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★★       条 文 の 解 説        ★★

建物の区分所有等に関する法律

(この解説においては、略称:区分所有法 と言う)

第1章 建物の区分所有 第7節 義務違反者に対する措置

第五十七条 共同の利益に反する行為の停止等の請求
第五十八条 使用禁止の請求
第五十九条 区分所有権の競売の請求
第六十条 占有者に対する引渡し請求

Z.第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求)から 第60条(占有者に対する引渡し請求)まで

マンション管理士・管理業務主任者を目指す方のために、区分所有法を条文ごとに解説しました。 

試験問題は、過去の問題から出されるのではありません。条文から出題されます。

条文を勉強することが、合格への道です。

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凡例:各条文は、黒字にて表示。解説は条文の下に緑字にて表示
          

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第一章 建物の区分所有
第七節 義務違反者に対する措置
 
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第五十七条
1項 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
   
過去出題 マンション管理士 H21年、H19年、H18年、H17年、H16年、H15年、H13年
管理業務主任者

H15年、

★占有者にも準用される(第4項)

<参照>区分所有法第6条1項:(区分所有者の権利義務等); 

 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない

することができる...裁判でなくても必要な措置がとれる。

他の区分所有者の全員又は管理組合法人...利益に反する行為をした区分所有者を除いた区分所有者又は管理組合法人が請求できる。
                                裁判にするなら、法人格を有していない管理組合では、便宜上、管理者または集会で指定された区分所有者が他の区分所有者全員のために、訴訟提起ができる。(3項

★侵害行為に対する請求

 第57条は義務違反者に対する手段として、このあとでてきます第58条(使用禁止)、第59条(区分所有権の競売)、第60条(占有者に対する引渡し)に規定される内の第一段である「差し止め請求」に関する規定です。

 専有部分は区分所有者の所有物で、共用部分は区分所有者の共有ですから、ある人が他の人の専有部分を侵害したり共用部分を侵害した場合、またはそのおそれのある場合、被害を受けるほかの区分所有者は単独で所有権や人格権に基づき(物権的請求権)その妨害の防止・排除・回復の請求ができることは当然です。

★マンションで共同生活をする以上、一般 戸建での生活とは異なった制約がある − 所有権の大幅な制限 −

 例えば、1戸建では、犬猫を飼うのに、近所の人の承諾は必要がありません。
しかし、マンションでは、1棟の建物内に共同で住み、上下階左右(隣室)で互いに物理的に繋がった一体の関係にありますから、区分所有法では、犬猫を飼うことも、これを「共同の利益に反する行為」に当たるかどうかで判断して制限ができるとしています。恐ろしい制約です。
 マンション生活は、戸建と違って窮屈なものです。

 通常の民法での相隣関係とは異なった、密着した共同生活関係がマンション(区分所有関係)では存在しているために、制限がなされています。
 それが、第57条(差し止め請求)、第58条(使用禁止)、第59条(区分所有権の競売)、第60条(占有者に対する引渡し)に規定されています。


★共同の利益違反行為(共同利益背反行為ともいう)に対する請求

 ところで、この請求権は、一般で認められている個人の所有権や人格権の侵害を要件としますから、単に区分所有法第6条に定める「共同の利益」という抽象的な侵害だけで発動できるかどうかは必ずしも明らかではありません。
 しかし、管理組合や管理規約はもとより区分所有法自体が区分所有者の共同の利益の擁護・調整を目的として結成され、あるいは制定されているものですから、客観的に共同の利益に反する行為に対してなんらの制裁も持たないようではその目的が達成できないことになります。

 そこで、必ずしも個々の所有権や人格権の侵害とはいえない行為でも第6条に反する行為に対して、物権的請求権の行使の場合と同様にその侵害の防止・排除・回復を認めたのがこの規定です。

 法律的に個人の権利を大幅に制約するため、何が、「共同の利益に反する行為」かは、具体的には、各マンションの実情に応じて判断されますが、裁判に持ち込まれて判例も多くでています。

★共同の利益を優先すると特定(一部)の人が納得しない
  共同の利益を優先すると、多くの場合、特定(一部)の人の権利を制限したり、時には権利の剥奪まで起こります。
  これは、一般の生活でも発生しています。マンションでは特に問題となっています。
  裁判での判断基準は、影響を受ける特定の人が受忍できる範囲であるかどうかですが、これは当然に個人差があります。

  判例を参考にしてください。

{判例}
●争点:
  一 マンション内での動物の飼育を一律に禁止する管理規約の規定の効力

 二 マンションの居住者の中に犬を飼育している区分所有者がいる場合に管理規約を改正して動物の飼育を禁止する規定を新設することが建物の区分所有等に関する法律三一条一項にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす」ものとはいえないとされた事例

判決要旨:
   一 マンション内での動物の飼育を管理規約で一律に禁止することは、建物の区分所有等に関する法律の許容するところであり、具体的な被害の発生する場合に限定しないからといって当該規定が当然に無効となるものではない

  二 マンションの居住者の中に犬を飼育している区分所有者がいる場合に管理規約を改正して動物の飼育を禁止する規定を新設することは、その者の犬の飼育があくまでペットとしてのものであって、自閉症の家族の治療上必要であるとか、犬が家族の生活にとって客観的に必要不可欠の存在であるなどの特段の事情がない等判示の事実関係の下では、建物の区分所有等に関する法律三一条一項にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす」ものとはいえない
ペットとしての犬の飼育が専有部分内で行われる場合であっても、飼育を禁止するとする規約は、他の区分所有者に影響を及ぼすおそれのある行為で有効である。(東京高裁:平成6年8月4日)

★共同の利益に反する行為
{例-1}
  ・耐力壁の撤去、
  ・爆発物の持ち込み、
  ・住居専用使用と決めているのに事務所・店舗とする、
  ・廊下や階段室に私物を置く、
  ・勝手に自動車を停める、
  ・外壁やベランダに家庭教師の宣伝用看板を取り付ける、
  ・プライバシーの侵害、
  ・騒音、悪臭の発散
 などが「共同の利益に反する行為」

{例−2}
 管理費等の滞納が原因で、建物の修繕に重大な支障が生ずるような状況に至っている場合は、この滞納は、建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為に当たる。

{例-3}
 占有者が野鳩に餌付けをし飼育をしていて、他の居住者の迷惑になり、使用賃貸借契約の解除、占有者の退去、占有者に対する損害賠償請求が認められた。

{例-4}
 居住地域でのマンションの1階部分がカラオケ店舗で深夜の営業が禁止された。

{例-5}
 住居専用マンションで1室を保育室としたのは規約違反であり、他の区分所有者の共同の利益に反する。(横浜地裁:平成6年9月9日判決)

*他にも、使用禁止の例はあります。
 ● 暴力団の組事務所の使用禁止(東京地裁:平成10年12月8日判決)
 ● 教団施設としての使用禁止は例が多い。(京都地裁:平成10年2月13日、大阪高裁:平成10年12月17日、横浜地裁:平成12年9月6日判決)
 ● 託児所として使用禁止(東京地裁:平成18年3月30日判決)
   この判例では、騒音、エレベーターの使用の利用上の不便、警察官を呼ぶような騒ぎを起こしたことを差止理由としています。


◎しかし、共同の利益に反するとしながらも、使用禁止は権利の濫用に当たるとして認められなかった次の例もあります。

  ● エステティックサロンとしての使用について(東京地裁判:平成17年6月27日判決)
   原告が,住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し,かつ,現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら,他方で,事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ,特に合理的な理由もなく,しかも,多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により,被告に対して,治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は,クリーン・ハンズの原則に反し,権利の濫用といわざるを得ない

(注:クリーンハンズの原則)
 自ら法を尊重するものだけが、法の救済を受けるという原則で、自ら不法に関与した者には裁判所の救済を与えないという意味である。道義的色彩が強い裁判上の救済を求める以上、自分にうしろめたいところがあってはいけない。 


★質問:エアコンの換気装置を設置するために、マンションの外壁に円筒形の開口部を勝手に設置した組合員がいます。原状に戻すことを要求できるでしょうか。

答え:規約等で、外壁の改造は禁止されているのが普通です。しかし、そのような規定がなくても、外壁に開口部を設置することは、壁面の強度を弱め、建物の安全性を低下させる可能性があります。すなわち、「建物の保存に有害な行為」にあたり、組合員の共同の利益に反する行為に該当します。(区分所有法第6条第1項)

 判例では、換気装置を設置するためマンションの外壁に直径15〜20cm円筒型の開口部を設けた場合、その開口部は「建物の保存に有害な行為」にあたり、「共同の利用に反する行為」にあたるものであって被控訴人はその開口をしたことによってその原状回復を負担するに至ったものといわざるをえない」として原状回復を認めています。(東京高裁:昭和53年2月27日判決)

