡請求を受ける者が確定します。

   なお、売渡請求を受ける者は原則として建替え不参加の区分所有者およびその承継人(特定承継・包括承継)ですが、常に敷地利用権の分離処分が禁止されているわけではありませんから4項後段で不参加者の承継人として敷地利用権のみの承継人も含まれるものとされています。

 なお、各区分所有者の賛否は、建替え決議をした集会の議事録に記載・記録されています。(第62条8項 ->準用 第61条6項)

★要件2−売渡請求権の行使・売買代金の確定

  以上のように、建替え賛成者・反対者が確定すると、買主(建替え賛成者)から売主(建替え不参加者)に対して、参加の有無回答期限日から2ヶ月以内に建物の区分所有権およびその敷地利用権を時価で売り渡すよう請求することができます。
 なお、この2ヶ月は、
除斥期間となります。
 除斥期間とは、権利の有効期間・消滅までの期間ですが、請求権の場合は時効期間というのに対し形成権の場合は除斥期間といわれます。
 時効と除斥では法的性質が異なり、除斥期間には中断や援用の余地がありません。
 除斥期間をすぎると権利は当然に消滅し権利行使はできませんから、任意契約での売買を行うか、もう一度建替え決議をやり直す必要があります。

 この売渡請求はいわゆる形成権(権利関係を一方的に形成することができる権利)で、この請求の通知の到達と同時に両者の間で時価による売買契約が成立します。
  その効果として、区分所有権及び敷地利用権が請求権行使者に移り、相手方は、専有部分の引渡しとその登記義務を負います。そして、請求権行使者は時価で売買代金を支払うことになります。この両者の義務は、同時履行の関係(
民法第533条)となりますが、裁判所が建物の明渡について期限を延ばした時(5項参照)には、代金支払いの方だけが、先に履行義務を負います。

<参照>民法第533条(同時履行の抗弁)
第五百三十三条  双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

 形成権の行使ですから、通常の契約と異なり相手の承諾は不要です。

 区分所有法でも、形成権は、第10条の区分所有権売渡請求や第61条7項の復旧での買取請求など、適用があります。

◎時価(代金)は?

 問題は、区分所有権と敷地利用権の時価がいくらであるかです。

 売買での金額は、まず、売買の両当事者が協議して決定する金額です。そして、協議が調わないときは裁判所による通常訴訟の判決(金○円と引き換えに区分建物およびその敷地利用権の移転登記・引渡をせよ、との引き換え給付判決と代金が金○円であることを確認する、との確認判決の組み合わせが通常。)で決定されます。

 そして、裁判においてはこの時価は、不動産鑑定を下に決定されますが、建替え決議が存在することを前提とする価格すなわち

  「再築後の土地建物の価格から再築に要する費用を控除したもの」を指すものとされ、これは土地価格から既存建物解体の費用を控除したものに等しいとされています。

 (H13.10.31 神戸地方裁判所伊丹支部 平成9年(ワ)第375号 総会決議無効確認請求事件参照)。

◎時価=建物の価格+敷地利用権の価格 : 現在2つの方法がある。

         A.(再建建物が建築された状態における建物及び敷地利用権の価格 − 再建にかかる経費)  または、

        B.(更地価格 − 現在の建物の取り壊し費用)

  ★AとBの計算では、不動産鑑定評価でも差が生じている。特に災害にあったマンションでは問題となっています。今後の判例で決まっていくと思われます。

★時価の評価時点
  建替えに不参加の人が確定する時期がバラバラですから、売渡請求権行使にあたり時期のずれが発生し、時価も変動する可能性があります。
 通常、売渡請求時価の評価をするのは、建替え決議が成立した時点と考え統一した時価とするのが、妥当です。

  第63条の明文規定にもかかわらず、建替え決議前に有った既存の区分建物自体の評価額は建替え決議により取壊し対象として評価額 0円 となるということですが、団体の決議に反対して団体から離脱する場合にこの決議による不利益を受忍させることはあまり妥当なことではなく、決議がなかったら有したであろう価格での売渡を認めるのが不参加者に対する正当な補償というべきでしょう(憲法第29条3項、商法第245条の2)。

