2001年JTBショー紀行・その2
ブランドの名が示すもの
前回はペンタックスとコーワのブースを取り上げました。
今回は会場の奥へと進んで、ビクセン・ツァイス・フジノン・ケンコーと展示をのぞいて見ましょう。
それぞれカラーが異なるブランドですが、どのような方向に進もうとしているのでしょうか。
ビクセン
会場を奥へと進むと 真っ先に ビクセンの派手なブースが
目に飛び込んできます。
この装飾は会場で異彩を放っていた、とだけ
形容しておきましょう。
このメーカーは、馬鹿正直にも、カタログ掲載双眼鏡のほとんどを見本展示していました。(販売店対策?)
実売価格1000円程度の折りたたみオペラグラスや
スケルトン双眼鏡が、ボシュロムブランド18万円と並べられているのは
かなり異様な光景です。 それが
この会社の魅力でもあるのですが。
展示品の中で最も興味があったのが 新製品の防水ポロプリズム双眼鏡・8X42「フォレスタ」。
これまで防水型のポロ双眼鏡は
業務用IF式がほとんどで、製品の数も限られていました。
ダハ式が主流の一般向け防水双眼鏡ですが、性能面でも価格面でも
ポロプリズム機には魅力があります。
実物を手にしてみると
予想以上に軽量で、手にも負担にならない形状です。
若干
フォーカスリングが遠いかもしれませんが、普通の体格の方なら問題はないでしょう。
レンズ・コーティングはアルティマに良く似ていますし、機械部分も
どこかで見たことがあるような・・・。
接眼レンズとプリズムは新設計でしょうが、対物レンズの他
細かい部品は共有化が進んでいると思われます。
この製品のスペックは現地で知ったのですが、8倍の見掛視界が70度を越えていますし
10倍機もちょうど65度になっています。
スペックを聞いて期待をしていなかったのですが、狭い会場を見回す範囲では
破綻は目に付きませんでした。
視野の抜けは
アルティマから進歩が無いのですが、価格からすれば文句のない水準でしょう。
それにしても アルティマ双眼鏡の1.5倍とは
値段も巧妙なところを突いてきたものです。
防水と広角という性能に対して
それだけの出費を許せるかどうかは使い道次第。
実売価格がどの位になるのか
まだ分かりませんが、アルティマと同じ程度の割引率になれば
手ごろな防水双眼鏡としては 有力な候補となるでしょう。
ただ、接眼レンズ摺動部分のパッキンは消耗品ですから、IF機やインナーフォーカス機よりは早めのオーバーホールが必要となるでしょう。
ビクセンの最高級機アペックス・プロも
安物にまぎれて飾られています。
10X50を覗くのは今回が初めてですが、全体的な印象は8X42と同じです。
プリズムハウスや操作系は
完全に共用化されている様子。
対物レンズと接眼鏡を変えて
バリエーションを増やす手法です。
視野も8X42と同じ色合いで
最初の印象も共通です。
10倍の方が 辺縁の癖が
若干強いように思いますが、意地悪に眺めなければのお話。
普通に使っていて気になることは無いはずです。
それ以外ではコントラストも高く、味わいについても考える余地のある製品になっています。
この種の製品としてはブランド力が弱いと思いますが、並み居るライバル機と戦える水準にあるでしょう。
性能的にはベストではないにしても、実売価格を考えると
特に8倍は強力な商品です。
コーワのところでも書いたのですが、この手の双眼鏡は
特殊な存在ではなくなってしまったのです。
ビクセンのブースでは「BAUSCH&LOMB」ブランドの製品も並べられていました。
国内他社の8X42を見比べると 確かに コストのかかっている要素は随所に見受けられます。
レンズコーティングは優秀ですし、内部処理も手間をかけています。
プリズムも大型の物を使っているようです。
覗いてみても
APEX・PROとの違いも分かるのですが、値段を考えると
一気に醒めてしまいます。
良い双眼鏡であることは全く異論を挟む余地がありませんし、たとえ「MADE
IN JAPAN」であっても
平均的な国産機よりは出来が良いのも事実です。
が、実売価格が15万円てことは、正規物のヴィクトリー8X56が買えるんですよ。
ビクセンも
本気でこの製品を売ろうと考えるなら、価格体系を根本から考え直さなければならないでしょう。
米国での実売価格はツァイスより安いのですから、妥当な水準は
おのずと決まってきます。
持っているキャラクターを考えてもツァイスやスワロフスキーのような強烈さは無いのです。
そしてライカやスワロフスキーは安価な並行輸入品が豊富に存在します。
見るべき物はある双眼鏡ですが
現状では物好きな富裕層向けの限定品に過ぎません。
並べられた商品を目の当たりにすると、「光学商社」と言う単語が
