作:◆eUaeu3dols
その味は甘く、その香は芳しく、その欲は狂おしい。
吸血鬼の肉体。
犯される心。
魂の汚辱。
すがれるものはもう誰も居なくて。
「人は、襲わない。人喰いの怪物になんか、ならない」
残ったものは少女がフレイムヘイズに選ばれた理由、気高く強い自尊心。
それと、坂井悠二と過ごした過去の記憶だけだった。
他にはもう誰も居ない。
独りぼっちの少女は、ひどく寒い孤独の中で震える体を抱き締める。
一人で居る事が心細かった。
一人で居る事が悲しかった。
どうしてこんなにも心細くなるのだろう。
どうしてこんなにも弱くなったのだろう。
(……だって、いつも誰かが居た)
坂井悠二が居た。
その母である坂井千草や、悠二を賭けたライバルである吉田和美が居た。
悠二と出会う前も天道宮を出る前はシロが、出た後は長く離れたけれどヴィルヘルミナが、
そして天道宮を出る前から出た後もずっと、アラストールが居た。
フレイムヘイズとしての契約を行った、シャナの中に住まう紅世の王。
彼はきっと――間違いなく――シャナにとって家族だったのだ。
(アラストールはまだ、私の中に居る)
彼女の身に力が漲り、炎を自在に操れる事がその証拠。
だけど言葉が聞こえない。姿が見えない。
心の痛みを和らげてくれない。
だから居ないのと同じこと。ここには誰も居ないのだ。
胸を突き刺すような傷みは一向に消えてくれはしなかった。
痛みにもだえ、逃れる術を求めた。
(……悠二の手記を読もう)
だから悠二の足跡に想いを馳せてみようと、そう思った。
そうすれば少しは悠二を、悠二の言葉や温かさを感じる事が出来るかも知れない。
シャナは坂井悠二の手記を取りだして読み始めた。
そしてシャナは、またもや打ちのめされた。
もう絶望し、痛みと渇きに苦しんで、これより底なんて無いと思っていた。
それでも悲劇とは往々にして予想を超えた角度から襲い来る。
『管理者の謎の警告の後、僕は長門さんと出夢さんと共に城を脱出した。
あの時、僕を呼ぶ声が聞こえた事は少しだけ気になった。
赤い髪の女が襲撃してきた、という言葉も。
だけどシャナはフレイムヘイズだ。無差別に人を襲ったりはしない、はずだ』
ゲームが始まった時、もっと落ち着いて行動していれば何かが違ったのか。
全て、自らを見失っていたせいなのか。
手記は更に続きを綴る。
『通りすがりの強そうな人に食料と水を交換に化け物を引き受けて貰った。
その後に走りながら時計を見たら、確か7時過ぎだったと思う』
(あの時に……!)
丁度7時、リナの提案に乗ってあの小屋に留まらなければどうだっただろう。
その時に悠二が居た場所は隣のエリアだ。
もしもあそこで留まらず、そして調べ終わった東や、狭い南と西を無視すれば……
(考えすぎだ、そんな事)
そんな“もしも”を考えて何の意味が有るのだろう。
そうは思うのに。
『メフィスト医師により人より一つ多かった制限を外してもらった。
ようやくまた、存在の力を感じ取れるようになった。
これならきっと、シャナが近くを通れば感じ取れるだろう』
『あまりに僕自身の格好が不審だったのと異様な気配を感じて物陰に隠れた。
通り過ぎたのはサイドカー付のバイクに乗った首の無いライダー――』
もしもシャナがベルガーと共に行っていれば。
(そんな仮定に意味なんか無い! 有るわけが無い!)
そう、思うのに。
『紅世の従ではないようだけれどあの気配は警戒すべきかもしれない。
港を目指していたルートを変更してここは北回りに――』
(どうしてこんなに“もしも”が続くの!)