 最近のマンションでは、開口部が建築時から設置されているのが多いですが、初期のマンションは設置されていない場合があります。そのようなマンションでは、管理組合主導で開口部を設置している例もあります。もちろん、壁面の強度に十分配慮するとともに、共用部分の変更ですので、組合員総数および議決権総数の各3/4以上の賛成が必要とされます。

◎なお、区分所有法第6条の義務は各区分所有者や占有者が他の全員、言いかえれば管理組合という「団体」に対して負う義務ですから、この請求する主体は管理組合(管理組合法人)となることは当然です。
 これが、条文にある「他の区分所有者の全員」は、「全員が全員で」という趣旨で、管理組合が法人格を取得しているときには、この権利は、管理組合法人が有して、かつ行使すべき権利とされます。


★「共同の利益がないとき」には、管理組合(管理組合法人)は全員のための訴訟は提起できないのか?
  上下界・隣同士での迷惑行為(騒音・臭気など)やプライバシー侵害などは、その当事者間での問題であるため、区分所有者全体の団体である管理組合(管理組合法人)は、「共同の利益」がないため、訴訟での当事者適格を欠くため提訴できません。  

★規約違反者に対しては、どうするのか?
 区分所有法第30条1項では「規約で、建物等の使用に関することを定める」ことが出来ると規定しています。

 そこで、規約で、例えば、ベランダには布団を干してはいけないとか、使用を定め、その義務違反者に対して、管理組合が全員のために、提訴できるのか、どうかの解釈での論争があります。
 区分所有法第6条で規定している「共同の利益違反」に該当すれば、区分所有法が単純に(実際には複雑ですが)適用されますが、「共同の利益違反」までには至りませんが、規約に違反している場合です。

  この場合、区分所有者が負う義務は団体(管理組合)に対して負う義務と考えて、管理組合(管理組合法人)が提訴できると考えていいようです。

<参照>区分所有法第30条1項 ;(規約事項)
第三十条  建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

◎また、共同の利益に反する行為が同時に区分所有者個人の所有権や人格権の侵害行為であるときは、区分所有法第57条の管理組合の請求権と民法に基づく個人の請求権が並存することになりどちらを行使してもかまいません。
損害賠償を請求することも出来きます(民法 第709条 不法行為)

建物の保存に有害な行為:専有部分に爆発物を持ち込む、異常な騒音・振動を発するなど。

★一般に必要な措置(行為の差止め請求)をとれる法的な根拠:

    @不法行為 民法 第709条:(不法行為による損害賠償)に基づく;

<参照>民法 第709条:(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

       ★因果関係は必要。立証は被害者がする。

      A区分所有権および共用部分の共有持分権に基づく物権的請求権;所有権などの権利が侵害された場合に、その排除を求めることができる権利。

★対象は、区分所有者とその家族は勿論のこと、使用人だけでなく、占有者も入る(第57条4項)

★違反の状況に応じて

  @行為の停止: その行為をやめ、または将来にむかってしないこと。 
    例:ピアノの音がうるさいとき、ピアノの演奏を停止させる。1階にあるカラオケスタジオの夜間の一定時間の使用停止

  A行為の結果の除去:  
    例:共用部分の廊下を荷物置き場に使っているとき、荷物を取り除かせる

  B行為の予防:     
    例:騒音を起す可能性があるとき、防音装置の設置をさせる

 を差止め請求できる。

★別に、集会の決議がなくても、この程度(軽度)は、各個人や管理組合が請求できる。

  ただし、裁判にするなら、集会の決議が必要となる(第57条2項)。この「差止め請求」の場合は、普通決議(過半数)でいい。

<参考>標準管理規約(単棟型)66条 :(義務違反者に対する措置)
 第66条 区分所有者又は占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、区分所有法第57条から第60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる。

<参考>標準管理規約(単棟型)67条:(理事長の勧告及び指示等)
 第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、
法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。

2. 区分所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。

3. 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
   一  行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
   二  敷地及び共用部分等について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、区分所有者のために、訴訟において原告又は被告となること、その他法的措置をとること

4. 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。

5. 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納金は、第27条(注:管理費)に定める費用に充当する。

6. 理事長は、第3項の規定に基づき、区分所有者のために、原告又は被告となったときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第43条第2項及び第3項の規定を準用する。


{設問}マンション内において生じた紛争について、管理組合が原告として訴訟を提起することができるものは、区分所有法、民法及び民事訴訟法の規定によれば、次のうちどれか。

1.特定の区分所有者が専有部分内で騒音を発生させ、直下の居住者とトラブルとなっているため、その騒音の差止請求。

答え:提起できない。騒音発生が広範囲に及び共同の利益を害する程度に至るときは、区分所有法第57条の差止請求の対象となるが、上下階の2者間の問題に止まるときは2者間で解決すべき問題。通常は直下の居住者による所有権または人格権に基づく差し止めの問題で管理組合には当事者適格がない。(騒音被害では、階上のフローリング工事を共同の利益に反する行為と言い難いとした判例:東京地裁八王子支部、平成8年7月30日、がある。これによると騒音問題は、あくまでも当事者間の問題で、管理組合は原告になれない。)

2.管理会社から派遣された管理員が、犬の飼育を禁止している規約の規定に違反して区分所有者が飼っている犬にかまれてけがをしたため、その損害賠償請求。

答え:提起できない。加害者たる飼い主と被害者たる管理員間の不法行為に基づく損害賠償の問題で、管理組合には当事者適格がない。

3.特定の専有部分の区分所有権につき複数の者が区分所有権を争っているため、管理の必要上行う区分所有者の確認請求。

答え:提起できる。専有部分の区分所有権の帰属は組合員の地位の問題であり、管理組合にとって誰が組合員であるかは管理費請求等の組合員の管理組合に対する義務の履行者を決定し、議決権の行使を認める相手方を決定するのに重要であり、利害関係を持つので、この確認訴訟の当事者適格がある。

4.特定の専有部分の占有者が占有権限のないことが疑われるため、管理の必要上行う占有権限の確認請求。

答え:提起できない。専有部分の占有者は管理組合の部外者であり、原則としてその決定は管理組合の利害にはかかわらないから管理組合には当事者適格がない。

正解;3

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第五十七条

2項  前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。

過去出題 マンション管理士 H19年、H18年、H16年、H15年、
管理業務主任者 H15年、H14年、

*訴訟にするなら集会の決議によらなければならない...裁判にするなら、集会での普通決議(過半数決議)がいる。
   区分所有法第52条の関係で、規約があっても、理事が単独には、提起できない。また、決議は、個々の事案ごとにすること。包括してはできない。

★この第57条の行為の停止では、該当の区分所有者に弁明の機会は与えなくて良い。(行為の停止の請求の時だけ、弁明の機会を与えなくてもいいが、次の第58条、第59条では、弁明の機会を与えることになっているので、よく出題される。整理して覚えること。)

★裁判提起の決議

 共同の利益というのは所有権侵害と異なり、例えばペットの飼育制限(所有権侵害では説明できない)からも分かるように抽象的な概念ですから(通常使用規則等で具体化されるのでしょうが)、裁判をする場合には果たして当該行為が「共同の利益行為に反する」に該当するか否かをまず管理組合(居住者全員)自身で判断することが、使用規則に規定があっても裁判所の手間を省く意味でも妥当といえます。

 そこで、裁判上の請求を行う場合には、個別の事案ごとに集会(総会)で起訴の是非を議決しなければならないものとされています。

 ここが、規約で定めれば、管理者が原告・被告となれる区分所有法第26条4項の管理者の職務の場合と違います。義務違反行為に対する提訴は管理者(理事)の職務権限に含まれません。

<参照>区分所有法第26条4項:
  管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。

 勿論、集会を開いて、集会の審議によって違反者が反省をし、行為の予防や損害の回復がなされれば、面倒な裁判を未然に予防するという意味もあるでしょう。

◎この集会では、当該行為が「共同の利益に反する」かどうかがまず審議されますが、集会が区分所有者の利害関係調整の場であり、その審議は当該行為をめぐる利害調整そのものですから、問題になっている行為者も当然その審議に参加して意見を述べ、また議決に参加することができます。

◎なお、この議決は起訴の要件ですから、集会で議決がなくての訴えは訴えの利益なしで却下されることになるでしょう。

    ★裁判でなくても各個人で(裁判外でも)、差止め請求できるが、もし裁判にするなら、手続きや金も必要なので、集会の決議(過半数の決議でいい)がいる。

    ★管理者(理事)が単独で裁判には出来ないし、理事会の決議だけでも、裁判にはできない。(第52条参照。理事の事務から除かれている。)

