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第381話:Daytime Rendez-vous

作:◆Wy5jmZAtv6

「ふふ」
闇に包まれた地下で美姫は笑う、その腕の中にはぐったりと気を失ったままのかなめ
「のう、かなめや、宗介は今何処であろうな?」
その顔を撫でてやりながら、話しかける美姫…かなめの顔が僅かに歪む。

「ほほ、案ずるな…所詮は塵芥に過ぎぬ人間風情、期待など最初からしておらぬ、要はあの男がお前のために何ができるか、それよ」
楽しげに美姫は笑う。
「律儀に首を5つ狩るのも良し、例えそれに及ばずともわたしと再び会うまでの間どれほどの奔走をしていたかは目を見ればわかること…
わたしはそれが知りたい、愛や恋とやらのためにどこまで人は己を犠牲にできるのかをな」
少しだけ懐かしい目を見せる美姫、思い出したのだろう…彼女もまた全てを捨てて一人の男をその手中に収めんとした日々があったことを、
「ゆえにうらやましいぞ、お前が…ふふふ」
焼け焦げた己の半顔を撫でる美姫…それはもはや叶わぬ遠い夢であるが。

「たとえ首を狩れずとも、その時は我が前で這いつくばり、自らの首を差し出す度量あらば、我が心も動くかもしれぬ、だが」
そこで美姫は意地悪く、そして凄惨な表情を見せる。
「卑しくも死体の首を狩ろうなどと墓盗人のような真似をした時は、断じてお前を帰してやるわけには参らぬの、
お前の器量ならば他に相応しき男いくらでもおろう、のうかなめや…ふふふ」
そう思いながら、それでも少しだけ宗介に何かを期待している自分に気がつき、
また美姫の口元は緩み始める。

そういえばあのカラクリ娘はどうしているだろうか?
美姫はしずくの顔を思い出す、今ごろ彼女もまた宗介を、そしてかなめを救うため
奔走しているのだろうか?
「お前たちが約定を守る以上わたしもこの娘を守ろう、これもまた座興よ…だが他言の末にこの娘を救う目的で踏み込まば、
 それが誰であろうと、わたしは躊躇無くかなめを殺す…よく考えよ」

空気が湿り気を増しているのが地下でもわかる、そろそろ雨が降るかもしれない。
「おおそういえばわたしが戯れに悦びを与えた娘がおったの、いまごろ何処におろうかの?」

そしてそのころ
「曇ってきたわよ…これなら大丈夫なんじゃないの?」
マンションの一室から空を見上げて千絵をせかす聖。
「だから昼間は様子見だって」
「でも、ぐずぐずしてたから祥子まで死んじゃったじゃないの、勿体ない」
限りなく食欲と性欲の入り混じった、そんな感じの言葉を吐く聖、それをなんともいえない奇妙な表情で眺める千絵。
「それに…千絵ちゃんの友達も死んじゃったんでしょう」
「うん…」
聖の声に言葉少なく頷く千絵…物部景の死は確かに残念だった…。
だがその残念さが何によっての残念なのか、彼女にももはや分からなくなっていた。
(私は彼に欲望以外の何かを求めていたような…もう思い出せないけど)
「ねぇ、行こうよお?」
甘えるように千絵にすがり付く聖、その上目遣いの瞳が思わず同性でもため息を付きたくなるほどの
美しさと愛らしさを醸し出している。

それに押されてかどうかは知らないが、千絵は千絵で考えをめぐらせる、だがまずは、
「これでも飲んでしばらく我慢してて」
ペットボトルに取っておいたシズの血を口に含み、それを口移しで聖に与えてやる。
「はぁん…おいしいぃ…」
うっとりとした喘ぎを口にする聖、これでしばらくは大人しくしててくれるだろう。

だが、彼女自身も実を言うと疼くような渇きをまた覚えつつある、
このまま吸わなければいざという時正常な判断が出来なくなる可能性もある。
しかもたっぷりと補給した自分はともかく、聖はシズの血をあまり飲んでいない…。
だとするといつまたあの高架下のように暴走するかもしれない、今ですら欲望過多の彼女だ、そうなるともう抑えきれない。
互いの血を啜りあうことも手の一つだがこれは渇きを満たせても、今度は体力が落ちてしまう。
やはり2人では何かと効率が悪い、なら偵察がてら狩りに出るのもいいかもしれないが。

それに…正直な話いいかげんこの女がウザくなってきた。
もともと欲望過多だったのかもしれないが、こうやってしょっちゅう纏わりついて身体を求めてくるのには辟易する。
そのくせ事に至れば自分の名前すら呼んでくれない、栞、栞とそればかりだ。
そんなに栞が欲しければ本屋にでもいけばいいのだ。

心の中でひそかに聖殺害のプランを練る千絵
当然クリアせねばならぬ問題は幾つもある、平常時の彼女はセクハラを繰り返すが、それに反してその頭脳は明晰といってもよく、
さらに彼女はこの島のどこかにいる「主」(聖いわくマリア様だそうだ)に、
直接洗礼を受けており、その力は今の自分を凌駕している。

何よりも今殺せば自分1人になってしまう、それは絶対に避けたかった。
やはり仲間が必要だ、それもこんな扱いにくい奴ではなく、従順な。
千絵は昨夜からの自分の心境の変化を敏感に察していた、あの時…聖の手首から流れる血潮を飲んだとき、
脳裏のもやが晴れ…あそこで自分を取り戻せたような気がする、だとしたら。

彼女が達した結論、それは吸われるだけではなく自分の主の血を吸って初めて自我を取り戻し、自立型の吸血鬼になれるということ。
ただ吸われただけでは主に従うだけの下僕に過ぎないのだ。
ならば狙うならやはり男か…不本意だがこれならレズビアンである聖に邪魔されず、自分だけの下僕を作ることができる。

(私にこの悦びを与えてくれたこと、そしてこんなにすばらしい生き物へと生まれ変わらせてくれたこと、それだけは感謝してる…だから
なるだけ苦しまない方法で死なせてあげる)

「一応聞くけど例のものは出来てるわね?」
聖は千絵が先程の仕掛けをしている間に作っておいた物を取り出す。
それは明け方に被って逃げたカーテンを利用して作った砂漠の民が身につけるような巨大なマントだ。
急ぎの仕事ゆえにあちこちいびつな出来だが、当面は身体全体と口元が隠れればそれでいい。
かなり奇異な格好と思われるかもしれないが 、突っ込まれれば土地の風習とでも言えばすむ。

千絵は空模様を見る、おそらく1時間もしない内に雨が降り出すだろう。
雨が降ればこの近辺の参加者はここに集まってくるはず、それをチャンスと見るかピンチと見るか…。
(ここが分かれ道…)

【D-5/地下/1日目/13:30】

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:スローイングナイフ
 [道具]:デイパック(支給品入り)
 [思考]:座興を味わえて上機嫌

【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化?
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。(ディバックはなし)
【思考】不明

【C-6/住宅地のマンション内/1日目/13:30】
『No Life Sisters』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式、カーテン、
[思考]:六時の放送まで待機。己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。

【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式、カーテン
[思考]:行動するかどうか思案中、聖がウザい、下僕が欲しい。
     景、甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
     吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
    死にたい、殺して欲しい(かなり希薄)

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