 {参考}東京の同潤会江戸川アパートの建替え事業者が、建替え不参加の区分所有者らを売り渡し請求をめぐって平成14年3月提訴し、被告側は提示された金額が不当に安いと争った事件。

一審の東京地裁は平成16年2月19日、
 区分所有法第63条の「時価」とは、建替え決議を前提とする価額であるから、近傍類似地域の新築分譲マンションの販売事例などから再建建物の販売価格を算出すべきものとした。また更地価格も同条件で再建建物に類似する分譲マンションの敷地にする目的で開発業者に取得された事例を対象とする、取引事例比較法で算出するのが相当であるとした。平成16年7月、東京高裁もこの判断を支持した。

 最高裁の平成16年11月25日の決定は、不参加者側の上告を棄却し、上告受理申立てについても不受理の決定が行なわれ、これにより建替え参加者の勝訴が確定した。
 本訴訟では、売渡請求における「時価」の判断に関して、裁判所が明確な算定方法を確立するとともに、第1審の訴訟提起から2年で最高裁決定がなされるという、スピード審理が行なわれた。


 ★建替えの集会を招集した者(管理者、理事または区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上:第34条参照)は、遅滞無く、建替えに賛成しなかった区分所有者(集会で反対投票をした者、そして、決議に加わらなかったもの −棄権者・欠席者−を含めて)に、再度参加の意思を、書面で催告する。

 ★この催告を受けた区分所有者は、2ヶ月以内に回答がないと、建替え不参加となる。(2項、3項) 

     もともと賛成していないし、棄権者や欠席者は態度を表明していないので、当然不参加にしていい。

★催告・売渡請求を受ける区分所有者の専有部分が共有関係にあるとき
 区分所有法では、専有部分が共有関係の場合には、決められた議決権行使者(決められた者がないときは、共有者の一人)に催告をすれば足りる(区分所有法第35条2項)との類推適用もあるが、売渡請求権は、その行使により売買契約を強制的に成立させるもの(形成権)であるので、売買契約が成立すれば、他の共有者が受ける影響の大きさを考えて、一人だけでなく共有者全員に対して、催告を行うことが望ましい。

 ◎遠隔地にいる共有者に対する到達時期が問題になる
  上記により、専有部分の全共有者に催告をすると、近隣に住む人と遠隔地に住む人では催告の到達時期が「ずれる」。この場合民法第97条の規定により、催告が一番遅い人に到達した時をもって共有者全員に対する「意思表示の効果の発生」なる。
 これが、次の2項「催告を受けた日から2ヶ月」の起算日となる。

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第六十三条

2項  前項に規定する区分所有者は、同項の規定による催告を受けた日から二月以内に回答しなければならない。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

★最終的に、建替えに対して「賛成」か「反対」かを決める必要がありますので、

  @反対の人、
  A集会に参加しなかった人(欠席者)、
  B棄権者 
  も含めて再度、賛成か反対かの確認をします。

★ただし、いつまでも回答を待つわけには、いきませんので、催告を受けたら、2ヶ月以内に回答をします。

★催告を受けて、2ヶ月が過ぎても回答がない、反対者・棄権者・欠席者は、放置できませんから、「建替え不参加者」とみなして、建替えをすすめます。 (3項) 

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第六十三条

3項  前項の期間内に回答しなかつた第一項に規定する区分所有者は、建替えに参加しない旨を回答したものとみなす。

過去出題 マンション管理士 H15年、
管理業務主任者 未記入

★催告を受けて、2ヶ月が過ぎても回答がない、反対者・棄権者・欠席者らを、放置したままでは建替えはできませんから、「建替え不参加者」とみなして、建替えをすすめます。 

