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第032話:Samurai Justice

作:◆Wy5jmZAtv6

侍というものは弱者を守り、そして悪を討たねばならない、だからこそ強くあらねば
正しくあらねばならない。
「ねぇ?その刀頂戴」
道行くシャナに声をかけたのは御剣涼子だ。
しかしシャナは涼子を無視し、スタスタと歩いていく。
「ちょっと!話聞いてないの!?」
涼子の詰問にも動じず、シャナは歩みを未だに止めない、たまらず涼子は全力ダッシュで
シャナを追い越して手前に立つ。
「あいつらと戦うには武器が必要でしょう、わかる?」
「だからどうして私の武器が欲しいわけ?」
ようやくつまらなささそうにシャナが応じる。
「私の方が使いこなせるからに決まってるからよ、こう見えてもお姉さん強いんだから」
「あきれた」
話にもならない、そんな表情でシャナは涼子を見つめる。

その表情が勘に触ったが、ここは抑える涼子…まぁこういう状況では仕方がない
だが、自分の実力を少し見せれば尊敬の眼差しでたちまち言うことを聞くに決まっている。
「いいかげんにしなさい、悪いことはいわないからお姉さんに渡しなさい、そんな物持ってたら危ないわよ」
勤めて優しくシャナの手をつかもうとした涼子だったが、
踵を返したシャナによって、それは空振りに終わる。
「あら?」
ムッとした表情で自分の手を見つめる涼子、今のは偶然だ、こんな小さな子が
「どうしたの?強いんじゃないの?」
シャナの瞳が危険な光を放つ、気がついた時には遅かった。
その時には信じられないほどの速度の抜き打ちが涼子の眼前で止まっていた。
「…ねぇ」

動けなかった…この自分が…というより見えなかった、それにこの瞳
涼子はシャナの瞳を覗き込む、その挑発的でいて冷たい視線は…一体。
「これでわかったかしら?」
「ええ、わかったわ…サムライとして貴方のような奴を倒さなきゃいけないってこと…」
それ以上の言葉を彼女は口に出来なかった、なぜならシャナの膝が見事に彼女の鳩尾に決まっていたからだ。
「口上を言う前に体を動かしたらどう?」 
ごほごほと咳き込む涼子にはもはや構わず、また先へと進むシャナ。

必死で呼吸を整え、反撃の機会を伺う涼子。
彼女から見えるシャナの背中はスキだらけだ、常在戦場という単語が涼子の頭に浮かぶ、
ましてここは文字通りの戦場…背中を向けた相手が悪い。
涼子はそっと気配を殺し立ち上がる。
狙いはシャナの後頭部…。
「スキあ…」
「あきれた侍もいたものね」
いつの間にか目の前にシャナの顔があった。
さらにもう一度衝撃、今度は掌底が涼子の鳩尾を貫いていた。

「武器が…互角なら…」
壁に叩きつけられ、今度こそ起き上がれそうにないダメージを受けた涼子。
「自分の弱さを認められずに今度は言い訳?」
そんな彼女の心を見透かしたようにシャナは冷たく言い放つ。
「殺しなさいよ」
憎憎しげにシャナを睨む涼子、もはや虚勢しか張れないようだ。
「そうしたいのは山々だけど、悠二が悲しむことはしたくないの」

「情けをかけたつもり?後悔するわよ」
「情け?そんなはずないわよ」
「あなたを斬ったって刃が穢れるだけだもの、そんなに侍が好きなら自分で切腹でもすれば」
自称サムライガールにとってそれは死にも勝る屈辱だった。
そして今度こそシャナは涼子の元から去っていく。
その背中に罵声を浴びせ続ける涼子だが、もはやシャナは涼子の言葉など聞いていなかった。

今、彼女が考えていたのは坂井悠二のことのみ
早く悠二を探そう、悠二に会いたい。悠二とならどんな苦しみにでも耐えられる、
共に生き、共に戦おう、それが叶わないのならば…せめて共に死のう。
「待ってて」
そう呟き、シャナは小走りで涼子の視界から完全に消えていった。

そして…涼子は怒りと屈辱にまみれたまま街をさ迷っていた。
それでも自分の力量が劣ってたとは決して思わない涼子…
正義は…正しい者が必ず最後に勝つのではなかったのか?ならなぜ自分は負けた?
彼女の脳裏にシャナの瞳がフィードバックされる。
そうだ…あの目だ、あの瞳の色に自分は敗れたのだ…あの瞳を乗り越えなければ
あの瞳を手に入れなければ、手に入れさえすれば…きっと自分の方が強いはずだ。
涼子は支給品であるナイフをそっとディバックの中から取り出す。
もののふとして決して使うまいと、自分にはふさわしくないと、つい先ほど封印した品だが…、
そこに。

「君も参加者かい?」
突然の声にぎこちなく振り向く涼子、そこには風采の上がらない一人の男がいた。
「私はヤン・ウェンリー…こうみえても軍人なんだ、不本意ながらね」
その男はぽりぽりと頭を掻きながら自己紹介する。
「ちょうど良かった…実は…」
涼子を弁護するならこれは事故といっても過言ではない、
武器を用意した人間が手を抜いていたのか?たまたま不良品が混じっていたのか?
とにかく、彼女がヤンの言葉に耳を傾けた瞬間、手に握られていたスペツナズナイフの切先が、
ヤンの心臓を貫いていた。

ヤンは一瞬驚いたような表情を見せたのみでそのまま壁にもたれるように崩れ落ちていく。
その体からどくどくと赤い血潮が溢れて止まらない。
そしてその様を見つめる涼子の目に畏れはなかった、逆に奇妙な充実感がこみ上げてくる。
そうだ、自分に足りなかったのはこれだ、この経験が私をより高みへと引き上げてくれる。
この人には申し訳ないが、殺すつもりはなかったのだからこれは不幸な事故に過ぎない。
この人の分まで私が正義のサムライとして他のみんなを悪から守ればいいだけの話だ、それで十分償いになる。

そして今度出会えば、今度こそあの子に勝つことができるはずだ。
「これで乗り越えた…これなら勝てるわ」
そう呟く御剣涼子、その表情は普段と何も変わりなかった。

【C-8/港町 /1日目・1:00】

【シャナ】
[状態]:健康
[装備]:刀(ただし鈍ら)
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:悠二を探す

【御剣涼子】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ 、ヤンの所持品全部
[道具]:デイパック(支給品一式) 
[思考]:シャナに復讐/サムライとして人々(自分を肯定する者、従う者)を守り
     悪(自分と考えが違う者)を討つ 
     
【080 ヤン・ウェンリー 死亡】  【残り109人】


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