作:◆eUaeu3dols
「どういう事だよ、ダナティア!?」
竜堂終はダナティアに詰め寄った。
ダナティアはそんな竜堂終を正面から見つめて。
「ごめんなさい、竜堂終。少し、利用させてもらったわ」
素直に謝った。
意外な対応に怒気を削がれながらも問いつめる。
「……利用って、どういう事だよ」
「言ってみれば、放送の演出よ」
ダナティアは舞台裏を語る。
「打ち合わせ無しでああいう事をやると、あなたは必死になるわ。間違いなく」
「そりゃそうだけどよ……」
「本気だと思って行動する人が欲しかったのよ」
「………………」
「悪かったとは思っているわ」
そう言って頭まで下げられると、終としては何も言えない。
「……判ったよ。仕方ないんだろ」
「ええ、そうよ」
終は怒りをぶつけるのはやめた。
ダナティアは、本当は更に一歩踏み込んで考えていた。
竜堂終は昼間の放送の事を気に病んでいるはずだ。
鳥羽茉理の事を思いだし、その悲劇の再来を防ぐために必死になる。
それはこれ以上無いほどの本気の言葉となるだろう。
その本気は放送に乗って島に響きわたる。
「だけどそれじゃ、こいつの……」
「ダウゲ・ベルガーだ」
「ベルガーの銃撃、本気じゃなかったっていうのか?」
「そんなの決まってるじゃない」
ダナティアは当たり前だと答える。
「本気で撃たせたに決まってるでしょう」
「正気かよ!?」
「それは俺も言ったよ」
驚く終と呆れるベルガー。
ダナティアに言わせればその位は当然だったのだが。
ダナティアは本気だった。
あの演説に騙しは有ったが演技はなかった。
単に撃ち始めるタイミングを決めておいただけだ。
風の守りとUCAT防護服の強固な防御力が有ればそう簡単に死にはしない。
もちろん当たり所が悪ければ死んでいたかもしれない。
しかし死を利用して人を駆り立てるなら、自身も命の一つくらい賭けなければ気が済まない。
そして話にもならない。
「一発だけ銃弾が当たったが、骨折などはしていない」
ダナティアを診たメフィストが言う。治療の必要は無いと。
「後は知っての通り、事前に打ち合わせた予定通りに進んだわ。
再確認をしようかしら。まずはリナが……」
「タイミングを見計らって、とっておきの大魔法で雲を散らしってわけね」
憔悴した様子で、しかし笑みを浮かべてリナが言う。
制限で大幅に威力が落ちていても、雲のような大量だが軽い物なら少しは吹き散らせた。
もっともこれでしばらくはろくに行動できないほど消耗してしまったわけだが。
(ま、仕方ないわ。どうせ気が滅入った状態で動いてもろくな事にならないんだし。
この機会にじっくり休んで……落ち着かないと)
リナは自らにそう言い聞かせる。
美姫に圧倒されたリナは自信を挫かれ、激しく動揺してしまった。
空元気で平気な顔をしてはいたが、空元気は空元気だ。
命を掛けた局面では、ほんの僅かな動揺が致命的な隙を生む事は想像に難くない。
だからしばらくは待機組に回る事になる事を選んだのである。
「その後のマンションの明かりは、セルティがやったのだったわね」
セルティは――勿論無言で――肩をすくめて見せる。
マンションの明かりを付けたのは彼女だった。
事前にブレーカーを落とし、一つ一つの部屋の電気をONにして回った後で、
再び真っ暗なブレーカー室で待機し、タイミングを見計らって“上げた”のである。
「演出はそんな所ね。
銃撃について黙っていたのは必要だったからだけれど、本当にすまないと思うわ」
少々派手にやりすぎた感は有るが、あまりに真に迫った放送がそれを否定する。
更に言うなら、極端な話バレてしまっても良いのだ。
例え銃撃が嘘だと思われても、そこまで真に迫った舞台装置を整えられるという事が
彼女の元に集った人々の力とその意志を証明するのだから。
『しかし随分と派手に明かりを灯したな。良いのか?』
「言ったでしょう? 影を作るにはあの位で良いのよ」
そして、その演出はそのまま策にも繋がっていた。
『明かりの漏れないように細心の注意を払った部屋』で彼女達は話を続ける。
煌々と全ての明かりが灯ったマンションは、隣だ。
午前中の放送で使われ、シズと鳥羽茉理が死に、かつて佐藤聖と海野千絵が潜伏したマンション。
そこに明かりを灯し、放送の舞台としていた。
「あちらで来客、こちらで潜む。窓口は判りやすくしておくものだわ」
人は多くなったが、庇護している光明寺茉衣子など隙も多い。
その隙を別に分けて隠しておけば、どちらにとっても安全性は増す。