  これにより、建替えの賛成者、不参加者が確定します。

みなす...擬制の必要性
 何度も説明にありますように、区分所有法の共有関係は多数決の原理により、進めるようにしています。

 これが、民法の共有における全員の合意(賛成)と大きく異なっている点です。

 しかし、不動産(土地・建物)に関する規定は、多くが民法に基づくため、共有者の合意の有無が争点になる場合があります。
そこで、区分所有法では、多数決を持って 全員の合意(賛成)とする方法を採用し法的な争いを防ぐようにしています。(第64条参照)。これが、「みなす」とする規定が必要な理由です。

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第六十三条

4項  第二項の期間が経過したときは、建替え決議に賛成した各区分所有者若しくは建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継人を含む。)又はこれらの者の全員の合意により区分所有権及び敷地利用権を買い受けることができる者として指定された者(以下「買受指定者」という。)は、同項の期間の満了の日から二月以内に、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者(その承継人を含む。)に対し、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。建替え決議があつた後にこの区分所有者から敷地利用権のみを取得した者(その承継人を含む。)の敷地利用権についても、同様とする。

過去出題 マンション管理士 H16年、H15年、H14年、
管理業務主任者 未記入

★建替えに参加・不参加が確定(催告から2ヶ月後)したら、さらに2ヶ月以内に、建替え参加者から、不参加者(反対者や催告で回答をしなった区分所有者)に対して、@区分所有権および A敷地利用権を時価で売れといえる。

     (*注)復旧決議では、決議に賛成しなかった持ち主が、賛成した持主に「買い取れ」というが、建替えでは、逆に賛成した持主が不参加者に「売れ」という。

 ★売り渡しの請求がいくと、不賛成者の意思に関係なく当事者(賛成者と不賛成者)間に売買契約が成立して不賛成者は、直ちに区分所有権(専有部分=室の明渡し)と敷地利用権を売ることになる。(形成権

   売渡を請求した者は、買主として代金支払義務を負い、売渡請求を受けた者は、売主として専有部分の引渡し及び区分所有権等の移転登記手続きをする義務を負う。
  これらの義務は同時履行の関係に立つことが原則である。(参考:民法第533条)。

   例外は、建物を明渡すと生活上著しい困難が生じ、かつ、建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないときは、1年を超えない範囲で裁判所に請求ができる。(区分所有法第63条5項)

    (*注):この建替決議では「買受(かいうけ)指定者」であり、復旧決議では「買取(かいとり)指定者」であることに注意。

     <参照> 第10条:敷地利用権がなくなったマンションの持主も、売り渡し請求を受ける。拒めない。(形成権という、恐ろしい解釈上のもの)

    *注:不参加が確定した2ヶ月以内に、売渡請求権を行使しないと、不参加者が区分所有者として残ることになり、その後は、建替決議の効力は当然不参加者には及ばないので、不参加者とは別の合意を取り付けないと、建替計画は挫折する。

★建物の専有部分が共有関係にあるときの2ヶ月の発生時期はいつになるか
  売渡請求の意思表示は、その到達によって区分所有権と敷地利用権の移転効果が生じるもので、共有者の一部がまだ売渡請求を受けていないのに、その共有持分が移転するのは妥当ではありません。
 したがって、売渡請求は、全共有者に宛てて出し、共有者間で一番遅く到達した日から、その効果を生じると考えます。


{設問-1}買受指定者は、建替えに参加する区分所有者がその後に建替えに協力しない場合でも、その者に対し、売渡請求権を行使することは認められるか。

答え:買受指定者は建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対しては売渡請求が出来る。しかし、一度建替えに参加することを表明した区分所有者が後で建替に協力しなくても売渡請求権は行使できない。認められない。


{設問-2}甲マンションの建替えに関し次の経緯がある場合、区分所有者中のA、B、C及びDのうち、甲マンション管理組合の管理者Eが区分所有権の売渡しを請求することができる者は、区分所有法の規定によれば、何人か。

