どんな双眼鏡を選びましょうか
小型それとも大型
どのような双眼鏡を選ぼうかと考えると、まず倍率に目が行きがちです。
20倍・60倍・100倍と高倍率を誇る表示がカタログや店頭で踊っているでしょう。
高い倍率ほど良く見えそうに思えるかもしれませんが、倍率は双眼鏡にとってあまり重要ではありません。
けっして「倍率が高い双眼鏡=高性能な双眼鏡」ではないのです。
倍率に関しては別な項で詳しく書いていますのでそちらを御参考に。
双眼鏡選びでもっとも重要なのは 対物レンズの大きさです。
カタログでは「対物レンズ有効径」と書かれていて、普段は「口径●●mm」なんて言われています。
口径が大きい双眼鏡ほど、暗いところでも良く見え、視界や解像度にも有利です。
逆に、このような双眼鏡は大きく重いので、携帯性の面ではデメリットになります。
詳しくは「双眼鏡入門」に書いていますので御参考に。
小型の双眼鏡が良いとなれば、必然的に小口径の機種になります。
逆に、天体観察や悪条件下での使用となれば口径の大きな機種が必要になります。
双眼鏡を口径別に分類しながら、どのような用途に適しているのか考えて見ましょう。
口径10mm台
まずプリズム双眼鏡で最も小さなクラスとなるのが、口径10mm台の双眼鏡となります。
数年前から製品化されるようになったカードサイズのフラット双眼鏡や、ニコンなどから発売されているミクロン型の双眼鏡などがここに分類されます。
ニコン ミクロン型双眼鏡 ミノルタ フラット双眼鏡
対物レンズが小さい以上、明るさは期待できませんが、各社の製品とも力を入れている分野です。
それだけに サイズに似合わず 驚くほどの見え味を持つ機種が存在します。
オペラグラスのような感覚で覗くと びっくりします。
もちろん、小口径のデメリットもあって、低倍率でなければ使いにくかったり、視野が数字以上に狭く感じられたりと、使用上の制約も付きまといます。
双眼鏡にこだわらないで使う目的、たとえば旅行のとき鞄の片隅に入れておいたり、散歩のときにポケットに入れておいたりといった使い方では非常に便利ですが、キャンプや野外観察で使うのであれば力不足を感じてしまいます。
フラット双眼鏡では視野の上下が制限されるのも好き嫌いが分かれるところです。
個人的には、多少大きくても次に述べる口径20mmクラスの双眼鏡のほうが安価な上に性能も高いのでお勧めなのですが、軽さ・携帯性・デザインが重視されるのであればこのサイズの双眼鏡も良い選択でしょう。
少なくとも、大きさではほとんど変われないオペラグラスよりも
双眼鏡としては格段に上であることは確かです。
口径20mm台
次のクラスは口径が20mm台の双眼鏡です。
このクラスは各社が最も力を入れている分野で、店頭で見かけることが最も多い商品でしょう。
細かく分けると、対物レンズを接眼レンズより内側に配置したコンパクトタイプのポロ型双眼鏡と、アルファベットのH字のようなダハ式双眼鏡に分けられます。
それぞれの形式の特徴については「双眼鏡入門」で詳しく述べていますので、そちらを御参考に。
ニコン「スポーツスターU」 ペンタックス「タンクローM」
ダハプリズム双眼鏡 ポロプリズム双眼鏡
両者を比べてみると、ポロ式のほうが同口径同倍率では安価で、ダハ式のほうが小さいが高価という傾向が有ります。
しかし、ポロ式でも一部ではダハ式よりも小型の機種もありますし、一流ブランドでなければダハ式でも安価な商品が出回っています。
どちらも一長一短あり、一概にどちらが良いとは決められないのですが、安めのダハ双眼鏡を買うくらいならしっかりしたメーカーのポロ双眼鏡を買うほうが確実です。
このあたりの事情は「双眼鏡研究室」で詳しく比較実験していますのでご参照を。
