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第029話:姐さんと魔法使いの……

作:◆a6GSuxAXWA

とりあえず身を隠しつつ林を通り抜け、できるだけ見晴らしの良い平地などの場所を迂回し、森へ。
 その移動に一時間以上もかけてしまったのは、やや動きが慎重すぎたためか、周囲の地形の把握に手間取ったためか。
 加えて景が森林地帯での行動に慣れていなかったこともあるだろうか。
「さて、この地形、地図で言えば……G−6からF−5の地区へ、斜めに動いた事になるわけか」
 青いウィンドブレーカーの分厚い生地を利用して光を遮り、懐中電灯で地図と方位磁針を照らす。
 探し人の情報を集めるにも物資を集めるにも、D−3周辺に表示された街へ行くのが最善だろうと、僅かな協議の末に決まった。
 当然、ゲームに乗った者たちに襲われる危険は増すだろうが――それを言い出すならば、そもそもこの島で安全な場所など無いだろう。
「このままE―4を経由して行けば良い、わね。まだゲーム開始直後二時間と経っていないし、乗り気になっている馬鹿にも罠を仕掛けるほどの時間的余裕は無いと見ていいわ」
 銃器も配布されている以上、むしろ遮蔽物の多い森を突っ切る方が安全だろうとは、風見の判断だ。
 ちなみに景は――武器がスプーンでは流石にどうしようもない。
 己の靴下を脱いで重ね、中にそこらで拾い集めた小石を詰めて、それを武器としていた。
 ブラックジャックならば、甲斐と戦った際に用いた経験があるのだ。
「しかし、ただのモヤシかと思ってみれば――意外と慣れた感じね」
 森の中を、二人で死角を補いながら移動していると、風見が呟いた。
「……流石に殺しあった経験は無いけどね」
 夜の街で『ウィザード』として悪魔を駆り出していた頃に積んだ、様々な経験。
 ――まさか今更になって役に立つとは思わなかった。
 地図とコンパスを仕舞いつつも、そう思う。
「それじゃ、行くわよ……っ、何?」
「――?」

歩き出した風見の足が、何か柔らかいものを踏んだ。
 確認しようと、景が懐中電灯を向けると――
「…………ッ!!」
 それは――頭の潰れた少女の亡骸だった。
 二人は知る由も無いが、それは朝比奈みくると呼ばれた少女のものだ。
 自分が踏みつけたものの正体に気付き、驚きの声を噛み殺す風見。
 景も目を見開いたが、しかし彼は風見に比しても更に冷静だった。
 声を無視して亡骸に触れれば、まだ微かな温かみが残っている。
 それはつまり――
「……まだ近くに犯人が居る。隠れろ――ッ」
 声を潜めて風見に囁き、懐中電灯の光を消しつつウィンドブレーカーを翻し、手近な茂みへ飛び込む。
 次いで風見が傍らの別な茂みに飛び込み、息を潜める。
 茂み越しに目を合わせ、頷きあう。
「やる気になっている馬鹿が居る。しかも、下手をするとすぐ傍に――」
 風見が、口の中で呟いた。
 どうする――?
「頭骨があれほど潰れている点から見て、犯人はそれなりに威力のある武器または能力を所持、か――」
 景が、口の中で呟いた。
 どうする――?

 暗闇で一瞬照らしたのみなので、大口径の銃器かそれとも鈍器による傷なのかも判別はつかなかった。
 自分は悪魔が使えなければ、銃器も撃った経験は無い。
 武器はブラックジャックの劣化品。
 いざとなれば、風見の銃の腕を信じて囮になるか――?
 と、そこまで思考し景は苦笑。
「……いつの間に、信頼してしまっているんだろうな」
 口の中だけで、そう呟く。
 あの強気な口調が、幼馴染の少女を思わせるからだろうか。
 ともあれ、自分一人では勝てない可能性が高い。
 風見と二人でも危ういかも知れない。
 一刻も早く――
「やっぱり、逃げの一手――ね」
 風見の声に、景は頷いた。
 少女の亡骸に数秒だけ黙祷を捧げると、風見はその手からデイパックを拝借。
「ごめん。貴女の仇を取るなんて言えないけれど……どうか、安らかに」
「……冥福を」
 二人は慎重に、茂みに紛れて移動を開始した――

【残り110人】


【F−5/森の中/一日目、01:55】

『姐さんと騎士(物部景/風見千里)』
【物部景(001)】
[状態]:正常
[装備]:ブラックジャックもどき(靴下二枚を重ねて小石を詰めた自作品)
[道具]:デイパック(支給品入り)、スプーン
[思考]:1.現在地よりの離脱。 2.カプセルと海野千絵の捜索。

【風見千里(074)】
[状態]:正常
[装備]:グロック19(ハンドガン)
[道具]:デイパック(支給品入り) 、デイパック(朝比奈みくるの亡骸より。未開封のため内容物不明)
[思考]:1.現在地よりの離脱。 2.出雲覚、新庄運切、佐山御言の捜索。

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