首をもたげてしまいます。
全く統一性のない双眼鏡群も
取扱商品の一種に過ぎないのでしょう。
優れた製品が多く存在しますし
コストパフォーマンスも高いのですが、ブランド名は何も保証してはいないのです。
N社ですら油断ならない製品を売り出す御時世、会社の方向性としては正しいのでしょうが。
カール・ツァイス
派手なビクセンブースの隣には
カールツァイスがひっそりと居を構えていました。
ヴィクトリーをはじめとして
主な商品が並べられています。
ヴィクトリーは既にいろいろな場所で見ていたのですが、こうして眺めていても感慨深いものがあります。
持参した7X42と比べても
明るさ・使いやすさは室内でも分かる程度に向上しています。
辺縁の強烈な癖も先代譲りで
派手なコントラストとあいまって、いかにもツァイスらしい1台です。
「Dialyt」に比べて 内外価格差が減少したのも
評価できる点でしょう。「Dialyt」の頃が酷すぎただけなんだろうけど。
正規輸入品も 安い店を探せば
個人輸入するより安く手に入るようになりました。
しっかりとした防水性能を得たのも 安心感があります。
これだけの製品を 一雨で水浸しにしまっては
元も子もありません。
覗いて使っていれば
紛れもなくツァイスそのものです。
コストダウンの痕は見つけられますが、なかなかどうして
国産機には立ち寄りがたい世界を持っています。
外装ではペンタックスに負けていても、中身は「世界の一級品」で間違いありません。
ただ、ツァイスに限っては
それが使用者に気に入られるかどうかは考慮されていないのです。
完璧を求めるマニアには受けが悪いようですが、趣味の幻影を除けば
悪い選択肢では内容に思います。
しかし、これが「伝説の名機に成り得るか」と聞かれれば 確信をもって「否」と答えることになるでしょう。
現代は 伝説の名機を目指すには 時代が悪すぎるのです。
ヴィクトリーと並んで新世代となるのが DIAFUN8X30です。
その場にいた係員も
ハンガリー工場での製造品だと説明していました。
旧型8X30より二回り軽くなった印象ですし、見た目も「ゴツゴツ」から「ヌメヌメ」に変わっています。
実物を覗いてみると
確かにツァイスらしい雰囲気です。
ヴィクトリーに比べると癖は弱いのですが、カタログが謳うほどフラットな視野ではありません。
その代わり中央部の「明るさ感」もあり、派手な雰囲気は上級機のままです。
巷で言われているほどは悪くないと思うのですが、位相差コートが省略されていると聞くと
粗ばかり探してしまいますし、確かに
典型的な症状が出ているのです。
一番顕著なのは街灯を見たときなのですが、十字の光芒がうるさく目ざわりです。
現状ではスワロフスキーはもちろん、ライカにも水をあけられています。
多分、国産機のうちのいくつかも、この双眼鏡を凌いでいるでしょう。
性能は良くても
コストパフォーマンスは良くありません。
メーカーにしてみれば
こだわりの多いマニア相手の商売から抜け出そうとしているのかもしれません。
が、ツァイスの名前を支えているのは
先鋭化したごく一部の人間であり、その周辺を取り込んでいることを忘れてほしくはありません。
たとえ自分に見る目がなく
価値が分からないとしても、その名前が
最善の努力の証と考えるからです。
ただ青いロゴが入っただけの製品が欲しいわけではないのです。
フジノン
ツァイスの隣には ビクセンと正反対に落ち着いたフジノン・ブースが待っています。
現地で初めて FMT−SXとMT−SXの両シリーズがマイナーチェンジすることを知りました。
外装が丸みを帯びた形に変わり、軽量化が図られています。
カタログで調べると
たった100gの減量なのですが、手にしてみると数字以上に軽くなっている印象をもちます。
ラバー被覆が持ちやすくなった影響も あるのでしょう。
メーカー係員によると
ストラップまで高品質のものに変更したとのこと。
写真からもその程度が分かるでしょう。
ツァイス・ライカの純正ストラップには及ばないものの、国内でここまでやった例は記憶にありません。
これに気がつくメーカーが出てきたのは
本体の軽量化よりも意義のあることです。
さて、この会社ではブースの一角に踏み台を置いて、窓の外を見られるように工夫してあります。
実際に覗いてみると
以前の製品に比べて冷色系が強く出ている印象です。
外見からは分からなかったのですが、コーティングを変えて
透過率を向上させたと説明されました。
並べて比べたわけではないのですが、明るさではニコンSPと遜色ないように思われます。
50mmIF機を天文以外に使うことは少ないでしょうが、いろいろ持ち歩くのであればフジノンの方をお勧めします。
