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第027話:Silly's Night

作:◆l8jfhXC/BA

「ドラッグの次は殺人ゲームですって?冗談じゃない」
 つぶやいた自分の声が震えているのに気づき、海野千絵は拳を握りしめた。
 折角の温泉旅行の途中にこんなゲームに放り込まれてしまったことにもそうだが、
 目の前で見せしめに人が殺されたというのに何も出来ずに足を震わせていた自分へも憤っていた。
 あれからも研究会のOGとして多少イカれた奴らと張り合ったことはあった。
 ──だが、カプセル騒動以上の恐怖と焦燥を感じることはなかったので当然の反応といえばそうなのだが。
「……落ち着きなさい海野千絵。ここで自己嫌悪していても何も進まないわ」
 ──こんなゲームは断じて許されるわけがない。
 確かに、一同に会された参加者の中には明らかにこの状況を楽しんでいる者達の姿があった。
 それでも大半は自分のような思いを抱く者に違いない。そう千絵は確信していた。
 同士を集めて、主催者を倒せばここから出られる。そして、自分にはそれをやり遂げることが出来る強い意志がある。
「あの顔をぶん殴るまでは絶対死んでやらないんだから」
 決意と言うよりは自分に言い聞かせるように声を出し、苛立ちを闘争心に変える。
 そこでやっと足下にデイパックが落ちていることに気づいた。
「食料とか……武器が入ってるって言ってたわね」
 戦闘に関してはまったくの素人なので、何が入っていてもあまり意味はないが……やはり何かないと心細い。
「──っと。何かが引っかかってる?」
 引き手をひっぱり1/3くらい開けたところでなぜか止まってしまう。
 よく見ると、ファスナーのかみ合う部分に青い布の切れ端のようなものがひっかかっていた。無理矢理詰め込んだらしい。
 引手を戻し、今度はゆっくり引っぱっていくと、
「きゃあっ?!」
 中の何かと目が合った。
 尻もちをついた千絵に向かって、それは飛び出してきた。
 青いマントを羽織った、手のひらサイズの奇妙な少年。
「悪魔っ?!」
 千絵の知っている限り、この異様な生物にはこの単語しか当てはまらない。
「失礼な、んな架空生物じゃないぞ」
 しかし、本人に否定された。
 ──本人に。
「喋ってる?!」
「喋ることすら認めてくれないのは人権侵害に値すると思う。いや精霊権か。
そもそもあんな狭い場所に閉じこめられ押しつぶされること自体がだめだ。全く。
ところでお前さん、精霊権侵害相談所がどこにあるか知っているか?」
「し、知らないわよっ」
「むぅ、人はいつからこんなに無知になってしまったのだろうか……」
「…………」
 目の前の自称“精霊”に対して思考が追いつかない。
 悪魔は喋らないし──カプセルを飲んでいないので悪魔が見えるわけがない。
 そもそも、悪魔自体がカプセル一つを残して消えてしまっている。
 では、これは何だろう?
「あなた、生きてるの……よね?」
「失礼な、ちゃんと生きてるぞ。その証拠にぞこぞこ増え──てないな?
なぜだ?カンストか?ついにカンストしてしまったのか?」
「…………」
 よく観察してみると、背中に青っぽい羽根が生えている。髪も人間ではあり得ない青黒い色をしている。
 そして肌は青白く、鼻は高く先が尖っていた。人の形はしているが、精霊というよりはどちらかというと虫に見えた。
「その……あなたは精霊、っていうの?」
「人精霊とかに勝手に分類されているらしいぞ。
……そういやひげもないな。若返ったのか?あの閉鎖空間にはそんな美容効果があったのか?」
 じんせいれい。人型の精霊ということか。人生例だったら嫌だ。
「……まぁ、現にここにいるんだから、信じるしかないわよね」
 目の前の生物について考えることを諦め、千絵は残りのデイパックの中身を確認し始めた。
 パン、水、懐中電灯、地図、白い紙と鉛筆……それと、名前が羅列した紙があった。
「参加者名簿ってわけね」
 こんなゲームに拉致されたのは自分だけでいてほしい。
 祈りながら、名簿の冒頭から目を通すと──

