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第496話:利害の一致だけですが

作:◆CDh8kojB1Q

「――次の放送の時に何人の名を呼ぶ事になるか、実に楽しみだ。
その調子で励んでくれたまえ」


「……24人も死んだのか」
 頭に響いた放送の残滓が消える間もなく、ヒースロゥが呟いたのを朱巳は聞いた。
 ヒースロゥの知人であるEDなる人物の名が呼ばれる事はなかった。
 それでもこの騎士は、このゲームに参加している“罪なき者”に訪れた理不尽な死を
 恨まずにはいられないようだった。
「しかも本当に統和機構の『最強』が撃破されてるなんて……予想外もいいとこじゃない。
あの男も霧間凪も退場するが早過ぎよ」
 誰にともなく呟いて朱巳は正面を見た。
 ここは神社社務所のとある部屋――応接室だ。
 彼女の視線の先、テーブルを挟んで向かい合ったソファの上には眉をひそめたバンダナの少女が
 座っていて、その背後には赤毛の男と三つ編みおさげの少年が突っ立っていた。
 
 眼前の彼らに対して朱巳はなかなか上手くやれているはずだ。
 相手に着かず離れずの距離を取って対話し、不利な事柄は何一つ明かしてはいない。
 もともと手札は相手の方が多いのだから、まともに情報交換していてはこちらが不利になるだけだ。
 故に、少ない手札をいかに用いてどれだけ相手から情報を引き出せるか、それのみが重要となる。
 しかも、相手が握っているのは「刻印の解除式」という複雑な代物で、
 ゲームから脱出したい者にとって必要不可欠な情報だ。
 ここで得た情報は、第三者との交渉において役立つだろうと朱巳は確信していた。

 そんな彼女にとって、剣士らしきバンダナの少女とその背後に立つ赤毛の男が主な交渉相手だが、
 どうやら場数を踏んでいるらしく簡単に朱巳の掌の上で踊ってくれほどのバカではないようだ。
 やはり『鍵をかける』のは奥の手として取っておくのが良いだろう。
 むしろ念入りに隠す事で、奥の手としてすごいものが隠されているように錯覚させて、
 詐術こそが真の切り札だとバレにくくさせた方が朱巳とって好都合だ。
 交渉を任せてくれたヒースロゥといえば朱巳の隣に座して相手の回答を吟味し、
 ときたま再質問する程度だった。
(それでも足を鉄パイプに掛けてるのよね……)
 彼が取っているのは、パイプをいつでも足先で任意の場所へ蹴り上げられる体勢だ。
 眼前の三人との出会いがあまり友好的でなかった事をヒースロゥは未だに気にしているのだろうか。
 その用心は相手にとって威圧以外の何でもないが、対話に支障が出るほどでもない。
(――むしろあたしがもっと警戒すべきね。赤毛の奇妙な技が直撃したら致命傷は確実……ったく、面倒ね)
 
 男が使った謎の攻撃は、朱巳の眼前で石を跡形もなく粉砕――もしくは解体した。
 これに対して朱巳は、赤毛の手から放たれる超音波か何かが
 対象を振動崩壊させるのだろうと推測を立てている。
 詳細は不明だが、攻防一体にして不可視な時点で危険極まりない。
 ひょっとして魔法士と名乗ったこの男、実はMPLSなのかもしれない。
 だとしたら統和機構と何らかの関わりを持っているのだろうか?
 もしも統和機構の一員ならば、始末屋などに従事している強力なMPLSか、
 一撃必殺の技を持つ暗殺タイプの合成人間かのどちらかだろう。
 小耳に挟んだ事すらない相手だが、統和機構はあまりに巨大すぎて
 朱巳ですら規模の把握は全く不可能であり、組織のどこかに『最強』級の怪物がいても可笑しくはない。
 「本当に異世界の住人で、統和機構に全く関係無い人物でした」という可能性が最も高いのだが、
 とにかく正体不明の実力者に対して隙を見せるのは危険すぎ――。

