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第355話:願い

作:◆/91wkRNFvY

「ちょっと野暮用でな、商店街までの道を聞きてーんだけどよ」 
 顔に刺青を入れた少年はぶっきらぼうに訊ねる。
「商店街? お前地図持ってないのか?」
 スィリーの所為で多少疲れ気味になっているのか、大分投げやりに聞くオーフェン。
「それが置いてきちまって」
 両手を上げ、やれやれ、といったポーズをとる。
「それなら、ここから北西に真っ直ぐ1kmほど行ったところですわ」
 指をさしながら茉衣子は答える。
「おっ、サンキュー。んじゃな」
 言うなりとっとと背を向けて行ってしまう。
「まぁ待ちたまえ。キミは何か目的があって商店街に?」
 足を止め、半身だけを宮野に向け、
「おう、ちょっと水が足んなくなっちまってな、俺が集めてくることになった」  
「ということはキミのお仲間がいるということだな?」
「仲間、仲間ねぇ。ま、どっちでもいいけどよ、何人かいるのは間違いねぇ」
 へっ、と笑いながら答える。
「良かったら我々を案内してはくれまいか?」
「わりーんだけど、急いでるんだわ、また会ったら教えてやっても良いぜ、んじゃな」
「そうか」
 意外とあっさり引き下がる宮野。
 目を細め「何か」思い当たったように懐を探り、持っていた自殺志願をホルダーごと少年に放り投げる。
「少年、これを持っていけ」
 持っていた自殺志願をホルダーごと少年に放り投げる。
「うぉっ、っぶねーな…、って自殺志願じゃねーか?!」
 ホルダーから大鋏を抜き出し、確認する。
 自殺志願、かつて零崎人識が兄の双識から殺してでも奪い取ろうとしたアイテムだ。
「私にはそのような物は必要ない、君が使いたまえ」
「ラッキー、念願のマインドレンデルを手に入れたぜ。
 わりーな、次会ったら今度は案内してやっからよ。じゃーな」
 今度こそ、少年は森の中へと消えていった。  
 見送りながら茉衣子は怪訝な目を宮野へ向ける。
「良いのですか?」 
「ふむ、私には関係ない」
「……? 何故彼に?」
「彼が持っているべきだと、そう思っただけだ。そもそも私に武器は必要無い。
 私は自分自身の能力に絶対の自信を持っているからな!」
 拳を握り、高らかに掲げる。
「行っちまったな、どうすんだ?」
 宮野たちの会話の間に回復したのか、オーフェンは先ほどよりは明瞭な声で訊ねる。
「また人を探すまでだ。彼とは別の方向に向かってみようか」
 
 そして、やっぱり適当に歩き出す宮野であった。
 
*** *** *** *** *** ***

 先ほどの青年は、ひとしきり何かを呟いた後さっさと行ってしまった。
 しずくは黙って見送り、立ち上がる。
 思ったよりもすぐ側にエスカリボルグは落ちていた。
 半壊しかけた腕を垂らしながら、逆の手で拾い上げる。

 ―――はふ。

 溜息。先ほどの黒鮫を殴った所為で右手は暫くの間は使い物にならない。
 システムチェック、アクティブ・パッシブ共にセンサーの能力低下。
 右腕上腕から末部に到るまでの神経系の物理的切断箇所多数。
 幸いフレームにはこれといった異常は見当たらない。
 歩いていく分には問題は無いが、激しい動きは控えた方が良いだろう。
 数時間安静にしていればこの程度の損壊などは修復できるのだが、現時点で安静に出来るような場所の確保などは難しい。

 それに、のんびりも言っていられない。かなめを助けなければならないのだ。
 宗介には「誰にも言うな、次に会えば殺す」と言われたが、出来る事ならば彼も助けてあげたいと思う。
 彼の戦闘能力は常人よりも高い、もし出会ってしまったら彼を抑えられる人間は限られる。
 火乃香や"蒼い殺戮者"の様に高い戦闘能力を持っていれば何とかなるだろう。
 その2人なら宗介だけでなく、かなめも助けてくれるに違いない。
 問題は、出会えるかという事だ。
 火乃香や"蒼い殺戮者"で無くても良い、戦闘能力が高く、尚且つこちらに手を貸してくれる者。

