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第003話:Midnight Rendez-vous

作:◆Wy5jmZAtv6

「白薔薇さまっ!」
福沢祐巳は暗い夜道で安堵の声をあげる。
その声に振り向いたのは白薔薇さまこと佐藤聖だ。
「よかった、誰も知り合いいなくって…お姉さまや志摩子さんとかとも離れ離れになってしまって」
泣きじゃくりながらも安堵の言葉を漏らす祐巳。

「白薔薇さまさえいてくれたら百人力です、はやくみんなを探しにいきましょう」
しかし…その白薔薇、佐藤聖は祐巳の呼びかけに応じようとはしない。
「?」
心配げに聖の顔を覗き込もうとする祐巳、とそこに始めての声。
「私もお願いがあるの…ねぇ祐巳ちゃん」
聖は祐巳の肩に手を置く…その温度は、まるで死人のように冷たかった。
「あなたを、喰べさせて」
「!!」
瞬きする間もなく聖は祐巳にのしかかる、その口の端からは2本の牙が覗いていた

一目見ただけで心臓が止まるかと思った。
佐藤聖…別名白薔薇または、リリアンのセクハラ女王の異名を持つ彼女は
うっとりとした表情を先ほどから浮かべていた。
姉妹制度という独特の習しゆえ、レズの巣窟と近隣で噂される聖リリアン女学院だが
それは思春期特有の気の迷いのようなもので、実際卒業すると
たいていはすぐに似合いの男とくっついてしまうのが常なのだが、

しかし中にはわずかではあるが真性の同性愛者ももちろんいたりする。
佐藤聖はその数少ない一人だった。
あの人と言葉を交わしたい、例え一言だけでも構わない
聖はふらふらと熱に浮かされたように、闇路を歩く。
その美女はすぐに見つかった、まるで自分を待っていてくれたかのように

聖が近づいてくるのを見て、美女も微笑む
「わたしに何か用かぇ?」
その声はまるで鈴の音色のように心地よくそして美しかった。
顔半分がベールと垂らした髪の毛で隠されているのが少し気になるが。
「あの…その…」
頬が真っ赤に染まっていくのを自覚しながら聖は何とか言葉を紡ごうとする。
こんな気持ちは何時以来だろう?…たしか。
「お一人…でしたら…」
美女は聖の言葉を予測していたかのようにまた微笑む、そして…。

「皆まで言わずともよい、だが我が顔を見てもまだその言葉続けることができるかの?」
その美女は、美姫は顔半分を覆うベールをゆっくりと剥がす、そして露になった彼女の素顔をかいま見たその瞬間、
聖は悲鳴を上げてのけぞった。
そう、美姫の顔半分は二目と見られぬ程に醜く焼け焦げていたのだった。
「どうした?いうてみよ…わたしと語らいたいのであろ?」
美姫は美しい方の顔で微笑み、聖へとにじり寄る。
「こないでぇ!!こないでぇ!!」

聖は手当たり次第に足元の石や棒を投げるが、当然の事ながら当たりはしない。
「ほほ、可愛いの、そなた気に入ったぞ」
美姫がにぃと微笑む、と、同時に美姫の姿が聖の前からかき消える。
いかに力を制限されていようが、もとより一般人である聖には見切ることなどできはしない、
そして背後から…。
「美しい髪じゃの…それに秀蘭にどこか似ておるの」

鈴の鳴るような美声にも聖は振り向くことさえ出来ない。
そして美姫の白い手が蛇のように聖に絡みつく、そこでようやく聖は身体をひねり逃げようとしたのだが、

「逃さぬ」

その声と同時に唇を奪われてしまう、無論抵抗する聖だったが…
数千年を生きる吸血姫と、セクハラ女王程度では勝負にすらならない。
事実、硬く閉じられた聖の唇は、美姫の狡猾なまでのテクニックによって少しずつこじ開けられ、その舌が聖の口腔内を優しく滑っていく、
やがて…ため息のようなものが彼女の口から漏れたかと思うと、聖もまた美姫の唇を求め、貪るようにその舌を夢中になって
動かし、吸い始めるのだった。

そして長い接吻は終わりを告げ…ふぅふぅと吐息と同時に二人は唇を離す…幾筋もの唾液の糸がつぅっ…と伸びていく。
だが、これで終わりではなかった。
「我が呼びかけに応じた褒美じゃ、我が僕となるが良い…人の器では味わうことの出来ぬ甘美な世界へと誘って進ぜようぞ」
その言葉と同時に美姫は聖の喉にその牙を突き立てたのだった。
鋭い痛みが聖の身体を突き抜け、だがそれと同じく今まで感じたことのない熱さが彼女の中から湧き上がってくる。
「ああ…」

