作:◆R0w/LGL.9c
あの後、謎の集団に出会い、一通り涙をこぼした後、眠りについてしまったようだ。
おおよそ2時間ほど経ったらしく、目覚めたら周りの人たちは慰めるなり、笑わせようとしてくれるなりしてくれた。
外は雨に包まれてる。早めにこの人たちと会ってよかった、と思う
ここにいる人は、善良で少なくともまともな人のようだった──少なくともあたしより。
陽気──というベクトルを逸脱してるぐらい陽気な男の人がアイザック。
その恋人らしい、なんというかお似合いの女の人がミリア。
野菜を渡してくれた心配そうな子供が要。あたしより歳は下だろう。
そして最初に目に入った赤い女性が潤さん。
しゃべる犬が──ファルコンだのホワイトだのロシナンテだの皆が主張したのだがとりあえずチャッピーということにしておいた。
彼女らが自分らの目的とか(どうやら祐巳という女の子を捜すらしい)
これまでの事(よく分からなかったが潤さんの体に穴が開きまくったらしい)を話してくれた。
あたしの経緯とかを説明するように言われて、口ごもっていた。
人、殺しちゃったんだよね。
哀川潤は少しずつ話し出した少女の会話に耳を貸していた。
──実のところ、読心術で大体の経緯はわかる。
少女がこれまでろくな奴に会っていなかったこと。
戦闘の事。
殺したこと。
それでも話すのを止めなかった。強制もしなかったが。
言えなくなったらそこまでで良いと思った。
少女はそれでもこれまでの経緯を話した。話し終わったあとに彼女はフリウの頭の上に手を置いた。
「ふん。わかった。お前は強い。あたしが認めてやる。
別にお前は間違ったことはしていない。間違ってたらな、ここまで生きてるはずが無い。
間違ってないことに対して嘆くな。悔やむな。謝るな。忘れるな。納得するな。同情されると思うな。
全くお前は間違ってねぇし、あたしはそれに同情しない。分かったか?」
一瞬顔を上げ、まだ少し涙を浮かべた目でやや納得できないような表情を見せながらも──とりあえず頷いた。
「…うん」
「うわいいこと言うよグリーン!」
「アイザックもかっこいいけどグリーンもかっこいいよ!」
「そうデシ!」
「落ち着けピープルども。あたしが格好いいのは全人類が認めることだ。
それより今後の方針を立てよう──そういえば高里。お前の支給品は何なんだ?」
「はい、えっとよく分からないんですけど、何も入ってないんです」
バッグを渡されて中を見る。
確かに中には通常支給品と野菜以外──いや。
「これは……曲弦糸か?」
指先にほんの少しの違和感を感じ引っ張ってみる。
やはり糸だ。それも極限まで細く、恐ろしく頑丈だ。
「糸デシ?」
「ん。すっげー細いやつな。素手で触るなよ。指が切れるぞ」
あまりに細すぎて高里では視認できなかったのだろう。バッグに戻す。
一応使えないこともないが、地味な技なのであんまり使いたくは無かった。
まぁ役には立つだろうと考え、地図を広げる。
「それじゃあ野郎ども。今後の方針を説明する」
「はい親分!」
「あたし等の目的は全員で脱出だが、まず当面の目的は祐巳を探すことだ。
アイツは恐らく一人で行動しているはずだ。殺人者に襲われる前に保護しなければならない。
しかしちんたら探すのは時間が掛かるから他の参加者と接触し、情報を集める──はい高里君」
挙手した高里は意見を述べた。
「参加者と会っていくのは危ないんじゃないですか?すでに人が──その危ない人だっているだろうし」
「そうだなイエロー!爺さんファイターを倒した奴にも注意しないと!」
高里はフリウに遠慮したのかやんわりとした口調で言った。
哀川潤はにやりと皮肉に笑って答えた。
「簡単な見分け方を教えてやる。1人だったら要警戒、2人組みだったら要注意、3人以上だったら多分大丈夫だ。
交渉はあたしがやるからな。危険人物は張り倒していく。こんなふうにな」
バゴッ!