    ★次の第58条にある「使用禁止の請求」や第59条の「競売の請求」と違って、第57条の場合には問題を起こしている区分所有者に弁明の機会は与えなくていい


{設問}次の記述は正しいか。
管理組合法人の理事は、規約又は集会の決議により、その事務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。(平成15年 管理業務主任者 試験 「問35」)

答え:誤り。区分所有法第 47条第8項;管理組合法人は、規約又は総会の決議により、その事務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。とあり、「理事」ではなく、「管理組合法人」がなる
引っかけ的ではあるが、こんな出題もある。

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第五十七条

3項  管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。

過去出題 マンション管理士 H19年、H17年、H15年、H14年、H13年
管理業務主任者 未記入

★この第57条3項の訴えの提起の規定は、次の第58条で規定される「使用禁止の請求」(4項)、第59条の「競売の請求」(2項)、そして第60条の「占有者に対する引渡し請求」(2項)でも準用されているので注意。

★訴訟の提起者はだれがなるか −訴訟の主体ー

 管理組合が法人化されており集会の決議があれば管理組合法人(実際の処理は法人を代表する理事)が提訴する(区分所有法第47条8項参照)が、法人でない時には、管理者や指定された区分所有者が区分所有者全員のために提訴する。

<参照>区分所有法 47条8項 (成立等)
第四十七条
  8  管理組合法人は、規約又は集会の決議により、その事務(第六項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。

     当然、判決の効力は区分所有者全員に及ぶ。

     管理者が敗訴した場合は、再度同じ内容の訴訟を区分所有者が起すことはできない。(一事不再理の原則)

     その訴訟に使った費用は区分所有者全員で負担する。

★裁判での請求

 集会の決議で訴訟を提起することになりますと、管理組合法人であれば、その代表者たる理事が管理組合法人の代表として訴訟を提起しますが、法人でない管理組合の場合には管理者が管理組合という「権利能力なき社団」の代表として民事訴訟法第29条に基づき、または本3項で認められた全員のための訴訟担当者(全員が自分たちのためにみんなで原告となるのは手続きが煩瑣になり、且つ不経済です。)として訴訟を提起することになります。

  ★「区分者全員のために」:訴状上の名は、「区分所有者代理」でなく、管理者や指定された区分所有者の個人名で行う。

  ★管理者がいても、他の区分所有者を指定できる。

  ★共同の利益に反する行為かどうか、各事案ごとに集会を開いて決議すること。集会を開かないで、総括的に訴訟提起の権限を管理者に与えることはできない。

★管理者の通常の職務には含まれていない
  管理者の通常の「職務」に関する場合には、規約であらかじめ包括的に訴訟追行をさせることが出来きます。
  区分所有法第26条4項の規定により、管理者には、その職務に関しては、規約で定めていれば、集会を開かなくても、原告・被告なる訴訟の追行が可能ですが、義務違反に対しては毎回集会を開いて決議することが、必要です。
 (注:この区別を理解しておくこと! 試験でもよくでます。)

<参照>区分所有法第26条4項、5項;
4項  管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。

5項  管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。


{設問} 管理組合の集会において、マンション全体に響きわたる騒音を発生させている区分所有者に対し、その騒音の差止め等について訴訟を含む法的な措置を執るための決議をする場合に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定によれば、誤っているものはどれか。

1 規約で理事会が集会の決議により法的な措置を執ることができると定めたとしても、理事会は、その名において、訴訟を提起することができない。

答え:正しい。区分所有者に対する「騒音の差止め請求」は区分所有法第57条に該当する。区分所有法第57条2項によれば(事務の執行) 管理組合法人の事務は、この法律に定めるもののほか、すべて集会の決議によつて行う。ただし、この法律に集会の決議につき特別の定数が定められている事項及び第五十七条第二項に規定する事項を除いて、規約で、理事その他の役員が決するものとすることができる。
とあり、当件は、第57条2項に該当し、規約があっても、毎回、集会の決議が必要で、理事会は、その名において、訴訟を提起することができない。
また、訴訟の提起者は、管理者(理事長)であり、理事会の名ではできない。(区分所有法第57条3項)

2 騒音の被害を受けていない区分所有者でも、集会の決議により指定された場合にはその騒音の差止め訴訟を提起することができる。

答え:正しい。区分所有法第57条3項によれば訴訟を提起するのは原因となっている当人以外の全員、管理者又は集会において指定された区分所有者は、騒音の被害を受けていなくても、集会の決議により指定された場合にはその騒音の差止め訴訟を提起することができる。

3 騒音の差止め訴訟を議題とする集会には、その訴訟の相手方である区分所有者は、出席して議決権を行使することができる。

答え:正しい。区分所有法第57条でも、また同法第58条や第59条でも議決権行使に制約は無いから騒音の差止め訴訟を議題とする集会には、その訴訟の相手方である区分所有者は、出席して議決権を行使することができる。(弁明と混同しないように。議決権の行使は、区分所有者である限り奪われません。)

4 騒音により被害を受けている区分所有者がいても、集会の決議に拘束され、当該区分所有者は、損害賠償請求の訴訟を独自に提起することができない。

答え:誤りである。区分所有法第57条は個人の被害の賠償に何らふれるところが無いから騒音により被害を受けている区分所有者がいれば、集会の決議に拘束されることはなく、当該区分所有者は、損害賠償請求の訴訟を独自に提起することができる。民法第709条の不法行為に基づきます。

正解: 4   


★参考までに、ー「規約に違反」した区分所有者と占有者に誰が、差止め請求ができるのかー

  区分所有法第6条に定める「共同の利益に反する行為の禁止等」は、第57条から第60条の規定により訴訟の主体が、管理組合法人なら法人を代表して理事が、また決議により管理者や指定された区分所有者が提訴できます。
 しかし、第30条1項に基づき定めた「
建物等の使用に関する義務違反」については、区分所有法では規定がありません。
  解釈としては、規約は団体の規約である以上、各区分所有者が規約により負う義務は団体に対する義務であるから、これに対応する権利も団体が持ち、かつ行使できるもとのしています。
  これにより、管理組合法人なら法人(代表の理事)、法人でなければ、団体として(民事訴訟法第29条参照)でき、具体的には、管理者ができるという説があります。


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第五十七条

4項  前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。

過去出題 マンション管理士 H20年、H17年、H15年、H14年、H13年
管理業務主任者 未記入

前三項の規定...前の第57条1項、2項、3項を指す。

<参照>区分所有法第6条:(区分所有者の権利義務等);
1項  区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

2項  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。

3項  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

占有者(賃借人など)に対する裁判での請求

 共同の利益に反する行為者が占有者の場合も区分所有者と同様です(4項)。

 マンションの占有者である賃借人等もも共同生活では重要な立場にあるため、区分所有法第6条により、建物の保存や管理・使用については、区分所有者と同様に、共同の利益に反する行為をすることは禁止されています(第6条3項による第6条1項の準用)。
 もし、占有者が共同の利益に反する行為をした時、裁判にならない状況であれば、第57条1項だけの問題ですから管理組合の管理者や管理組合法人の理事がその業務執行の権限で、占有者に対しても必要な差し止め請求を行うことになります。
その場合には必ずしも当該事項に関する集会議決は必要ありませんので、何が共同の利益で、何がそれに反する行為であるかがこれまでの集会議決または使用規則等で決めていない限り、管理者や理事の恣意的な運用になりかねず問題となることも考えられますので運用には注意が必要です。

★共同の利益に反する行為をしたり、おそれがある区分所有者だけでなく、占有者(賃借人など)に対しても、差止め請求や裁判の提訴をすることができる。

  (*注)この第57条(行為の停止)と、これから出てくる、第58条(使用禁止の請求)、第59条(区分所有権の競売請求)、第60条(占有者に対する引渡し請求)は、整理が必要なので、先にまとめる。

◎ 義 務 違 反 者 に 対 す る 措 置
条文 内容 対象 裁判 訴えの決議 弁明の機会
第57条 行為の停止 区分所有者、占有者 外、上 過半数(普通決議) 共に与えなくていい
第58条 使用禁止 区分所有者 3/4以上(特別決議) 区分所有者に与える
第59条 競売 区分所有者 3/4以上(特別決議) 区分所有者に与える
第60条 引渡し 占有者 3/4以上(特別決議) 占有者に与える

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(使用禁止の請求)

第五十八条

1項  前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。

過去出題 マンション管理士 H15年、
管理業務主任者 未記入

★専有部分の使用禁止の訴え

 第58条は「専有部分の使用禁止」に関する規定です。

 共同の利益の侵害者に対しては、前第57条で「その行為の差し止め等」ができることになっていますが、差し止め等を命令する判決だけでは、有害行為が解決できない場合に侵害者本人を建物内から一定期間排除(追い出し)して、その反省を迫ると共に円満な共同生活の回復を図るものです。

