作:◆jxdE9Tp2Eo
完全に日が沈んだ中、快適そうに伸びをする美姫、ついに彼女の時間が到来したのだ。
かぐわしき夜の香気を味わう彼女だが、何かを感じたのだろうか?
アシュラムを招きよせて何かを命ずる。
「以前から目をつけていた者に出会えそうじゃ…お前は宗介らをつれて控えておれ、よしと言うまでは
姿を出してはいかぬぞ…それから宗介よ」
美姫は宗介を呼び止めて囁く。
「これから私が出会う者の姿、しかと見ておくがよい」
「それはどういう…」
「わからぬか、そなたら2人生き残るには私をも踏み台にせねばならぬかもしれぬということよ
これから出会う者たちの力量を見ることは重要ではないのか?」
宗介はやや驚いた風に首を傾げたが、先にアシュラムが御意と呟くと宗介らを伴い…物陰へと潜んでいく、
そして…。
千絵を担いでマンションへと戻ろうとしている時、リナは異様な気配を感じた。
(この気配…)
それは吸血鬼だったころの千絵の気配と非常に似通っていた。
「さっそくビンゴってわけね」
にやりと笑うリナ、かなり強力な吸血鬼であることは予想できるが…
懐の十字架に触れる、こいつで脅せばいいだけだ。
まずはその顔を拝見しよう、リナは気配の元へと向かった。
(うわ…)
夜の公園でいざ対面し、雲の間からわずかに漏れる月明かりに照らされた美姫の顔を見て、
感嘆の言葉を漏らすリナ…これほど美しい女性は見たこともないし、これから見ることもないだろう。
それにこの溢れる気品は何だろうか?
(だめよ、正気を保たないと)
ぶんぶんと首を振って、気分を切り替えようとするリナを楽しそうに見やる美姫。
「伴侶については気の毒であったの、その後どうしておった」
「どういたしまして…ガウリィだけじゃなくてゼロスもアメリアもゼルガディスも死んだわ」
「ほう、それは気の毒にの」
「はぁ!」
他人事な物言いに声を荒げるリナ。
「アメリアを殺したのはあんたの手下でしょうが!そうやって自分の部下使って生き残ろうとしてんでしょう!」
「わたしも死ぬのが怖いのでな…それともおまえは他の誰かが生き残ろうと思う意思を否定するのか?」
白々しく言い返す美姫、
「だが思い違いをしておる。私は誰一人直接手は下しておらぬ、
文句があるのならばその聖とかいう娘に言うがよい」
「責任を転嫁するの!」
「ほう?ならば問う、お前たちも戦う術は学んでいよう、その力で過ちを犯した場合
その責は誰が追わねばならぬ?力を行使した者であって、それを授けた者ではあるまい」
「それは…」
詭弁だが的を得ている、言い返せない。
「わたしは確かに一人の娘に悦びを与えた、だがその与えられたものをどう使うかは
あの娘個人の勝手じゃわたしは何も預かり知らぬ」
「じゃあアンタは何もやっちゃいないというの?」
「その通りじゃ、重ねて言うがわたしは何一つしておらぬ、まぁ午睡の最中銃を突きつけられたり、
大上段に立ったぶしつけな交渉を持ちかけられたことはあったがの」
ぬけぬけと言い放つ美姫、普段のリナならば許しはしないところだが、
美姫の美しさと放たれるカリスマといってもいい雰囲気に圧倒されて二の句が告げない。
「じゃあ…話題を変えましょ、あたしも無用な争いはこの際避けたいの、だから…
アンタのこれまでの事に関して目を瞑る代わりに手を組まない?…元に戻して欲しい仲間がいるのよ」
「そうじゃな…」
リナの申し出に美姫の目が意地悪く光り、そして彼女はテーブルに素足を投げ出した。
「ならば土下座せよ、それからその口でこの足に接吻せよ…そしてこう言うのだ
お美しい姫君よ、非才にして非礼な私の力では仲間を救うことができません、
どうかどうかあなた様のお力で私の仲間を救っていただけないでしょうか?