入り口のドアが吹き飛んだ。
のそっとした動きでエプロンドレスをつけたネズミだかなんだか分からないぬいぐるみが出てきた。
ボンタ君をつけた天使のなっちゃんだった。敵意がぬいぐるみの内側から染み出てくる。
「うし! たまにゃいい所見せねぇとな! かかってこい化け物!」
叫ぶと同時に座ってた鉄製のイスを投げつけ同時に駆け出す。
相手がイスを払ったのを見て体重のこもった蹴りを押し出すようにでかい頭にいれた。
ぬいぐるみはその格好からバランスが悪く、当然ボンタ君は仰向けに転倒した。
「ふも〜〜〜っふ!!!」
「こっちだ!」
彼女は階段を駆け上がりながら挑発する。足音から判別するとどうやらこっちを追ってきているようだ。それでいい。
けん制しつつ5階まで上がり、社長室ぽい部屋で待つ。
いきなりドアをぶち破りつつ登場したボンタ君はなにやら叫びつつ攻撃を仕掛けてくる。
「さて、そういや祐巳っつーえっちなナーズ服着た娘を知らねぇか?」
「ふも〜〜!!」
「やっぱ通じない──か」
力任せの突進。それを怪我していない左手を出して、接触すると同時に相手の懐に回転するように潜り込んだ。
掌底。左手から放ったそれは一般人だったら内臓破裂起こしそうな威力だったが、怪物には通用せず、痛痒すら感じさせなかった。それでも突進の勢いは止まったが。
「もふっ!」
アッパー気味の拳が来る。哀川潤は垂直に飛び、振り上げている拳─拳の面積が広いことが幸いしたが─に着地し、そのアッパーの勢いでボンタ君の背中に跳んだ。
さらに空中にいる間に蹴りが飛んでくるが、先ほどの掌底で剥ぎ取ったエプロンを衝撃吸収材にして、ぬいぐるみの足の裏を足場にさらに跳躍。
「ふぅも〜〜〜!」
着地した所にボンタ君の破壊の左手が振り下ろされる。が。
哀川潤は左手でそれを受け止め、力比べの体勢に入る。
「あたしに、ガチで勝てると思うなよ…!」
「ふ、ふもっ!?」
左手での力が拮抗する。一般人だったら縊り殺されそうな力だ。
しかも実は双方右手が使えない。よって左手のみで力と力が押し合う。
「もふっ!?」
ボンタ君が突然体勢を崩した。見ると足に銀色の糸が巻き付いている──フリウの念糸だ。
ふと目を入り口に向けると4人と1匹が上がってきている。そのフリウが攻撃を仕掛けたようだ。
「ぅらあっ!」
ぐいっと引っ張り込み、ボンタ君をつんのめらせる。同時に腰にホールドしていたアンチロックブレードを振り下ろした。
がきっ!