 いるだろうか。

 しずくは考える。これからは人に声をかけるときは気をつけなければならない。
 かなめやオドーの様にこちらに好意的とは限らないのだ。
 朝、神社で襲撃された時点、いや、この争いが始まった時から解っていた事なのに。

 どうするべきだろうか。しずくは半壊した腕を抱え、何処へともなく歩き始める。
 じっとしていても始まらない、腕を完治させるのは後回しだ。
 ふと、思い出す。あの地下で眠っていた女性は何者なのかと。
 宗介や自分よりも速く動き、得体の知れない雰囲気を纏っていた。
 あの女性を倒すか説得するかしなければ、かなめは救われずに、宗介も殺人を繰り返す。
 それだけは、避けなければ。
 "蒼い殺戮者"の「野生の感」といったようなものは無い、火乃香の「気」もない。
 レーダーセンサーが能力ダウンした今、頼りになるのは聴覚・視覚センサーのみだ。
 耳を澄まし、眼を凝らし、一歩ずつ確かに歩いてゆく。
 森を抜け開けた海岸に出て、見渡す。砂浜が広がるだけで誰もおらず、仕方なく引き返そうとする。
 振り向きざまに森の奥で何かが動いた。 

 誰か、いる―――。

 警戒しつつ木陰に隠れ、先ほど映った人影を再生する。
 白衣の男性、黒衣の女性と男性、3人を確認。敵か、味方か。
 向こうにも気付かれたようで、緊張が走る。だが。
「案ずることは無いぞ!そこな娘っ子よ!
 我々はこのケッタイなゲームから脱出しようという目的を持つ、正義の魔術師なのだ!
 キミも良かったら我々の同志にならんかね?」
 若い男性の声と、それに反応するように女性の声。
「班長、いきなり声をかけるとはどういう了見でしょうか。
 先ほどの放送はお聞きになったでしょう? もう既に30人を超える方々が亡くなっているのです。
 ということは、それに近い殺人者が潜んでいる可能性がありましょう?
 もしかしてお忘れになったのですか? それとも聞いていなかったのでしょうか?
 でしたらやはり班長の脳ミソの中にはホンモノの代わりに蟹ミソでも詰まってらっしゃるのでしょうね」
 女性は一方的にまくし立てるが、すぐさま返されてしまう。
「何を言ってるのだ茉衣子くん!蟹味噌は蟹の脳ミソのことでは無いぞ、そんなことも知らんのかね!
 そもそも蟹味噌とはだな…」
「どうでもいいけどよ、あの子はほっといて良いのか?」 
 3人目の冷静な指摘で、最初の男はこほん、と咳をたて、
「む、そうであったな、では改めて。我々はこの空間から脱出できる人材を捜している。
 キミに心当たりは無いかね?」

 この人たちは、自分の願いを聞いてくれるだろうか。


【D8/海岸/一日目/12:40】
【しずく】
[状態]:右腕半壊中。激しい動きをしなければ数時間で自動修復。
   :アクティブ・パッシブセンサーの機能低下。
   :メインフレームに異常は無し。
   :服が湿ってる。
[装備]:エスカリボルグ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:火乃香・BBの詮索。かなめを救える人を探す。

【宮野秀策】
[状態]:好調。
[装備]:エンブリオ
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。
 
【光明寺茉衣子】
[状態]:好調。
[装備]:ラジオの兵長。
[道具]:デイパック一式。
[思考]:刻印を破る能力者、あるいは素質を持つ者を探し、エンブリオを使用させる。
   :この空間からの脱出。

【オーフェン】
[状態]:好調。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:給品一式(ペットボトル残り1本、パンが更に減っている)、獅子のマント留め、スィリー
[思考]:クリーオウの捜索。ゲームからの脱出。

【D6/森・1日目/10時10分】
【零崎人識】
[状態]:平常 D6→C3に向けて移動。
[装備]:出刃包丁(隠し持ってる)・自殺志願(マインド・レンデル)
[道具]:デイバッグ(空のボトル三個)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 水を汲みに商店街まで。11時までには戻りたい。
   :自殺志願を手に入れて上機嫌。

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