Eが招集した建替え決議を目的とする集会で、Aは建替えに賛成する投票をし、Bは建替えに反対する投票をし、C及びDは建替えに難色を示す発言をした上で棄権をしたが、Eを含む多数の区分所有者の賛成で建替え決議が成立した。その後、Eが、建替えに賛成するか否かを回答すべきことをB、C及びDに対し催告したところ、Dは、建替えに参加しない旨を回答したが、B及びCからは回答がなかった。Aは、建替え決議が成立してから、1週間後に、家族が反対したため建替えに参加することができなくなったとEに連絡してきた。

1 1人
2 2人
3 3人
4 4人


答え: 区分所有法第63条によれば売渡の請求の相手方は建替に参加(賛成)しなかった者であり、Aは建替えに賛成する投票をしたから、後で家族の反対で不参加を連絡しても、対象に入らない。Aは対象外。
否賛成者のうち、Dは不参加を表明したから、対象になる。
催告で回答をしない場合は、不参加とみなされる(区分所有法第63条3項)ので、B,Cも対象。よって、B、C及びDの3人が該当

正解: 3 (3人)

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第六十三条

5項  前項の規定による請求があつた場合において、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者が建物の明渡しによりその生活上著しい困難を生ずるおそれがあり、かつ、建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないものと認めるべき顕著な事由があるときは、裁判所は、その者の請求により、代金の支払又は提供の日から一年を超えない範囲内において、建物の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。

過去出題 マンション管理士 H16年、
管理業務主任者 未記入

引越しを猶予してもらえる...裁判所に請求して、1年を超えない範囲まで可能。

★金をもらっても、急に室からでて行くことで

      @生活上著しい困難が生じ、 かつ

      A建替決議の遂行に甚だしい影響がない ときだけ

     裁判所(区分所有者ではない)が、1年を超えない範囲で、室の明け渡しを待つことを決める。

★建物明渡しの猶予
 建替えへの参加・不参加で、売買当事者が確定し売買価格が決定されると残るは建物の明渡しとなります。
建物(室)の明渡しも価格決定の場合と同様に第一次的には当事者の協議(裁判外の合意や裁判上の和解等)により定まりますが、協議が調わない場合には裁判で決定されます。

◎ところが、裁判は当事者間の権利義務・法律関係を確認・確定することが使命の紛争解決手段であって、いわゆる白黒をつける硬直的な解決となり、和解の場合と異なって権利義務・法律関係のそとにある事情を盛り込んだ極め細やかな柔軟な解決を図ることができません。

 売渡請求の当事者の法律関係は履行期限の定めのない売買契約の成立ですから、建物の明渡しを請求した時点で履行期が到来するため、売主たる不参加者は代金の支払いとの同時履行の抗弁権(民法 第533条、相手方の債務の履行があるまで自己の債務の履行を拒む権利)の保護しかなく、それを確認する金○円と引き換えに区分建物およびその敷地利用権の移転登記・引渡をせよ、との引き換え給付判決では金○円を提供して明渡しを請求されるとこれに対抗すべき手段がありません。

 通常はこれでかまわないのですが、建替え不参加者は、建替え費用の負担ができず他に移転先がない境遇である等汲むべき事情がある場合もあり、また建替え工事着工までには相当の期間がかかることも考え合わせると、直ちにその建物を明渡させるというのは著しく社会正義に反する結果となりかねません。

◎そこで、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者が建物の明渡しにより
   @「その生活上著しい困難を生ずるおそれ」があり、
   A
「かつ、建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないもの」と認めるべき顕著な事由があるとき は、
  裁判所は、その者の請求により、代金の支払又は提供の日のいずれか早い日から一年を超えない範囲内において、建物の明渡しにつき相当の期限を許与することができるとして、硬直的な判決に柔軟性を持たせて裁判所の後見的判断による妥当な紛争処理を図れるよう手当てが講じられています。

 これにより、先に代金を受け取って、猶予期間内に代わりの住居を探せる事になりますが、高齢者や病人などにとって、引っ越しは面倒です。

★代金の支払い又は提供と何故分ける?
 ここは、代金の受領が拒否されることもあり得るため、提供といれたとのことです。

★抵当権がついている場合
  売渡請求権の目的となる区分所有権に抵当権などの担保物権が設定されているときは、抵当権抹消の手続きが完了するまでは、売買代金の支払は拒絶できます。