シャナは声のない悲鳴を上げた。
目の前に居たのに。
ひどい偶然がなければシャナと悠二は出会えていたのに。
『4時半。階下に居るのが何者かは判らない。見つからないように離れる事にする』
それなのに、悠二と生きて再会する事は遂に無かった。
シャナは悲劇の再上映に打ちのめされる。
どうしてこんなにひどい事ばかりなのか。
疑問も悲鳴も哀惜も、全ては闇に呑まれるだけ。
何処にも光など有りはしない。
「ひどいよ、悠二」
悠二が死を覚悟していたと聞いたおかげで、しっかりしようと思う事が出来た。
何処へ進めば良いかはまるで判らないけれど、辛うじて立っていられた。
なのに歩き出せば何処を踏んでも針の山。
足の踏み場は何処にも無い。
「どうしてこんなものばかり遺していくの」
無惨な死体。
覚悟の残滓。
血に濡れたメロンパン。
悲劇を再上映する手記。
抱き締めてくれる誰かも優しい言葉も失ったこの世界。
「――ひどいよ」
シャナの側には誰も居なくて。
ただ、冷たい夜風が吹きつけた。
シャナはハッと顔を上げた。
冷たい風は、シャナに覚えの有る気配を届けた。
「これは……あの女!」
すぐさまそちらに意識を向ける。
気配がする。
あの、彼女に牙を突き立てた吸血鬼の存在を感じ取れる。
「見つけた、見つけたんだ!」
瞳に戻るのは微かな灯火。
それは最後の希望だ。
多くを失ったシャナが自らの尊厳だけでも取り戻す最後の機会。
悠二と出会った、フレイムヘイズである少女に戻れる機会。
吸血鬼化が終わる前に佐藤聖を殺す事が出来れば、吸血鬼から回復できる。
「戻る! あいつを仕留めて……戻るんだ!」
シャナは駆け出した。
* * *
「ああ、『影』の人は死んじゃったんだねぇ」
放送を聞き、十叶詠子は呟いた。
「誰なの、その人。女の子? 男の子? 詠子ちゃんの気になる人?」
「男の子だよ、『カルンシュタイン』さん。気になる人ではあったかなぁ。
死んでしまったのは、とっても残念」
残念という言葉は心から、なのにくすくすと無邪気な笑みを浮かべている。
詠子は空目恭一やその仲間達の味方のつもりだったが、彼らにとって詠子は敵だった。
きっとこのゲームの中でも、彼女に敵対していただろう。
そうは思うが、空目恭一の味方であるつもりの詠子としては残念な事には違いなかった。
彼の魂のカタチはとても綺麗だったのだから。
それでも詠子が笑うのは、その事を残念で悲しく想いながらも心から笑っているだけの事だ。
「うーん、詠子ちゃんはよく判らないな」
それは見知らぬ者の死ならどうとも思わなくなった吸血鬼の佐藤聖でも理解できない。
もっとも佐藤聖は狂気などとはまた違う精神状態なのだから狂気を理解しえないのは当然なのだが。
「他に死んだ人は……うん……うん……」
詠子は放送の続きを聞いて知った名が有るかを確認する。
一つ、知った名が有った。
(『ジグソーパズル』さんも死んじゃったんだね)
夜会で出会った、詠子より少し年上の女性。
夜闇の魔王に挑み戦うと宣誓した力有る魔術師、楽園の魔女サラ・バーリン。
彼女の死はゲームに抗する力の損失を意味する。
更に詠子が仕掛けた刻印を破る物語は偶然と、時空の秘宝によって防がれてしまった。
神野陰之とその友アマワが支配するこの世界は未だ攻略の糸口すら掴めない。
(でも、『法典』君や『女帝』さんは生きてるみたい)
そして佐山御言とダナティア・アリール・アンクルージュの生存を知る。
参加者を解放する術は見つからなくて、だけども結束する術だけは残された。
それは確かに希望だけれど、光差し込まぬ闇を駆けるとても危険な脱出口。
「うん。他にはこれといって居ないみたい」
「そっか。私も知り合いは死んでないかな」
そんな理由も有るから、世界に挑む者達の名はあげなかった。
単に佐藤聖が獲物に狙ったら困るからでもある。
『次に禁止エリアを発表する。
19:00にC-8、21:00にA-3、23:00にD-6が禁止エリアとなる。』
「……ここはどこだったかな?」
「D-8の北端辺りだよ、『カルンシュタイン』さん」
「そう、それじゃなんとか平気だね」
そこまでを聞き終えて、吸血鬼と魔女はようやくの一息を吐いた。
「じゃあさっき言った通り、何か滋養の有る物を作ってあげる。
詠子ちゃんは何が良いかな? 鉄分を多目に取る事を推奨するよ」
「血の材料だね。太らせて食べちゃうつもりなんだ、吸血鬼さんは」
「冗談だって。何か温かい物が良いね。おかゆで良いかな?」
「うん、それで良いよ」
本音は本気だった事は言うまでもない。
* * *
微かに感じ取ったその場までは思ったよりも距離があった。
(悠二が死んだあの場所の近く……)
同じ島の東端の港町。
もうじき禁止エリアとなるC-8よりは若干南のD-8エリアだ。
たまたま近くを彷徨っていたとはいえ、それでも丸1エリアは離れていた。
これまでこの島で、これほど遠くの気配を感じ取れた事は無い。
(……まだ吸血鬼にはなりきってない。だからそれで判ったんじゃない)
風に乗って飛び火したようなほんの僅かな気配を偶然感知した。
きっとそういう事なのだろうと自分を納得させる。
そして物陰から覗き見たその場所は一件の民宿だった。
(ここがあの女の根城?)