まず、ポロ型のほうから詳しく見てゆきましょう。
最も売れる双眼鏡だけあって、各社とも豊富な品数を揃えています。
もっとも有名で定評があるペンタックス「タンクロー」シリーズを例にとってみましょう。
まず、通常型・ミニ・防水型・ズーム型の4系統に分かれ、それぞれに複数の倍率が用意されています。
通常型では8倍・10倍・12倍・16倍の4種類、小型と防水型では8倍と10倍がそろっています。
12倍や16倍はあまり実用的ではありません。
お好みで8倍か10倍の商品をお好みで選ぶのが良いでしょう。
通常機種ではダハ機よりも大柄ですが、ミニでは折りたたんだダハ機よりも小さくなっています。
お勧めは通常型の8倍なのですが、ミニでも防水型でも8倍が最も使いやすいと思います。
安売り店でも数多く売られていますから、防水型やズーム機でなければ1万円以下で入手できるはずです。
他メーカーからも同級機種が発売されていますから、デザインと見え味で選ぶのが良いでしょう。
個人的にはペンタ・ニコン・ミノルタあたりが良いように思います。
次にダハ式双眼鏡を見ていきましょう。
各社とも8倍と10倍の機種をラインナップしています。
大型店では複数のメーカーの商品が扱われていることでしょう。
最近ではダハ稜線が見えるような粗悪品は見かけませんが、
安価な製品と高額品とでは大きな見え味の差があります。
メーカーごとでも味付けの違いがあり、自分の好みに合った製品を見つけるのが長く使える双眼鏡を選ぶコツです。
私はコントラストの高い視野が好きなのでニコンの製品を愛用していますが、防水でないことやゴーストの処理などでは細かな不満がないわけではありません。
この分野の基準機はツァイス社の製品といわれていますが、国内で買うと50000円近くするのが迷うところです。
一般的な使用であれば国産一流メーカーの8倍機を選べば大きな間違いないでしょう。
口径30mm台
このあたりからは中型双眼鏡といえるサイズになってきます。
サイズは大柄になりハンドバッグには入らない大きさですが、ぐっと双眼鏡らしくなってきます。
性能も口径20mmの製品より格段にアップします。
このサイズはバードウォッチングやアウトドアの定番とも言えるでしょう。
この口径でも小柄な製品であれば持ち運びもさほど苦になりません。
万能双眼鏡として使える、「初めての双眼鏡」にはお勧めのクラスです。
このクラスの双眼鏡もダハプリズム方式とポロプリズム方式があります。
かつてはポロプリズムが優勢だったようですが、最近は魅力的で安価なダハプリズム機も多数発売されています。
キャノン ダハプリズム双眼鏡 ペンタックス ポロプリズム双眼鏡
このクラスのポロプリズム双眼鏡は軍用や野外活動で定番となっていたものです。
今でも、マグネシウム合金を使った高級機や手ブレ防止機能付の製品など新製品が追加されています。
キャノン防振双眼鏡
標準機でもマルチコート・広視界接眼レンズなど高性能な双眼鏡が比較的安価に入手できます。
個人的にはポロ式の双眼鏡が好きなので、コストパフォーマンスを考えると一押しの双眼鏡がそろっています。
中でも、各社のマルチコート7X35は何にでも使える万能双眼鏡としてお勧めです。
欠点は口径が小さい割にプリズム筒が大きく、口径40mmの双眼鏡とあまり大きさが違わなくなってしまうことでしょう。
7X35 ペンタックスの双眼鏡の例 8X40
口径30mm台のダハ式双眼鏡はポロ式に比べ格段に小さく作れるかわりに、性能が出しにくいといわれています。
高性能な製品は少し割高になっていますが、国産・舶来の一流品は標準クラスのポロ双眼鏡をしのぐ見え味を誇っています。
