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第460話:犬は静かに悪と語る

作:◆Sf10UnKI5A

 港の一角にある診療所。
 その内部、一階で、黒衣の青年が尊大な少年と不安げな少女を見据えている。
「……で、お前は結局の所何が言いたいんだ?」
 先に口を開いたのは黒衣の青年――ダウゲ・ベルガー。
「先ほどの零崎君も言っていたではないか。仲間になってもらいたいのだよ。
脱出&黒幕打倒同盟の一員としてね」
 答えるのは、恐らくこの島で最も尊大な存在――佐山御言。
「その言葉は――」
 ベルガーは、死体――坂井悠二の横に落ちていた狙撃銃PSG−1を素早く取り上げ、
銃口を佐山へと向けた。
「こういう行動に出る相手に向かっても吐けるのか?」
 しかし佐山は彼の言葉に態度を変えず、ただ微笑み続ける。
「私は相手が何者であれ、このゲームを打破するために協力を求める。
実際、零崎君とは少しばかり命の取り合いをした仲でね。
彼は私に負けたことで、気が向く間は協力すると約束してくれた。
君も同じ様な過程をお望みかね? ……ふむ、そう言えば名を聞いていなかったな」
「自分が世界で一番だと思ってるようなガキに教える名は持っていない。
それに、俺は零崎とやらとは違いこうすることも出来る」
 つい、とベルガーは銃口をわずかにずらした。
 それが狙っているのは、佐山の斜め後ろにいる少女――宮下藤花。
 藤花は驚きと恐怖が混じった色を顔に浮かべるが、佐山は依然平然としている。
「ふむ……。残念だ、まことに残念だよ黒衣の君。
その銃はちょっとした戯れにそこに置いておいた物でね。弾丸は全て抜き取ってある」
 その言葉を聞いて表情が変わったのは、藤花一人だけだった。
「ちょっとしたテストだよ。私に敵として向かい合う者が、どのような行動を取るのかを見るためのね。
無論誰も来なければ回収するつもりだったのだが、この島では些細な戯れすらすぐに意味あるものとなる。
――“必然”の存在を疑いたくはならないかね?」

 数秒の沈黙の後、ベルガーはPSG−1を降ろした。
「なるほど、お前の言いたいことが少しは理解出来た。
だが今は協調する気は無い。少なくとも、あの零崎人識をどうにかするまではな」
「ふむ、同行者のために仇討ちの手伝いかね。私としては賛成しかねる思考だが」
「ならば尋ねよう佐山御言。君は、この島に一人連れて来られたのか?」
 ほんのわずかな間が生じた。
「……質問をされても、今はまだ答えることが出来ない。
いくら未来の仲間候補とはいえ、確定するまでこちらの事情を話す義理は無いのでね」
「そうか。俺は今更探られても痛くないから言ってやろう。
友人が一人こっちに連れて来られていたが、あっさり殺された」
 ベルガーは一度言葉を切り、前方の二人の顔を窺う。
「わりと早い時間に再会出来たんだが、その時には既に事切れていた。
刃物で首を裂かれていたよ。辺りには血が飛び散っていた」
「いたいけな女子高生を無意味に怯えさせるのは、男子の行動としてどうかと思うがね」
「寝惚けた言葉を吐くなよ佐山御言。
この坂井悠二の死体は、あいつの数倍は不幸な目に合わされている。
最も、死んでしまえばどんな目に合っていようと同じことだがな」
 悠二の死体の傍らに立ったベルガーは、刀と銃を横に置きマントを脱いだ。
「君の知り合いの名が名簿にあるなら、早くそいつらを探してやるといい。
もし君が一人でこの島に連れて来られ、それでいて自ら定めた役目を果たそうと言うなら、それはそれで立派なことだ。
だが、今の俺には君の立場など関係無い。年長者として忠告と警告を与えるだけだ」
 ベルガーは佐山達の方には目を向けず、分割された悠二の亡骸をマントに包んでいる。

「まずは忠告だ。
俺はこの島で知り合った人間で、俺以上に君の言葉が、君の論が通じない奴を二人は挙げられる。
そいつらは零崎のような人間ではない。お前と同じ様に自分の信念を持っている人間だ。
そういう人間がまだ山ほどいる可能性だってある。
どうやってこの島の人間全員を仲間にするのか、よく考えておけ」
 ベルガーの言葉に対し、二人は口を挟まない。
 ベルガーは死体が包まれたマントを抱え、刀を鞘に納めた。
「そして警告だ。
自らの力量をどう捉えるのかは、各々自らが勝手に考えればいい。
だが、他を顧みずに力を振るえばいずれ何かを傷つけることになる。
この狭い島の中だろうと、そのことに例外は無い。
二度は言わない、忘れるな」


 ――“いずれ何かを傷つける”?

 ――そんなこと、言われずとも理解している。

 ――この島に来てから脇目も振らず新庄君を探せば良かったのか?

 ――それこそ今更だろう? 佐山御言。

 ――既に、私は……

「失ってしまったのだから……」


 佐山の静かな呟きは、他人の耳には入らなかった。
 わずかに伏せていた目を戻すと、ベルガーは包みを抱え、片手にPSG−1を持って出て行こうとしていた。
「あの、行かせていいんですか?」
 と尋ねる宮下藤花に、佐山は、
「彼は零崎君とは違う。力でねじ伏せたところで従う人間ではなかろう。
少なくとも、彼に同行していた少女をどうにかしないことにはね。
銃のことなら、私達には必要以上の武力は必要無い。それだけのことだ」
 そこまで言った所で、どこからかバイクの排気音が響いてきた。
 ベルガーは一瞬だけ顔をしかめ、足早に診療所から出て行く。
「……どうやら零崎君は上手く逃げたようだね。
あの少女が彼を待たずに逃げ出す道理は無い」
「そうですよね。……え、でもそれじゃあ、私達は……?」
 戸惑いつつ佐山を見る藤花。
 佐山は少し考え、窓の外を見つつ、
「……彼らを尾行しよう。幸い雨は止み、日は落ちかけ霧まで出てきている。
見失う可能性もあるが、それ以上に向こうがこちらに気づきにくい。
とはいえ、あの黒衣の彼が警戒しないはずは無いがね。
しかし先ほどの口ぶりでは、どこかにいる別の仲間に合流しようとするかもしれない。
尾行するメリットは充分にあるよ」
 そう言うと佐山はペンを取り出し、零崎に宛てるメモを書き始めた。


【C-7/診療所/1日目・17:45頃】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:平常。少し焦っている。
[装備]:鈍ら刀、携帯電話、黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式(パン6食分・水2000ml))
    PSG−1(残弾ゼロ)、マントに包んだ坂井悠二の死体
[思考]:シャナを探して合流、その後マンションへ戻る。
    まさかエルメスを盗られたのか……?
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
 ※携帯電話はリナから預かりました


『不気味な悪役』
【佐山御言】
[状態]:左手ナイフ貫通(神経は傷ついてない。処置済み)。服がぼろぼろ。
[装備]:G-Sp2、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水2000ml) 、
    PSG−1の弾丸(数量不明)、地下水脈の地図
[思考]:参加者すべてを団結し、この場から脱出する。
    ベルガーを尾行。
[備考]:親族の話に加え、新庄の話でも狭心症が起こる

【宮下藤花】
[状態]:足に切り傷(処置済み)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml) ブギーポップの衣装
[思考]:不明。(佐山についていく)

 ※診療所の一階に、零崎に宛てたメモがあります。

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