作:◆eUaeu3dols
「サガラさぁーんっ!!」
テッサが声を上げて駆け寄ってくる。今にも転びそうになりながら、必至に走ってくる。
宗介は思わず硬直していた。
(何故……)
問うまでもない。彼女が自分を捜す事は十分に考えられた。
考えるまでもない。彼女が生き残り、自分を捜しているのなら、いつか出会うのだ。
(何故、こんな時に来るのです!? 大佐殿!)
だからこの迷いと焦りに満ちた問い掛けは理不尽だ。
それでも、内心では問わずには居られなかった。
気の置けない仲間達が居れば、こんな事にはなっていなかったのではないか。
例えば、優れた指揮官である彼女と一緒であれば何かが違ったのではないか?
クルツの死は避けようがなかったかもしれない。
だが、無為に人を殺したり、オドーが強敵と一対一で戦って死んだりするような、
そんな選択ではないもっと適切な判断が出来たのではないだろうか。
かなめを人質に取られて5人もの人を殺さなければならない現状が、
何か違う物になっていたのではないだろうか。
(――何を甘えているのだ、俺は)
いつの間にこれほど疲れていたのか。そんな事を考えても意味が無い。
かなめの命が彼の双肩に掛かっている現状も変わらない。
だから、彼女の足下に銃弾を撃ち込んだ。銃声は曇り空の下、思いの外鈍く響いた。
「サガラさん!?」
「大佐殿、下がってください。自分はゲームに乗りました。
自分は、大佐殿を殺したくありません」
単純で残酷な宣言。それだけで十分だと宗介は考えた。
「……嘘」
「嘘ではありません」
もし現実を認めずに信じようとしないならば、撃たなければならない。
それだけだと自らに言い聞かせる。
「いいえ、嘘です」
宗介はテッサが断言した事に気づいた。
テッサは俯きも目を逸らしもせずに、正面から宗介を見つめていた。
強い怯えと共に、何か確信を宿した視線を向けていた。
「もし、サガラさんがゲームに乗っていたなら、私を帰す理由が有りません。
ゲームの勝者は一人だけ。無力な者も力を得るかもしれない。
今、勝者になる為に動いているなら、サガラさんは最初に私を殺そうとしたはずです」
「……………!!」
もちろん、例外はある。
例えば、愛しい誰か一人を勝ち残らせる為にそれ以外の全ての人を殺し、
その上で自害するだとか……そういった道も有り得るだろう。しかし。
(サガラさんがその道を選ぶとしたら、それは……それはきっと)
――それはきっと、千鳥かなめの為に選ぶ道。
「俺を惑わせるつもりなら……貴方を撃ちます、大佐殿」
僅かに震えながらも、銃口をしっかりとテッサに向けて食い下がる宗介。
「必要なら、私を殺せるのですね?」
「……そうです」
宗介がテッサを殺せる。それが事実だとすれば、テッサ自身が深く傷つく事。
テッサはそれを――
「それなら、どうしてさっきは撃たなかったのですか!?」
――それを認める事で宗介を返り討った。
「!?」
必要であれば殺せるにも関わらず殺さなかった。
それは勿論、先ほどの状況が必ずしもテッサを殺さずとも良い状況だったという事だ。
ゲームに乗ったと前提するなら、それは有り得ない。
つまり、相良宗介はゲームに乗っていない。あるいは、テッサを殺す事が出来ない。
「サガラさんはゲームに乗っていない」
その二択を敢えて一方と確定する事で、テッサは宗介を追いつめた。
(私は、サガラさんにとって私が殺せない人間であると信じるよりも、
サガラさんがこんなゲームに乗るような人間ではない事を信じたい!)
彼がそんな人間であると信じているから、彼女は宗介の事が好きだった。
それはずっと前に通り過ぎた、今更変えられない事実の再認識。
その冷え切るような切ない想いと、冷静な思考の下に組み立てられた推測が、
彼女に答えを教えてくれる。
「かなめさんに何かあったんですね?」
相良宗介が殺傷力の高い罠を仕掛け、人を殺そうとしていたのは紛れもない事実だ。
そして、相良宗介にとって殺人はそう大した禁忌では無い事もまた事実だ。
だからといって彼は意味も無く人を殺せる人間ではない。
ゲームに乗る以外にその理由が有るとすれば、誰かに強要された事が考えられる。
彼は彼自身の命を重く見ない。誰か他人の命が掛かっていると考えるべきだろう。
クルツが死に、テッサが目の前に居る以上、最も可能性が高いのは誰か?