地下駐車場を経由する事で外の人間に知られる事無く行き来できる五つのマンション。
それはある種の要塞だった。
吸血鬼であった時に海野千絵がここに潜む事を提案したのもむべなるかな。
更に透視を最大の得意技とし転移術も使えるダナティアが居る。
ここは正に彼女のフィールドと化していた。
「でもよ……そういえばどうして、仲間を集めなかったんだ?」
放送をすると聞いた時、終はてっきり参加者に集結を呼び掛けるのだと思った。
だから演説の内容は他の奴らに任せて、気にしてはいなかった。
しかし放送は強壮たる力と意志を見せつけ、同時に我々だけでもやり抜くと言い放った。
島中に放送を流して参加者に呼び掛けるなら、どうして集まれと言わないのか?
「力を見せつける事は必要よ。
出る杭を打とうとする奴らに対抗する為にはね。
『ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない』のよ。
この放送はルールには違反せず、ゲームの管理者に直接手を出す権限は無いわ。
だけど……」
「だけど『ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない』。
ゲームのプレイヤーならこの放送に手を出す権利を持っている。
つまり君はこの機会にゲームに乗った奴を誘き寄せて始末するつもりなわけだ」
軽快な言葉が場を緊張の極限に叩き込んだ。
「その為に余計な被害が出ないよう、仲間より敵が集まる演説を打ったわけだね。
やあ凄いな。流石はこれだけの大集団を集めてゲームと戦おうとする人間だ」
軽い調子で、しかし尊敬を含めた声色で横槍を入れたのは折原臨也だった。
武装解除を条件に受け入れられた“信用できない”セルティの知人。
武装解除の前に荷物は丸ごと一時預かりとなり、それにさえ同意した男。
それでもその言葉は信用できない。だがそれでも、ダナティアに視線が集まる。
――そういう意味なのか?
「穿ちすぎよ、折原臨也」
ダナティアはその疑惑をあっさりと切って捨てた。
「確かにさっきの放送でゲームに乗っている参加者、あるいはゲームを維持しようとする参加者が、
あたくしの命を狙い奪おうとするであろう事は想像に難くないわね。
午前中の放送の時にそうだったように」
終は鳥羽茉理の悲劇を思い出して体を強張らせる。
あんな事を二度と起こさせてはならない。
「だけどそういう輩が来るのはどんな演説を行っても同じ事よ。
それならまずは少しでも相手を絞りたいわ。
ここに来いと行ったらみんな集まってきてゲームに乗った者達と遭遇、殺し合いが加速しました。
なんて事になったら目も当てられなくてよ」
だがそれは完全な否定というわけではない。
「つまりゲームに乗った連中が来る事は想定済って事かい?」
「ええ、もちろんよ。
誰とでも話し合いはするけれど、来るのはゲームに乗ってない者の方が少ないかもしれないわ。
臨也、急いでいたけどあなたにも伝えていてよ。危険は有ると」
皆が頷く。
この放送の発案と実行の中心はダナティアだ。
だが、ダナティアは集団を強引に巻き込んで混乱と動揺を招くほど愚かではない。
ベルガーに自分を撃たせる事を一部に話していなかったりはしたが、それ以外は話し合った。
結果として、庇護対象に入る気絶中の茉衣子を除いた全員の同意を得る事に成功した。
殺し合いを止めるために。
親友を捜し、救うために。
あるいは前に向かって逃げる為に。
状況を進めながらも自らを整える時間を作るために。
保胤などから危険すぎるという論も有ったが、それでも結局は反対派が折れた。
……時間が無かったのかもしれない。
わずか18時間で人口が半減してしまったこの島は、一刻の予断すらも許さないのだから。
第四回放送の様子を見てからという予定さえも早める事になったのだ。
「でもあくまで、それが目的ではなくてよ。話し合えない相手はただの障害だわ」
障害は踏み潰して突き進む。
「あの演説が僅かでも確かな希望となるのに十分な、朝の放送が終わるまで。
それまでの間、あたくしは必ず生き延びてみせるわ。
あんな演説でゲームに喧嘩を売っても生き延びる者が居る事を証明してみせる。
恨まれても。そして、傷つけても」
このゲームに立ち向かう事が無謀ではなく勇気である事を証明する。
その為に自分が傷付くより誰かが傷付く方が嫌いなダナティアが宣言した。
午前6時の放送まで、どんな手段を使ってでも生き残ると。
* * *
