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第028話:凶人3人

作:◆Ws4bbhoG7o

リナ=インバースは冷めた目で、うわごとを呟く彼女を見下ろしていた。
自分と同じ境遇の彼女。
最愛の人を目の前で殺されたのに、何も出来なかった。

いや、ガウリイの攻撃が失敗した直後に炎の矢(フレア・アロー)を放ってはいたのだ。
だが、通常なら10本以上の矢が出現するはずがたった一本だけしか出ず、しかもあっさりとかき消され、
次の魔法を詠唱しようとした時には、もう手遅れだった。

今リナの心中を占めているものは、ただ怒りのみ。
自分への怒りも勿論ある。
だが、ガウリイを殺した連中への怒りはそれとは比較にならない。
アイツラを皆殺しにするまでは死んでも死に切れない。
どんな犠牲を払っても、どんな事をしてでもやり遂げる。もうそれ以外に道は無い。

(ガウリイがいたら、殴ってでも止めただろうな)
優しいあの人の面差しを思い浮かべる。
(でも、ガウリイはもういない。誰も、あたしを止めてくれない)

「15年も待ったんだもの。これからはずっとずっとずっとずっとずっと」
ディードリットがふらふらと森に近づいて来る。
もはや彼女が正気を保っていないのは、誰が見ても明白だ。

(正面切って戦うのは無謀ってもんね。できれば誰かと戦っている所を――)

ふと、リナの視界の端で黒い影が揺れた。

その黒い影が音も無くディードリットに近づいてゆく。
ディードリットはその黒い影に全く気付いておらず、また、黒い影もリナには気付いていないようだ。

森に入った直後、黒い影とディードリットはかち合った。

黒い影は不意打ちに成功。凶刃がディードリットの左腕を刈り取る。
「痛いっ。 パーン、パーン助けて!」
ディードリットの敵意に呼応し、"悪魔"が力を振るう。

しかし黒い影は、見えないはずのその力を察知したのか、横っ飛びに避ける。
体を覆う黒い布がズタズタに裂けたが、それだけだ。本体には届いていない。

(左腕一本とほぼ無傷、勝負はほぼ決まったかな。あとはタイミングね……)
自分にしか聞こえない程の声で、リナは詠唱を始める。

(黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの)
影がナイフを投げつけ――

(時の流れに埋もれし 偉大な汝の名において)
"悪魔"がそのナイフを弾き返すが――

(我ここに 闇に誓わん 我等が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに 我と汝が力もて)
その隙に影はディードリットまで辿り着き――

(等しく滅びを与えんことを!)
凶器と化した手刀で白く細い首筋を――

「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!」
貫いた。

「パーン……」 
それがディードリットの発した最後の言葉だった。

「んー、こんなもんかあ」
樹上から放った竜破斬は、ディードリットもろとも黒い影を貫いていた。

人間数人分がすっぽり入る大きさの穴が地面に出来ており、あとには何も残されていないい。
これでも恐るべき威力だが、本来は町一つを吹き飛ばす程の威力を有していたのである。

「やっぱりかなり魔力が制限されているようね。それに、ズーマも……」
あのズーマがリナの存在に気付けなかった上、得意の黒霧炎も使わなかった。
自分と同じく、他の人間も能力を制限されていると見て良いだろう。

ずしん、と疲労が全身に乗し掛かる。今日はもうロクに魔法が使えそうもない。
普段ならばここまでの疲労は感じないはずなのだが、これも何らかの影響だろうか。
疲れを癒さなければ。この状態で敵に会うのは不味い。

重い体を引きずりながらリナは考える。

(もし、ズーマに襲われていたのがアメリアだったとしても、あたしは竜破斬を撃ったのかな……)

そんな事はもう、決まっていた。

【残り110人】

【028 ズーマ 死亡】 【067 ディードリット 死亡】

【E-4/平地→F-5/森に移動中 /一日目、02:30】
 【リナ・インバース】
 [状態]:疲労困憊。もう魔法はほぼ使えない。
 [装備]:不明。
 [道具]:支給品一式。
 [思考]:必ず生き残ってガウリイを殺したヤツラを皆殺しに。

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