(つまり、この人は他の誰かに良いように使われているわけか)
少年――実は少女である――キノは冷静に話を聞き、思考していた。
(罠を仕掛けていた事から、相手は無差別だ。
他の全参加者を殺せ、というわけではない。でも一人殺せばいいわけでもない。
そうだとしたらもっとボクを襲おうとする素振りが有るはずだ)
冷静に、冷酷に、どの程度利用できるかを考える。
おそらく自分が『一人分』として見られている事も考えに含め……
(まだ役に立つ。だけど、手を切る時は近いな)
そう結論付けると、背後方向への警戒を止め、宗介と来訪者達に目を向けた。
宗介は、応える事も出来ずに立ちつくしていた。
テッサは宗介を見つめ、その答えを待っていた。
今にも泣き出してしまいそうな心を懸命に押さえつけながら。
――いつしか、彼女の代わりに泣くかのように空が水を流し始める。
ぽたり、ぽたりと滴り始めた水滴は、すぐにざあざあと降り注ぐ雨に変わった。
強い風が吹き、役者達に豪雨と泥水を浴びせかける。
まるで大泣きするかのような雨のなかで、宗介はようやく心を決めた。
「……肯定です、大佐殿。
チドリを人質に取られ、自分は参加者達の殺害を余儀なくされています」
銃口を向け、デコッキングレバーに指を掛ける。
「自分は如何なる手段を取ってでもチドリを助けます。それを止めようというのなら……」
「そう。それじゃ、ここからはあたくしが話の続きを引き継ぐわ」
テッサのすぐ後ろから、金髪の若い女性――ダナティア皇女が歩み出た。
「守られるかすら判らない約束に縋って身を落とすより、隙を見て取り返しなさい。
あなたの為に何人もの人が殺されたのだ。そんな業を勝手に背負わせるつもり?」
ぞくりと、宗介の背中に寒気が走った。
「それは……」
「あなたが罪を被れば良いとでも思っていたの? 滑稽だわ。
ただでさえ、自己を犠牲にして大切な人を助ける事は救いにならない。
助けられた者は、助けた者の受けた犠牲を自らが受けたかのように感じるでしょうね。
傷も、罪も。時には実際にそれを受けた者以上に」
「――っ」
それは、相良宗介がしているやり方では、例え千鳥かなめを救えたとしても、
その過程で相良宗介が受けた以上の痛みを千鳥かなめに与えてしまうという事。
「それで助けるだなんて烏滸がましい。
自分こそが、その過程で受ける傷や罪から助けられている自覚は有って?」
更にダナティアは続ける。
自らもそうしてしまう愚か者である事を自嘲しながら、宗介を止めるために。
「もし、誰かを助ける為に死にでもしたら……」
しかし、その言葉は同時に――
「それは、助けようとした人の心を殺す、自己満足の愚かな行為でしかないわ」
――キノの根底を揺るがした。
「ッ!」
それは正に神速。
刹那の間にキノはへイルストームの銃口をダナティアの額に定め引き金を引いた。
音速の鉛の塊がダナティアへと……放たれない。
「……ぇ!?」「これは……!!」
宗介はその瞬間にようやく、自分の握るソーコムのデコッキングレバーに
雨露を宿した、針金のような硬質な糸が絡んでいる事に気がついた。
キノの銃にも絡みついたそれは、薄暗い雨空の下でも黄金に輝いている。
ハッとダナティア皇女に視線を向ける。
「髪……!?」
「ええ、そうよ。先ほど、風に乗せてあたくしの髪を巻き付かせました」
強風に乗せ、雨水と泥水に混じった一房の毛髪に気づく事など出来るはずがない。
「勝負は戦う前に決しておくものだわ。あたくしと戦うなんて、百万年早くってよ!!」
裂帛の気合を篭めた叫びはそのまま暴風となり、泥を巻き上げて二人に襲い掛かった。
「下がっていなさい、テッサ!」
「でも……いいえ、判りました。だけど……」
「判っているわ。出来る限りは殺さないつもりよ」
その言葉にホッと安堵の息を洩らし、テッサは茂みの中に隠れた。
それに伴い敵対するものから見えにくくする防護服の機能がテッサを隠蔽する。
ダナティアは敵へと向き直った。
キノは咄嗟に左に跳んで暴風の塊を回避した。
隠れもせずに真っ向から相手を睨み付ける。
(許さない)
手持ちは封じられた銃と、弾の無いカノンと、パチンコと、散弾2発のみのショットガン。
それに折り畳みナイフが一丁だけ。
(ボクはあなたを許さない……)
敵との距離はざっと20m。この近距離でのショットガンは必殺の武器となる。
取り出し、構え、正確に狙いを定める。ここまでを一瞬でこなし、引き金を引いた。
「師匠の死は、ただの自己満足なんかじゃないっ」
宗介はギリギリで右に転がり暴風圏から逃れた。
暴風と水たまりが泥を全身に塗りたくり、宗介の姿を包み隠す。
(どうせ戦いは避けられないのだ。むしろ悩む必要が無くなり好都合だ)
いつの間にか姿が消えているテッサに一抹の疑問を抱きながらも、状況を視認する。
キノが瞬時に武器をショットガンに持ち替え、散弾を撃ち放つ。
(武器は封じられたソーコムとナイフが一つ、目標の武装は……!?)
