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第524話:道は交わる

作:◆eUaeu3dols

――Side|奇妙な一行

「しかし人生とは不思議なものだと思わんかね。
 一度別れてもまた出会うこのUターンっぷりは正にブーメラン。
 つまり忙しなく行ったり来たりするのに一向に進みやしねえという事だな」
「……うるせえ」
煩げに手を振って追い払おうとしても人精霊はひょいと離れてまた戻る。
「おお、今の俺様ってブーメランっぽいこれ正に人生の体現者。
 これが哲学というやつだな、うむうむ」
「やかましいうっとうしいよって早急に黙りやがれ!」
オーフェンは人精霊をがっしり鷲掴んで力いっぱい遠投した。
「あーれー」
気の抜ける声と共に人精霊は星になった。
どうせまたすぐに出てきそうな気はするが。
そう考えると、どっと肩に疲れがのしかかる。
過労だ。
「…………なんでこう俺の周りにはろくな奴がいねえんだ」
「ふむ、それはやはり類は友を呼ぶというやつではなかろうか。
 安心したまえ、ここに私という常識人が現れた。
 さあ遠慮無く私を称えたまえ! 佐山御言万歳と!」
すごく、挫けそうになった。

「えーっと……大丈夫?」
「あ、ああ、ありがとう、大丈夫だ」
宮下藤花が掛けた労りの言葉にオーフェンはようやく安堵の溜息を吐く。
しかし即座にハッとなり、表情を真剣に引き締めた。
「……一つ訊いていいか?」
「なに?」
「あんたは夜中にべんとらべんとら唱えながら踊ったり無意味に破壊活動に走ったり
 脈絡もなく天上天下唯我独尊とか言い出したりしないよな!?」
「しないわよそんな事!」
それを聞いてオーフェンは今度こそ安堵の溜息を吐いた。
「……久しぶりにまともな奴に出会えた」
オーフェンに降り注ぐ視線が深い哀れみを含んだのは当然の事だと言える。

「そうなんだ。あなた達、前にも一度会った事が有ったのね」
「ああ、もう半日近く前になるな」
「一悶着有って別れてしまったがね」
オーフェンと佐山は何事もなく言葉を交わす。
先ほどまでの奇人っぷりはなりを潜め、しかし親しみすぎもその逆も無い。
少しだけ距離を置いて歩きながら、言葉を交わし互いを知り始める。
「その様子を見ると小早川嬢からは逃げきれたようだね」
「ああ、なんとかな」
「では、私の残したメモも見つけたかね?」
「いや。だが、マジクの事なら見つけた」
「そうか。なら構わない、その事だったのでね」
少しだけの間。
「そっちはどうなんだ? 連れが代わってるようだが」
「ああ、詠子君なら……少し、はぐれてしまってね。
 まだ生きてはいるはずだが、見つけたら是非とも報せてくれたまえ」
「判った」
返答をし、また間。
「それで、あんたらはこれからどうするつもりだ?」
「うむ、まずはE−5の小屋に向かう予定だ。
 その後は教会見物の後にマンションへ行く予定だが、君もどうかね?」
少し考える。
クリーオウを捜すつもりだったが、アテは無い。
それに小屋は0時とはいえギギナと待ち合わせている場所で、
教会は6時の放送で呼ばれた宮野やしずくが向かった場所だ。
気にならないと言えば嘘になるだろう。
「マンションに行く予定は無いが、教会までなら一緒に行っても良い」
「良し、では共に向かうとしよう。行こう、皆の者」
「あ、うん」
藤花も頷き、歩き出そうとしたその時。
「おや待ちたまえ。これは良いタイミングだ」
バイクの音が響き、佐山は無表情に両手を広げた。
「……なんだ、この音は?」
「はぐれていた仲間の一人と感動の体面だよ。やあおかえり、零崎君!」
「ひゃははは、うまく再会できるもんだな! ただいまだ、佐山!」
バカ笑いと共にそこに現れたのは、帰還した零崎人識だった。
「イチジク果汁の想いだね」
「それを言うなら一日千秋だろう。なかなか愉快な物に乗っているね」
喋るモトラド、エルメス付で。