「あああああああああ!!」
 唐突に部屋内の沈黙と朱巳の思考を破ったのは、天を仰いだ白衣の少年だった。
「そんなっ! そんなバカな……しずくといーちゃんが死んだだと!?」
「ひょっとして、あんたのお仲間?」
 絶叫する少年に向かってすかさず朱巳は問いを投げかけた。
 もし、相手の精神に綻びができれば――そこに朱巳のつけいる隙がある。
 詐術の必要も無いまま、舌先だけで相手を誘導できるかもしれない。
しかし――、
「あー、いや、ちょっとばかし理由があってコイツはその二人にご執心なんだ。
むしろしずくってやつと繋がりがあるのは――」
「しずくはあたしの知り合いだよ。そんなにベタベタした付き合いじゃなかったけど……いい子だった」
 ヘイズと名乗った男の言葉を遮ったのは目を伏せた少女――火乃香。
 小鳥は空を飛べたのかな、と呟きながら天井を見上げた彼女に
 立っている男二人が気の毒そうな視線を投げかけたのを朱巳は見た。
 ゲームの中で始めて出合った他人に対してこういう風に同情できるという事は、
 彼らはそれだけ互いに馴染んだ存在なのだろう。
 放送前から朱巳が保留していた疑問――彼らの信頼は演技か否か――はここで氷解した。
(間を引き裂くのは難しいわね。ま、今はコイツらとは特に敵対してないし
利害の一致でも協力してくれるんなら簡単に潰れない連中こそ必要とすべきね……)
 チームワークができる連中と手を組んでおけば、終盤、参加者が減った時に何かと頼れるかもしれない。
 それに、バラバラな個が集った集団と違っていて、彼らには芯……のようなある種の結束感がある。
 これは集団を形成した参加者の多くが危惧する、『裏切り』という深刻な事態を
 容易に回避できるという利点につながる。
 結束力のある集団とのパイプ――これ利用しない手は無い。
 あの『最強』を退けるほどの連中ならば、そのうち役に立つ時が来るだろう。


「で、あんた達、他に知ってて名前呼ばれたやつはいるの? 
あたしは霧間凪とフォルテッシモだったんだけど」
 問いに最も早く応じたのは白衣の少年――コミクロンだった。
「幸か不幸か誰一人として俺の知人は参加してない。
まあ、この大天才たる俺以外にチャイルドマン教室からの参加者が来ていたなら、
深刻な環境破壊にして凶悪な人的被害が発生していたであろう確率はざっと見積もっても98%を超えてる。
キリランシェロやハーティアを含めてこの数値なんだから恐れ入るな……!」
「……質問から脱線しまくりな上にふんぞり返ってるバカはどうでもいいとして、
オレの方には一人だけ知人がいた――」
 胸を張ったコミクロンに続いて、その横にいるヘイズがやれやれ、と言った風情で口を開く。
 交渉が始まる前からどことなくやる気の無さそうな態度を貫いているが、
 飛び道具を有するこの男こそ、朱巳にとっては厄介なのだ。
 不信な動きを見せようものなら、指先一つで命を奪ってみせるだろう。
「――012番 天樹錬……即死だったみてえだ。朝一番に放送で名前を呼ばれたぜ」
「おいヴァーミリオン! なんでお前は知性溢れる俺の合理的思考に基づく画期的な――」
「うるせえ! お前こそ話の腰を折って砕いて脱線させるんじゃねえ!」
「合理的だと言ってるだろ! 多少の紆余曲折を得つつも正しき終点に帰結すべく――」