 この訴えは区分所有法が創設した特殊なもので他の法律には例がありません。 (一般の権利を大きく制限した内容です。)

★請求の要件

 一時的とはいえ、専有部分(室)の自由な使用を制限するわけで所有権に対する重大な制約となりますから、単に共同の利益を害するという要件ではなく、独自の要件として、

  @有害な行為、共同の利益に反する(第6条参照)

  A著しい共同生活上の障害があり、

  B使用禁止以外の手段ではその共同生活の維持が困難であることが必要で(1項)、

  更に、訴えの提起には特別決議が必要とされています(2項)。

 その集会では誰が管理組合(全区分所有者)を代表して原告となるかも含めて審議されます(4項)。

 なお、この請求は第57条の行為の停止請求では解決できない場合の規定ですから、要件があえば直ちに第58条の請求ができます。

 まず第57条の請求をしてその効果が得られないことを確認してから、次に第58条の請求ができるというものではありません

 この点は次の第59条の「競売請求」も同様であり、第57条と第58条・第59条は、順を追って請求するものではなく、それぞれの要件や効果を異にしていますから、互いに、どれかが認められる場合には他は認められないという排斥的な関係にあります。

★「共同生活上の障害が著しい」とは

 「共同生活上の著しい障害」とは、抽象的な内容です。そこで、例としては、
  ・暴力団や性格異常者、
  ・ガス自殺未遂、自宅放火等による他人の生命・身体への侵害
  またはその惧れがある場合等の場合に肯定されるのは勿論ですが、
  建物の物理的損壊や騒音・振動・悪臭など被害は割合軽微でも継続していたり累積的になることにより侵害となります。

 ただし、ごみ出しのルールを守らない等の容易に回復できる生活上のルール違反ではこれに該当しないでしょう。

 この要件は次の第59条の「競売請求」と同じですから、「使用禁止」か「競売」かは侵害行為の性質や加害者の加害目的・性格・態度等を考慮して目的達成にどちらの手段がいい方法かを判断することになります。

★専有部分の使用禁止の必要性

 「専有部分の使用禁止の必要性」は、円滑な共同生活を維持するためには、単なる当該行為の差し止め等では足らず、また次の第59条の「競売という手段」よりもこの使用禁止の手段がいいという理由です。

 何らかの理由で侵害行為が一定の期間的なものである場合や、侵害者の性格等から使用禁止にすれば反省が期待できるような場合にこの方法を採ることが肯定されます。

 反対に数年の使用禁止では再入居した場合に侵害行為が再発する惧れがある場合や、数年間の使用禁止では反省等が期待できない場合には次の第59条の「競売請求が妥当」になるためこの使用禁止の請求は不適当となります。

区分所有者に弁明の機会を与えること

 この専有部分の「使用禁止の請求」は、本来ならば、自由に使うことが許されている個人の財産である専有部分(室)が、マンションにあると言うだけで、使用できなくるという所有者の権利を大きく制限する行為です。
そのため、集会では、普通決議よりも多くの人の判断が求められる区分所有者及び議決権の3/4以上を必要とする特別決議によるとし、その審議において加害者からも言い分を述べる、弁明の機会が与えられる必要があります(3項)。

 弁明の機会を与えるというのは、告知して意見を聞く聴聞というのは民主的な制裁手続きにおける必須の要件ですから、その聴聞権を保障した規定となっています。
この趣旨から、弁明の聴取は制裁を科す集会で行うべきで、理事会や他の機関が侵害者の弁明を聞いて、集会へ報告するだけでは足らないと考えるべきでしょう。

 ただし、弁明の機会を与えれば足り、弁明を必ず聞かなければならないというものではありません。また、弁明の機会を与えたが、本人が弁明をしない場合は、行為として瑕疵はありません。

 ★弁明の機会のタイミング

   集会の席上で、決議前に与えるのが、望ましいが、法律上は機会を与えるだけでいい(場所・時間は決められていない)。

   また、集会においては、十分な発言の機会と時間を確保すること。

◎この集会の審議において、違反者の侵害行為が
    @「著しい共同生活上の障害」に該当し、
    A「使用禁止の必要性」により使用禁止が妥当であるか否かが検討され、
    違反者は@、Aの要件がないこと、または@の加害行為を今後しない旨の弁明ができます。

★弁明と議決権行使

 なお、違反者はこの議案の当事者として特別の利害関係を有しますが、弁明の最終手段として議案に反対の議決権を行使できることは当然です。

◎この弁明にもかかわらず、または弁明の機会を放棄した結果、集会で可決されても裁判所でもう一度弁明が可能ですから裁判所の審判の結果@またはAの要件がないとして請求が棄却されることもあります。

「相当な期間」とは

 「相当な期間」としてどの程度が妥当かは侵害行為の内容・性格と共同の利益の回復との関係で決定される事柄であり、一概には決まりませんが、短期間では差止請求での対処が可能でしょうから、数ヶ月以上3年以下程度で設定すべきでしょうか。

 従って、集会で「相当の期間」を決議し、訴えで請求することになりますが、裁判所は独自に管理組合側の請求期間内で適当な期間を裁定することになります。

 この場合、管理組合の請求期間を超えて裁定するのは民事訴訟の処分権主義に反しますから否定すべきでしょう。
従って、事案に対して不適当に短い期間の請求は「使用禁止の必要性」の要件を満たさず請求の期間を拡張しない限り棄却されることになると考えられます。

★裁判

 一定期間の使用禁止の判決は、不動産にかかる紛争ですから、その訴額は不動産固定資産評価額(敷地権を除外した区分建物の価格)となりますから被告または不動産所在地を管轄する地方裁判所の管轄となります(民事訴訟法第4条、第5条12号等)。

 また、その判決は使用差し止めの場合と同様不作為の裁判となり、判決が確定すれば「被告は自己の専有部分を判決で認められた期間中使用できなくなります」。
使用の有無は当該専有部分の占有即ち事実上の支配の有無により判断されることになりますから、倉庫代わりに物品の保管も使用となるでしょう。

★使用禁止の範囲
 条文では「専有部分の使用禁止」となっていますが、共用部分、附属施設、敷地の使用もできなくなります。

★使用が禁止されても、区分所有権は失っていませんから、管理費の支払など、区分所有者としての義務はあります。

 他人に賃貸する等により直接占有がなくなれば判決違反とはいえません。

◎この点で問題は同居親族の使用ですが、家族や使用人も占有補助者として使用が出来なくなります。

 なお、この判決での義務の履行は債務者の意思にかかるものとなりますから、強制執行は間接強制の手段となります(民事執行法第171条・第172条)し、(区分所有法第57条の場合も同じですが、)共同の利益への侵害が急迫なもので判決による執行では間に合わないと認められるときは、民事保全手続きによる仮処分が認められることは勿論です。

★前条1項=第57条1項(違反行為の差止め請求)は単なる引用で、

ここの要件は、

   @義務違反をする区分所有者の行為が他の区分所有者との共同生活上に著しい障害を与え、

   A違反行為の差止め請求では解決できないような共同生活での障害がひどいとき

   には、原因となっている区分所有者の専有部分を、集会の特別決議(4分の3以上)で提訴して使用禁止にできる。(第58条2項)

    *特に、違反行為の差止め請求(第57条)をした後でなくてもいい。(差止め請求をしてなくても、この使用禁止請求を状況に応じてできる。)

  ★この使用禁止は、個人の財産に対して強力な請求なので、違反行為の差止めのように裁判外の請求がない。全部裁判となる。

    また、決議に際して、あらかじめ義務違反者に、弁明の機会を与えることも必要。(第58条3項)

    弁明の機会は与えればいいだけで、その弁明を集会で採用するかどうかは集会が決めることである。

  ★判決がでると、区分所有者だけでなく、家族も、専有部分だけでなく、共用部分並びに敷地、附属施設も使用できない。

      ただし、他人に賃貸することは許される。

      ◎空き室にするか、他に貸すか、転売するかになる。なお、時々空き室に空気を入れにくるのは、「使用」に当てはまらない。

{判例}
 福岡地裁:昭和62年5月19日
     各地で他の暴力団と対立・抗争を繰り返していた暴力団が組事務所として使用していた専有部分を、3年間の使用禁止を命じた。

★ただし、占有者が「共同の利益に反する行為」をしても、この第58条の「一定期間の使用禁止」の適用はないことに注意。


★管理費を滞納したら、使用禁止請求ができるのか? --> 「共同の利益に反する」が出来ないこともある。
  多くの判例でも、「共同の利益に反する」の認識はされているが、@使用禁止 と 次の A競売 まで行えるかは、まだ結論がでていないようです。

