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2001年JTBショー紀行その3
「絶対王政の崩壊」、もしくは「出来杉君の変節」

 前回までに、会場の1/3を見てきました。
 私は このシリーズを極めてネガティブな印象から書き始めたのですが、ここまでは分かり切った事しか 悪い話は出てきませんでした。

 記事を書きながら 撮影した写真を見ていても、ここまでは正気を保っていられるのです。

 それでは会場を一番奥まで進んで、残ったブースにお邪魔してみましょう。
 

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    シュタイナー

 会場を一番奥に進むと 巨大なニコンブースが目に付きます。
 シュタイナーは その隣にひっそりと出展していました。

 ショーケースの中には 多くの双眼鏡と並んで、ビクトリノクスのポケットナイフが飾られています。
 社のカラーを打ち出すための飾りかと思ったら 正規輸入元がビクトリノクス・ジャパンと書かれていました。
 こんなサイトを作っていながら 恥ずかしいことに初耳だったのです。

 さて 肝心の双眼鏡ですが、防水IF機を中心に 6〜7台が見本展示されていました。
 大半がマリンスポーツやアウトドアを色濃く連想させる製品ばかりです。
 この会社の製品は「海事と野外活動」と記述するより、実態がよくわからないカタカナ語の方が似合っています。

 これは8X30の高級機。
 窒素ガス封入防水で IF方式と、防水双眼鏡としては古典的な構成です。

 が、ライバル品と大きく異なるのは その軽さです。
 写真の通り ずんぐりとした体系なのですが、カタログ重量は520g。
 国産ではフジノンFMTR−SXに同じような製品があるのですが、実重量は700gを超えています。
 強化樹脂のプリズム筒が軽量化のミソなのですが、自衛隊仕様のフジノンには真似のできないところでしょう。

 覗いてみると、確かにスッキリ感がありますし、コントラストもそれなりです。
 視野もフラットですし 各部品の動作も 作りが大柄ながらも良好です。
 普通によい双眼鏡だと思いますが、それ以上の感慨はありません。

 まず最大の理由が IF方式ポロ双眼鏡というレイアウトです。
 どんなに光学的に優れて入れても、IF双眼鏡はCF方式にかなわないのです。
 インナーフォーカス・窒素ガス封入・5m防水は 現在では多くのCFダハ双眼鏡が実現させています。
 一般人が あえて この種の製品を選ぶのは、趣味の幻想を満足させるだけになりつつあるのです。

 さらに筆者の目を厳しくしている理由に 大胆な価格設定があります。
 この8X30の高級機は80000円のタグがつけられています。
 多少の割引も期待できるでしょうが、フジノンFMTはもちろんペンタックスDCF・WPを買ってもお釣りがくるのはどうしたものでしょう。

 結局は、「見た目の通りのキャラクター」、「ドイツの軍用ブランド」、おまけに「高級品らしいお値段」。
 輸入元も、この成り立ちに惚れ込む人だけが買えばよいと思っているんでしょう。

 同じキャラクターの双眼鏡なら、フジノンFMTRの方が優秀です。
 普通に使うなら ペンタックスDCF・WPに絶対にかないません。

 あとは買い手の嗜好次第でしょうが、少なくともスワロフスキーやツァイスの仲間ではありません。

 こちらは上の機種の色違い。
 光学系はまったく同じように見えますが、定価が5000円高いのはナゼ。
 結局はキャラクター製品ってことでしょう。

 ちなみに7X50も こいつと同じ性格です。
 シリアスユースなら 迷わずニコン・フジノンを。

 いろいろと係員に突っ込んだ方が良いのでしょうが、係員も双眼鏡にはあまり詳しくなさそうなので 矛先が鈍ってしまいました。
 上級機と下級機の違いを「窒素ガスが封入されているか否か」としか説明していなかったのは問題があります。
 慣れれていればちょっと覗いただけで違いがわかる程度に 光学系の出来も差があるんですから。

 JTBショーに出てきたことは高く評価しますが、製品の見直しはもちろん 専門の係員も本気で養成するべきです。
 現状のままではキャラクター限定の色物ブランドから抜け出せないでしょう。


    宮内光学

 ニコンの斜め向かいには 宮内光学が出展しています。

 展示は77mmの直視と45度対空、100mm45度フローライト、141mm45度など堂々とした陣容です。

 これが噂の141mm。
 口径の割に非常にコンパクト。
 現地ではフジノン150mmやニコン120mmと並んでいましたが、100mmクラスに見えるほどです。
 マウントの出来の良さもあって、重さを感じさせないのもさすがです。

