[日記]
■ 2006.08.05 「……うるさいわね。そんな大声出さなくたって、ちゃんと聞こえてるわよ。 なによ、急に呼び出して。前々から思ってたけど、アンタってなんでそんなにヒマなの? あたしにはあたしなりにいろいろと都合があるんだから、アンタの事情だけでそんなの、適当に付き合わせないでよね! で、今日の用事は何なの? さっきも言ったけどあたしは忙しいんだから、とっとと早く言いなさい。これでもし大した事ない話だったら、承知しないわよ!! ……なんてね。アンタがあたしに連絡をくれるときって、だいたいアレしか無いわよね。 あーあ、自分でもつくづく思うわ。あたしって本当に古風で淑やかで、人望も厚くて端整な細面で、他人想いのいい女よね。 アンタから好き勝手にアゴで使われても、見返りなんかこれっぽっちだって求めないで尽くし続けてるんだから。 ……べ、別に、何か期待してるわけじゃ無いんだから! 勘違いしないでよね! そんなんじゃ、全然ないんだから!! そりゃ、ちょっとは優しい言葉とか、ほしいけどさ……。 ん、なに? ……ああ、ご、ごめんなさい!! も、もういい加減にしてよ! さっきから何度も言ってるけどあたしはあたしで忙しいんだから! どうせ用事はアレなんでしょ、だったらとっとと済ませるわよ!! それじゃ言うわ。アンタは今、ラダトーム城から南に71歩、西に33歩の場所にいる。ホラ、これで満足? 最後に一応、言っとくわよ。あたしはアンタの事なんて、全然気に掛けてないんだから。ホントだからね!!」 ---------- ところで、ネット界隈で目にするツンデレのテンプレートってアッパー系のそればっかりで、ダウナー系は滅多に見当たらないからちょっと不満。 ---------- 「――恵み深い、風の匂いがする。 ごめんなさい。貴方の音、さっきまで聞こえなかった。遠くで、風が鳴いてたから。 共鳴してる。揺れ動いてる。ざわざわしてるの。だから、音が聞こえづらい。 ――はい、できた。 たぶん、波動のせい。海を隔てた向こう側にいるあいつの力が、厭になるくらい蔓延ってる。乱れて汚くて、根元から崩れてる混沌の渦。 こうなって、初めて気付いた。現世って煤けてよく視えない。湿った洞窟の奥深くで、じっと身を屈めて生きてた頃のほうが楽だった。わたしを閉じ込めてたあの竜だって、この城で暮らしてる人なんかよりよっぽど純潔で、簡明だった。王様も大臣も兵士も複雑で難しい。理解なんてしようとも思えない。 結局、わたしはどこにも開いてなくて、ざりざりと心を揺蕩わせて逃げ場を失ってるだけ。それを知るのは怖いし、知って傷つくのはもっと怖い。これで、わたしを絶対に守ってくれる人がいるって分からなかったら、わたしは死んでしまうかもしれない。 だから、わたしはこうして距離を呟く。 南に56歩、西に71歩。これが、わたしと貴方との距離。ずっと遠い。けれど――。 わたし、安心してる。貴方となら、ずっとずっと繋がっていられると確信できる。 ――助けてくれて、ありがとう」 ---------- よし。 |
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