美姫は聖の苦悶にも関わらず死の接吻を続ける、2度、3度と…
「でも…貴方…なんかにっ」
聖は最期の力を振り絞り、手にした剃刀で美姫に斬りつける、美姫の片耳が裂け鮮血が溢れ出す。
「ほほ、気丈よの…ますます我が物にしとうなったわ」
その呟きが終わるか終わらないかの内に4度目の接吻、そしてそれが終わったとき、
激痛の悲鳴はもはや快楽の喘ぎへと変わり、聖もまた己の熱に促されるまま美姫の喉に牙を立てる、
こうして互いの命のエキスを啜りあう淫らな交合が闇の中でひたすら繰り広げられたのだった。

それからしばらくして、完全に覚醒した聖に何事か言い含め、彼女は悠々とその場を去ったのであった。 

こうして話は現在へと戻る。
今まさに聖は祐巳にのしかかり牙を剥き出し欲望のまま噛み付こうとしていた。
これがあの白薔薇さまなのかと思うほどの膂力ゆえ祐巳は動くことすら適わない。
それに…祐巳を見つめる聖の瞳が爛々と輝く、その輝きを目の当たりにした瞬間、祐巳の身体から
力が抜けていく。

聖の手が、もどかしげに祐巳の首元をゆっくりと裂いていく、その冷たい感触に祐巳は改めて思う
もう今目の前にいる白薔薇さまは、自分の知っている白薔薇さまではなくなってしまったのだということを。
なのに怖くて恐ろしくてたまらないのに、なぜか逃げようとは思えない。
されるがままの祐巳だったが、その時だった。
「ひぃっ!!」
聖が短い悲鳴を上げる、と同時に祐巳の身体が夢から覚めたように動くようになる。
祐巳の薄い胸から覗いているのはロザリオ、姉妹の契りの証が鈍く輝いていた。

呪縛の解けた祐巳は無我夢中でロザリオを聖に向かって振り回す。
十字の部分が聖の顔に触れ、肉の焼ける匂いがあたりに立ち込める。
「ああああああああっ」
激痛にのたうつ聖、見ると頬に十字の焦げ目がついてしまっている。
それでも聖は祐巳の足を掴んだまま、はぁはぁと息を荒げて血走った瞳で祐巳を見つめている。
「祐巳ちゃん…ごめん、ごめんねぇ…」
ぽたぽたと祐巳の顔に聖の涙が零れ落ちる。

「私、あれから何度も何度も死のうとしたわ…でも出来なかったの、もう我慢できないの」
彼女の首筋には支給品である剃刀で自ら切りつけた傷が幾つもあった、
しかしその傷もぶくぶくと泡立ちながら少しずつ修復していく、
眷属とはいえ、もはや彼女はれっきとした吸血鬼、その程度では苦しいだけで死ぬことは適わないのだ。
そして残ったのは抑えきれぬ欲望のみだった。

「夢じゃ…ないんですね」
えぐえぐと普段ではとても見られぬ姿で乱れる聖、それを冷めた目で眺める祐巳
「そして苦しいんですね、白薔薇さま…」
祐巳はロザリオをそっと地面へと置く、お姉さまごめんなさいと心の中でつぶやきながら。
「白薔薇さまなら…いいです」
不思議と嫌な気持ちはなかった、
それでも聖の口から覗く牙を見た時はまた少しだけ恐怖が疼いたが。
そして聖の牙が祐巳の喉を貫こうとしたその時だった。

がっ!
横合いからの一撃に吹っ飛ばされる聖、
我に返り振り向く祐巳の視界の中に、パチンコのようなものを構えた眼鏡っ娘、趙緑麗がいた。
「その方!何をしておる」
どす黒い闇の匂いを嗅いでここまでたどり着いたのだが…。
眼前の淫靡かつ異様な光景に気押されながらも緑麗は手にもったスリングショットを聖に向けてさらに放つ
射出された鉄球が聖の側頭部に命中する。
「ぐあああっ」
かつて人間だった頃には決して聞くこともなかったほどの醜い悲鳴をあげてのたうちながらも
形成不利を悟ったか聖は踵を返しそのまま闇の中へと逃げようとする