 100mmはフローライト45度のみがブース内に飾られていました。
 生産終了セールが話題のセミアポは現品なし。

 社長にお話を伺ったのですが、近年セミアポの売れ行きが落ちてきていたとのこと。
 セールを開始してかなり部品が無くなったそうですが、まだ70台程度販売できるそうです。
 現在、費用の都合がつかなくても 予約を入れていただければ製品を確保していただけるとのことでした。

 セミアポを売り払った資金を元手に新しい機種の開発予定もあるそうです。
 楽しみに待つことにいたしましょう。

 現地では新発売の77mm直視双眼鏡も見本が展示されていました。
 発売直後はモニターセールをやっていましたが、会場では再度モニター価格での広告が配布されていました。
 こちらも興味のある方は、直接問い合わせをされてみてはいかがでしょうか。
 鈴木社長は「天文人口も少ないが、バードウォッチング人口はもっと少なかった」と嘆いておられました。

 このブースでは双眼鏡の別な面を見ることができたようで、うれしくなります。
 ご苦労話も聞けただけに 寂しくもあるのですが、宮内光学のいない双眼鏡の世界は もう考えられないのです。


    鎌倉光機

 宮内工学のお隣、双眼鏡のOEM供給元としては最大手 鎌倉光機がニコン並みのブースを構えています。

 製品の展示内容は去年とさほど変化が内容なのです。
 ただ、去年は気が付かなかったカットモデルには改めて感心させられました。

 写真は高級ダハプリズム双眼鏡のカットモデルです。
 対物レンズは3群4枚、接眼レンズは3群5枚?という構成。
 プリズムのダハ面がこちらを向いているのですが、青っぽく色がついているのは位相差コートされているためです。
 この構造を見ると 双眼鏡が決して安く作れるものでないことが思い知らされてしまいます。
 1980円のダハ双眼鏡って どうやって作っているんでしょうか。

 さて、この会社の見所は 他では手に入らない即売品が売られている点です。
 去年は レティクル・コンパス付7X50を買ってしまったのですが、今年はさらに力の入った品揃えです。

 一番の注目株は 7X42DCF双眼鏡で13000円の値札が付けられていました。
 私は「ヨーロッパの会社のキャンセル品」と聞いたのですが 別の説明を受けた方もいらっしゃるようです。
 最初「フェーズコートなし」といわれたのですが、対物3群構成のインナーフォーカス機ですから 何が無くてもこのお値段はお買い得。
 と思った瞬間に理性が飛んでしまいました。
 双眼鏡を買うまいと思って お財布はほぼ空だったのですが 近くの現金引き出し機まで走ってしまいました。
 あとから「フェーズコート有り」と聞き、さらに1台追加したのは言うまでもありません。
 現物はまだ到着していないのですが、どんな品が来るか楽しみです。

 ほかの製品では オートフォーカス双眼鏡が5980円で目を引いていました。
 私はこの会社の即売品を買うために会場に足を運んだといっても過言ではないのです。


    ニコン

 去年は入り口の前に陣取っていたニコンは、今年は窓際のブースに移動していました。
 今年もペンタックスやツァイスの倍の大きさを占有しています。

 発売されている双眼鏡の多くが手に取れる上に、未発売の品も数多く展示されていました。
 やはり、JTBショーの最大の見所は この会社なのです。

 さて、今年のニコンは春にいくつかの新型双眼鏡を発表しています。
 会場ではじめて現物を見た製品も多いので、真っ先に展示品に手を伸ばしました。

 まずは、ポケット・ダハプリズム双眼鏡「スポーツスターIII」。
 「スポーツスターII」を使っていただけに期待していた製品です。

 前の型は国産同級機の中では まともな1台でした。
 シャープな視界・コントラストの高さ、いかにもニコンらしいと思っていたのですが いくつかの欠点もありました。
 新型で改良が進むのを楽しみにしていたのですが、事前にカタログを見てもアイレリーフは短いままで 見かけ視界だけが広げられています。

 このサイズで広視界双眼鏡を目指すこと自体 ニコンらしくないと思ったものの、現在商品化されているのは18X70IF・WP・WFや8X30EIIのように優れた製品ばかり。
 このサイズで見掛け視界65度をニコン流に仕上げられたらすばらしい商品になると思っていました。