明かりの灯った部屋も暗い部屋も有ったが、どうやら個室には居ないようだ。
回り込み、他の部屋を捜す。明かりのついている部屋を重点的に。
浴場にも居ない。厨房にも居ない。
――食堂で、その姿を見つけた。
* * *
「はい、詠子ちゃんあーん♪」
「…………うーん」
にこにこ顔で差し出されたスプーンを前に困り笑顔を浮かべる。
「『カルンシュタイン』さん、いちおう言っておくけれど。
私は、普通に食事ができる位には大丈夫だよ?」
「判ってるって。だからこれは、お姉さんのちょっとした好意」
(好意、というより遊び心だよねぇ)
まあ考えてみれば、少なくとも悪意や敵意は無いし、危険が有るわけでもない。
となれば詠子にとって断るほどの理由もなかった。
「仕方ないなあ。あーん」
詠子が開けた口に聖がそっとスプーンを差し入れる。
口を閉じてお粥を咀嚼。
「うん、温かくて美味しいよ、『カルンシュタイン』さん」
「そりゃ良かった。それじゃどんどん食べてね。はい、あーん」
「あーん」
奇妙な関係の奇妙な夕食が続いていた。
* * *
………………どうしてだろう。
どうしてこんなにも悲しいのだろう。
どうしてこんなにも悔しいのだろう。
どうしてこんなにも……理不尽なのか。
(おまえは人喰いの怪物じゃないか。
それなのにどうして……どうしてそんなに暖かい場所にいるの!!)
人の血を啜る吸血鬼と、見たところおそらく人間である少女。
2人の団欒は暖かく心癒されるもので、だからこそシャナの心を凍え傷つけた。
人のために、人を護るために戦って、何もかもを失った孤独に凍えた。
それなのにあの女は、人を傷つける化け物なのにあんなに暖かい場所にいる。
この違いは何だというのか。
どうして。
どうして。どうして。
どうして。どうして。どうして。
……答えは、とても簡単な物だった。
これまでもずっとそうだったのだ。
フレイムヘイズはみんなそんな場所にいて、人喰いの紅世の従共はみんなそうしていた。
紅世の王達にとって愛とは喪失の悲しみに狂う事もある危険な物だった。
アラストールはかつて、道は外れなかったが最愛の契約者を失った。
愛や絆など戦いには不要なものだった。
そして紅世の従どもは、愛に生きて愛に死んでいた。
狩人フリアグネは最愛の従者に確たる肉体を与える為に戦った。
愛染の兄妹、あのティリエルという紅世の従は、最初から最後まで最愛の兄と共に在った。
アラストールは言った。
「フレイムヘイズとて人を愛していい」のだと。
けれどアラストールは最愛の前契約者と死に別れた。
シャナもまた最愛の少年と死に別れた。
(望む事は許されるのかもしれない。だけどきっと……)
きっと、フレイムヘイズが得られる幸福など全て儚い夢なのだ。
そう思うと悲痛な感情が怒濤の如く押し寄せて……逃れようと前に走った。
「死ねえぇっ!!」
絶叫と共に振り下ろした刃は食堂のテーブルを叩き割った。
「シャナちゃん!?」
直前で自らの血の気配を感じた聖は詠子を抱えて距離を取っていた。
目の前に居るのは4時間くらい前に血を吸った少女。
間には真っ二つに砕けたテーブルの残骸と転けた椅子が転がっていた。
シャナは無言で聖に向けて刃を構える。
その瞳に滾るのは怒りと焦り、そしてようやく彼女を見つけたという僅かな希望。
吸血痕は確認していないが、全力で耐え続ければあと10時間後まで保ったはずだった。
心が折れて一気に進行したからといって、まだ完了はしていないはず。
(ここで仕留めれば吸血鬼にはならない!)