なにより、ダハ式双眼鏡ならこのクラスでも観劇やコンサートに持って歩けるサイズなのは魅力的です。
デザインも洗練された商品も出回っていますので、予算とお好みで選んでみてはいかがでしょうか。
ニコン「エスパシオ」
国産中型ダハプリズム双眼鏡の高級機
ライカ「トリノビット」
ドイツ製超高級双眼鏡・鳥見人憧れの一品
キャンプやバードウォッチングがメインならコストパフォーマンスに優れるポロプリズム機や究極の性能を求めて超高級機を手にするのも良いでしょう。
キャノン防振双眼鏡もこのサイズは割安感があります。
一度手にしてみると、10倍でも手ブレの影響が以下に大きいか実感できるでしょう。
逆に、旅行や観劇などに持ち歩く機会が多ければダハ双眼鏡がお勧めです。
多少大きいですが、口径20mm機とは格段の性能差があります。
どちらにしても、このサイズの双眼鏡が初めての双眼鏡としては一押しです。
一番のお勧めは7倍の各機種ですが、夜の明るさを気にしなければ8倍機でも良いでしょう。
高い性能を手ごろな価格で入手でき、双眼鏡の楽しさを味わえるでしょう
口径40mm台
このサイズになると、天体観察からアウトドアまで口径の大きさを堪能できます。
一度このサイズの双眼鏡になれてしますと、小型の双眼鏡には戻れなくなってしまいます。
反面、普段街中を持ち歩くのは目立つサイズになります。
コンサートに持ち出すのはダハ式でもためらわれます。
このサイズはポロプリズム式の双眼鏡が優勢ですが、最近はダハプリズム式の高級機が各社から発売されています。
ニコンの双眼鏡の例
ダハプリズム双眼鏡10X40とポロプリズム双眼鏡8X40
このクラスの双眼鏡は30mmクラスより多少大きいものの安定した性能を持っています。
天文愛好家でも天体望遠鏡の補助用に愛用している場合も多いです。
30mm台のの双眼鏡と比べて気に入ったほうを選んでかまわないでしょう。
40mm台の双眼鏡であれば8倍がお勧めです。
次の問題はダハ式にするかポロ式にするかです。
同じ程度の性能で比べると、両者の価格差は20〜30mmの双眼鏡より大きくなります。
標準クラスの8X40ポロ双眼鏡が25000円程度なのに対して、ダハ双眼鏡は標準クラス8X40で40000円程度します。
さらに、ポロ式は標準機でもかなりの性能を持っているのに対して、ダハ式の双眼鏡は標準機と高級機(10万円程度)で一目でわかる大きな性能差があります。
標準クラスのダハ式双眼鏡だけ使っていればあまり気にならないかもしれませんが、一度高級機を覗いてしまうと幻滅を感じてしまう程度の差があります。
ダハ式でも40mmクラスはどこにでも持ち運んでいくという大きさではありませんから、初めての双眼鏡にこの口径を選ぶならポロ式双眼鏡をお勧めします。
倍率は8倍から10倍で、BaK4プリズム使用できちんと作られた品であれば長く使っても不満は少ないはずです。
口径50mm台
手持ちで使う双眼鏡では最大級の双眼鏡になります。
7X50は航海用・軍用で昔から広く使われてきたサイズで、今では天体用双眼鏡の主力になってきます。
各社とも最高級機を投入しており、手持ち双眼鏡の最高峰といっても良いでしょう。
ポロ双眼鏡の最高峰
ニコン7X50SP
高価だがこの性能がこの値段で手に入るのは驚異的
海外ではもっと高額で流通している
瞳径も大きく魅力的なクラスなのですが、口径に比例して重さも増えています。
完全防水の機種では1kgを軽く超えていますし、通常のものでも800g程度あります。
8X40が600g程度ですから、両者では20mmクラスの双眼鏡1台分の違いがあります。
山歩きやバードウォッチングでは負担になる可能性のある重さです。