{判例}
 大阪高裁:平成14年5月16日
   1.滞納額は、金額と期間の双方において著しいものがあり、区分所有法6条1項の共同利益背反行為に該当する、が

   2.専有部分の使用禁止と滞納管理費の支払とは、直接的な関連性がない、

   3.専有部分の使用禁止により、滞納管理費などの支払が促進されるものではなく、他の区分所有者に何らかの利益がもたらされるものではない、
     により、専有部分の使用禁止はできない。

 *もともと、区分所有法第57条から第60条までの各義務違反者に対する措置が想定していたのは、騒音や悪臭、不良な入居者などの積極的な生活妨害行為(作為といいます)で、管理費や修繕積立金を支払わないというような消極的な行為(不作為といいます)は想定外でした。

  しかし、これからは、滞納管理費等の問題が多発することも考えられますので、裁判で明確になるでしょう。


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第五十八条

2項  前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。

過去出題 マンション管理士 H20年、H15年、H13年
管理業務主任者 未記入

★特別に多数の賛成が必要で「特別決議事項」と呼ばれる。(その8の4−1)

★「専有部分」の使用禁止は、一時的にせよ他人の所有権を大きく制限するので、慎重を期するため、多くの人の決議が必要とされる。
  区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数が必要。
 問題を起している区分所有者も議決権を持っている。

★特別決議事項であっても、招集の通知には、「会議の目的」だけを示せばよく、「議案の要領」はいらないことに注意。(第35条5項に入っていないぞ。)

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第五十八条

3項  第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。

過去出題 マンション管理士 H15年、H13年
管理業務主任者 H19年、

与えなければならない...弁明の機会を与えないと決議が無効になる。

★問題を起している区分所有者にも、使用禁止の措置は厳しいので、弁明させること。

    ◎注:前条の第57条の違反行為の差止め請求には弁明の機会はない。(内容が軽いので不要。)

★この審議において、違反者の侵害行為が
    @著しい共同生活上の障害に該当し、
    A使用禁止の必要性により使用禁止が妥当であるか否かが検討され、
    違反者は@、Aの要件がないこと、または@の加害行為を今後しない旨の弁明ができます。

 なお、違反者は、区分所有者として、この事案の集会に出席して意見を述べることは、当然に認められています。

★弁明の機会を与えるとは、
 違反者に対して明確に弁明をする機会を与える必要があります。
 そのためには、違反者に対して、あらかじめ、集会の日時、場所、議題や違反行為の概要などを通知しなければなりません。その際に注意しなければいけないのは、そのような通知が確実に行われたことを証拠として残すために内容証明郵便を使うべきでしょう。

 また、弁明の機会を与えたというためには、
 処分事由にあたる事実が存在したか否か、仮にそのような事実 があったとすれば何故になされたのか、そのようにせざるを得なかった事実はなかったのか、本人に同情するような事由はないか等を詳細に問い質すことになります。

 なお、弁明の機会を与えるということは、必ずしも本人に集会の席上で弁明させなければいけないということでなく、あらかじめ集会で弁明できるようにしてあればよく、実際に弁明するかどうかはその違反者の自由です。
また、違反者に通知をしても集会に欠席したときは、違反者本人が弁明の機会を放棄したものですから、手続きとしては、問題がありません。

 違反者は、この議案の当事者として特別の利害関係を有しますが、弁明の最終手段として議案に参加して、反対の議決権を行使できることは当然です。

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第五十八条

4項  前条第三項の規定は、第一項の訴えの提起に準用する。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

★訴訟の提起は管理者または指定された区分所有者が、全員のためにするのは、違反行為差止め請求の提訴(第57条3項)と同じ。

<参照>前条3項=第57条3項:
 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。

★法人化されていれば、管理組合法人(実際の処理は理事が法人を代表する)が、提訴するが、法人でない時には、管理者や指定された区分所有者が区分所有者全員のために提訴する。

     当然、判決の効力は区分所有者全員に及ぶ。

     また、裁判費用は区分所有者全員の負担となり、敗訴しても、他の区分所有者から、当件については、再提訴できない。

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(区分所有権の競売の請求)

第五十九条

1項  第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。

過去出題 マンション管理士 H17年、H15年、
管理業務主任者 未記入

区分所有権と敷地利用権を競売にかける...共同生活の維持のために個人の財産を第三者が競売にできる。(恐るべし、団体生活のルール)

 第59条は共同の利益違反者に対する「競売請求」に関する規定です。

 競売請求も前第58条の「使用禁止の訴え」と同様に区分所有法独特のものです。
その要件は、第6条に規定する「有害な行為、共同の利益に反する行為」を前提とした、

   @著しい共同生活上の障害、と

   A競売以外の手段では共同生活の維持が困難であること です。

 @著しい共同生活上の障害の要件は前第58条と変わりませんが、その解決策が他人の区分所有権と敷地利用権を売り飛ばすということは、前第58条と異なりマンションの共同生活からの永久追放という最も強力な制裁措置ですから A競売以外の手段では共同生活の維持が困難であることを結論づけるような強い性質・内容のものが要求されるでしょう。

★集会の特別決議と弁明の機会を与えることが必要

 訴訟で原告が誰になるかも当該集会で決定されること、第三者による個人の財産に対する恐ろしい制裁であるため、集会では「区分所有者及び議決権の各四分の三以上」の多数の特別決議によること、そして違反者たる区分所有者に弁明の機会を与えることが必要なことなどは前第58条の場合と同様です(2項)。

◎ただ、この訴えは前第58条の場合と異なり、その執行として競売がなされなければ目的を達成できませんから、原告(管理組合法人、管理者又は集会で指定された者)の競売申立ての期限が判決確定の日から6ヶ月以内に行うことに、制限されています(3項)。

 通常の判決での時効は10年のはずです(民法第174条の2 参照)が、あまり長い間被告(競売を受ける者)を不安定な状態に置いておくことは不当であることと、競売の申立てが可能になってから6ヶ月間も同じ共同生活内に置いている状況では、追放の必要性が消滅したものとみなし得るという理由によるものと思われます。

◎もっとも、競売での落札価格は、通常の売買価格の7割以下でしか売れないのが実情ですから、判決を受けて被告が任意に売却して退去すれば競売申立ての必要はありません。

 ただし、任意売却中なので競売の申立ては待ってくれ、といわれて6ヶ月経過してしまえば、申立てをすること自体に法律上の障害はなくいつでもできたのにしなかったのですから3項により申立て権は失うものというべきでしょう。

 その場合は再度裁判からやり直しとなります。

★競売の対象:判決文で貰うもの

  @区分所有権(専有部分) と A敷地利用権  (この2つは分離して処分できない。区分所有法第22条参照) を競売できる旨を宣言する判決文。

★ 管轄等
 裁判の管轄等は前第58条の場合と同様ですが、前第58条の「専有部分の使用禁止」と異なり訴額は対象が区分建物以外に敷地利用権も含みますので、その合算額となります。

 競売手続きは当該物件の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄となります(民事執行法第44条)。

◎なお、この競売は判決という債務名義に基づくものではあっても、債権回収を目的とするものではありませんので強制競売ではなく、換価のための競売の一種とされるようです。

★競売手続きへの参加は誰でもできることが原則ですが、特定人の共同生活からの放逐という目的から被告、および被告のための参加人は入札参加資格がありません(4項)。


★判決が確定したら
  原告は、裁判所に競売の申し立てをします(民事執行法第195条参照)。
  裁判所は、これを民事執行法に従って競売し、競売代金は、該当の区分所有者へ支払われます。(一度、競売申立人に支払うという解釈もあるようです。)

★区分所有権の競売の要件:

  @義務違反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しい

  A違反行為の差止め請求や使用禁止請求では共同生活の維持が困難

   なときは、集会の区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数で決議し、問題の区分所有者の@区分所有権とA敷地利用権の競売を提訴できる。

  ★決議にあたっては、使用禁止の請求(第58条)と同じように、問題を起こしている区分所有者に弁明の機会を与えること

  ★これも、前もって違反行為の差止め(第57条)や、相当の期間の専有部分の使用禁止(第58条)がうまくいかなかった後でなくてもいい。別の行為として、直ちに、できる。

状況が許せば、すぐ競売の請求もできる。

★管理費の滞納があり、競売しても該当滞納額の回収の見込みがなくても提訴していいかどうかは、判例でも争いがある。
 該当の区分所有権を奪うことが目的であるので認めるべきと解するが。