     * * *

――Side\大集団

マンションの一室で、メフィスト医師は自らのバクテリアを除去しようとしていた。
バクテリアの除去と一言によってもそれは容易い事ではない。
普通なら熱い風呂に入り衣服を熱湯消毒すれば大抵のバクテリアは死滅する。
しかしそれは普通のバクテリアだ。
魔界都市に居るバクテリアを思い返せば、高熱も低温も確実とはいえまい。
ならばそれよりも確実な手段とは何か? それは。
「………………」
メフィストはじっと見つめていた。更衣用の人がすっぽりと映りこむ大鏡をだ。
その中に映るのは自らの姿。
すなわち、文字通り月をも魅了する人外の美である。
メフィストは自らの美によってバクテリアを魅了しようとしているのである!
それは常識的に考えれば有り得ない光景だ。
しかしその美は常識の枠外に有る。
非常識に当てはめれば起こりえない方がおかしいのだ。
果たしてメフィストの体から、衣服から、微細な粉末が零れ落ちていくではないか。
こうして石油製品を溶かすバクテリアはメフィストの肉体から除去されたのである。
「……なんだかよく判らねえけどすげえな、あんた」
竜堂終が感嘆の声を上げた。
終にはメフィストが鏡と見つめ合っているとバクテリアが除去されたとしか判らない。
いや、本能的にはその美貌がバクテリアを除去したという事を理解させられているが、
彼にも少し位は有る常識や、その他の理性、感情などがそれを理解していないだけである。
「なに、大したことはない」
そう言うメフィストは、実際機嫌が良いわけではなかった。
(予定よりも随分と時間が掛かった。
 これはつまり、容貌すらも『制限』されていると考えるべきか)
一体何をどうすればそんな事が出来るかはメフィストでさえ見当がつかない。
正確には全く手段が無いわけでは無いが、『制限』がどれか判断出来ないのだ。
そしてもう一つ、メフィストには気がかりな事が有った。
「ところで竜堂君、あの鏡を見たまえ」
「なんだよ?」
「何か気になることは無いかね?」
そう言われて終はじっと鏡を見つめた。
映っているのは自分とメフィストだけ。他の者は別の部屋に居る。ただのマンションの一室。
「……なにも無いと思うぜ?」
「そうか。では私の気のせいだったようだ」
そう、気のせいなのだろう。
メフィストにのみ見える“鏡の向こうに立っている秋せつらの姿”は。
『鏡は水の中とつながっていて、そこには死者の国が在る』
(少なくとも今はまだ……幻だ。何の根拠も無い)
例えば彼に対する『死んだのではないか』という一抹の不安が呼んだのかもしれない。
秋せつらの死を証明するものとも言えない、はずだ。
メフィストは一度目を閉じ、意識を、精神と肉体を整えて、開いた。
水面に映る像の如く、儚い“幻”は消えていた。
「では予定通り、次は君のバクテリアを除去するとしよう。私と見つめ合いたまえ」
「……遠慮していいか?」
「バクテリアが付着したままで良いのならね。
 それと、君は目を瞑っていても構わない」
終は渋々とメフィストと対面になる椅子に腰掛け、腹立たしくも目を瞑った。
謎の『制限下』にあっても彼の美貌を直視し続ける事は刺激が強すぎる。
そして、治療が始まった。