「話は終わりよ。動きましょう。
まずは臨也の荷物から武器を取り上げて、装備の配分。
それから向こうに行く者とこちらに残る者の組分けよ」
「私とセルティさんがこちら、でしたね」
そう言うのは保胤だ。
(ヘルメットでマシにはなったが)外見の第一印象が悪いセルティと、
ゲーム開始当初から居て最も信頼できる保胤とのコンビを待機組の戦力として残す。
そう取り決めていた。
……シャナと静雄が戦い静雄を殺してしまった事は、まだ皆に話していない。
臨也にもまだ話すなとは言っておいた。
『何かあったらすぐに電話してくれ』
何事もないようにセルティが返答を書く。
動揺の様子を見せないしっかりとした字で。
「ええ、誰か来る度に携帯電話で連絡するわ」
……不安は有る。だがセルティを信じる事にした。
感情に駆られて暴走したりはしない事を。
静雄の死の責任を保胤に逆恨みしたりはしない事を。
「そうですね、出来れば交渉にも参加したい所ですが、こちらも重要です」
保胤も引き下がる。
志摩子の真意を探っておきたかったからだ。
もし彼女が能力を隠していて、そして保胤を恨んでいるとすれば……。
(……考えすぎだとは思うのですが)
保胤は既に疑心に捕まりつつあった。
組分けは続く。
「私は向こうだな。君のバクテリアも除去しなければならない」
「ええ、お願いするわ。メフィスト医師。それから……」
「ああ、俺と……」
「オレも行くぜ」
オレオレ詐欺のように連呼したがベルガーと終である。
「4人、これが限界かしらね。捜し人が来たらその時はそっちに連絡するわ」
これ以上は動きが鈍くなる。
それも保胤を残した理由の一つだ。
むしろあと一人待機組に残しておきたかった位だ。
「後は臨也の武装解除ね。
あたくしの透視によればまだ誰も来ていないけれど、あまり時間は無いわ。
さっさと済ませましょう」
「そうだね、それじゃあ御披露目といこうか」
臨也は軽い調子で、広げられる自らのデイパックを見守った。
探知機は透視使いのダナティアが居ないこちら側に置かれるだろう。
そして禁止エリア解除装置は……このマンションに持ち込んではいなかった。
(すぐに使う物じゃないし、武装解除も予想の内さ。
青酸カリを捨てられそうなのは勿体ないけど、案外使いにくいからねぇ、あれは。
ああ、出来れば光の出る剣は残しておきたかったけど……これは無理か)
リナが光の剣を見て目の色を変えている。
どうやら彼女が知っている武器らしい。
彼女があれを持つなら、彼女が持っている剣は……どうやら“舞台組”に回るようだ。
代わりに短剣はこちらに残るようだった。
臨也は光の剣を失って、代わりにそれを使うリスクも失った。
(危ない所だったな。不意を突けるから持ってきたのに知ってる相手が居ちゃ話にならない)
そしていざという時に自分を守らせる事の出来る武装した参加者達を手に入れた。
笑いそうな口元を抑えるのに苦労しながら、臨也は大集団の一員となった。
ああ、なんて素敵な位置だろう。
【C-6/マンション1(マンション2に移動予定)/1日目・21:50】
【大集団/舞台組】
【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:健康/生物兵器感染
[装備]:コキュートス/UCAT戦闘服(胸元破損、メフィストの針金で修復)
[道具]:デイバッグ(支給品一式・パン4食分・水1000ml)/半ペットボトルのシャベル/メガホン
[思考]:救いが必要な者達を救う/集団を維持する/ゲーム破壊
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:健康
[装備]:強臓式武剣”運命”、精燃槽一式、鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
PSG−1/弾薬
[思考]:シャナを助けたいが……/
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明/針金
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水1700ml)
[思考]:ダナティアの生物兵器駆除/病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る
【竜堂終】
[状態]:健康
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し祐巳を助ける