これをニコンが
どのように受け止めるのかも楽しみです。
SPシリーズは発売から10年以上大きな改良がなされていないのですから。
もうひとつの目玉は、こちら。
軍用品として有名な「スタビスコープ」です。
「テクノスタビ」の兄貴分ですが、仕組みはまったく異なります。
「テクノスタビ」が加速度センサーを使って制御しているのに対して、こちらは中心軸にジャイロモーターを内蔵しています。
実際に電源を入れると小さくうなってジャイロが動き出します。
続いて、左手のスイッチを入れると
クラッチがつながり、プリズムとジャイロが連結されます。
大きく揺すってみましたが、視野の安定度は抜群です。
もちろんキャノンISの敵ではありません。
実は
会場で同様の機構を持つロシア製双眼鏡「PELENG」も試したのですが、視野の安定度は大差がありませんでした。
もちろん、機械的な洗練度は段違いで、こちらはクラッチを作動させるたびに大きな振動が出ますし、ジャイロの作動音も耳障りです。
ロシアで
フジノン製品を買って一生懸命分解したんでしょう。
どちらの製品も 重過ぎるし 高すぎるし、普通の人が持つものではありませんが。
ちょっと脱線してしまいました。
フジノンの製品では
中型ダハ双眼鏡が出品されていました。
覗いてみると こちらも かなり進化しています。
位相差コーティングを追加したそうですが、8万円の定価を考えると初めからしておくべきものでしょう。
性能的にも
今回展示されていた国産競合品ではトップクラスの出来ですが、値段を考えれば当然です。
一流ブランドでも
カタログスペックだけで中身がイマイチな製品もありますから、高価でも確実に高性能を得たい向きには
ペンタックスか このフジノンが お勧めです。
残念なことに、もう一つ大幅改良されたと噂の「エアードロップ・限定版」は出品されていませんでした。
ブース全体を見てみると
特殊な製品が多いのですが、FMTシリーズで見られたような改良を繰り返していく方向は
非常に楽しみです。
よい品を出しても20年近く店晒しにしている某社に
爪の垢を飲ましてやりたい気分です。
着実な改良は地味で評価されにくい部分ですが、必ずブランドの名前を高めてくれることでしょう。
ケンコー
ブランドという意味では、ここも悩みが深そうです。
これだけの品が並んでいても
満足できる品はほとんどありません。
いっしょにタスコとセレストロンを展示していたのですが、天体望遠鏡はともかく双眼鏡はどれも新鮮味がありません。
「OFFSHORE」7x50も、フジノンを見た後だと
プロ用の品には見えません。
唯一、軽さは評価できますが、このクラスの製品は究極の耐久性が命ですから、私が監視員なら重かろうが高かろうが
ニコン・トロピカルかフジノンMTを選ぶでしょう。
反面、一般用とだと7X50は買わないだろうし、誰に売りたいんだろう。
コーティングも相変わらず赤目が主体で、天文用途は切り捨てられています。
もうひとつ目を引くのが、この8X42[RERE
BIRD]です。
タスコが自社イメージを挽回するべく売り出した双眼鏡といわれています。
確かに高級な製品で
国産ブランドのライバル品と同等の性能を持っているようです。
ペンタックスDCF・WPやフジノンCDと比べてしまうと厳しいですが、ハズレではなさそうです。
ただ、このクラスは各社が新製品を投入しつづけている分野だけに、「普通に優秀」なだけでは生き残るのは難しいでしょう。
この価格帯の双眼鏡に手を出すのは
それなりに分かっている人間なのですから、ブランドイメージが悪いのも
僅差の競争の中ではマイナスです。
あとは実売価格次第ですが、コストパフォーマンス勝負ならビクセンAPEX・PROが圧倒的なだけに厳しいです。
一昔前なら「夢の双眼鏡」なのですが、今はそれだけでは生きていけないのです。
ケンコーブランドの双眼鏡では、この7X50が目にとまりました。
7X50の防水双眼鏡ながらCFというのは
それだけで拍手をしたくなってしまいます。
覗いてみてると
一昔前の安価な7X50と言ったところでしょうか。
星を楽しむには コーティングからして力不足でしょう。
ビクセンと同じく、商社として考えると
この品揃えも意味があるのでしょう。
双眼鏡の品揃えも、数が捌ける物だけが厳選されています。
ことに双眼鏡は「良い製品」と「売れる製品」は相反する要求が含まれているのです。
この路線が一番儲かるのは自明なのですが、私たちまで
付き合う必要はないでしょう。
といって、さらに続く。
次回はニコン・シュタイナー・宮内光学・鎌倉光機を取り上げます。
新型機を連発したニコン。
高級ブランドを目指すシュタイナー。
そして最大のOEM元は?
請う ご期待!