その目に明らかな殺意を感じ取り、聖はくるりときびすを返すと詠子を抱えて走り出す!
「逃さない!」
跳躍。
僅かな距離を咄嗟に生やした炎の翼で滑空し散らばる残骸を飛び越える。
聖は食堂を出てエントランスに飛び込み四足飛ばしで階段を駆け上がる。
追撃するシャナは手すりを蹴り翼で羽ばたき二階に上る。
客室の並ぶ長い通路。
聖は全速で駆ける。
シャナは全速で翔る。
一度は聖が勝った競争は、しかし荷物のせいか見る間に距離が詰まっていく。
「ヤバイ……!!」
聖はそのまま加速し詠子をしっかりと抱え込んで窓に突っ込んだ!
硝子の割れる音と共に夜空を舞う聖を、シャナは遂に射程に捉える。
加速。跳躍。飛翔。
「もらったっ」
斬撃。
――墜落。
* * *
「いたた……」
足を押さえて蹲る聖。
足には大きく刀傷が開いていた。
尋常ではない肉体能力と再生速度を持つ美姫の直の眷属である聖だ、再生はすぐに済む。
「ここまでよ」
「ひ……っ」
だが顔を上げた聖の目の前には贄殿遮那の刃が有った。
今はその短い再生時間すら与えられない事は明白だった。
這いずって逃げようとするが、その腕さえも落下の打撲で今しばらくは動かない。
(ここまでって事なの……?)
横目で見ると、幸い詠子に大した怪我は無いようだ。
だが聖は死ぬ。
殺される。
どうしようもなく殺される。
その恐怖にギュッと瞼を閉じて……
「ねえ、どうして『カルンシュタイン』さんを殺すの? 元『誇り高き炎』さん」
――“魔女”十叶詠子の言葉が聞こえた。
(なんだ、こいつは)
聖と共に居る少女の言葉に、振り上げていた刃を止めた。
「……人喰いの怪物に、吸血鬼にならない為よ。決まってるじゃない」
なぜそんな当然の事を聞くのか。
そして、元『誇り高き炎』。
どうして私がフレイムヘイズである事を知っているのか。
「それと訂正して。私はまだ……ううん。私はフレイムヘイズよ。今も昔も、これからも」
その事に迷ってはならないと、そう思う。
だけど。
「でもあなたは吸血鬼だよ。もう人には戻れない」
魔女の一言はそんな薄っぺらい思いを微塵に粉砕した。
「……………………………………………………そんなはず、ない」
長い沈黙の後に必死の言葉を絞り出す。
「まだ噛まれて5時間も経ってない!
耐え続ければ明日の朝日だって見れたかもしれない!
もう終わってるはずがない!
そんな事あるわけがない!」
「本当だよ」
「うそだ!」
「本当。吸血鬼の噛み痕だってもう残ってないってカタカタさんが言ってるよ」
「うそ!!」
「じゃあ確かめてみたらどうかなあ。はい、手鏡」
詠子はポケットから小さな手鏡を差し出すと、シャナを鏡に映した。
明かりのない森の中だったけれど、紅い瞳は鏡の向こうに鮮明に、自らの姿を見て取った。
その肌は僅かに青白く、そして聖に噛みつかれた首筋は……
「貸して!」
「きゃっ」
詠子から手鏡を奪い取り食い入るように覗き込む。
毛穴一つ見逃すまいと必死に傷跡を探す。
だけど何度見ても、その肌には痕一つ残ってはいなかった。
吸血痕は消えていた。
「どうして!? なんで、どうして!!」
悲鳴のような声を上げる。
有り得ない。そんな事、あるはずがない。
そんな事……
「それはきっと、あなたが望んでしまったからだよ」
魔女は親切にもその理由を教えた。
「あなたは自らの力と精神で吸血鬼になるのを遅らせる事ができた。
でもそれは諸刃の刃なんだよ。
もしもあなたがそうある事を望んでしまえば、変わる事に時間は要らない」
優しさで少女の心にナイフを刺した。
――シャナはその意味を理解した。
『きっと、フレイムヘイズが得られる幸福など全て儚い夢なのだ』
『…………それなら、いっそ』
一瞬の、しかし完全な過ちが、少女の道筋を定めてしまったのだ。
シャナは呆然と立ちつくす。
そしてそんなシャナに魔女は繰り返し問い掛けた。
「それで、『カルンシュタイン』さんは殺さなくて良いのかな?」
「それは……」
シャナは言葉に詰まる。
(もう、そんな事に意味は無い)
思った。そう思ってしまった。
すると詠子はにっこりと笑ってこう言った。
「だからあなたは『誇り高き炎』じゃなくなったんだよ。
炎は悪い罪人を裁くものだけど、あなたはもうその役目に縛られないものね」
「え…………あ……!!!」