★賃貸借契約で専有部分に、借家人がいる場合
  建替え決議は、賃貸借契約の解除のための「正当事由」
にはなりません。区分所有者(貸主)と賃借人の折衝により、立ち退きが計られることになります。


{設問}買受指定者は、建替えに参加しない区分所有者に対する売渡請求権を行使した場合、区分所有権等の代金を直ちに支払うことができない特段の事由があるときは、裁判所からその支払いにつき相当の期限の許与を受けることができるか。

答え:区分所有法第63条5項により、建替え不参加者の明け渡しの猶予は認められるが、買受指定者の支払いの猶予の規定はない。できない。

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第六十三条

6項  建替え決議の日から二年以内に建物の取壊しの工事に着手しない場合には、第四項の規定により区分所有権又は敷地利用権を売り渡した者は、この期間の満了の日から六月以内に、買主が支払った代金に相当する金銭をその区分所有権又は敷地利用権を現在有する者に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができる。ただし、建物の取壊しの工事に着手しなかつたことにつき正当な理由があるときは、この限りでない。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

★建替えの決議をしても、正当な理由がなくて2年間も工事に着手しないときは、売った元の持主は2年後の日から、6ヶ月以内に、売った代金を現在の室の持主(売った当時の人でないこともある)に返して、買戻しが出来る。しかし、正当な理由があって、2年間取り壊し工事に着工できないときは、元の持主は買い戻しの請求できない。

★また、取り壊し工事を邪魔する理由が無いのに、6ヶ月間、工事に着工しないときにも、売った元の持主はそれを知った日から、6ヶ月以内に、売った代金を現在の室の持主(売った当時の人でないこともある)に返して、買戻しが出来る。(第63条7項)

 ★これも、現在の所有者の意思に関係なく、元の持主から請求を受けたときに売買契約が成立し、現在の所有者は、建物(室)を出て行かなければならない。(形成権)

★元の持主の買戻しができる 

 建替えでは、上に述べたように、建替えの不参加者の保護も含めて建替え実施のために既存の権利関係の調整が図られますが、建替え決議もあくまで建替えしようとする意思の表明であって、建替え決議をしてもすぐ、マンションを壊してしまうというものではありませんから、何らかの事情で建替え計画が頓挫・中止になることがありえます。

 このような場合に建替え実施を前提になされた、建替賛成者による強制的な売渡請求が、その前提がなくなってまでも存続させることは妥当とはいえず、元の権利関係に戻す、原状回復が計られる必要があります。

 ただし、その方法として計画の中止が売買契約を当然に失効させて一律に全てを以前の状態に戻すことは、区分建物とその敷地利用権を売り渡して、他の場所に転出した不参加者も新たな場所で新しい生活を営んでいますからあまり妥当とはいえません。

 そこで、原状に回復するかどうかは、転出者(建替不参加者)の意思に任せて、回復させる意思のある場合には、受け取った代金を提供して区分建物とその敷地利用権を買い戻すことを認めています。

 なお、建替え計画が中断や延期されていることは外部からではその実情を知ることは困難ですから、建替え決議の日から2年以内に建物の取り壊しに着手しない場合に計画の中断・中止を擬制して、この買戻し権の行使が認められます。

 また、この買戻し権を何時までも存続させておくことは当事者間の権利関係を不安定にしますから、計画の中断・中止とみなされた日(建替え決議の日から2年後の日)から6ヶ月でこの買戻し権は消滅するものとされます。

★正当な理由とは
 この買戻し権行使の時点で、建替え参加者は、建物を取り壊さないのは、建替え計画が中断や中止されているのではなく、他の不参加者や賃借人の明渡し期限前である場合、また売渡請求を受けた者が提訴し裁判がまだ係争中である、近隣との交渉が長引いている、予測できない経済状況の変化で予定していた資材調達が困難になった等で解体工事が延びているなどの正当な理由の存在を証明して買い戻し請求権の行使を拒むことができます(6項但書)。