「お黙り」

「「…………」」

 火乃香の一括とともに一瞬だけ放たれた殺気が応接室を氷点下の世界に変えた。
 瞬間――、
「!」
 今まで沈黙を保っていたヒースロゥが動きを見せた。
 もっともその動きを捉えたと言っても、朱巳には彼が僅かに姿勢を下げたようにしか見えないのだが、
 恐ろしく腕の立つこの騎士は、殺気を感知した刹那の瞬間に三挙動くらいはしているのだろう。
 どうやらヒースロゥには、朱巳には分からない“異常な気配”から殺気まで含めてそれらを感知し、
 それに対応できる才能があるらしい。
 一流戦士の感性とでも言うのだろうか。
 そのヒースロゥが攻撃体勢に入ると同時に、それまでいがみ合っていた魔術士を名乗る二人は
 完全に氷結し、同時に沈黙。
 コミクロンは頭を抱えて一歩後退し、傍らで踏みとどまっているヘイズの顔も青く染まっている。
 朱巳には窺い知れないが、暗黙の掟――片結びと頭髪青染めの危機――が子分二人を
 蝕んでいるからだった。

 沈黙から数瞬後、その起点である少女は僅かに舌を出して微笑した――きっと謝罪だろう。
 それに対して朱巳は唇の端を吊り上げ、ささやかな返答を返す。
 そのまま視線を横に流すと、ヒースロゥはすでに警戒を解除していた。


 場の空気を確認した朱巳が先程の返答の続きを促すと火乃香は頷き、
「……じゃあ、正しき終点に帰結するようにあたしがまとめると、
コミクロンに知人はいなくて、ヘイズの知り合いは死んだ。
あたしにはしずく以外に二人の顔見知りがいて、現在生存中。但し、乗ってるかどうかは不明。
で、仲間だったシャーネ・ラフォレットはフォルテッシモに殺された……ここまで分かった?」
 まるで、こっちは包み隠さず話すからそっちも同様にしろ、と言っているかのような確認の仕方だった。
 まあ、実際にそういう意図が含まれているのだろうと朱巳は推測する。
 無問題だ。もともと朱巳は隠し通すほど重要な情報を持っていない。
(あんた達が勝手に手札を見せてくれるなら、それこそ御の字なのよねぇ……)
 
「――続けていいわよ」
「オーケイ、続ける。
放送から察するに遊園地でフォルテッシモは死亡。で、そいつを倒したと思われるマージョリー・ドーって女も
あたし達とぶつかった後にどこかで死亡。後ろに立ってる二人が危険視してるギギナってやつは生存中。
最後に、面識は無いけどあたし達はとある事情からクレア・スタンフィールドって男を捜してる。こんな感じ」
「ふーん。なんか喧嘩売られまくりじゃない……まあいいわ、こっちの番ね。
あたし達の方はこのヒースロゥがEDって男を捜してる以外に言うべき事は……屍のやつくらいね」
 放送前にあの刑事について少し、彼らに話しておいた。
 EDを探すおまけ程度に見つけてくれれば十分だ。
「屍……放送前も聞いたけど、あんまり縁起の良い名前じゃないね」
「無愛想だけど、なかなかイカした外見をしてる自称刑事の大男よ。
犯罪者は取り締まる〜、とか何とか言いながらブラついてるんじゃないかしら?
あと、医者とせんべい屋はゲームに乗る事は無いはずだ、って呟いてたわよ」
 そうと聞くなりコミクロンはへイズに顔を向け、対してヘイズは手を広げて僅かに肩をすくめて見せた。
 朱巳が予測していたとおり「全然・さっぱり」のジェスチャーだ。
「107番、108番らしいわよ」
「せつらに……メフィストってやつか?」
「――そうね。遠くからでも一目で分かるほどの美男だとか」
 そこまで喋ってから、ふと朱巳は考えた。
 先程の様にヒースロゥは交渉相手に対して無駄に警戒心を抱いている。
 戦場では当然かもしれないが、このゲームでは絶対に他集団との協力が必要だ。
 このまま集団内でギスギスされると正直、やりにくい。
 そのヒースロゥが義理堅い性格をしている事は放送前に確認済みだ。
 ここでヒースロゥと彼らの中を取り持っておけば、いつか協同戦線を張る場合に不協和音が
 生じなくなるのではないか。