防水ではないニコン7X50
これでも800gを超えている
ただ、防水性を重視したり、視野の良さを追及するのであれば間違いなく一押しです。
天文用に使うのであれば、文句なしに7X50を選びましょう。
夕暮れ時や夜景では口径40mmの双眼鏡と見えに大差があります。
解像力・明るさどれをとっても最高のサイズです。
夜の景色は肉眼より数段明るく見えるので、初めての人は驚くでしょう。
この味を味わってしまうと、大きさは気にならなくなってしまいます。
航海用の歴史が長いだけあって、防水性能の高い機種もそろっています。
中にはコンパスやレティクル内蔵の双眼鏡もあり、アウトドアでも役に立つでしょう。
窒素ガス封入完全防水双眼鏡
コンパスとレティクルが内蔵されている
7X50にも高級機と標準機があります。
ニコン・フジノンなどの最高級機は確かにすばらしい見えを誇っています。
価格もダハ双眼鏡に比べるとお買い得で、天文用に長く使うつもりであれば初めての双眼鏡としても後悔しない一品です。
逆に、ニコン・フジノンの標準機でも普通の人はかなり念入りに比べて見なければ違いがわからないほど良くできています。
細かい違いにこだわらないのであれば、標準機のほうがコストパフォーマンスが高いのではないでしょうか。
こちらでも何の不満もなく使っていけるでしょう。
徒歩で持ち歩くことが多かったり、悪天候での使用が少ないのであれば防水ではない双眼鏡を選ぶのも手です。
防水双眼鏡に比べて、嘘のように軽く感じます(それでも口径40mm双眼鏡に比べれば重く大柄です)。
ドイツブランドではこの口径でもダハ式の双眼鏡が売られていますが、バイクが買えるような値札がつけられています。
ダハプリズムでも重さや大きさに大差はありませんし、稜線での像の悪化や光の干渉も無視できません。
値段も国産最高級ポロプリズム機が数台買えることを考えると、よっぽとの事情がなければ考える必要はないでしょう。
予算が許せばニコンSP・フジノンFMTなどの最高級機が文句なしのお勧めですが、予算と体力・使い道を考えてみてください。
予算が厳しければ、防水標準機や非防水双眼鏡でも大口径双眼鏡の魅力にあふれています。
条件が許せば、筆者が「初めての双眼鏡」に最もお勧めしたいクラスです。
口径70mmクラス
口径が50mmを超えると手持ちで使うのは厳しくなります。
初めての双眼鏡には向かないでしょうが、細分化した用途に使うのであれば便利な品です。
海事用・天文用に使うことに特化した双眼鏡だけに重さはともかく、すばらしい性能を持っています。
これらの双眼鏡を使うなら、しっかりした三脚が必要ですけど、フィールドスコープの代わりに使うなどの用途も考えられます。
ニコンの大型双眼鏡
海事用や天体用をメインに設計されている
初めての双眼鏡で星空の魅力に取り付かれたら、これらの双眼鏡を考えてもいいのではないでしょうか。
高倍率の双眼鏡がほしいのなら、ここまでの覚悟が必要です。
本当に倍率を追求すると このサイズになるのです。
巷の小型高倍率双眼鏡はおもちゃみたいでしょう。
双眼望遠鏡
口径が100mmを超える双眼鏡です。
このサイズになると専用の経緯台に据え付けられます。
レンズもLDレンズやアポクロマートレンズが使われ、屈折式天体望遠鏡を2本束ねたような作りになっています。
フジノンとニコンの双眼望遠鏡
接眼レンズも天体用に45度傾斜型や90度直角型も用意されています。
一般的な双眼鏡とはいえませんし極めて高額(自動車が買えるお値段)ですが、世界のコメットハンターに愛用される性能を誇ります。
個人で持つのは負担が大きいですが、公共の天文台などで覗く機会があるかもしれません。