既に攻撃に備えていたダナティアは暴風を呼び、全ての散弾が叩き落とされた。
宗介はナイフを握ると、茂みを駆け抜けた。
ダナティアはぞくりと寒気を感じた。
それは数十回と暗殺の危機に晒され鍛え上げられた危険の感知。
(透視で場所を……いえ、遅い!)
音も気配も無かったが、直感を信じて右前方に跳びながら振り向く。
それと同時に左後方の茂みから宗介が飛び出してきていた。
宗介のナイフが虚しく空を切る。
(流石にやるものね……)
ダナティアは内心で冷や汗をかいていた。だが、同時に順調だった。
彼女は超常の力を見せつけるために戦っていた。
圧勝すれば、その力をもって相良宗介に戦いを強要する誰かとの戦いに従わせる。
劣勢になれば、超常の力への恐怖が失われる事で、彼に戦いを強要する者を対処可能と考えさせる。
(問題はあの少年……いえ、ファリスと似た感じがするわ。女ね)
相良宗介からは僅かに距離を置いた。攻撃にも反応できる。もう一人は……
「なんですって!?」
相良宗介も確実に巻き込まれる射線。
にも関わらず、キノは二発目の散弾の引き金を引いた。
「しまった!?」
宗介は跳びすさりながら腕を上げて顔面を防御する。
しかし、幸運なのか散弾は思ったより飛来しない。
そのまま距離を取り、腕を下ろして状況を確認すると、負傷した目標がそこに居た。
(してやられた!)
咄嗟に暴風を起こしはしたが、相良宗介に当たる銃弾も防いだため、風の壁は最小限となる。
左の二の腕を抉られる。右足首を貫く。脇を掠め、頬を裂き、全身に傷が刻まれる……!
よろめき、木に持たれかかったその目に映るのはソーコムを構えた宗介の姿。
レバーに絡みつかせた毛髪は、既にナイフで切り裂かれ力を失っている!
「まずい――――!!」
銃と魔術の両方を知る事で作り上げた優位性は失われ、遂に戦況は五分となる。
宗介がレバーを上げると同時に、ダナティアは全力で風を呼んだ。
宗介が引き金を引くのと同時に、ダナティアは必殺の風の槍を放っていた。
その瞬間に『少女』は気が付いた。
追いつめられたダナティアの表情と余風の強さから、恐れていた事が起きてしまったと。
「!? この馬鹿!!」
ダナティアは失敗に気づき、自分が投じた風の槍を操ろうとする。
既に放った風の槍を曲げるだけ、簡単な事の筈だった。……いつもの彼女なら。
世界の制限を受け、英知の杖を持たないで使う魔術は、決定的な場面で彼女を裏切った。
風の槍が、二人の間に飛び込んだテレサ・テスタロッサを貫いた。
ゴポリと、口から血の泡が溢れる。
見下ろしてみると、胸にポッカリと握り拳くらいの大きさの穴が空いていた。
真っ赤な血が雨に流されて、でも絶える事無く、後から後から溢れている。
(ああ……やっぱりこうなったんですね)
二人の間に飛び込んだテッサは、背後から銃弾に、前から風の槍に撃たれた。
背後からの銃弾は防護服の概念により止められたが、風の槍はどうしようもなかった。
(なのに変ですね。サガラさんに撃たれた背中の方が……ずっと、痛いんです……)
全身から力が抜け、ガクリと膝が落ちる。
「大佐!」「テッサ!」
二人の腕が支えてくれた。
見上げるとそこには宗介の顔が有る。
「良かった……サガラさん…………死ななく……て…………でも……」
テッサは泣いていた。
「ごめ……なさいっ。勝手に…………こ…な……事……」
先ほど、ダナティアは言った。この行為は助けた相手を傷つけてしまう行為だと。
それが悲しかった。
助けたかった。本当にその想いだけでやった事が、同時に相手を傷つけてもしまう。
「構いません、大佐! 構いませんから……」
(構わないから……何と言えばいい?)