「そう、見た目……ヒースロゥ、この際あんたが捜してるEDって男の事を教えてあげたほうがいいんじゃない?」
「――そうだな。いくらあいつが調停士とはいえ、ここは口先で生き残れるほど甘い場所ではないようだ。
約半数の参加者が脱落しているという事実――俺達が捜すだけでは再開は困難だな……」
 そして窒息しそうな沈黙の後、僅かにしぶった感があるが、
 捜して欲しい人物がいる――、とヒースロゥは切り出した。
「名をエドワース・シーズワークス・マークウィッスルと言って、妙に似合った仮面を付けている。
背は高めだが痩せていて、闘争にまつわる要素は皆無。比較的に穏やかで丁寧な口調の男だ」
「調停士……って言ってたけど、その人は交渉人か何かを?」
「そんなところだ。詳しくは『戦地調停士』と言って、弁舌と謀略で停戦を取りまとめる。
説得と交渉のプロだ」
「そいつだけか?」
 コミクロンの質問にたいしてヒースロゥは朱巳に視線を向けてきた。
 彼の言いたい事は分かる。エンブリオだ。
 朱巳は伏せておきたかったのだが、今のヒースロゥのしぐさから相手が何かを察するのは明白だ。
 こちらを信頼させるためなら仕方がない、と割り切るしかない。
 エンブリオの事をばらせば相手は朱巳が全ての手札を見せたと思うだろう。
 そして、彼女の切り札を見落とす事になる。

「まだ、あるのよね。エンブリオって呼称されてるエジプト十字が」
 これが最後の手札だとばかりに朱巳は喋る。
「あの『最強』――フォルテシモが持ってた十字架で、とんでもない価値を秘めてるはずよ」
「へえ、どんな?」
「やすやすと喋ると思う? 手に入れられたら、教えてあげるわよ」
「どういう形だ? エジプトなんて俺は知らんぞ」
「あたしも知らないね」
「……オレは知ってるぜ。2188年3月、アフリカの各シティの同調暴走で大陸と一緒に
消し飛んだはずだ。エジプトのシティはカイロ……だったか? 今は万年雪に埋もれてる」
「な、アフリカが消し飛んだって……どういう意味よ!」
 朱巳の驚嘆をよそにヘイズは淡々と語る。
「そのまんまだ。大戦終期にそれが起こって人類は焦り……もういいだろ。話を戻せ」
「……まあ、いいわ。こんな形よ」
 スラスラと紙に書かれたエジプト十字架を見てヒースロゥが補足した。
「あの男が探してみろ、と言っていたのだから支給品として配給されていると考えるべきだな。
先程言われたとうりに、重要な器物と見て間違いは無い」
 ヒースロゥの説明を聞くと三人は少し押し黙った後に、捜索には協力すると答え、
「但し、こっちにも捜して欲しい人物がいるんだ――」
 と、切り出してきた。火乃香がしゃべり、それと同時に男二人がメモを渡してくる。
 