更なる慈愛がシャナの心を打ち砕いた。
人喰いの怪物を滅ぼし世界のバランスを守るのがフレイムヘイズの役目。
その役目すらも忘れ去り、自らの為だけに生かし殺そうとした。
誰かにすがる事なくただ共に在るという誓いを忘れ、すがるものを求めて泣いた。
「さしずめ、今のあなたは『痛み』の人かな。
あなたはとても傷付いてしまった。
誰かの牙で、絆で傷付いて。
そして自らの真っ直ぐな想いと情熱で焼き焦がしてしまった。
あなたに残る傷はもう無いけれど、熱い痛みが消える事は無い。
あなたの魂のカタチは『痛み』で埋め尽くされた。
それはとても悲しい事だけど、でもそれが、あなたの新しい魂のカタチ」
その言葉はどこまでも優しくて、新たなカタチをも祝福する想いに満ちていた。
優しいのにこれほど残酷なものはなかった。
全てが絶望よりも鋭い痛みに染まる。
「……あ…………ぁ………………」
そう、全ては魔女の言葉の通り。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」
シャナの心は『痛んで』いた。
* * *
「ふう…………恐かった、死ぬかと思った。詠子ちゃん、ありがとね」
「どういたしまして、『カルンシュタイン』さん。
でも私は、あの『痛み』の子が自分のカタチに気づけるように教えてあげただけだよ?」
もっともそれが聖が殺される前だったのは、シャナがあのまま聖を殺していれば、
それでも吸血鬼から治らないシャナが暴走して殺されるかもしれないという考えと。
「それに『カルンシュタイン』さんも庇ってくれてありがとう」
「あはは、どういたしまして」
墜落時に聖に庇われた恩返しという意味合いも有った。
シャナに襲われたのは聖のせいだが、巻き込んでも怪我をさせないように誠意を見せもしたのだ。
それに報いるのは別に変な事ではない。
「あー、でもお腹が減ってきちゃった。どうしようかな」
「……できるだけ、他の人を捜して欲しいかなあ」
「うん、出来るだけね。…………出来るだけ」
聖の視線は見るからに『おいしそうだなあ』という気配に満ちていた。
詠子は早くも、ほんの少しだけ後悔した。
【E-7/森/1日目/19:30】
【吸血鬼と魔女】
【十叶詠子】
[状態]:やや体調不良、感染症の疑いあり。
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:新デイパック(パン5食分、水1000ml、魔女の短剣)
[思考]:どうしたものか。
[備考]:右手と聖の左手を数mの革紐で繋がれています。
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼(身体能力大幅向上)
[装備]:剃刀
[道具]:デイパック(支給品一式、シズの血1000ml)
[思考]:身体能力が大幅に向上した事に気づき、多少強気になっている。
詠子は連れ歩いて保存食兼色々、他に美味しそうな血にありつければそちら優先
詠子には様々な欲望を抱いているが、だからこそ壊さないように慎重に。
祐巳(カーラ)の事が気になるが、状況によってはしばらくそのままでも良いと考えている。
[備考]:詠子に暗示をかけられた為、詠子の血を吸うと従えられる危険有り(一応、吸血鬼感染は起きる)。
詠子の右手と自身の左手を数mの革紐で繋いでいます。半ば雰囲気
【D-8/住宅地/1日目/19:30】
【シャナ】
[状態]:吸血鬼(身体能力向上)
[装備]:贄殿遮那
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
悠二の血に濡れたメロンパン4個&保存食3食分、濡れていない保存食2食分、眠気覚ましガム
悠二のレポートその2(大雑把な日記形式)
[思考]:――――痛い
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
吸血鬼の再生能力と相まって高速で再生する。
←BACK | 目次へ (詳細版) | NEXT→ |
---|---|---|
第516話 | 第517話 | 第518話 |
第487話 | 十叶詠子 | - |
第487話 | 佐藤聖 | - |
第498話 | シャナ | 第518話 |