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第495話:Spine chiller

作:◆GQyAJurGEw

「ハーハッハッハッハ!」
 殺し合いの行われているはずの島に、場違いな哄笑が響き渡る。
「さすがボルカン様だ! 見たか、この華麗なる戦略的撤退を!!」
 声の主はまるで子供のように小さい。地人のボルカンであった。
 彼は後ろを振り向いた。追ってくる人影はない。
 それを確認し、安堵の息をつき――
「うむ、俺様にふさわしい剣だな」
 手にするブルートザオガーを恍惚とした表情で見つめた。が、彼にとっては少し重いようで両手は震えている。
 しかしそんなことを本人は気にもとめていない様子で、ひたすら剣の輝き見つめながら歩いている。
 こんなことをしていれば、前からやって来る者に気付かないのも道理だろう。

 ――どっ

 いきなり何かにぶつかり、ボルカンは勢いよく地面に仰向けに倒れた。
「ぐえっ」
 打った頭を片手でさすりつつ、立ちふさがった何かに抗議する。
「貴様っ! このボルカン様に――…………」



「…………」
「…………」
 周囲を沈黙が支配した。ボルカンの表情は「ボルカン様に……」のところで固まっている。
 重苦しい沈黙を先に破ったのはボルカンであった。
「あー、えー、その……なんでもありません。さようなぁぁぁぁ!」
 ボルカンは逃げようとするが、首を思いっきり掴まれたためできない。さらにそのまま空中に持ち上げられた。
「な、なにをするっ! こんなことをしてただで済むと思うのか!?
 いやいやいや、ごめんなさい許して!」
 喚き散らす地人を隻眼が見つめた。冷たい視線で。まるで“凍らせる”ような。
 男はゆっくりと口を開いた。
「……お前は」
 直後、ボルカンは硬直した。
 声に込められた凄まじいものを感じたからだ。
「……乗っているのか?」
「い、いえ! まさかっ!」
「……」
 男は目を細めた。ボルカンは震え上がった。あの魔術師ですら、“これ”に比べたらまだマシだった。
 男はしばらくボルカンを見つめ、
「どうやら、嘘ではないようだな。すまなかった」
 そう結論し、ボルカンを解放した。ちゃんと足を地につけさせ、首から手を離した。敵でないと分かれば先程のように乱暴にはしないらしい。
「う、うむ。ではこれにて失礼――」
 怯えながらも早々と立ち去ろうとするが、ボルカンは男に肩を掴まれた。
「待て」
「ひぃ! な、何にも悪いことなんてしてませんってぇ!?」
「お前はこの先――市街地の中心部からやって来た。……ついさっき、派手な音がしたはずだが?」
「あ、あれは……」
 ボルカンはこれまでのことを話した。もちろん自分に都合の悪いところは虚構を混ぜて。
「ほう、するとその巨大な女が?」
 “巨大な女”と言ったところでかすかに男の口が歪んだのを、ボルカンは気付いたかどうか。
「そ、そうだ! あいつが俺様をこんな目に……!」
 と、頭のたんこぶを指差して強調するボルカン。
「そうか」
 それから男は市街地の中心部の方面を見て、
「行くぞ」
「……は?」
「行く当てはないのだろう。一人で行動するより、俺といた方が安全だ」
「いや、それは」
 躊躇ったのは男に対する畏怖ゆえだが、ボルカンはいや待てと考え直した。
 見たところ、男はかなりの実力者だ。彼が“手下”となれば心強い。いざとなったら囮として、自分は逃げ出せばいい、と。
「うむ! よろしく頼む。俺様はマステュリュアの闘犬、ボルカノ・ボルカン様だ!」
「屍刑四郎――」

 ――

 突如、頭に響くような声が聞こえてきた。二人ははっと周囲を見回したが誰もいない。
 すぐに、それの正体に気付いた。
 ――放送だ。
「そうか、もうそんな時間か。……移動は後だな」
 花柄の服の隻眼の男――屍はその場に腰を下ろし、ディパックから必要なものを取り出した。


 死者の名が呼ばれていく。その度にボルカンと屍は参加者表に印をつけていった。
 計24回。
 どちらの知り合いも、マークされることはなかった。

 ――次の放送の時に何人の名を呼ぶ事になるか、実に楽しみだ
 ――その調子で励んでくれたまえ

 それからボルカンは参加者表をさった見渡し、
 次の放送ではあの魔術師が呼ばれてくれ――
 そう思ったところで、ボルカンの体が震えた。
 寒さでなく、別の理由で。
 彼は参加者表から屍の方へと視線を向けた。そして、さらに震え上がった。
 屍からは凄まじい気が発せられていた。
 それは主催者に対する怒気であり――殺気であった。
 まさに、ボルカンは“凍った”。恐怖の表情を浮かべたまま。
 それを溶かしたのは、他ならぬ屍の低い声だった。
「行くぞ」
 その言葉でボルカンは緊縛から解放させられた。
 急いでボルカンは荷物をまとめ始めた。屍は既に準備を整えていた。
 ボルカンの支度が終わると、二人はすぐに歩き出した。びくびくしながらも、彼は屍の後を追う。
「…………」
 そして今更気付いた。
 向かっている先は、さっきボルカンが逃げてきた方向だということに。
「……あの……」
「なんだ?」
「そっちは怪物がいるところ……」
「そうだ、化物退治に行くところだ」
 回れ右をして逃げようとするが、首を掴まれた。
「安心しろ、いざとなったらおれを置いて逃げても構わん」
「…………」
 なぜこんな目に遭っているのだろう。
 自問の自答はこうだった。
「……全部あの魔術師が悪い」



【A-3/市街地/一日目/18:05】

【屍刑四郎】
[状態]:健康 生物兵器感染
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水1800ml)
[思考]:化物退治に市街地中心部へ向かう ゲームをぶち壊す マーダーの殺害
[備考]:屍の服は石油製品ではないので、影響なし

【ボルカノ・ボルカン】
[状態]:たんこぶ 左腕部骨折 生物兵器感染
[装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!) ブルートザオガー(吸血鬼)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン4食分・水1600ml)  
[思考]:全部あの魔術師が悪い
[備考]:ボルカンの服は石油製品ではないので、生物兵器の影響なし

※:生物兵器について
約10時間後までに接触した人物の石油製品(主に服)が分解されます。
10時間以内に再着用した服も石油製品は分解されます。
感染者は肩こり、腰痛、疲労が回復します。

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