『オレ達が捜して欲しい人物、ってのは特定の個人じゃあねぇんだ。ある条件を満たすやつ――
“刻印”について何か知っているやつ、解除しようとしているやつの事だ』
『悔しい事に、ヴァーミリオンと大天才たる俺の頭脳を持ってしても手に余る。正直、ピースが足りん。
パズルのピースが増えれば、そこから解読可能な箇所が増えるかも知れないけどな』
「……交換条件って事ね。構わないわよ」
「じゃあ、あたしも教えとく。
023番 パイフウ、
黒くて長い髪に物憂げな眼に通常時は気だるそうな動作をしてる女性。かなり美人で背も高い。
025番 ブルー・ブレイカー、
蒼い装甲の――ロボットって、言って通じる? 最初に集められた場所でも
思いっきり集団から浮いてたし、たぶん一目で分かる」
「――カタギな名前じゃないわね。その人達の事、さっき『乗ってるかどうか不明』って言ってたけど
強さのほどはどーなのよ?」
 驚嘆を押し殺して朱巳は返す。
 ロボットなんて未来的存在が参加している? 冗談ではない。もしも二頭身のネコ型だったら――
 リアルでそんな物がうろついているなら、発見した瞬間に朱巳は吹き出してしまうだろう。
 考えるうちに本当に笑いそうになったのでひとまず妄想を頭からたたき出し、気付かれないように深呼吸。
 思考が回復したので冷静に分析してみる。
 ヒースロゥや朱巳の武器は致命打に欠ける。もしロボットなんぞが敵にまわったらかなりまずい。
 殺し合いに参加するほどのロボットだ。朱巳の世界のメーカー製品よりずっと高性能だろう。
 
 質問に対して火乃香は間を空けずに返答してきた。ただ一言『強い』と。
 ロボットなどとは元々仲間だったのだろうか? 朱巳の思考は推測の域を出ない。
「はっきり言って両者ともに万能だね。武器さえあればどんな距離にも手が届くし、近接戦も一流。
殺すと決めたら引かないから、真正面からぶつかるのはお勧めできないよ」
 淡々と述べる火乃香の後ろで、『ロボット! 機械! 歯車様!』と目を輝かせている白衣の少年に
 視線を流しつつ朱巳は一枚のメモを差し出した。
 男二人への返答だ。
『“刻印”云々の事は承諾するけど、あたしたちが他の相手に深く突っ込まれた場合はどうするのよ?
あたしたちは相手に質問されても返答できない』
 さらに、
「かなりの実力者って事ね。じゃあ二つ目、その人達って組むような性格? 
あたしの独断で、単体で動いてる人物は危険って判断してるんだけど」
 火乃香に再質問した。
 眼前ではメモを受け取ったヘイズが、脳内世界に突入していたらしいコミクロンの白衣を引っ張り、
 二、三の問答の後に幾枚かのメモを取り出した。
 それを朱巳の方に差出して机に並べ、指で突付く。
「これを持ってけ。思考実験の産物だから参考程度にしかならねえが……分かる奴には分かる」
「言っとくが俺達も太っ腹じゃないから全部のメモは渡さんぞ。それはコピーで、量産できるから渡すんだ」
「原文は金庫の中って訳?」
「ああ、それも世界で一番安全だ」
「随分と自信家じゃない。そういう奴に限って足元すくわれて馬鹿を見るって、知ってる?」
「ふっふっふ、心配ご無用。この大天才には愚問過ぎるな。安全性は抜群だ! なにしろ――」
 不適に笑うコミクロンはそのまま人先指を高々と掲げ、
「なにしろ全情報はこの大天才の頭に刻まれているのだからな!」
 そのまま頭に指先を当てる。
 本人は格好良いつもりだろうが、お下げを垂らして額に指を当てながら満足げに笑う姿は
 朱巳から見て馬鹿そのものだ。
 有頂天であろうコミクロンは朱巳とヒースロゥの視線を受けて更に続ける。
「強引には引き出せんし、書き換えも容易! これ以上安全な――がっ! 痛いぞヴァーミリオン!!」
「うるせえ! おもいっきり相手に誘導されてるじゃねぇか!」
「むう、この大天才の数少ない弱点を突かれたか……。だが勘違いするなヴァーミリオン。
これは饒舌なだけであって決して誘導尋問に引っかかったわけでは無いと
激しく主張したいだけだが火乃香の視線が突き刺さるのでお前に一歩譲っておこう」
 途中で主張が百八十度転換したコミクロンだが、“刻印”の情報が脳内にあるとは一言も漏らしていない。
 盗聴されても、『火乃香の知人の情報などが頭に詰まっている』としか理解されないだろう。
 朱巳が想定したほどの馬鹿では無いようだ。それでも見事に誘導に引っかかったわけだが。