「君は治療を受けなくて良いのかい?」
「終の治療の後で良いわ」
ベルガーの言葉に答えるダナティア。
「あたくしは一応、代わりの服も手に入れているもの。
 彼は……まあ、あの頑丈さなら実用的な意味ではそれほど重要じゃないわね。
 それでもいつまでも半裸だなんて見苦しいわ」
「バクテリアに溶かされない服は手に入らないのか?」
「どうやらこの島で調達できる衣服はバクテリアに溶かされる材質が多いようだわ。
 捜せば有るでしょうけど、期待は出来ない」
おそらくは支給品の一つとして、こんな悪趣味なバクテリアが用意されているのだ。
最悪、島に置いてある服は全て溶ける衣服かもしれない。
「まったく持ってタチが悪いな」
「まったくだわ」
ダナティアは“話しながら何かを記していた紙”をベルガーに向けて押しやる。
ベルガーは頷き、ダナティアが直接触れた鉛筆を避けて紙だけを受け取った。
話を打ち切りベルガーは席を離れる。
偉大なる叡智を持ちしメフィストの刻印研究。
陰陽道の観点から魂と魄を含めた保胤による刻印考察。
得体の知れない黒幕と出会ったダナティアによるメモ。
ごたごたして最後を読んでいないが、坂井悠二のレポートも有った。
ベルガーはリナに新しい紙とこれまでの紙束を手渡した。
リナは頷き、それを受け取った。
(ここにこのあたし、天才魔導師リナ・インバースが推察やらの一筆を加えてやるわ。
 刻印ってのがどれ程の物だろうとこれだけの知恵者が集まれば……)
刻印を解除できればゲームのシステムそのものに刃向かう事も可能になる。
明確に仇と判っているあの“管理者ども”を殺せる。
復讐の情熱を持って現時点のレポートを眺め見て……
「………………っ」
げっ、という声を辛うじて押し殺した。
リナの知っている知識から新たな推測を立て書き加える事自体は難しくない。
だが、問題はその後だ。
今のところ集まった研究や推測の内容は多種多様過ぎて、しかも異世界の理論が絡んでいる。
これを理解して纏める事は容易ではない。
苦虫を噛み潰した気分で顔を上げると、レポートを覗き込んでいた海野千絵と目が合った。
千絵はそっと紙に書き加えた。
『手伝うわ』

ベルガーは彼女達が筆談を始めるのを見て、ひとまず元の位置に戻る。
ダナティアが目を瞑り眉を顰めているのに気がついたからだ。
「どうした?」
ダナティアは答えた。
「来客だわ」

     * * *

――Side|奇妙な一行

森の中の、山小屋。
しばらくどたばたした自己紹介の末、佐山達はその場所に辿り着いていた。
そこに見つけたのは……一つの遺体。
片目を穿たれて動かなくなっている少女の姿だった。
「…………ここで死んだ、か。どういう事だろうな、これは」
「知り合いかね?」
「ああ、すぐに別れちまったがな。さっきの放送で呼ばれたしずくって娘だ」
答えるオーフェンも怪訝な様子だった。
宮野としずくが死んだとすればそれは教会だと思っていた。
こんな場所で死んでいる事は予想の外だ。
「……兵長に聞けば良い話か」
「兵長? 誰だそりゃ?」
零崎の疑問を無視してオーフェンは近くに転がっているラジオに歩み寄る。
……そして沈黙。
「……眠ってるのか? 幽霊が死んじゃいないだろうが……どうすれば良いんだ、これは」
「ああ、それはラジオという物だオーフェン君。そこのスイッチを押したまえ」
「スイッチ? ああ、これか」
オーフェンはラジオのスイッチを上げ……その瞬間、寒気を感じた。
すぐ鼻先に迫っている破滅的な予感。
(ヤベエ!!)
咄嗟にラジオを放り投げたのと空気が爆発したのは同時だった。