 この場合は、この正当な理由の存続中は買い戻し請求はできなくなりますが、この理由が消滅した時はその時から2年間または消滅したことを知った時から6ヶ月間のいずれか短い期間内に買戻し請求ができます(7項)。

★建替え不参加者による買い戻し権の行使
 買戻し権は、売渡請求権と同様形成権であり、その行使と同時に売買契約が成立します。

 その代金は買主が支払った代金と同額であり、利息や登記費用その他の付帯費用をつける必要はありません。

◎ただし、この元の持主の買戻し請求権は4項の建替賛成者からの売渡請求権と異なり代金を提供して(代金を差し出して)行使しなければ行使の効果がありません。

 これは売渡請求の場合と異なり売買代金額がすでに決定していることと、請求を受ける者の保護のためで手附による解除(民法第557条)や買戻し(民法第579条)と同趣旨です。

◎もっとも、代金の支払いと売買物件の登記引渡は同時履行(民法第533条)の関係にありますから、売買物件の登記引渡を受けるまでは代金の支払いは不要で、提供とは、売買物件の登記引渡を受けるのと同時に代金を即座に支払えるように準備されていることを相手方に知らせて、その履行を促すことといえます。

 ただし、提供の有無は後日証明することが困難ですから相手方が受取り拒絶等その他により買戻しを了承しない場合は、代金を弁済供託(民法第494条)して、提供の事実の証拠を残さないと買い戻し請求権の除斥期間を途過したとみなされ結局買戻しが認められない惧れがあります。

★買戻しの当事者

 売買当事者としては、買主は買い戻し請求権を行使した不参加者(元の持主)であることは明らかですが、売主は対象の区分建物およびその敷地利用権を現に有する者であって、必ずしも従前の買主(売渡請求をした者)とはされていません。

 このことは区分建物等を買い取られた不参加者の保護として必要なことではありますが、買戻しを受ける当該物件の転得者(現に有する者)の保護には欠けることもありえます(自己の売主との間で清算されますが。民法第561条)。
何らの規定がない以上買戻し請求権は登記なしにこの転得者に対抗できますから、買戻しのありうる地位であることを登記上明らかにする手立てが転得者に警告を与えるために必要と思われます。

   *注:この買戻請求権が行使されると、建替え不参加者が区分所有者として、そのマンションに復帰するので、所定期間内に売渡請求権を行使しなかった場合と同じように、建替えは挫折する。それからの、解決策としては、買い戻した区分所有者を建替えの賛成者として「合意」させることになります。(現実には、建替え反対者であったわけで、その人が賛成に回ることは、難しいでしょうが。)

★取壊しがあると、その後2年以上の間に新しい建物が建築されなくても、もう買い戻しの請求はできない
 6項は、取壊し工事が建替え決議の日から2年以内に未着工の場合だけに、元の区分所有者からの買い戻しができることを認めていますから、2年以内に取壊しがされて、その後、新しい建物が建築されない場合であっても、元の区分所有者からは、買い戻しの請求はできません。

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第六十三条

7項  前項本文の規定は、同項ただし書に規定する場合において、建物の取壊しの工事の着手を妨げる理由がなくなった日から六月以内にその着手をしないときに準用する。この場合において、同項本文中「この期間の満了の日から六月以内に」とあるのは、「建物の取壊しの工事の着手を妨げる理由がなくなったことを知った日から六月又はその理由がなくなった日から二年のいずれか早い時期までに」と読み替えるものとする。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

★追い出しを受けた人(建替え反対者)も戻れる

 建替の決議をしても、正当な理由がなくて2年間も工事に着手しないときは、売った元の持主は2年後の日から、6ヶ月以内に、売った代金を現在の室の持主(売った当時の人でないこともある)に返して、買戻しが出来る。(第63条6項より)