「…………」
 千絵は深くため息をついた。よりにもよって一番目から知り合いがいた。
 物部景。甲斐氷太。緋崎正介──ベリアル。そこには三人の知り合いの名前がしっかりと書かれていた。
 景は確実に仲間になってくれる。最優先に探し出す必要がある。
 甲斐はあの性格だから、もしかしたらゲームに乗ってしまうかもしれない。でも。
「茜さんのためにも……ううん、一緒に戦った仲間だもの。説得しなくちゃね」
 そしてベリアル。
 ここに名前があるということは、あれからどうにかして復活したらしい。 実体がない彼をどうやってここに連れてきたのかは謎だが。
 ……彼を説得するのは無理だろう。顔を合わせたら十中八九敵に回ると考えていい。
「とにかく物部くんね。あっちもきっと私を探してくれるはず」
 名簿をデイパックに戻し、千絵は中身を確認する作業に戻った。
 方位磁石、時計──

「……これは何?」
 そして奥の方から、拳大のガラス玉と、何かが書かれたメモを見つけた。
「『この玉に精霊を入れて衝撃を与えると爆発します』……あなた爆弾だったの?」
 何かをつぶやきながら千絵の周りを飛んでいた人精霊は、目の前で止まって口をへの字に曲げた。
「それは巨大すぎる誤解だ。異議を申し立てる」
「とすると、この玉がそうなの?」
「それも違うような気がする。どちらにしろ閉じこめられることには断固として抗議する」
「……そうよね。もちろんそんなことしないわ」
 自爆しろと言っているのと同じだ。嫌がるに決まっている。
 千絵自身も、意志がある生物を爆弾代わりにすることなどしたくない。

 ガラス玉とメモをデイパックに戻し、改めて人精霊とやらを見る。
「とりあえず、あなた名前は?」
「俺かい? 俺はスィリー。名前は適当だよ。なんだったら、好きなようにつけてもらってもいいくらいだ」
「そうね、じゃあグッピーなんてどう?」
「スィリーって名前、気に入ってるんだホントに。うん」
「…………、じゃあスィリー。あなたはこのゲームについて何か知ってる?」
 頭が痛くなってきた気もするが、ここで彼の言動について議論しても意味がない。
「ゲーム?ゲームなのかこれは?精霊権侵害相談所を探す旅を本気で考えないとだめなのか?」
「何も知らない、と。私はここから脱出するために行動するけど、一緒に来るわね?」
「なぜそこで断定口調なのか、ちょっと不満に思ってみようと思う」
「ここにいたって何も始まらないじゃない。あなたも元の場所に戻りたいんでしょ?」
「いやそうだが。いやそうか? 小娘や小僧や金属小娘の最近の待遇は微妙な気もする。微妙だが」
「く・る・わ・よ・ね?!」
「むぅ、しょうがない。そんなに見たいか俺のスペクタクむぎゃ」
 片手でわしづかみ黙らせて、千絵は歩き出した。


【残り112人】

【E-5/平地/一日目・00:40】
【海野千絵】
[状態]:健康、強い決意
[装備]:スィリー(エピローグ前の状態に戻っている
[道具]:精霊檻(開門済)
[思考]:景を探す、甲斐を説得する→仲間を集めて主催者を倒す
※千絵は勘違いしていますが、原作の設定通り、精霊檻にスィリーを入れて破壊しても壊れるのは精霊檻のみです。

【備考】
精霊檻(まとめスレキャラ紹介フリウ参照)、スィリー(無駄な人生トーク発生精霊)→エンジェル・ハウリング

2005/05/09  改行調整、一マス開け、読点・ダッシュなど追加、名簿に関する矛盾修正

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