作:◆Sf10UnKI5A
前衛芸術の極致ムンク小屋では、リナ、ダナティア、テッサの三人が話し合いをしていた。
ベルガーの申し出をどうするかという相談なのだが、
シャナだけは、ベルガーが寝るのを見て同じ様にすぐ眠ってしまったのだ。
疲れが取れていないのだろうが、先ほどの一瞬の攻防の結果に拗ねただけかもしれない。
ともあれ、会議は続く。
「疑うようなことは言ったけど、やっぱりあたしはベルガーに賛成。
いずれは動かないといけないんだし、携帯電話の持ち主を見に行ってもらうだけでも十分意味があるわ」
「あたくしは反対ですわ。
エルメスに乗ったとしても単独行動は危険だし、せめて次の放送を待ってから動くべきね」
「でも、シャナさんや皆さんの知り合いのことを考えたら、少しでも早い方が……」
「あら。貴方は今まで自分を守っていたナイトをあえて危地へ送り出すのかしら?」
「随分卑怯な言い方をするんですね……ダナティアさん。
……ベルガーさんは、私と一緒にいたら、私を守るために死ぬと思います。
だから、一人の方がいいと思うんです」
「は? 何よそれ。ノロケ?」
リナの言葉に、テッサはわずかに笑みを浮かべる。
「私とベルガーさんは、まだ会ってから半日も経っていません。
ただ、解るんです。『そういう人達』に沢山会ってきましたから。
私は弱い人間ですし、生き残るためには誰かに守られないといけません。
でも嫌なんです。こんな状況なんだから、自分の命を一番大切にして欲しいんです」
「……あたくし達になら守られてもいいというのは、最悪の時に自分のことを見捨ててくれると思ったから?」
「少なくとも、シャナさん、それにリナさんはそうじゃないですか?」
「……喧嘩売ってんの?」
「違います。一人で生き残る力を持っている人が、
一人じゃ生き残れない私を守るために死ぬのは間違ってる。そう言ってるんです。
勿論、守ってくださるというのは有り難いと思っています」
「……あんた、随っ分ネガティブ思考する子ねー。普段守られっぱなしの反動?」
「そうかもしれませんね」
――現状、ウィスパードの力は何の役にも立ちませんから……。
テッサは口には出さず、心の中でそう付け足した。
要するに、自分とベルガーが共にいるというのは、
役に立つか解らない物しか作れない科学者の護衛に優秀な兵士を付けるようなものだ。
それは兵士の飼い殺しでしかない。
はあ、とダナティアが嘆息するのが聞こえた。
「言いたいことは解ったけど、何も今行かせる必要は無いのではなくて?
さっきも言った通り、次の放送まで待ってからでも――」
ピルルルルルルル…… ピピルピルピルピピル……
ダナティアの声を遮ったのは、携帯電話の着信音だった。
「何、また電話?」
「違いますね、メールです。
……要するに、声だけじゃなくて文字も送りあえるるんですよ。読みますね?
『こちらはセルティだ。戦闘があり保胤が怪我をした――――』」
そのメールの内容は、悪い知らせとしか言い様がなかった。
「今は安全な場所にいるみたいですね。でも……」
「セルティってのがどれだけ腕が立っても、怪我人抱えてちゃ話にならないわ。
今敵に襲われたらどうしようもないわね」
「それもそうですが、電話と違ってメールは相手を声で判断出来ません。ですから……」
「……そういうことね」
罠の可能性が更に高くなった、ということになる。しかし、
「罠だとしたら、わざわざこのフォルティッシモって奴の情報を送ってくると思う?」
「普通はそんな余計なことしないわね。とは言え、頭から信用するのも危険そのもの」
「……ちょっと待ってくださいね」
テッサは手際良く携帯を操作し、返信メールを送った。
『今はどこにいるんですか?』
すぐにメールが帰ってきた。
『A−1にいる』
「「「…………」」」
三人は、顔を見合わせ沈黙した。
島の隅という、襲われて逃げ込むにしては不自然すぎる場所。
地図を見る限りでは、特に身を隠しやすいエリアというわけでもなさそうだ。
「……判断保留ね」
最初に口を開いたのは、ダナティアだった。
「はっきり助けを求めているわけではない。ならば、無理にこちらから行く必要は無いわ。
向こうからまた連絡してくるか、それか次の放送までは――」
「案外薄情だな、アンタ」
聞こえてきたのは男の声。そして、この小屋にいる男は一人だけ(無生物を除く)。
「いつから起きてたんですか?」
「いや、さっきの電話の音で目ぇ覚めてな。話まとまったか?」
「決まってないわよ。ダナティアが折れる気無いってさ」
「嬢ちゃんは?」
「シャナ? すぐ寝ちゃったわよ。ま、怪我人だし」
そうか、と言って、ベルガーはサングラスを掛け直した。
そして壁に立てかけてあった贄殿遮那を掴む。
「テレサ。電話の相手に『一人そっちに向かう』って伝えておいてくれ」
「待ちなさい!」
用だけ言いつけ出て行こうとするベルガーを、ダナティアが呼び止めた。
「……生き残るため、この島から脱出するためには、団結しないとどうしようもないわ。
バラバラに動いていては、主催者側に対抗しようにも勝ち目が無い」
「ダナティア。ダナティア・アリール・アンクルージュ。君の考えは正しいが、一つ大切なことが抜けているな」