     * * *

――Side/光明寺茉衣子

視界が揺れる。
薄闇の中、蛍火が足下を照らす。
それは暗闇を歩くにはあまりにも頼りない。
現にもう何度も躓いて転んでしまった。
愛用の黒いドレスは泥に汚れて見る影もない。
それでも彼の衣服が汚れるよりはマシだろう。
真っ白な白衣は汚れが一際に目立つ物なのだから。
既に真っ赤な染みで証明された事だが、これ以上に証明したくはないと思った。
(……まったく。重いですよ、班長)
既にもぬけの殻になっていた教会に辿り着いた彼女は、
嵩張るデイパックの中身を放り出して宮野秀策の遺体を詰め込んでいた。
少し失敗したせいでファスナーが閉じきれず、溢れた腕がぶらぶら揺れる
彼は長身な上に案外としっかりした体格の少年であり、
それよりも僅かに年若い少女が持ち歩くにはあまりに重すぎた。
デイパックに入れて滑らせ引きずるようにして持ち運んでも、なお過重だ。
よろめき、ふらつき、ぬかるみに足を滑らせ湿った地面が目前に迫る。
それでも彼の入ったデイパックを庇うから、受け身も取れずに叩きつけられる。
何度も何度もそうやって彼の“世話”を焼きながら、夜道を歩き続けた。
目的地は決まっていない。
今のところ禁止エリアにならない場所ならどこでも良い。
出来れば簡単な形で良いから埋葬をしてやりたかった。
(13時に禁止エリアとなったのがここから南のE6エリア。
 19時の禁止エリアに指定されたのが1kmほど東北東のC8エリア。
 確か、小屋を出た時にはもう19時を過ぎていましたね。
 そして今居たD6エリアは、23時からの禁止エリアに指定されている)
道なりに歩き続けたからもうC6エリアに入っただろう。
この辺りは禁止エリアが密集している。
流石にこれ以上、禁止エリアに指定される事は無いと思いたい。
というよりこれ以上はとても持ち運べない、どこか埋葬出来る場所はと見回して――
「――墓碑」
すぐに認識を訂正する。
それはマンションだ。5棟も寄せ合ってそびえ立つコンクリートの塊。
だが見立てによっては墓碑にも見えた。
その前には緑地も有る。
ふらふらと近寄る。あそこなら良いとそう思って。
すると、その緑地に本当に、幾つかの墓碑が並んでいる事に気が付いた。
ごく簡単な埋葬だ、きっと参加者によるものだろう。
ここはまさに、墓場だった。
「……本当に、ここなら丁度良いのでしょうね」
茉衣子は立ち止まると、水を吸った柔らかい土を手で掘り返し始めた。
土を手で掘り返すなんて見苦しいと思うのに、それでもそれをやめる気にはならなかった。

     * * *

――Side\大集団

「来客だって?」
部屋が僅かにざわめく。
「ええ、そうよ。マンションの玄関口に少女が一人、居るわ。
 黒いドレス、黒い髪に黒い瞳……心当たりは?」
皆、首を振る。
「何をしようとしているんだ?」
「デイパックから腕がはみ出ているわ。埋葬をしようとしているのかしら?
 中身は……白衣に割としっかりしたそこそこの長身、顔は……」
並べる特徴に、コキュートスが答えた。
「その少年なら出会った事が有る」
「それは何時? アラストール」
「早朝だ。小早川奈津子に追い回された」
「………………」
情景が目に浮かぶようだった。
「とにかく……埋葬を手伝いに行くわ。
 頭数は不要だし、力仕事が出来るのが一人居れば十分だけれど……」
ダナティアは立ち上がり、部屋を見回す。
メフィストと終は別室でバクテリアの除去を行っている。
リナと千絵は刻印について筆談をしていた。
保胤と志摩子は何かを真剣に話していた。絆が深まるならそれは良い事だろう。
手持ち無沙汰にしていたセルティが手を挙げる。
「……ベルガー、頼めるかしら」
「ああ、構わないが……」
『わたしは駄目なのか?』
素早く綴られたセルティの字に、ダナティアは首を振る。
「彼女、あまり落ち着いた精神状態とは見えないわ。
 出来れば警戒させないようにしたいの。
 ……埋葬しようとしている死体も、首を刎ねられている物だし」
『――――判った』
歯痒く伸びた線の末に了解の意を示す。
わざわざ良い場所に運んで埋葬しようという、おそらくは大切な人が死んだ姿。
そんなものと同じ姿がのこのこ歩いて現れれば精神的な被害は甚大だろう。
「連れて帰る可能性も有るから、悪いけど頭が有るように偽装しておけないかしら?
 普段もその姿だったの?」
『普段はヘルメットを被っていた。開始前に取り上げられてしまってね』
セルティは肩をすくめた。
シャナと初めて出会った時も、彼女が元の世界で戦っていた怪物共と誤認されてしまった。
セルティはそれを気にしなかったが、シャナはそれを気にしていたようだ。
そういった事が無いようにどうにかした方が良いとは思うのだが、良い方法が……