首の金具を外し、中の人を視認する。
「っはん」
小早川奈津子当人を目の前にして、人類最強哀川潤は、鼻で笑った。
「んな!!あな──」
五月蝿そうなので再びぬいぐるみの頭をはめた。その際、蓋を開けた件の生物兵器を叩き込んでやった。
「ふもぉ〜〜!!ふっも!ふもぉぉぉ!!」
怒ったのか慌てたのかよく分からない叫びを上げのた打ち回っている。
その隙に窓の傍まで移動した。そして告げる。
「かかってきやがれブッサイク」
ぶちん。
「ふぉぉぉもっふぅぅ!!」
完全にぶち切れたように凄まじい速さで接近してくる。
あと3歩。哀川潤は笑っている。
あと2歩。哀川潤は笑っている。
あと1歩。哀川潤はそのままの表情のまま小早川奈津子の視界から消えた。
ぬいぐるみの死角の足の間に滑り込んで、そのまま勢いをつけて巴投げのように蹴り飛ばした。
「ふもおおおぉぉぉぉぉ……」
それは窓をぶち破り5mほど飛翔し、落ちた。
おおよそ25mぐらいの高さを落下し、しかし最新の衝撃吸収システムでかなりのダメージが緩和された。
「ふ…ふっも! ふも!?」
今度は部屋においてあったでかい机が振ってきてボンタ君に直撃。さらに棚、トロフィー、イス、扉、冷蔵庫などが上に積み重なりまくった。
「……」
「死んだか…ふっ。お前は確かに強かった。だが間違った強さだったよ……」
適当な事を呟き、自分の部屋に上がってきて呆然としている仲間に告げた。
「野郎ども、ちっと早いけど移動するぜ。まずは商店街だ。野菜ばっかじゃ体力も持たねぇし──な」
…………ビルの手前に積み重なりまくった壊れた家具類。
その中で小早川奈津子は規則正しい息をして、気を失っていた──それだけだった。
【C-4/ビル5階社長室/15:40】
『人類最強で天使な世にも幸せバカップル国記』
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。創傷を塞いだ。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:錠開け専用鉄具(アンチロックドブレード)
[道具]:支給品(パン4食分:水1000mm) てる子のエプロンドレス
[思考]:祐巳を助ける 子荻は殺す 殺人者も殺す こいつらは死んでも守る 他の参加者と接触 商店街に移動:肉類確保
[備考]:右肩が損傷してますからあまり殴れません。太腿の傷で長時間移動は多めに疲労がたまります。
(右肩は自然治癒不可、太腿は若干治癒)
体力のほぼ完全回復には残り8時間ほどの休憩と食料が必要です。 そこそこ体力回復しました。 ボンタ君は死んだと思ってます。
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神的ダメージやや緩和。右腕に火傷治癒。肋骨骨折処置済み。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)。眼帯なし 包帯
[道具]: 支給品(パン5食分:水1000mm)
[思考]: 哀川潤らをほぼ信用。元の世界に戻り、ミズーのことを彼女の仲間に伝える。
[備考]: 放送を哀川潤から聞きました
ベリアルが死亡したと思っています。ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:前足に浅い傷(処置済み)貧血 子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:潤しゃん強いデシ!
[備考]:回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。
【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:支給品(パン5食分:水1500mm・お茶菓子)
[思考]:すごいぞグリーン!行動開始だ!
【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:支給品(パン5食分:水1500mm)
[思考]:そうだねアイザック!!
【高里要(097)】
[状態]:健康
[装備]:曲弦糸20m
[道具]:支給品(パン5食分:水1500mm・野菜)
[思考]:大丈夫かな…
[備考]:上半身肌着です
【小早川奈津子】
[状態]:全身打撲。右腕損傷(殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する) 気絶 生物兵器感染
[装備]:コキュートス / ボン太君量産型(やや煤けている)
[道具]:デイバッグ(パン12食分:水3000mm)
[思考]:………
[備考]: これから約1時間後にボンタ君スーツ表面装甲となっちゃんの服が分解されます
約12時間後までになっちゃんに接触した人物も服が分解されます(哀川さんは未感染)
12時間以内に最着用した服も綿100%製品以外は分解されます
感染者は肩こり、腰痛、疲労が回復します
※チーム方針:商店街に行き近くの民家で雨が上がるまで待機:貧血&体力回復のため肉類確保
エプロンドレス:なっちゃん→哀川さんへ
生物兵器使用
曲弦糸:目に見えないほど細くて人体をバラバラに出来るほど鋭い化学繊維や金属の糸
なっちゃんの起きるタイミングは次の書き手に任せます
2006/01/31 修正スレ211
←BACK | 目次へ (詳細版) | NEXT→ |
---|---|---|
第412話 | 第413話 | 第414話 |
第361話 | フリウ | 第421話 |
第373話 | アイザック | 第421話 |
第373話 | ミリア | 第421話 |
第373話 | シロちゃん | 第421話 |
第373話 | 哀川潤 | 第421話 |
第373話 | 高里要 | 第421話 |
第383話 | なっちゃん | 第451話 |