#誰かが騎士剣“紅蓮”を所持。
#マンション2は全ての明かりが煌々と付いています。
【C-6/マンション1/1日目・21:50】
【大集団/待機組】
【慶滋保胤】
[状態]:不死化(不完全ver)、疲労は大分回復
[装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 シャナの吸血鬼化の進行が気になる。
藤堂志摩子に対し『死者の声を聞けるのでは?』『恨まれた?』という疑心を抱いた。
【セルティ・ストゥルルソン】
[状態]:平常
[装備]:黒いライダースーツ+影のヘルメット
[道具]:携帯電話/静雄のサングラス
[思考]:………………。
【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし/衣服は石油製品
[道具]:デイパック(支給品入り・一日分の食料・水2000ml)
[思考]:争いを止める/聖を止める/祐巳を助ける/由乃の遺言について考える
出来るならば竜堂終の心も心配 /祐巳や聖が舞台組に来たなら駆け付ける。
【リナ・インバース】
[状態]:精神的に動揺/疲労困憊。しばらく魔法はほぼ使えない。
[装備]:光の剣(柄のみ)
[道具]:支給品二式(パン12食分・水4000ml)、
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存/管理者を殺害する/刻印解読作業/落ち着く
[備考]:美姫に苦手意識(姉の面影を重ねています)
【海野千絵】
[状態]:吸血鬼化回復(多少の影響は有り?)、重大なトラウマ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:行動する事で吸血鬼の記憶を思い出さないようにしたい。刻印解読手伝い。
[備考]:吸血鬼だった時の記憶は全て鮮明に残っている。行動する事でトラウマから逃れている。
【光明寺茉衣子】
[状態]:気絶中/お風呂終了
精神面にかなりの歪み(宮野関連以外はまだ冷静に物事を処理出来る)
[装備]:エンブリオ
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)
[思考]:エンブリオを死守。しばらく大人しく。
[備考]:夢(478話)の内容と現実とを一部混同させています。
【折原臨也】
[状態]:脇腹打撲。肩口・顔に軽い火傷。右腕に浅い切り傷。(全て処理済み)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)、
ジッポーライター、救急箱、スピリタス1本、
[思考]:クエロに何らかの対処を。人間観察(あくまで保身優先)。
ゲームからの脱出(利用出来るものは利用、邪魔なものは排除)。
残り人数が少なくなったら勝ち残りを目指す
[備考]:クエロの演技に気づいている。
コート下の服に血が付着+肩口の部分が少し焦げている。
禁止エリア解除機はマンションの外に隠してきた。
#悠二のレポートその1(異界化について)とその3(黒幕関連の情報(未読?))が
#こちら側に残されています。
○アイテム移動纏め
悠二レポート1 :ベルガー→待機組
悠二レポート3 :ベルガー→待機組
ベルガーの弾薬 :メフィスト→ベルガー
騎士剣“紅蓮” :リナ→舞台組
光の剣(柄のみ) :折原臨也→リナ
銀の短剣 :折原臨也→待機組?
青酸カリ :折原臨也→廃棄?
静雄のサングラス:折原臨也→セルティ
探知機 :折原臨也→待機組の共有財産化?
禁止エリア解除機:折原臨也→マンションの外
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第525話 | 海野千絵 | 第534話 |
第530話 | リナ | 第534話 |
第529話 | セルティ | 第532話 |
第529話 | 折原臨也 | 第532話 |
第525話 | 藤堂志摩子 | 第534話 |
第525話 | 慶滋保胤 | 第534話 |
第525話 | 光明寺茉衣子 | 第534話 |
第530話 | ベルガー | 第534話 |
第530話 | シャナ | - |
第530話 | 竜堂終 | 第534話 |
第525話 | メフィスト | 第534話 |
第530話 | ダナティア | 第534話 |