★この競売請求も、使用禁止の請求と同じように、持分を強制的に競売にされるという、権利関係の厳しいものなので裁判外では行使できない。

 また、裁判は、管理組合法人、管理者または指定された区分所有者が提訴する。


★管理費滞納での、競売請求(区分所有法第59条)ができるか、できないかの判例。

 使用禁止(第58条参照)でも説明しましたが、判例は、管理費が滞納されることは、区分所有法第6条1項に定める「共同の利益に反する」との認識はあるものの、それから先の「使用禁止」「競売」についてはまだ結論が出ていません。
これは、個人の財産が第三者によって大幅に制限されたり、奪われる区分所有法の特異性を考慮したものと思われます。

*競売を認めた判例

{判例-1}
長期にわたり多額の管理費等の支払をせず、強制執行による未払管理費等の回収の見込みもない区分所有者が、任意の支払を拒否するばかりでなく、管理組合による管理費等の請求方法を非難するなどの態度をとり続け、修復できない程度に関係が悪化している状況で、管理組合の競売請求を認めた。(東京地裁:平成13年8月30日判決)

{判例-2}
暴力団の組長及びその配下の組合員が他の区分所有者の共同の利益に反する行為をなし、共同生活の著しい障害となっている。使用禁止等の方法では他の区分所有者らの平穏な共同生活の回復、維持ができないので管理組合の競売請求を認める。(札幌地裁:昭和61年2月18日判決)

************************************

*競売の要件を満たしていない例

{判例-3} 先取特権に言及している。
区分所有者が100万円以上の管理費等を滞納していた。これは「共同の利益に反する行為」であるが、金銭債権の確保を図るために民事執行法の例外となる区分所有法59条の「競売」を適用できるのは、先取特権の実行や財産一般に対する強制執行をしても回収できない場合であるとして、認められなかった。(東京高裁:平成18年11月1日)  

*補助の説明:「差し押さえられた物件には3000万円の抵当権が設定されており、管理組合には配当が行かず、無剰余として取り消しとなることも想定される。
 抵当権の3000万円は、現時点では相当程度減少して(支払われて)いる可能性があるにもかかわらず、管理組合は現時点の抵当権の債権額について何ら主張・立証しない。対象となった住戸の“時価”も主張・立証していない」と判断し、管理組合は敗訴しました。
 剰余主義とは、競売しても差し押さえ債権者(管理組合)に配当される余剰がない場合は、配当が来ない債権者の競売申立は無益な競売として認めないと云うものであります。   

 *しかし、滞納費を回収できるお金がない以上競売しても無駄という考えかたと、一応競売で追い出すことはできるという考えかたもあります。


  

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第五十九条

2項  第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。

過去出題 マンション管理士 H13年
管理業務主任者 未記入

<参照> 第57条3項
3項 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。

★法人化されていれば、法人の名において理事が法人を代表して提訴するが、法人でない時には、管理者や指定された区分所有者が区分所有者全員のために提訴する。

     当然、判決の効力は区分所有者全員に及ぶ。

 <参照> 前条2項及び3項=第58条2項および3項:

 第58条2項:  前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。

           ★特別に多数の賛成が必要で「特別決議事項」と呼ばれる。(その8の4-2)

 第58条3項: 第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。

          ★問題を起している区分所有者にも、使用禁止以上に競売の方法は厳しいので、弁明の機会を与えること。
            機会を与えればそれでよく、弁明しなくてもそれは本人の勝手である。

          また、集会での、議決権は問題を起こした本人も持っている。

       ◎注意:第57条の違反行為の差止め請求には本人や占有者に弁明の機会はない。(いらない。)


{設問}共同利益背反行為(区分所有法第6条第1項に規定する区分所有者の共同の利益に反する行為をいう。以下この問いにおいて同じ。)を行った区分所有者に対してA〜Dの措置を執る場合、訴訟の主体(ア〜エ)及び訴訟提起のための集会の決議等(@〜B)に係る次の組合わせのうち、区分所有法の規定によれば、正しいものはどれか。

A 当該区分所有者の共同利益背反行為の停止
B 当該区分所有者による専有部分の相当の期間の使用の禁止
C 当該区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売
D 当該区分所有者の共同利益背反行為の結果の除去

ア 当該区分所有者以外の区分所有者全員
イ 規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者(エの区分所有者を除く)
ウ 管理者
エ 集会の決議により訴訟追行権を与えられた区分所有者

@ 区分所有者及び議決権の各過半数の決議
A 区分所有者及び議決権の各3/4以上の多数の決議
B 当該区分所有者に対する決議前の弁明の機会の付与

1  Aとイと@
2  BとアとA
3  Cとウと@
4  DとエとB

答え:区分所有法の規定によれば、
1  区分所有法第57条3項によれば、 区分所有者の共同利益背反行為の停止の裁判は @ 区分所有者及び議決権の各過半数の決議で提起するが、提起する者は管理者又は集会での指名者で  規約で共用部分の所有者と定められた区分所有者(エの区分所有者を除く)ではない。間違い。

2  区分所有法第58条によれば、 区分所有者による専有部分の相当の期間の使用の禁止の裁判は、当該区分所有者以外の区分所有者全員が A 区分所有者及び議決権の各3/4以上の多数の決議で提起する。正しい。

3  区分所有法第59条によれば、C 区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売の裁判は、 管理者もできるが A 区分所有者及び議決権の各3/4以上の多数の決議で提起する。@ 区分所有者及び議決権の各過半数の決議では足りない。間違い。

4  区分所有法第57条によれば、 区分所有者の共同利益背反行為の結果の除去は、 集会の決議により訴訟追行権を与えられた区分所有者が提起できるが、B 当該区分所有者に対する決議前の弁明の機会の付与は要件ではない。間違い。

正解: 2

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第五十九条

3項  第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

することができない...判決で競売していいとなっても、判決後、6ヶ月間放置したら、もう競売はできない。 

★裁判で競売の判決がおりても、自動的に競売にはならない。

     判決確定後、原告になった管理者などが6ヶ月以内に競売の申し立てをしないと、競売できない。

 ◎競売の請求(提訴=裁判)――>判決(競売していい)――>◎競売の申し立てーー>◎競売 (6ヶ月以内にすること)

★この訴えは前第58条の使用禁止の場合と異なり、その執行として競売がなされなければ目的を達成できませんから競売申立ての期限が判決確定の日から6ヶ月以内に制限されています。

 確定判決での時効は10年の筈です(民法第174条の2)が、あまり長い間被告を不安定な状態に置いておくことは不当であることと競売の申立てが可能になってから6ヶ月間もの間共同生活内に置いている状況では共同生活からの放逐の必要性が消滅したものとみなし得るという理由によるものと思われます。

★もっとも、競売では通常の売買の7割以下でしか売れないのが実情ですから、判決を受けて被告が任意に売却して退去すれば競売申立ての必要はありません。

 ただし、任意売却中なので競売の申立ては待ってくれ、といわれて6ヶ月経過してしまえば、申立てをすること自体に法律上の障害はなくいつでもできたのにしなかったのですから3項により申立て権は失うものというべきでしょう。
その場合は再度裁判からやり直しとなります。

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第五十九条

4項  前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。

過去出題 マンション管理士 未記入
管理業務主任者 未記入

その者(競売を申し立てられた区分所有者)の計算において買い受けようとする者とは...実際の金は問題を起こした区分所有者がだして、名義上は、他人が買受人になる。
 また、第三者があらかじめその者に転売することを約束しておいて、買受人になるなど、実質上の買受人が、競売を申し立てられた区分所有者である場合。

★競売では誰でも、買受人(落札人)になれるので、また義務違反者が買い受けたら、競売にした意味がないので、義務違反の区分所有者と義務違反者が金を出して第三者に買受させるのを禁止する。

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(占有者に対する引渡し請求)

第六十条

1項  第五十七条第四項に規定する場合において、第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる。

過去出題 マンション管理士 H21年、H14年、H13年
管理業務主任者 H19年、

*問題を起す占有者(賃借人など)にも賃貸借契約の解除と室(専有部分)の引渡し(占有者にとっては引越)を求めることができる。

 第60条は、「占有者に対する明渡(引渡し)請求」に関する規定です。

 マンションを購入しても持主である区分所有者は住まず、他の人に賃貸などで貸し、その賃借人(占有者)が騒音を出したりして、著しく共同生活を乱すこともかなりあります。
それら占有者に対する規定です。

 多くの場合、1棟の建物内での共同生活をしている人には区分所有者だけでなく、賃借人や使用借人などの占有者も存在し、それらの人々も区分所有者と同様に共同の利益を侵害する場合があります。

 そこで、区分所有法第6条3項によって、占有者も区分所有者が守るべき「共同の利益」(第6条1項)を守ることが定めらています。

<参照>区分所有法第6条 (区分所有者の権利義務等)
第六条  区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

2  区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。

3  第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

 このため、第57条4項で「区分所有者に対する行為の停止等の請求」が占有者にも準用されていますが、占有者に対する行為の停止、結果の除去、予防等の必要な措置では問題が解決できない場合に、占有者に対して認められる手段が本第60条の「室の明渡(引渡し)請求」です。