………………あ。

とてつもなく簡単な方法が有る事に気が付いた。
考えてみたら影でヘルメットを作れば良いだけの話だ。
幾らこの島では消耗が激しいとはいえ、その位の物ならどうにでもなる。
(まったく、間が抜けた話だ)
首が有れば自省の溜息を吐いていただろう。
「何か手が有るならお願いするわ、やっておいてちょうだい。
 それじゃベルガー、同行してもらうわよ」
「ああ、判った。行こう」
そしてダナティアとベルガーは部屋から出ていった。

     * * *

――Side|奇妙な一行

一方、森にある小屋の中で、オーフェンはぼんやりと目を開けた。
「あ、起きた。ちょっと、あなた大丈夫?」
少女がオーフェンを覗き込む。
心が落ち着く。体の調子と周囲の状況を確認する。
大丈夫、手足は動く。少し脳震盪を起こしただけのようだ。
何が起きたかは判らないし頭痛も有るがその程度で……

『おーふぇんは おきてくれた よかった』
佐山の手にある割り箸から声が聞こえた。

『ゲンキ ウレシイ』
佐山の居る壁際に立て掛けられた槍のコンソールに文字が浮かんだ。

「さっきはワリィ、してやられちまった」
ラジオから浮かび上がる幽霊、兵長が喋った。

「おかわり良ければ全て良しだね」
小屋の中に入れてあるバイクが喋った。

「世の中なにが起きるか判らんってもんだね、うむ、不思議な不思議だ。
 むむ、不思議が不思議って事は不思議でないのが普通なのかそれとも……
 まずなによりまた俺をくわえているこのケダモノに訊きたいのだが何故だろうか」
何故か草の獣がくわえていスィリーがいつものようによく判らないことを言い出す。

オーフェンはその全てをじっくりと観察する。
しばらく考えて、確信を持って結論を出した。
「…………幻覚が見えて幻聴が聞こえる。もう五分寝かせてくれ」
「大丈夫かねオーフェン君。そういう時は私のありがたい話を聞いて目を覚ましたまえ」
「ヒャハハハッ、また眠くなっちまうぜ!」
「安心したまえ私のありがたい話はとても面白みに満ちていると一部で大人気だ!
 まずはこの私、世界の中心たる佐山御言の生まれについて文庫本一冊程度で――」

…………………………………………なんなんだこの人外魔境は!?

     * * *

――Side×大集団&光明寺茉衣子

「おいおい、誰か来たぞ」
エンブリオの声に視線を上げると、少し前方に一組の男女が立っていた。
(これほど近寄られるまで気が付かなかったのですね)
当然だった。彼の埋葬しか考えている事は無かったのだから。
「あなたは黙っていなさい」
「はっ、仕方ねえな」
エンブリオに言い含め、茉衣子は彼らを観察する。
もし彼らが高い戦闘能力を持つ過激な敵対者なら、何も出来ずに殺されるだろう。
そうでない事を祈り、死にかけの瞳で問い掛ける。
「あなた達は?」
二人は答えた。
「ダウゲ・ベルガーだ」
「ダナティア・アリール・アンクルージュよ」
二人は続けて言った。
「手伝おう」「手伝うわ」
目的は判らなかった。
ただ、たとえその目的が自分の利用であったとしても仕方がない事だと思った。
「……お願いします」
だから光明寺茉衣子は、素直に手を借りて埋葬を再開した。