その物言いに、ダナティアの眉がわずかに上がる。
「それは……何?」
「形だけではなく、心から団結しなければならないということだ」
「もっと単純に言えば、信頼関係を築こう、ということだな。
ダナティア、君は、シャナが君のことをどう思っていると考える?」
「……良くは思ってないでしょうね。
友人を助けに行きたくても、自分の守護者は『止めろ』と言う。
――それも、あたくしを通して」
「風邪の友達を見舞おうとしたら、『病気が移ります!』って親に止められたようなものね。
そしたら、その子供は誰を恨むのか」
リナが要約した。ベルガーは頷いて、
「だから、代わりに優しいお兄ちゃんが様子を見てきてやるんだよ。それで一件落着だ」
更に別の声が加わる。
「ミイラ彫りが魅入られないといいね」
しかし全員が無視した。
「……このあたくしに、ご機嫌取りに媚びへつらえとでも?」
「君は君のすべきことをすればいいさ。俺には駆けずり回るのが似合ってるってだけだ」
「……ええ、ええ! 解りましたとも! そうするのが一番良いと言うなら、勝手にしなさい!」
「ダナティアさん!? お、落ち着いて……」
突然大声を上げたダナティアを、テッサが慌ててなだめようとする。
「ただし、十二時の放送までに帰ってらっしゃい! エルメスに乗れば簡単でしょう!?」
「使わせてもらえるのか。そいつは助かった」
「運転は得意なのかい?」
エルメスが尋ねる。
「散々乗り回してたからな。多少荒いかもしれないが、大丈夫だろ?」
「うん、キノも結構乱暴だからね」
「あの、ベルガーさん……」
バイクと話すベルガーに、テッサが声をかけた。
「何だ?」
「その、勿論、相良さんやかなめさんを見つけて欲しいんですけど、
……見つからなかったとしても、絶対に帰ってきてください」
「安心しろ。こう見えても俺は、世界で二番目に運が良いんだ」
「どうせなら一番って言った方が格好つくわよ」
「俺は謙虚なんでな」
リナとベルガーの遣り取りに、テッサは思わず笑ってしまった。
「それで、どう行くつもりなの?」
「時間は十分ある。地図に載ってる道を通って、大回りにA−1まで行くつもりだ。
無事に合流出来たら連絡しよう」
言いつつ、ベルガーはエルメスのスタンドを外し、重い車体を押し始める。
「それじゃ行ってくる。シャナが起きたら、刀は十二時まで借りておくと伝えといてくれ」
「行ってきまーす」
一人と一台がムンクを出て行く。
暫く後、エンジン音が響いたが、それもすぐに遠ざかっていった。
【G−5/南西/1日目・10:05】
『野犬:単車装備型』
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス(乗車中) 贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:道なりにA−1へ移動。慶滋保胤、セルティと合流。
テッサ、リナ、シャナ、ダナティアの知人捜し。
・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋/1日目・10:05】
『目指せ建国チーム』
【リナ・インバース】
[状態]:少し疲労。心に強い怨念。
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。
【シャナ】
[状態]:かなりの疲労。腹部に内出血(治癒中) 睡眠中。
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:睡眠中。
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。
【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。
[装備]:エルメス(キノの旅)
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:群を作りそれを護る。シャナ、テレサの護衛。
[備考]:ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。
【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:少し疲労
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイパック×2(支給品一式) 携帯電話
[思考]:宗介、かなめが心配。
[チーム備考]:『紙の利用は計画的に』の依頼で平和島静雄を捜索。
また、島津由乃を見かけたら協力する。定期的に保胤達と連絡を取る。
2005/06/13 改行調整、誤字修正
←BACK | 目次へ (詳細版) | NEXT→ |
---|---|---|
第303話 | 第304話 | 第305話 |
第278話 | リナ | 第319話 |
第278話 | テッサ | 第319話 |
第278話 | ベルガー | 第308話 |
第278話 | シャナ | 第370話 |
第278話 | ダナティア | 第319話 |