 マンションの持主である区分所有者には、第57条の「行為の停止」と第58条の「一定期間の使用禁止」や第59条の「競売」と三通りの請求が認められていますが、占有者に対しては第58条の「使用禁止の請求」は規定がなく、また、占有者は「区分所有権」を有していませんから、当然第59条の「競売」には該当せず、この第60条で規定される「室の明渡し(引渡し)」の方法がとられます。

 占有者にも、一定期間の使用禁止があってもいいと考えられますが、認めていません。
これは占有者は区分所有者と異なり、当該物件に対する投下資本が少なく使用禁止によって一定期間他の場所に移転したら、使用解除になっても、また戻るという必要性は少ないと立法者が判断した結果のようです。

★要件

 占有者に対する引渡し請求の要件は、区分所有者に対するのと同様で、

   @区分所有者の共同生活上の障害が著しく 

   A室の引渡しの手段以外では他の区分所有者の共同生活の維持・回復が困難であること  が必要です。

 @「区分所有者の共同生活上の障害が著しく」は第58条や第59条で定める区分所有者の場合と同様ですが、
 A「室の引渡しの手段以外では区分所有者の共同生活の維持・回復が困難であること」の要件は、占有者にも、行為の差止め請求が出来ますが、その方法では解決できない場合となり、最終的に、この「引渡し」によって問題を解決することになります。

 この訴えは、他の条文での訴えの相手が問題を起す区分所有者から問題を起す占有者に変わっただけですが、占有者にとっては、住居から追い出され、馴染んだ共同生活からの追放は重大な権利制限ですから、マンション内でも個人の区分所有者だけでは出来ません。
必ず訴えをもって行使することとされ、その訴えは、集会でも特別決議(3/4以上)が必要なこと、原告になる担当者も集会で選任されること、そして該当の占有者に弁明の機会を与える必要があります(2項)。

◎ただし、占有者は通常、占有する専有部分(室)を貸主の区分所有者との賃貸借契約や転貸借契約、その他の権限により専有部分の占有をするのが通常です。
区分所有者に対する使用禁止や競売の申立と異なり、単に管理組合と占有者との間で「引渡しの効力」が生じるだけでは、まだ専有部分の区分所有者と占有者との権利関係(契約)は存続してしまいます。
賃貸借契約が継続していては、占有者は室を引渡した後も、賃料の支払い義務があることになりますし、なにより占有ができる契約関係を存続させたままの引渡しは論理矛盾でもありますから、引渡し請求にはまず占有権限を無くさせるために賃貸借契約の解除等も必要となります。

 これが1項の「占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除」という意味です。

★裁判

 この場合、契約関係の解消は当然に、契約の当事者全員にその効果が及ぶものでなければなりません。
また、原則として裁判の効力は訴訟当事者にしか及びませんから、この訴えには契約の両当事者(貸主と借主)、双方が被告となる共同被告として提訴する必要があります

 そこで、貸主がそこのマンションの区分所有者である時には、訴える区分所有者の全員から、該当の区分所有者は除外されることになります。

◎勿論、占有者が何ら占有権限無く占有している場合(不法行為)には当該専有部分の区分所有者との間に解除すべき契約などの関係もありませんから、区分所有者は除かれて、占有者が単独の被告となります。

 それが、第57条から第59条の各1項では「他の区分所有者の全員」としているのに対して、本第60条1項では「区分所有者の全員」と少しばかり、条文が違っている理由です。

★裁判管轄

 第58条、第59条の場合と同様ですが、裁判費用は建物の明渡しの裁判ですから第58条と同様建物価格のみが算定の対象となります。

★引渡し請求訴訟の内容

 判決文への申立事項として、
    @契約解除と共に、
    A専有部分の明渡し(引渡し)も請求しなければなりません。
 訴えを起こした原告である管理者(または管理組合法人)に対する明け渡しを請求するか(4項)、所有者たる区分所有者への明渡しの請求でもよいか、等は問題ですが、@の契約解除だけでは最終目的が達成される保証がありませんから、訴えの利益を実現するためにはAの明渡しの請求もします。

 普通、当該専有部分の占有を適法なものにするためには、所有権や賃借権等、正当に物の占有権限を包含する権利を持っている必要がありますので、当該権限を一つも持っていない原告(管理者または管理組合法人)に明渡しを認めるのは非常にイレギュラーな事態です。
 区分所有法に特有な規定であることに注意してください

★確定判決による専有部分の引渡しの相手方

 勝訴の確定判決がでれば、専有部分は、該当の区分所有者ではなく、原告である管理者や管理組合法人へ引き渡しますこの後、原告から、当該区分所有者に遅滞無く引き渡されます。(第60条3項はこの意味です。)

★区分所有者でなく占有者(借りている人)が義務違反をしているときは、占有者に対して行動をとる必要があるが、借りている人は持ち主ではないので競売の請求はできない。

     でも、借りている元になっている「賃貸借契約(または転貸借の契約)など」の解除と「室の引渡し」は請求できる。

     これには、

  ★要件:

     @義務違反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しい

     A他の方法では共同生活の維持が困難

   なときは、集会の区分所有者および議決権の各4分の3以上の特別多数で決議し、借りている基になっている「賃貸借契約」などの解除と「室の引渡し」は請求できる。(第60条2項――>第58条2項)

 ★決議にあたっては、問題の占有者に弁明の機会を与えること。(第60条2項――>第58条3項)

    *占有者に弁明の機会を与えればよくて、区分所有者(持主)には、弁明の機会を与える必要はない。

{判例}
  区分所有法60条に基づき占有者に対する引き渡しを請求するため、集会決議において、共同の利益に反した場合の賃貸借契約解除等の訴訟提起に当たり、占有者に対して弁明の機会を当たえれば足り、賃貸人である区分所有者に弁明の機会を当たえる必要はない。(最高裁;昭和62年7月17日)

 その理由は、原審(東京高裁判;昭和61年11月17日)によると、
 「弁明の機会は違反者たる占有者に与えれば足り、違反行為者でもなく、 排除の対象者でもない区分所有者に弁明の機会を与える必要はない」と述 べている。

*参考の考え方;
 区分所有法60条は、占有者である賃借人に弁明の機会を与えればよいことになっています。しかし、実際上は、賃貸人(区分所有者)も賃貸借契約が解除されることによって、賃料収入を失う等の不利益があり、賃貸人に弁明の機会を与える必要があるとの考えも成り立ちます。
 なお、本件は、暴力団の組長が正当に借りていた室から、管理組合が追い出しに成功した事例です。

 ★この請求も、前もって違反行為の停止(第57条4項)がうまくいかなかった後でなくてもいい。

   状況が許せば、すぐ引渡しの請求をしていい。

★この占有者に対する請求も、区分所有者に対する使用禁止や競売の請求と同じように、内容が権利関係に影響する厳しい内容なので裁判外では行使できない。

 また、裁判は管理者または指定された区分所有者が提訴する。(第60条2項 -->第57条3項)

★不法占拠者に対する処置
  ここで規定されている「占有者」とは、正当な賃貸借契約などに基づいた者です。
  正当な権限がなく、建物を使用している者(不法占拠者)に対しては、民法上の所有権に基づき、妨害排除請求権、妨害予防請求権、返還請求権などで、退去できます。
  この不法占拠者には当然「弁明の機会 」を与える必要はありません。

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第六十条

2項  第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、第五十八条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。

過去出題 マンション管理士 H16年、H14年、
管理業務主任者 未記入

★法人化されていれば、管理組合法人の名で理事が法人を代表して提訴するが、法人でない時には、管理者や指定された区分所有者が区分所有者全員のために提訴する。

  当然、判決の効力は区分所有者全員に及ぶ。(第57条3項)

<参照> 第57条3項:
 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。

★また、訴訟にするには、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の特別多数が必要で、(第58条2項)、義務違反をしている占有者に弁明の機会を与えなければならない。(第58条3項)

<参照> 第58条2項:  前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。

            ★特別に多数の賛成が必要で「特別決議事項」と呼ばれる。(その8の4-3)

<参照> 第58条3項: 第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。

            ★準用なので「当該区分所有者」を「当該占有者」に読み替える。

          問題を起している占有者にも、契約解除や室の引渡し措置は厳しいので、弁明させること。

(*)注意:この条文は、占有者が対象で、この決議(契約解除や室の引渡し)に際しては、占有者に弁明の機会はあたえても、義務違反をしていない区分所有者に弁明の機会を与える必要ない。{判例あり}

