作:◆VoEIlrZXW2
辺りに騒音が鳴り響く。その音源はサイドカーを装着したエルメスだ。
運転手はベルガー、その後ろにはセルティ、サイドカーには荷物と一緒に保胤が乗っている。
ベルガー達はA-1から走り、道もなだらかだったので三分程度でかなりの距離を進んでいた。
その速さに保胤が驚いて言った。
「もう橋のところまで……。いやはや、速いものです」
「一人だけならもっと速いんだけどね」
エルメスの言葉に保胤はさらに驚く。
「未来はそんなには発達しているのですか……」
「橋ってことは、後十分ってところか」
二人の会話の途中でベルガーは言った。
橋は砂利などがまったくなく、ゆれも少なく安定している。
「何だ……?」
橋の中間地点まで来たところで、ベルガーが前方に橋の中央に仁王立ちする不審な者を見つけた。
保胤もエルメスとの会話を中断し、前方の人物に注目する。
その姿は、異様だった。この殺し合いの場で完全に場違いな着ぐるみを着用していて、中にいる人物が太っているのか、着ぐるみがぱんぱんに張っている。
「ふもーーーーーっふもっふもっふもっ!!」
天使のなっちゃん、登場である。
「……あれは?」
保胤が疑問を口にするが、その疑問に答えれる者はいない。
ベルガーはエルメスを停止させ、着ぐるみの男(?)に呼びかけた。
「戦意はない。道を開けてくれ」
だが着ぐるみは動かない。それを見てセルティが紙を差し出してきた。
『言葉が通じないのではないか?』
「……そうかもな」
ベルガーは再びエルメスを発進させようとしたとき、着ぐるみは動きを見せた。
ふもっふと叫びながら、こちらへと走ってきたのだ。
「やる気のようだな……」
「戦わずに済みませんか?」
保胤がベルガーに問いかける。
『相手はかなりの力量だ。逃げた方が良さそうだと思うが』
セルティもそう書いた紙を見せた。
「軍師は綾取りに似合わずだね」
「そうだな」
そう言うと一気に加速、着ぐるみの右側を抜けて道を通った。
バックミラーに着ぐるみをベルガーは確認した。
しかし、執念深いのか走って追いかけようとしている。
「単車に追い付けれるわけ…………?!」
「ふもーっ!」
着ぐるみは叫ぶと同時にいきなり猛スピードで駆けてきた。
「来ますよ!」
保胤が後ろを見ながら言った。そのころには着ぐるみは驚くべき速度で保胤の後ろまで来ていた。
そして着ぐるみは異常な速度で左の拳を保胤に放った。
「保胤!」
間一髪、伏せた保胤の上を拳が通り過ぎた。
そのまま着ぐるみは保胤の頭を掴もうとするが、流石に速度を上げたエルメスには敵わなかったのだろうか。
掴んだのは保胤の後ろに置いていたデイバッグだった。
着ぐるみは疲れ果てたのか、その場に座り込んでしまった。
「支給品が……」
「あれはセルティのだな……」
すぐさまセルティは紙に書く。
『中には大した物はなかった。降りてあの着ぐるみと戦って奪い返すほどの物ではない』
「そうですか……。何が入っていたのですか?」
『ハズレだ。気にするな』
「はぁ、そうですか」
その言葉に納得したのか、それ以上保胤は聞こうとしなかった。
ベルガーはバックミラーを気にしながらも、運転に専念している。
「あの……、誰か突っ込んでよ」
エルメスが言ったが、誰も答えなかった。
「……ちょっとは反応してよ」
「ふもーーーふっ!」
地面に座り込みながら、着ぐるみ――小早川奈津子は悔しそうに叫ぶ。
(以下は着ぐるみ内の生の声をお届けします)
「この小早川奈津子、不覚ですわ……! あの悪の集団に天罰を与えられず逃してしまうとは……」
悪の集団というのは、首のないセルティを見て悪魔に味方する者達と勝手に判断したからである。
だが、いつまでもここで落ち込んでいても仕方がない。そう思い奈津子はあの集団から奪ったデイバッグを開ける。
そこには一着の服があった。それを奈津子は取り出して広げる。
それが何なのか理解した奈津子は愉快そうに笑う。
「をーっほほほほほっ! このような者を支給品にするとは主催者もなかなか“粋”なことをしますわ!」
それは健全な日本男児ならば喜ぶであろうメイドさんが着用する、エプロンドレスであった。
「もしや……お主それを?」
「をーっほほほほほ。何を当たり前なことを! この服が似合うのはこのあたくししかいなくてよ!」
奈津子のエプロンドレス姿を想像してしまったのか、コキュートスは「う」と声をあげた。
コキュートスには構わず、エプロンドレスを身に着けるためボン太君を脱ごうとする。
「……脱げませんわ!」
一人では脱げないことに気付き、奈津子は叫ぶ。
「何たること! これではあたくしのメイド姿で色男達を魅了できませんわ!」
「…………」
もはやコキュートスは突っ込む気力もないらしい。
「仕方がありませんわね……」
残念そうに奈津子は言った。諦めるのかと思いきや、奈津子はボン太君の上からエプロンドレスを着始めた。
バッグの中に入れては邪魔になると考えてのことである。かなりキツそうだが、奈津子は時間を掛けてエプロンドレスを着用した。
「をーっほほほほほ。では行くわよ、コキュートス」
もう、どうにでもなれ。そんなことを思い始めるコキュートスであった。
――――こうして変人最凶のメイドさんが誕生した
【A-4/橋/1日目/12:45】
【小早川奈津子】
[状態]:全身数箇所に打撲。右腕損傷(殴れる程度の回復には十分な栄養と約二日を要する)
[装備]:コキュートス / ボン太君量産型(やや煤けている) / てる子のエプロンドレス
[道具]:デイバッグ二式
[思考]:1.竜堂終への天誅 2.ボン太君を脱ぎたい
【A-4/平地/1日目・12:40】
『ライダーズ&陰陽師』
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス(サイドカー装着) 贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式+死体の荷物から得た水・食料)
[思考]:保胤に刻印について聞く。 仲間の知人探し。
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
【セルティ・ストゥルルソン】
[状態]:やや強い疲労。(鎌を生み出せるようになるまで、約6時間必要です)
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。ベルガーとの情報交換。
長期的には何をしていくべきか保胤と話し合う。
【慶滋保胤】
[状態]:不死化(不完全ver)、疲労は多少回復、貧血状態(行動に多少支障あり)
[装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている
[道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ
[思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 島津由乃が成仏できるよう願っている
[チーム備考]:エルメス(サイドカー装着)に乗ってC−6へ移動。
2005/07/16 修正スレ128
2005/07/16 修正スレ132
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