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第058話:悪役と泡

作:◆a6GSuxAXWA

「ふむ――君は、地球外生命体ではないのかね?」
「どうしてそうなるんですか……それより、ここは……?」
 佐山は首を傾げる。
 転移前、先程の説明を聞いていなかったのか、と。
 そして問いを口に出そうとした瞬間、ふらり、と少女の体が傾いた。
「……っ!?」
 少女を咄嗟に支える佐山。
 しかし、それは少女ではなくなっていた。
「転移の弾みに『戻って』しまったのか……? と、やあ、どうもありがとう。先程ルールの説明を聞いていたのは僕の方でね――」
 ぶつぶつと何事かを呟くと、少女だった何者かは身を起こして佐山に会釈。
 その表情は、左右非対称の不思議なもの。
「僕はブギーポップ。このみ」
「やはり地球外生命体だったのか」
 この切り替え、演技には見えない。
 二重人格の類にも見えるが、少女に寄生しているのだろうか。
 ……やはりこの世は、未知と不思議に満ち溢れているな。
 そんな佐山の納得にも構わず、少女――ブギーポップは途切れた言葉を紡ぎ直す。
「……さて、僕はこの宮下藤花の二重人格、と言えば理解が早いかな?」
「地球外生命体ではなかったのか」
 佐山が全身で驚きを表現する。
「――まあ、残念ながら違うね。そういった存在と遭遇した事はあるけれど」
「ふむ。どうにも信じがたい話だが……とにかく、君と先程の宮下藤花君は別人だと、そう考えれば良いのだね?」
「ああ、そんなところさ」

 ともあれ、この場で顔を突き合わせていても仕方が無い。
 そんな佐山の提案に、ブギーポップも同意し、双方が手持ちの荷物を確認する。
 どうにも浮世離れしたようでいて抜け目の無い二人だが、眼前の相手を疑うという発想は無いようだ。
 ……それとも、表に出していないだけなのか。
「何かねこれは?」
 佐山の荷物からは、食料品などの他に不思議な衣装が出てきた。
 全体が筒のような……
「驚いたね――僕のものだ。僕が出るときの衣装だったんだが、連中に取られてしまったらしくてね。早々に見つかって良かった」
 ひょいと、覗き込んできたブギーポップが衣装を手に取り、身を包む。
 その手馴れた動作に、佐山は嘘は言っていないと判断。
「差し上げよう。どのみち私が持っていても意味が無いものだ」
「ありがたく頂戴するよ。このお礼は、僕の荷とすれば良いかな……?」
 ブギーポップが荷物を漁ると……出てきたのは木の箱だった。
 付属としてか、説明書が付いている。
「リード&ヴォーン九二型・五〇口径エンチャント・マグナム、通称Eマグ」
 ブギーポップがぱらぱらと捲る説明書を、佐山も目で追う。
「強力に呪化されたハローポイント弾を撃ち出す、吸血鬼狩り用のリボルバー拳銃……」
 蓋を開けると、確かに説明書の図と同じ銃が存在する。
 予備の弾丸も十分すぎるほど。
「――対人外向けの銃器と解釈すれば、多分問題無いだろうね」
 佐山もその意見に同意し、頷くと、目の前に箱が差し出された。

「……良いのかね?」
「差し上げよう。どのみち僕が持っていても意味が無いものだ」
 先程の己の口調を真似たブギーポップの台詞に、佐山は苦笑。
「それでは――有り難たく頂くとするよ」
 拳銃の扱いは心得ている。
 慣れない物で多少取り回しづらいが、どうにかこの程度ならば使用は可能だろう。
「さて――行動を共にするかね? 私には探さねばならぬ人が居るのだが」
「それが残念ながら僕にも、倒さなければならない存在が居てね……特に今は、その存在を強く感じる」
 残念だ、と佐山は首を振る。
「縁があれば、また会いたいものだね。ブギーポップ君」
「ああ――お互い、生き延びている事を祈ろう。佐山御言君」
 笑みを交わして、二人は踵を返す。
「最後に聞いておこうか……君の敵とは?」
 名残を惜しむように振り向きながら、佐山。
 そこには、同じように振り向いた、左右非対称の不思議な表情があった。
「――世界の敵さ」

【座標G−6/森の中/時間(一日目・00:32)】

【ブギーポップ(宮下藤花)】
[状態]:心身ともに健康(移動中)
[装備]:ブギーポップの衣装
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:世界の敵を探し出し、排除する。

【佐山・御言】
[状態]:心身ともに健康(移動中)
[装備]:Eマグ
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:1.新庄運切の捜索。 2.その他の知人の捜索。

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