     * * *

――Side|奇妙な一行

「それじゃこれはあの、光明寺茉衣子がやったのか?」
「ああそうだ。あいつがしずくを殺しやがった」
しずくの遺体は整えられ、部屋の壁にそっともたれていた。
瞳を閉じて、まるで眠っているように。
兵長は語る。
「……凶器はなんだね?」
佐山が問う。
「エンブリオだ。といっても判らねえだろうな。……変な、喋る十字架だ。
 そいつでしずくの目を貫いた」
「……なんでだ?」
オーフェンが問う。
「逆恨みだ。あいつは……宮野が殺された事を恨んでいる」
「宮野を殺したのは別の奴だろう?」
更に問いを繰り返しながらも、もう判っていた。
「だから逆恨みなんだよ。
 あいつは宮野が死んだ原因も、原因のそのまた原因も憎んでやがる」
そう言ってから兵長は少し考え、訂正した。
「……いや、違うか。あれは恨みなんかじゃねえな。
 あいつは正当な代価だと言った。しずくが生きている事が疑問だと。
 あいつをここまで運んできたのはしずくだったってのに、それさえも関係無くだ」
それはもう正常な判断ではない。
その事を皆が認識した。
それはもう――コワレテイル。
沈黙。静寂。重苦しい、間。
………………。
オーフェンが口を開いた。

「それで……あいつはどこに向かったんだ?」

     * * *

――Side*大集団&光明寺茉衣子&奇妙な一行

宮野秀策の埋葬はすぐに終わった。
シャベルになる物くらい、マンションには幾らでも有ったのだ。
茉衣子はただ形式のように祈りを捧げた。
心は空っぽで想いは湧いてこなかった。
それから礼を言う。
「ありがとうございます。助かりましたわ」
これで光明寺茉衣子が出来る事はもう終わったと言ってもいい。
本当はまだ生きなければならない。
いや、もしかすると死ななければならないのかもしれない。
それなのに烏滸がましくも生きたいと思っているだけだ。
その思いさえも諦めて、生き残れないと考えているだけなのだ。
「あなたはこれからどうするつもりかしら?」
「別に、アテはありませんわ」
「それなら……あたくし達に協力してもらえるかしら」
「協力……?」
だから。
「あたくし達と共に生き延びようとする。誰も傷つけずに。最初はそれだけで良いわ」
そんな言葉を聞いた瞬間には、理解すら出来なかった。
「まずは一緒に来なさい。風呂と適当な着替えくらいは用意できるわ」
茉衣子は戸惑い、やがてゆっくりと頷いた。
ダナティアは頷き、そしてベルガーと言った。

「さて。それじゃ、あなた達は何の用かしら?」
「追いかけっこの続きでもするつもりか?」

二人の言葉に、闇夜の向こうから答えが返る。
「いや、話し合いだとも。もう一度ね」
足音と共に夜闇の向こうから現れたのは、佐山達とオーフェンの一行だった。

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第511話 海野千絵 第525話
第511話 リナ 第525話
第511話 セルティ 第525話
第488話 ブギーポップ 第525話
第520話 藤堂志摩子 第525話
第520話 慶滋保胤 第525話
第488話 佐山御言 第525話
第507話 光明寺茉衣子 第525話
第511話 ベルガー 第525話
第486話 零崎人識 第525話
第511話 竜堂終 第525話
第511話 メフィスト 第525話
第488話 オーフェン 第525話
第511話 ダナティア 第525話