死なないで欲しい? せめて泣かないで欲しい?
宗介は、続く言葉を掛けられなかった。
「……ぁ…………」
降りしきる雨の中……テッサの瞳から、光が消えた。
――ダナティアは、テッサを支える宗介の手を振り払った。
「何を……?」
答えず、ダナティアは印を切り……次の瞬間、二人の姿がフッと消える。
「!?」
そこには大量の血痕だけが残され、それさえも降りしきる雨で、次第に薄らいでいく。
「何を……何故……?」
まるで判らなかった。
風が吹き、茂みがガサリと音を立てた。
「まだよ……まだ、足掻く時間は残っていてよ」
ダナティアはテッサを背負い歩いていた。
右足首に散弾を受けたため、びっこを引きながら、泥の中を歩いていた。
「まだ、死んではいないわ!」
そう、『まだ』死んではいなかった。
テッサの瞳は、もう何も映さず、しかしその唇はぶつぶつと何かを呟いている。
その内容は聞き取れないが、それ自体が生きている証だ。
ダナティアにはこんな致命傷を受けた人間を救う術は無いし、
その術を持っている者と出会える可能性も殆ど無きに等しい。それでも、『まだ』だ。
「感動的な死に様……そんな物に妥協なんてしなくてよ!」
泥に足を取られ、地面に叩きつけられる。
「くぅっ!!」
自分から下敷きになって衝撃を和らげると、すぐに立ち上がり、また歩く。
もう、テッサは何も呟いていない。それでもまだ、歩く。歩く。歩く。
また、何かに躓いた。だが、今度は誰かの腕が二人を抱き留めた。
「誰か?」と問うと、誰かは答えた。
「魔界医師メフィスト」
(俺は……どうすればいい!?)
宗介はダナティアの言った通り、自分を庇ったテッサが受けた痛みを感じていた。
自分のせいで、自分を慕ってくれる誰かが傷つき、時には死ぬという痛み。
それがどれ程に心に傷を付けるのかを噛み締め、恐れていた。
(大佐……!!)
そして……どうしようもない悲しみを感じていた。
また、同盟を組んでいるキノも、自らを犠牲にして死んでいったテッサと師の姿が重なり、
更にダナティアの揺さぶりにより、激しい動揺状態にあった。
だから、気づいた時には少しだけ間に合わず――宗介の両腕は宙に舞っていた。
「かはははっ、落とした小説を取りに来てみるもんだ。首を狙ったんだぜ?」
宗介の絶叫と血飛沫を浴びながら、零崎人識は自殺志願を弄んでいた。
教会の地下礼拝堂で、千鳥かなめが悲鳴を上げる。
何かが失われた事を感じながら。
救われた。何の根拠も無く、そう感じた。
目の前にいる男ならば救えると、そう思った。
「メフィスト医師。あなたに看てもらいたい患者が……」
だが、メフィスト医師はダナティアの口に手を当ててその言葉を遮った。
(何故……!?)
視線が合い、気づいた。……その美しい貌が、自らへの怒りに満たされている事に。
「今の私には、死者を甦らせる事は出来ない」
「――――っ!!」
テッサは、今度こそ事切れていた。
宗介は逃げていた。
偶然口に向けて落ちてきた自らの右腕を銜え、腕の無い両肩から血を迸らせながら。
(逃げてなんになる……!?)
判っている。どうせもう、意味が無い事くらい。
銃を失い、両腕を失い、同盟すら失った自分に、最早五人の殺害など出来る筈がない。
キノも、両腕を切り落とされた宗介に銃口を向けた。
いや、それ以前に……両腕を切り落とされてまだ生きている事が不思議なのだ。
あの場から逃げきれた事も、出血多量で意識を失ったりショック死していない事も。
(だが、俺は彼女に命を救われてしまった)
それなら、せめて少しでも生きなければ申し訳が立たない。
しかし、冷たい雨と壮絶な出血が高速で余命をカウントダウンしていく。
アドレナリンの大量分泌か、痛覚が完全にマヒしているのが唯一の救いだろう。
(かなめ……テッサ…………すまない…………)
朦朧となる意識の中で――ふいに視界が開けた。
「あなたは……!?」
驚愕の声。目の前にいるのはダナティア皇女。
その姿と声を感じて、途切れかけた意識が再び灼熱と化した。
(そう、どうせ死ぬのならば……せめてこいつを……!!)