★取り壊し工事を邪魔する理由が無いのに、6ヶ月間、工事に着工しないときにも、売った元の持主はそれを知った日から、6ヶ月以内に、売った代金を現在の室の持主(売った当時の人でないこともある)に返して、買戻しが出来る。

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(建替えに関する合意)

第六十四条

 建替え決議に賛成した各区分所有者、建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者及び区分所有権又は敷地利用権を買い受けた各買受指定者(これらの者の承継人を含む。)は、建替え決議の内容により建替えを行う旨の合意をしたものとみなす。

過去出題 マンション管理士 H14年、
管理業務主任者 未記入

合意をしたものとみなす...実際に合意してなくても、賛成した区分所有者と、後から建替えに参加者した区分所有者、建替えの決議後買った人、承継人も皆、建替えの合意をしたことにして、権利を複雑にさせない。
 これで全員が建替えの義務を負うことになり、建替えが進んでいく。

   (*注):ここには、室を借りている賃借人(占有者)や抵当を設定している人は含まれていない。

       これらの人の権利(賃貸借契約、抵当権など)は、持主(区分所有者)が消滅させるか、取り壊しの承諾をとる必要がでてくる。

       また、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」の「権利変換手続き」を利用して、一気にできる。

マンションの建替えの円滑化等に関する法律」の概要はこちらを参照。

★建替えに関する合意の擬制の必要性

 第62条での建替え決議は、一応区分所有者の団体=管理組合の集会決議ですから適法に開催され、適法な決議は本来決議に対する賛否や出席の有無を問わず全区分所有者に効力が及ぶはずですが(第46条)、第63条に定めるとおり反対者の利益擁護のために別途参加の有無を催告で確認するように参加の強制がなく、建替え集会での決議は区分所有者全員に対する拘束力は事実上否定されているに等しく議決要件も特殊なら、その効力も特殊のものとなっています。

 更に、集会決議は管理組合が存続する限りにおいて有効であるに過ぎず、建替えがすすみ、建物の解体と同時に管理組合が消滅する(第55条1項1号の管理組合解散の事由参照)と、区分所有法も適用が無くなりその効力を維持することができません。

 しかし、建替え決議は少なくとも建替え参加者の集団においては強制力を持ち、さらに、建替えが完了するまで有効でなければその目的を達成できませんから、区分所有者の団体=管理組合の集会決議の効力とは別に建替え決議内容が建替え事業参加者の集団では維持される必要があります。
 そこで、建替事業参加者の集団である参加区分所有者、買受指定者及びそれらの承継人の間では建替え決議内容と同一の”合意の成立”がみなすことにより擬制されています。

  具体的には、第62条1項、2項の建替え決議の内容によって、建替え(建物の取壊しと再建)を行うことが、合意の内容です。
 また、従前の区分所有関係も消滅しますが、取壊しになるまで、建替えの合意に反しない限りにおいて、従前の規約は有効であると考えられます。

 この擬制(実際には建替えに関する全員の合意契約は存在していなくても、法律上存在していると扱う)により、法律上、建替え賛成者には、当然に建替えを行う義務が発生します。

  また、この合意により、民法の組合に近い「建替えという共同事業を目的とする契約」があったものとして、民法第667条(組合契約)以下の組合の規定が適用できると考えられます。

★「擬制」が理解できない?
  そう、ここはかなり難しい。
  そこで、改正の時の話に戻ると、区分所有者の団体(管理組合)が、建替え事業までを行うという考え方もあったのですが、それは止めて、建替えに賛成する人達だけの集団が建替え事業をやることにしたので、この「擬制」が設けられたのです。

★建替え事業の進め方

 区分所有法では、「建替え決議」までは定めていますが、その後の建替え事業の実施方法は規定されていません。
そこで、建替え参加者の団体の存在、外部からの融資の問題などが浮上していました。

 それをうけ、平成14年「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」が制定されました。

マンションの建替えの円滑化等に関する法律」の概要はこちらを参照。


{設問} マンションの建替えにおける区分所有権及び敷地利用権(以下この問いにおいて「区分所有権等」という。)の売渡請求権等に関する次の記述のうち、区分所有法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1 買受指定者(区分所有法第63条第4項に規定する買受指定者をいう。以下この問いにおいて同じ。)は、建替えに参加する区分所有者がその後に建替えに協力しない場合でも、その者に対し、売渡請求権を行使することは認められない。