 が、実物を見てみると 怒りが湧き上がってくるばかり。
 辺縁視界は もうアウト、中央部の視野もリビノIIにコールド負け状態です。
 冷色の強い色合いだけはニコン風味ですが、細かい解像力はまるで駄目。
 明暗の諧調も恐ろしく弱い。
 見え味は旧型からも大きく後退しています。
 外装も明らかにコスト重視の変化しかなく、見れば見るほど悲しくならずにはいられません。

 これを作ったのがオリンパスなら 合格点を出したかもしれませんが、ニコンの名前が入る双眼鏡なら評価にすら値しません。
 ペンタックス8X22DCF・MCとは 天と地の差、ドイツ勢は異次元の世界です。
 ニコンの名前を信じて買うと痛い目にあう双眼鏡です。

 続いては、アクションIV双眼鏡。
 その名の通り、アクション双眼鏡のモデルチェンジ版です。
 辺縁視野はホヤホヤでしたが、中央部は他社の製品よりアドバンテージがあり 眼鏡使用者でなければ悪くない選択肢だと思っていました。
 モデルチェンジではハイアイ化と透過率の改善を期待していたのですが、現物がどうでしょうか。

 実物を覗いてみると、真っ先に中央視野のコントラストがニコンらしくないことに気が付きます。
 もちろん、アイレリーフなんて改善されてはいません。
 どこのコストを削ったのかわかりませんが、視野の抜けも重くなっているように感じられます。
 中央部が冴えなくなると、辺縁視野の粗がどんどん気になってきるのもマイナスです。

 これがオリンパスなら進歩があると認めるのかもしれませんが、ニコンに期待されている品質には遠く及びません。
 ペンタックスPCFVと勝負したら、1ラウンド開始5秒でノックアウト負けは確実です。

 帰宅してからカタログを見てみたら、カタログ定価が値下げされています。
 値下げ幅は4000円から6000円。
 前のアクションもまだまだ改良の余地がある製品だったのに、そこからコストを削ったら何が残るというのでしょうか。

 安くすれば売れると考えているのなら、双眼鏡を買うのがどのような人間なのか考えてみてください。
 値段だけで飛びつく層は多いでしょうが、一度この新型を手にした人間が ニコンの上級機に移行すると考えられますか。

 次の新型は、8X36「スポーターI」
 防滴構造・スライド目当て・ハイアイ接眼と私好みのスペックです。

 実物を手にしてみると軽そうな見掛けに反して、結構重量感があります。
 30mmクラスといっても 36mmの対物口径があると 実質はもう立派な中型機です。
 スライド見口の使い勝手も悪くありませんし、ピントリングも指の掛かりやすい場所にあります。

 覗いてみると、前の2台ほどは悪くはないです。
 コントラストも甘いし 視野も粘る印象ですが、この値段でダハ双眼鏡となると 多くを望みがたいのも事実です。
 が、ニコン自身が「安い双眼鏡で出来るのはここまで」と宣言しているようで・・・
 このスペック・この値段で 防水ダハプリズム双眼鏡という発想は斬新ですし、初めての双眼鏡として使うなら止めはしません。
 が、キャノン8X32WPの方が 値段の差以上に優秀です。

 あとはニコンというブランドに何を期待しているかで 評価が決まってしまうのでしょう。
 ニコンに国産双眼鏡の王者というイメージを持っていると、確実に幻滅してしまいます。
 入門用双眼鏡をラインナップしたいという要求は理解できますが、ブランドを傷つけない方向はなかったのでしょうか。
 コストが掛けられない事情を考えても、他のメーカーの品に大きく劣る製品を売るとは ずいぶんと社のカラーを変えてきたものです。

 問題があるのは新しい製品ばかりで、ちょっと前の双眼鏡は非常にすばらしいと思います。
 5X15DCFにしても、8X32SEにしても、国産ブランドでは珍しく独自の世界を持っていると思っていたのですが・・・

 フジノンが細かい改良を加えてきたのに対して、ニコンは新型機以外は旧来のまま。

 7X50SPを改めて手にしてみると いまだに素晴らしい双眼鏡だと思うのですが、周りのライバルたちはいつまでも後ろを走っているだけではないのです。

 本当にニコンは日本光学以来 守りつづけてきたトップブランドとしての地位に別れを告げてしまうのでしょうか。
 どんな答えを出すのか、来年のショーを見守る他はないのでしょう。


といって、またまた次回に続く。

次回はJTBショーの総集編をお届けします。

見えの悪い双眼鏡を相談コーナーに持ち込んだ結末は?。
JTBショーで見かけた地雷双眼鏡は何?

そして鎌倉光機の直販双眼鏡は?

雑多な内容を詰め込んだ番外編も

請う ご期待!


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