「さっきの質問はそのメモに書いてあるけど、一応口から言っとくよ。
利害が一致するなら集団に加わるかもしれない。ただBBは効率的・合理的な判断から。
もう一人は気分屋だから趣味の面が強いね。男嫌いだし」
 渡されたメモには当然、そんな事は書かれていない。
 あるのは複雑な式――そして紙の端に『刻印解除構成式05』と書かれているので、
 刻印解除の構成式の五番なのだろうと朱巳は推測した。
 構成式とは何か。何が五番なのかは朱巳には分からない。
 メモは01〜05の連番なので、続けて読解すれば分かる奴は分かる。但し、続きはコミクロンが保持しているので
 五枚だけでは刻印の解除は不可能。
 ならば当然、読解できる者は続きを求めてコミクロンに会いに行かなければならず、
 必然的にコミクロン等と協力体制を取らざるえない。
 朱巳が持っていても同様で、単体での刻印の完全解除は不可能だ。
 重要な交渉材料にはなるが、切り札にはならない微妙な資料。要するに協力者を集めるためのエサだ。
(あたしにこれをばら撒いて来いって事ね……良い度胸じゃない)
 コミクロン等は協力者を集って構成式を完成させる事を望んでいる。
 だが、見ず知らずの朱巳に協力を求めるくらいに焦っている。参加者の半数が死亡しているならば当然だろう。
(ふん、どうせなら有効利用させてもらうわよ。メモで渡したって事はいくらでも複写して良いって事でしょうし)
 今の朱巳に出来る事はこのメモでより多くの情報を釣り上げる事と、彼等に協力するふりをして
 刻印解除のおこぼれを掠め取る事くらいだ。


【H-1/神社・社務所の応接室前/1日目・18:15】
『嘘つき姫とその護衛』
【九連内朱巳】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:デイパック(支給品一式・パン4食分・水1300ml)、パーティーゲーム一式、缶詰3つ、針、糸
[思考]:パーティーゲームのはったりネタを考える。いざという時のためにナイフを隠す。
     エンブリオ、EDの捜索。ゲームからの脱出。戦慄舞闘団との交渉。
[備考]:パーティーゲーム一式→トランプ、10面ダイス×2、20面ダイス×2、ドンジャラ他

【ヒースロゥ・クリストフ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水1500ml)
[思考]:朱巳について行く。相手を警戒しながら戦慄舞闘団との交渉。
     エンブリオ、EDの捜索。朱巳を守る。マーダーを討つ。
[備考]:朱巳の支給品が何なのか知りません。

[チーム備考]:鋏が朱巳の足元に、鉄パイプがヒースロゥの近くに転がっています。

『戦慄舞闘団』
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:やや貧血。
[装備]:
[道具]:有機コード、デイパック(支給品一式・パン6食分・水1100ml)
[思考]:放送後に移動。刻印解除のための情報or知識人探し。
[備考]:刻印の性能に気付いています。

【火乃香】
[状態]:やや貧血。
[装備]:
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1400ml)
[思考]:放送後に移動。刻印解除のための情報or知識人探し。

【コミクロン】
[状態]:右腕が動かない。能力制限の事でへこみ気味。
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)、刻印解除構成式のメモ数枚
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1000ml)
[思考]:放送後に移動。刻印解除のための情報or知識人探し。
[備考]:かなりの血で染まった白衣を着ています。へこんでいるが表に出さない。

[チーム備考]:火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。
       行動予定:嘘つき姫とその護衛との交渉。
       騎士剣・陰とエドゲイン君が足元に転がっています。
       朱巳の支給品は鋏だと聞かされています。
       朱巳たちが森で回収できた道具は鉄パイプだけだと聞かされています。

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第494話 ヒースロゥ 第497話
第494話 コミクロン 第497話