答え:正しい。区分所有法第63条4項によれば、買受指定者は建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対して売渡請求が出来る。一度建替えに参加することを表明した区分所有者が後で建替に協力しなくても売渡請求権は行使できない。

2 買受指定者は、建替えに参加しない区分所有者に対して売渡請求権を行使した場合、その意志表示が相手方に到達した時に、相手方の何らの応答がなくても、直ちに、区分所有権等を取得することができる。

答え:正しい。売渡請求は形成権の行使とされ、相手方の承諾なくして売買契約が成立する。

3 買受指定者は、建替えに参加しない区分所有者に対する売渡請求権を行使した場合、区分所有権等の代金を直ちに支払うことができない特段の事由があるときは、裁判所からその支払いにつき相当の期限の許与を受けることができる。

答え:間違い。区分所有法第63条5項によれば、建物明け渡しの猶予は認められるが代金支払いの猶予の規定はない。

4 建替え決議の日から2年以内に正当な理由がなく建物の取り壊しの工事に着手しない場合、売渡請求権の行使により区分所有権等を売り渡した者は、この期間満了の日から起算して6ヶ月以内に、買主が支払った代金相当額をその区分所有権等を現在有する者に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができる。

答え:正しい。区分所有法第63条6項のとおり。利息などはつけなくていい。

正解: 3


★1棟の建替えが区分所有者及び議決権の各4/5以上の多数でできるのは、憲法第29条:財産権 に違反するのか?

<参照> 憲法第29条
第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。
2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 区分所有法では、民法の共有関係で要求される「全員の合意(同意)」がマンションの実生活上の妨げになるため、基本として多数決の原理を取り入れています。

 多数決が採用されるには、当然それに賛成しない人の権利が相応の手当てを受けなければなりません。

 その、相応の手当てがなさているかどうかの判断材料としては、
  ・目的
  ・必要性
  ・内容
  ・財産権の種類、性質
  ・程度
  などと比較考量することになります。

 そこで、区分所有法第62条1項の「建替え決議」が憲法第29条に違反しているのではという議論があります。

 これについては、後から説明します、区分所有法第70条1項での団地での建物の一括建替え決議は憲法第29条に違反しないとの判例があります。(平成21年4月23日、最高裁)
ここで、区分所有法第62条1項も引用されていますので、参考になります。

 まず、区分所有権(共有持分や敷地利用権を含めて)の行使は、他の区分所有権との調整を不可欠とし、そのために集会決議による制限を認めています。

 そして、建替えについては、
 区分所有建物について,老朽化等によって建替えの必要が生じたような場合に,大多数の区分所有者が建替えの意思を有していても一部の区分所有者が反対すれば建替えができないということになると,良好かつ安全な住環境の確保や敷地の有効活用の支障となるばかりか,一部の区分所有者の区分所有権の行使によって,大多数の区分所有者の区分所有権の合理的な行使が妨げられることになるから,1棟建替えの場合に区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議ができる旨定めた区分所有法62条1項は,区分所有権の上記性質にかんがみて,十分な合理性を有するものというべきである。

 建替えに参加しない区分所有者は,売渡請求権の行使を受けることにより,区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すこととされているのであり(同法第63条4項),その経済的損失については相応の手当がされているというべきである。

 よって、規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すれば,区分所有法第70条は,憲法第29条に違反するものではない


ページ終わり

謝辞:Kzさんの了解により一部転用・編集をしています。

最終更新日:
2010年7月3日:加筆した。
2010年6月30日:第62条全部済み。
2010年6月29日:第62条4項まで加筆済み。
2009年11月6日:建替えを充実させた。
2009年10月29日:少し加筆
2009年6月28日:区分所有法第62条が憲法第23条違反かを追記。

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