銜えていた腕を地に落とし、腰のサバイバルナイフを歯で掴み、引き抜いた。
「フウゥゥゥゥゥッ!!」
雨の中、最後の余力を使い、宗介はダナティアに突進する!
だがその突撃もまた、ダナティアの転移と同じ悪足掻きに終わった。
ダナティアに辿り着く事すら出来ず、泥水に足を取られて倒れ伏す。
そこで彼の余力は尽きた。
「……メフィスト医師。せめて、彼の治療を頼めるかしら?」
メフィストは頷き、答えた。
「まだ生きている者ならば、全て治療してみせよう。
この島の参加者全てが私の患者だ。……君は良いのかね?」
ダナティアも散弾を止めきれずに傷を負い、ドレスは紅い襤褸のようになっていた。
その上、雨に体温を奪われ、それ以外の要因も有って血の気の失せた幽鬼の如く青白い顔をしていた。
だが、ダナティアは首を振る。
「彼の後でお願いするわ」
「そうか。私にとっては簡単な手術だが、終君達にも準備を手伝って貰う必要は有るな」
呟きつつ、メフィストは幸運にも彼が運んでくる事の出来た利き腕を拾い上げた。
「では行こうか。この近くに病院を見つけてね。私達はそこで雨宿りをしているのだよ」
そう言ってメフィストは宗介を背中に担ぎ上げた。
ダナティアはテッサを背負ったまま歩き出す。
「何故……だ?」
歩きながら、宗介が問い掛ける。
「何故、俺を生かす……?」
ダナティアは、それには答えず――唇を噛み締めながら、告げた。
「あたくしを憎みなさい、相良宗介」
教会の地下礼拝堂。
美姫に抱かれながら、かなめは泣いていた。
「どうしたのかえ? あの男が死んだのか?」
かなめは首を振る。彼女が知りえたのはその事ではなかった。彼女が知りえたのは……
(……テッサが死んだ。最後に偶然、共振が繋がって……最後に少しだけ話して……)
そして、かなめの中で消えていったのだ。
(でも、どうすればいいのよ! 今の私に出来る事なんて、それは……)
それは……吸血鬼化に伴い沸き上がる、自らの黒い欲望と戦い続ける事くらいしかなかった。
【B-4/病院/一日目/15:00】
【創楽園の魔界様が見てるパニック――混迷編】
【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る/宗介とダナティアの治療
【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:全身に無数の傷/体力消耗/精神的にダメージ/[メフィストの治療が施される]
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:群を作りそれを護る。
[備考]:ドレスがボロボロになっている。
【相良宗介】
[状態]:両腕切断/貧血/気絶/[メフィストの治療が施される]
[装備]:コンバットナイフ。
[道具]:荷物一式/弾薬/右腕
[思考]:半ば絶望/かなめを救う?/テッサに報いるため長生き?/ダナティアを憎む?
【死亡:テレサ・テスタロッサ】
[装備]:UCAT戦闘服(胸部分に穴が空いている)
[道具]:デイパック(支給品一式)
【D−4/森林/1日目・15:00】
【キノ】
[状態]:精神的に動揺している。
[装備]:ソーコムピストル(残弾11)/ヘイルストーム(出典:オーフェン/残弾6)/折りたたみナイフ
カノン(残弾無し)/師匠の形見のパチンコ/ショットガン(残弾無し)
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。/目の前に居る人識にどう対処するか。
【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]:出刃包丁/自殺志願
[道具]:デイバッグ(ペットボトル三本、コンパス)/砥石/小説「人間失格」(少し濡れた)
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。/落とし物も拾った事だし、凪の所に戻ろうかな
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。
【D-6/地下/1日目/15:00】
【千鳥かなめ】
[状態]:吸血鬼化進行中?精神に傷
[装備]:鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
[道具]:荷物一式、食料の材料。
[思考]:吸血鬼化進行による黒い欲望や妄想に抗う
【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:上機嫌
2005/07/16 修正スレ143
2005/07/16 修正スレ156-168
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第392話 | 相良宗介 | 第443話 |
第392話 | テッサ | - |
第355話 | 零崎人識 | 第397話 |
第410話 | メフィスト | 第464話 |
第381話 | 美姫 | 第444話 |
第392話 | ダナティア | 第443話 |