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第154話:Crimson

作:◆jB1onXN0Ak

開始直後、支給品をチェックするのは暗殺者ズーマだ。
ズーマは自分の支給品である液体の入ったビンと、それに関する説明書を入念に読むが
一つだけつまらなさそうに鼻息を立てると、それを無造作に投げ捨ててしまった。
それを使えば自分にとって非常に有利に状況が進むことは理解できる。
しかし自分は己の体術と魔術のみで暗殺者の頂点に上り詰めた男、プライドが許さない。

そして自分の前方を歩く金髪のエルフの姿を発見した時には、もうそのアイテムのことは
忘れていた。

それから2時間後、
「何かしら?」
小笠原祥子がズーマが捨てた瓶を拾う、その瓶にはKCNと記されていた。
さらに2時間経過し、疲労しきった顔で商店街を歩く祥子、
結局、足を棒のようにして歩きまわっても祐巳を見つけることはできなかった。
「商店街なら人がいるかもと思ったけど…」
ため息をつく祥子、眠気もつよくなってきた、ここで一眠りしようかとシャッターの開いている店を、
探し始めた祥子だったが、その時だった。
「お嬢さん、お困りのようですね」
びくっ!と肩を跳ね上げながらぎこちなく振り向く祥子、そこに立っていたのは1人の少年だった。

「申し遅れました、僕は」
少年が指をパチリと鳴らすとどこからともなく薔薇の花が降ってくる。
「未来の天軍を担う人呼んで美少年ルーキーにして南斗大理星君、呉星秀という者です」
その星秀はご丁寧にも棘を一本残らず抜いた薔薇の花を一輪、祥子に差し出しながら続ける。
「まぁ、控えめに言わせていただくのならば、一種の超天才というやつですか、時々僕も己の実力が
恐ろしくなる時がございまして…というわけですからお近づきの印に一つ麗しき貴方のお名前をぜひ伺いたく…」
祥子はまるで滅びかけた国家の古臭い宗教歌を聴いているような、そんな珍妙な気分で
その”生き物”を見つめていたのだが、
「ああ、いくら僕が美しいからといっても、そんなに見つめてもらっては、君のハートを奪いたくなってしまうよ」
星秀はまるで気がついていなかった。
「というわけでこの僕がついているからにはもう安心だよ、マイハニー」

(あと3本…)
祥子はビールの残り個数を目で数えながらタイミングを測る。
星秀のつっぷしてるテーブルには缶ビールの残骸がいくつも転がっている。
一目見た瞬間、星秀の殺害を決意した祥子、あれからとんこつラーメンのごとくクドい星秀の
アプローチに適当に相槌を打ちながら頭の中で殺害計画を入念に練っていた。

(さすがに寝る場所を探してると話したときの、その情熱的かつ迅速なアプローチ!
 キミって見かけによらずダ・イ・タ・ン・だ・ね、のセリフを聞いたときはこの場で殺害計画など
 かなぐり捨てて刺し殺そうと一瞬思ってしまったが)
ともかく、シャッターを壊して進入した居酒屋の中、彼女は着々とそのプランを完成に近づけていた。
居酒屋の厨房には期待していた食料は何も入ってなかった、ただ冷蔵庫にはビールが何本か入ってはいたが
未成年を理由に断られたらどうしよう…そう考えて不安になった祥子だが、
このガキがそんな理由で、ましてとびきりの美少女の勧めを断るはずもなく
いまや星秀はすっかり出来上がってしまっていた。

「ああそうともさ!そうともさ!!どうせ僕は自分でえらいってそう思っているだけの半人前さ!!」
絡み上戸なのだろうか?半泣きになりながらビールをあおる星秀
ここに来る前、彼は「そこのエキゾチックなお嬢さん」とピロテースに声をかけたのだが、
遅れてついてきたせつらの顔を見るなり、勝ち目なしと退散してしまったのだった。

「何でこんなに世の中は不公平なんだ!!ねぇ君もそう思わないかい!?」
なれなれしくも祥子の肩をぶんぶんとつかんで揺さぶり叫ぶ星秀、
それだけでも万死に値する行為だというのに…命知らず&身の程知らずにも程がある。

そろそろか?祥子は揺さぶられながら、KCNと書かれたビンの中身をそっと封を切ったビールの中に入れる
そしてそれを何食わぬ顔で星秀が飲み干したその時だった。
「きっ…君っ、何を…」

突然の激痛にもだえ出す星秀、無理もない…先ほどの液体の正体それは、
KCN、正式名称シアン化カリウム、別名青酸カリ!
「どうして…どう…し…て」
致死量を超える青酸カリをかっくらっていながら、なおも祥子にすがりつこうとする星秀
祥子は無言で星秀の背中超しから心臓めがけ思い切り刃を突き刺した。
星秀の口からさらに大量の血が溢れ出す。
その苦悶の表情を見た瞬間、祥子は反射的にさらに力をこめてザクザクと星秀の背中を何度も何度も刺し貫く。
(こんなの…こんな最期、僕のキャラじゃない…これは…夢なんだ)

死の苦痛の中でぼんやりと考える星秀。
(きっと目が覚めると鳳月がいて、麗芳ちゃんがいて淑芳ちゃんがいて、緑麗ちゃんがいて…)
「な、わけないよな」
心残りはありまくりだが、その中でも特に…
(志摩子ちゃん…どんな子だったんだろ?)
そして呉星秀は死んだ。

朝の日差しが暗かった町並みに差し込む中
祥子は相変わらずの暗い気分のままで、ふらふらとさ迷っていた。
祐巳を助けるため・・・祐巳を生き残らせるため・・・仕方がなかったの
戦う術を持たない自分はこんな方法でしか戦えない、これは弱者の戦法なの…。
心の中で何度も自分に言い訳をする祥子、心の中のもう1人の自分が尋ねる、本当か?と
目の前の少年が人を殺すような人間にお前は見えたのか?と

「でもっ!もしかしたらそうかもしれないじゃない!!」
違うだろう?本当は殺したくって・・・殺した
「違う違う!違う!…うぇ」
電信柱の影で嘔吐する祥子、どうやらまだ彼女はは眠れそうになかった。

【小笠原祥子】
[状態]:健康、ただし精神汚染進行中
[装備]:銀の短剣 青酸カリ
[道具]:デイパック(支給品一式/食料&水二人分/ソーコムピストル)
[思考]:祐巳と自分が生き残り、最後に自害する。

【残り94人】
【呉星秀 死亡】
【E−1/遊園地前商店街/1日目 05:55】

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