{判例}占有者に対する引渡し請求をするための集会決議で、その区分所有者に弁明の機会が不要とされた。

 区分所有法第60条に基づき占有者に対する引渡し請求をするための集会決議において、共同の利益に反した場合の賃貸借契約解除などの訴訟提起に当たり、当該区分所有者に弁明の機会を与える必要はない。(昭和62年7月17日:最高裁)

 このあたりが、出題のポイントとなる。

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第六十条

3項  第一項の規定による判決に基づき専有部分の引渡しを受けた者は、遅滞なく、その専有部分を占有する権原を有する者にこれを引き渡さなければならない。

過去出題 マンション管理士 H14年、
管理業務主任者 未記入

権原を有するもの...ある法律的行為または事実的行為をすることを正当とする法律上の原因を持っている人。この場合は、その専有部分(室)の区分所有者。

★裁判をして勝訴の判決を貰うと、原告=管理者(理事)または指定された区分所有者 に占有者は室を引き渡すことになる。

  引渡しを受けた原告は、賃貸人(その専有部分を占有する権原を有する者=区分所有者)に、遅滞なく、室を引き渡す。

★どうして、直接「その専有部分を占有する権原を有する者」に引渡しを規定しなかったのか?
  占有権原者がこの引渡しを怠ることが想定され、その場合には、占有者の排除が出来なくなるので、という。

<参照>民事執行法第168条 (不動産の引渡し等の強制執行)
第百六十八条  不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
2  執行官は、前項の強制執行をするため同項の不動産等の占有者を特定する必要があるときは、当該不動産等に在る者に対し、当該不動産等又はこれに近接する場所において、質問をし、又は文書の提示を求めることができる。
3  第一項の強制執行は、債権者又はその代理人が執行の場所に出頭したときに限り、することができる。
4  執行官は、第一項の強制執行をするに際し、債務者の占有する不動産等に立ち入り、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができる。
5  執行官は、第一項の強制執行においては、その目的物でない動産を取り除いて、債務者、その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業者で相当のわきまえのあるものに引き渡さなければならない。この場合において、その動産をこれらの者に引き渡すことができないときは、執行官は、最高裁判所規則で定めるところにより、これを売却することができる。
6  執行官は、前項の動産のうちに同項の規定による引渡し又は売却をしなかつたものがあるときは、これを保管しなければならない。この場合においては、前項後段の規定を準用する。
7  前項の規定による保管の費用は、執行費用とする。
8  第五項(第六項後段において準用する場合を含む。)の規定により動産を売却したときは、執行官は、その売得金から売却及び保管に要した費用を控除し、その残余を供託しなければならない。
9  第五十七条第五項の規定は、第一項の強制執行について準用する。


{設問-1}甲マンションの区分所有者Aの管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」という。)の滞納が極めて長期間にわたり、かつ、多額に達し、今後生ずる管理費等についても支払う意思がみられない。この場合における次の記述のうち、区分所有法、民法及び民事執行法の規定によれば、正しいのはどれか。

 1 Aの管理費等の滞納が原因で、建物の修繕に重大な支障が生ずるような状況に至っている場合は、この滞納は、建物の管理に関し区分所有者の共同の利益に反する行為に当たる。

答え:正しい。滞納を含め、原因の如何を問わず、建物の修繕に重大な支障が生ずるような状況は共同の利益に反する。(区分所有法第6条1項)。

2 Aの滞納管理費等を回収する為の先取特権は、共益費用の先取特権とみなされ、Aの総財産の上に行使することができる。

答え:間違い。先取特権については、区分所有法第7条2項により、「前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。」により、前半は正しい。
しかし、後半は、同第7条1項「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。」
とあり、Aの総財産ではない。後半が間違い。

3 Aの滞納管理費等を回収するため、区分所有法第59条の規定により区分所有権及び敷地利用権の競売を請求する為には、これに先立って、Aの専有部分の使用禁止の請求をしなければならない。

答え:間違い。区分所有法第59条は使用禁止が前提の権利ではなく、直ちに競売請求ができる。

4 区分所有法第59条の規定による強制競売は、Aの区分所有権及び敷地利用権の最低売却価額で滞納管理費等を回収できる見込みがない場合は、することができない。

答え:間違い。区分所有法第59条の競売は、問題区分所有者の排斥を目的とし代金回収を目的としないから最低競売価格の制限はない。(民事執行法第63条)

正解:1

(注:この選択肢4の設問は、{判例}大阪高裁:平成14年5月16日
   1.滞納額は、金額と期間の双方において著しいものがあり、区分所有法6条1項の共同利益背反行為に該当する。が
   2.専有部分の使用禁止と滞納管理費の支払とは、直接的な関連性がない、
   3.専有部分の使用禁止により、滞納管理費などの支払が促進されるものではなく、他の区分所有者に何らかの利益がもたらされるものではない、
     により、専有部分の使用禁止はできない。

と、すこしばかり、矛盾する。設問としてよくない。また、最近の判例では、競売しても滞納管理費の回収ができない時は(無剰余)、することができない考え方もある。判決もまだ統一されていない。)


{設問-2}平成14年 マンション管理士 問6

〔問 6〕 暴力団甲組の組長Aは、乙マンションの207号室を所有者Bから賃借し、居住していたが、対立する暴力団との抗争が激化し、Aが同室を甲組の指揮本部として使用したため、襲撃の目標となり、銃弾が打ち込まれるなど緊迫した雰囲気となった。この場合に関する次の記述のうち、区分所有法及び民法の規定並びに判例によれば、誤っているものはどれか。

1 AB間の賃貸借契約で、207号室をAが暴力団事務所として使用しない旨が約されている場合には、Bは、この賃貸借契約を解除することができる。

答え:正しい。 民法第616条により準用される民法第594条「借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
   2項  借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
   3項  借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。 」とあり、
第1項及び第3項によると、借主は、契約によって定まった用法に従って使用しなければならない。この義務に違反した場合、貸主は、賃貸借契約を解除することができる。よって、本肢は正しい。

2 乙マンションの管理者Cは、集会で決議をした場合には、Aに対し、訴えをもって賃貸借契約の解除を請求することができる。

答え:正しい。  建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法という。)第60条第1項は、「第57条第4項に規定する場合において、第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる。」と定める。
そして、第60条2項により、第57条3項「 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。 」が準用されているので、管理者Cは、集会の決議があれば、Aに対して、賃貸借契約の解除を請求できる。
暴力団抗争の舞台となっている以上、他の方法によってはその障害を除去して共同生活の維持を図ることは困難であり、集会の特別決議により、管理者Cは訴えをもって賃貸借契約の解除を請求ができる(最判平6・3・25)。よって、本肢は正しい。

3 乙マンションの107号室を店舖として使用するDは、集会の決議がなくてもAの行為により被った営業上の損害を賠償すべきことを、単独で、Aに対し請求することができる。

答え:正しい。  組長Aが同室を甲組の指揮本部として使用するという「故意・過失」行為により、襲撃の目標となり、銃弾が打ち込まれるなど緊迫した雰囲気となっているので、Dに損害が生じた場合、Dは、Aに対して不法行為に基づく損害賠償請求(民法第709条)ができる。この請求はDとAとの間のことであるから、単独で請求できる。よって、本肢は正しい。

4 乙マンションの管理者Cが原告となってAに対し207号室の引渡しを訴求し、これを認容する判決が確定した場合には、その執行は、直接Bに同室を引き渡させるものとなる。

答え:間違い。 区分所有法第60条第3項は、「第1項の規定による判決に基づき専有部分の引渡しを受けた者は、遅滞なく、その専有部分を占有する権原を有する者にこれを引き渡さなければならない。」と定める。本問において、管理者Cが原告となりAに対し207号室の引渡しを訴求し、これを認容する判決が確定した場合には、その執行により原告管理者Cが同室の引渡しを受け、その後、Cは、所有者Bに対し同室を引き渡さなければならない。直接Bに引き渡しではない。

正解:4

◎まとめ
第57条(行為の停止)、第58条(使用禁止の請求)、第59条(区分所有権の競売請求)、第60条(占有者に対する引渡し請求)の関係。

◎ 義 務 違 反 者 に 対 す る 措 置
条文 内容 対象 裁判 訴えの決議 弁明の機会
第57条 行為の停止 区分所有者、占有者 外、上 過半数(普通決議) 共に与えなくていい
第58条 使用禁止 区分所有者 3/4以上(特別決議) 区分所有者に与える
第59条 競売 区分所有者 3/4以上(特別決議) 区分所有者に与える
第60条 引渡し 占有者 3/4以上(特別決議) 占有者に与える

ページ終わり

謝辞:Kzさんの了解により一部転用・編集をしています。

最終更新日:
2010年6月20日:第60条を加筆
2010年6月20日:第59条までをちょろちょろと加筆
2010年1月23日:H21年の出題年を記入
2009年6月23日:段落程度の加筆

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