お願いいたします、との」
「アンタ何いってんの…」
リナの歯軋りの音が夜の庭園に響く。
周囲の空気が凍りつく、かなめが息を呑む、宗介すらも固唾を呑んだ。
「できぬのか?」
「ふざけんじゃないわよ!」
もう耐えられない、こちらとしては譲歩に譲歩に重ねてやったのだ、それを…付け上がるにも程がある。
幸い、こちらには切り札がある。
「この天才美少女魔道士、リナ=インバースが薄汚い化け物風情に膝を屈するわけないじゃないの!」
「本音が出おったわ」
予想していたかのように美姫がまた微笑み、リナはあわててその顔から視線をそらす。
「散々えらそうな口利いていても、アンタの弱点なんか、とうにお見通しなんだからね!」
その言葉と同時にリナは懐から手製の十字架を取り出し、美姫に突きつける。
「ぐっ…」
今度は美姫が後ずさる番だった。
「どう?ザコの分際でよくもへらず口叩いてくれたわね!何が土下座よ!足に接吻よ!ああん?
いい!顔だけは勘弁してあげるから、この十字架を心臓に押し当てられたくなければ
おとなしく従うことね!わかった!?…だからまずは髪の毛で隠してるほうの顔をみせ…」
「わ…わかった…それで」
リナの天地が逆転する。
「気は済んだかの?」
自分が背負い投げを食らったと気がついたのは、地面に叩きつけられてからだった。
「そのような玩具が四千の齢を重ねた私に通じるはずがないであろう?
流水も大蒜も白銀も陽光すらもわたしには何の妨げにもならぬ」
多少のハッタリが入っているのだが、その言葉を聴いたリナの顔に明らかな狼狽が走る。
美姫はくぃとリナの顎を掴んでそして耳元で囁く。
「さて、手の内を晒しあったところでもう一度問おう…どうする?」
リナは無言でまた顔を逸らす。
「己もあの者たちと同じか?己を優位におかねば何も話せぬか?その上、一時の恥と友の命、天秤にすら掛けられぬか?」
一つ一つの言葉がリナに重くのしかかる。
「行くぞ、見込み違いもいいところじゃ…この者ならば」
(わたしを滅ぼすにふさわしき者の1人と思っておったのにの)
と誰にも聞こえぬように呟くと背中を向けた美姫の言葉にアシュラムが従い、
ついで物陰から宗介とかなめが姿を現す。
リナから遠ざかるその姿は隙だらけだ…反射的にリナは呪文を口ずさみ始める。
「黄昏よりも… 」
「ほう?大義もなしにわたしを討つか、ならばお前も所詮は大言を吐くだけの殺人者じゃの…私を討ちたくば
悠久の時を生きる吸血鬼を討つのならばそれにふさわしき礼を尽くせ…
さもないかぎりわたしはお前の望む土俵には決して上がらぬぞ」
心技体すべてにおいて打ちのめされたリナに呪文を唱える意思はのこっていなかった。
美姫が立ち去った後、へたりこむリナ…何も出来なかった。
「あたしは…アイツには勝てない…だって」
正確には違う…たしかに強大だが竜破斬か神滅斬を直撃させればおそらく物理的に倒すことは可能だろう…しかし。
リナの脳裏に一人の女性の姿が浮かぶ、もちろんその姿も声も美姫のものとはまるで似つかない、だが
まぎれもなく…それは…。
「アイツ…姉ちゃんと…おんなじだ」
【D-6/公園/1日目/18:15】
【リナ・インバース】
[状態]:精神的に動揺、美姫に苦手意識(姉の面影を重ねています)
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:支給品二式(パン12食分・水4000ml)、
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。まずはシャナ対応組と合流する。
【海野千絵】
[状態]:吸血鬼化回復(多少の影響は有り?)、血まみれ、気絶、重大なトラウマ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:………………。
[備考]:吸血鬼だった時の記憶は全て鮮明に残っている。
【D-6/公園/1日目/18:15】
『夜叉姫夜行』
【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:島を遊び歩いてみる。
【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具]:冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る/現在の状況に迷いあり
【相良宗介】
[状態]:健康、ただし左腕喪失
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:どんな手段をとっても生き残る、かなめを死守する
【千鳥かなめ】
[状態]:通常
[装備]:エスカリボルグ
[道具]:荷物一式、食料の材料。鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
[思考]:宗介と共にどこまでも
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