当然それを追う緑麗だったが、
「逃げてっ!!白薔薇さまっ!!逃げて!!」
祐巳は緑麗にすがり付き、聖の逃走を手助けしようとする。
「そこをどかぬか!!」
「白薔薇さまは悪くない!悪くないんです!!だからっ!!」
搾り出すような涙声で必死で訴える祐巳。
ようやく緑麗が祐巳を振りほどいた時には、もう聖の姿は消えていた。

それを確認し、そこで緊張の糸が解けたのだろう…祐巳は緑麗にもたれかかるように
崩れ落ち気絶の世界へと突入していった。
「おい……気を確かに持て!おい!」
介抱しながらも緑麗は表情を崩さない、おそらくあの娘は眷族、どこかに主がいるのだろう。
しかし…あのおぞましいまでの妖気は何だ、あれほどの力を持つ「主」がこの島に潜んでいる
そう思うだけで背中が凍る思いがする。
「みんな…無事でいてくれ」
緑麗は悲痛な表情でつぶやくのがやっとだった。

茂みの中、先ほどの自分の行為に震える聖、自分は何をしようとしていた?
自分を慕う後輩に…なんておぞましい真似を。
だが、それとわかっても止めることなど出来なかった、まるで性欲と食欲が交じり合い、数倍に膨れ上がったような感覚だ。
「ううっ…うううっ…」
浅ましき悪鬼と成り果てた自分に涙する聖…しかしそれでも
「止まらない…止まらないわ」
その手に握られているのはつい先ほど捕まえたばかりの野良猫、迷うことなく聖はその喉にかぶり付いた。
ぴちゃぴちゃと野良猫の喉首から溢れ出す血を舐め続ける聖、この蕩けるような甘美な味わいを一度知ってしまえば
輝かんばかりの闇の美しさを目の当たりにすれば、もう逃れられない。

かの魔界医師ですらこの魅惑に一時は抗えず危うく流されそうになったのだ、彼女を責めることはできない。
それに、聖は美姫の言葉を、主の言葉を思い出す。
『自由に生きるがよい、心のままに…』
そうだ、もう自分は人間ではない、人の世の小賢しいルールに縛られる必要など何処にもない。

ああ…人間の血は、そして祐巳の、由乃の、志摩子の、令の、祥子の、江利子の、蓉子の、そして栞の血は…
どんな味なのだろうか?
早く彼女らにもこの悦びに満ちた世界を経験してもらいたい。
「皆…ごめんね、私、やっぱり人間やめさせてもらうわ」

こうして佐藤聖は人間を捨て、かくして白い薔薇は鮮血に染まっていくのだった。

一方の美姫であったが、彼女も自分の身体に起こった変化に顔をしかめる。
渇く、とにかく渇くのだ。
無論、彼女ほどの大吸血鬼ともなれば渇きを抑えることなど造作もない。
しかし、この地に降り立って以来、彼女の中の吸血衝動は次第に大きくなりつつある。
「これもきゃつらの仕業かの、味な真似をしてくれおる」
事実そうでなければ、誇り高き彼女が戯れとはいえ、行きずりの少女を襲うなど決してありえないだろう。

「我が渇き癒すのはあの男の血潮以外にありえぬと思うておったに、口惜しゅうてならぬ」
美姫は己の顔の傷を指でさする、鈍い痛みと共に思い出すのはあの時の苦い記憶
もはやこの顔、そして著しく弱体化した力ではあの男を手に入れることは適わないだろう
事実、先ほどから魅了の術をかけつづけていたにも関わらず、網にかかったのは彼女一人
一流の戦士・魔術師にはやはりそれなりに気合を入れねば効果が薄いようだ。

まぁいい、この島にはあの男には劣るが、それでもなかなかの美形が多く集っているようだ、ならば、
「我が闇の軍、この地にて再興させるもまた一興、秀蘭の次は劉貴の番よの」
美姫は、かつて古の中国において妲妃と呼ばれていた妖女は艶然と微笑むのだった。

【残り117名】

『神将&女子高生』
【福沢祐巳(060) 】
 [状態]:気絶
 [装備]:不明
 [道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)、
 [思考]:不明/現在気絶中 

【趙緑麗(035) 】
 [状態]:通常
 [装備]:スリングショット
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:仲間を探す

【佐藤聖 (064)】
 [状態]:吸血鬼化/身体能力等パワーアップ
 [装備]:剃刀
 [道具]:デイパック(支給品入り)
 [思考]:吸血、己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
以下3名、【G−2/林の中/一日目、01:30】

【美姫(110)】
 [状態]:通常
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:仲間を増やす(次の標的は男性、意図的に仲間にするのはその1名のみです)
現在位置 【F−3/草原/一日目、01:30】

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