作:◆5KqBC89beU
島を覆い始めた霧の中、甲斐氷太はA-2にある喫茶店の前に立っていた。
(さて、今度こそ誰か隠れててくれねえもんかね)
適当に周囲を探索して回り、しかし誰とも会わないまま、甲斐は今ここにいる。
途中、争うような喧騒を耳にしてはいたが、甲斐は無視した。いかにもカプセルを
のませにくそうな参加者にわざわざ会いにいく気は、とりあえずない。逃げるために
遠ざかるつもりも、とりあえずないが。
今のところ、甲斐の目的は、悪魔戦を楽しめそうな相手を見つけることだった。
風見とその連れを殺したいとも思ってはいるが、再戦できるかどうかは運次第だ。
故に、甲斐はただ黙々と探索を続けていたのだった。
(……ウィザードの代わりなんざ、いるわきゃねえけどな)
カプセルは、のめば誰でも悪魔を召喚できるというようなクスリではない。
悪魔を召喚する素質のない参加者にカプセルを与えても、悪魔戦は楽しめない。
何が素質を決定している因子なのか、甲斐は明確には知らない。しかし、精神的に
不安定な者は悪魔を召喚できるようになりやすい、という傾向なら知っていた。
戦えない者なら、この状況下で精神的に安定しているとは考えにくく、悪魔を召喚
できるようになる可能性が高い。また、そういう相手にならカプセルをのませやすい。
(弱え奴が隠れるとしたら、こんな感じの、中途半端な場所の方が好都合だろ)
立地条件のいい場所には人が集まりやすい。誰にも会いたがっていない者ならば、
他の参加者が滞在したがりそうな場所を避けてもおかしくない。
この辺りの市街地は、便利すぎず、かといって不便すぎることもない。
大都会というほどではないものの、それなりに建物があって隠れ場所には困らず、
物資を調達しやすそうだ。しかし、島の端なので逃走経路が限られており、遮蔽物の
乏しい西には逃げにくい。強さか逃げ足に自信がある者なら、ここより南東の市街地に
向かいたがるだろう。この場所ならば、弱者が隠れていても不思議ではない。
『ゲーム』の終盤から殺し合いに参加しようとする者や、休憩しにきた殺人者も、
ひょっとしたら隠れているかもしれないわけだが。
カプセルを口に放り込み、甲斐は喫茶店の扉を開けた。
結局、喫茶店には誰も隠れていなかった。
(面白くねえ)
どうやら、現在A-2の市街地には他の参加者がいないらしい。
甲斐は苛立たしげに舌打ちし、いったんここで小休止することにした。
(もう、いっそのこと……いや、それとも……)
思案しながら甲斐は煙草を取り出し、口にくわえて、店のガスコンロで点火する。
煙が吸い込まれ、吐き出される。
(あー、くそ、体のあちこちが痛え)
喫煙の合間にカプセルを咀嚼する姿は、どうしようもなくジャンキーらしい。
しばらくすると、東の方から盛大な破壊音が聞こえてきた。
破壊音が近づいてこないと確認し、甲斐はそのまま煙草を吸い続けた。
【A-2/喫茶店/1日目・17:55頃】
【甲斐氷太】
[状態]:左肩から出血(銃弾がかすった傷あり)/腹に鈍痛/あちこちに打撲
/肉体的に疲労/カプセルの効果でややハイ/自暴自棄/濡れ鼠
[装備]:カプセル(ポケットに十数錠)/煙草(1/2本・消費中)
[道具]:煙草(残り11本)/カプセル(大量)/支給品一式
[思考]:次に会ったら必ず風見とBBを殺す/とりあえずカプセルが尽きるか
堕落(クラッシュ)するまで、目についた参加者と戦い続ける
[備考]:『物語』を聞いています。悪魔の制限に気づいています。
現在の判断はトリップにより思考力が鈍磨した状態でのものです。
←BACK | 目次へ (詳細版) | NEXT→ |
---|---|---|
第490話 | 第491話 | 第492話 |
第469話 | 甲斐氷太 | 第513話 |