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第308話:ベルの旅

作:◆J0mAROIq3E

 島の外周を回る道を、一台のモトラドが走っていく。
 それにまたがるのは気楽にあくびをする黒衣の男。ベルガーだ。
「しかしこのエンジン音はどうにかならんのかね。謙虚さの欠片もないぞ」
「そりゃ悪いね。けど生憎と三連鎖は搭載してないんだよ」
「サイレンサー」
「そうそれ」
 お互い黙り、静かな昼の空気をエンジンが破壊していく。
 そのやかましい沈黙を再び破ったのはやはりベルガーだった。
「キミというのも何だが、キミは中に人が入ってんじゃないだろうなエルメス」
「ん? そちらさん、モトラドが無口な国の出身?」
「無口も何も機械が自分から喋るかよ。喋っても『運命とは猫娘をひん剥くものなり』とかそういう堅苦しい定型文だけだ」
「あれま。そりゃまたつまんない国だね。機械だってそんな押さえつけられると怒るよ」
「かもな。テロ起こして貧乳娘さらって北極星目がけて特攻空中分解した航空戦艦が出てくるぐらいだし」
「ははぁ、そりゃまた独創的なお方だね。意外と面白いのかも」
「やめとけよ。単車はろくでもない燃料注がれて一晩で400マイル走らされるのがオチだ」
「世の中ナメた距離だね」
「まったくだ」
 嘆息し、速度を上げる。
 太陽――本当に太陽かどうかはともかく、光源は天球上を真上へと上りつつある。

「……っと、止まるぞ」
「あいよ」
 海岸沿いの道、D-8でベルガーは一時停止した。
 道路標識があったわけではないが、その億倍タチの悪いものが道に転がっていた。
「蝶ネクタイ?」
「焼死体。無理が出てきたぞヘルメス」
 下りて、二つの死体を見下ろす。
 片方は荼毘に伏されたようにこんがりと焼かれ、性別も分からない。
 もう片方は頭部から大量の血を漏らす少女のものだった。
 たかる蝿を適当に払い、少女の方は射殺されたことを確認する。
「随分時間が経ってるみたいだな。……多分、六時の放送よりは前か。探し人じゃないな」
 そのことに安堵し、安堵に少々の罪悪感を抱く。
 見るからに鍛えられてない少女。
 彼女はこのゲームに放り出され、何も出来ずに殺されていったのだろうか。
「慣れてるね」
「戦争明けでね。死体には慣れがある」
「どうしてぼくの乗り手はこう殺伐としてるのかなぁ」
「ほっとけ」
 タンクを一度蹴飛ばした。

 次いでベルガーは傍に転がるデイパックに目を落とした。開けられている。
 倒れたときに落ちたのだろうが、その割に中身散乱していないということは。
「殺した奴が支給品を持っていった。まぁ当然か」
 念のため中を見ると、食料はまだいくつか残っていた。
 いつ補給できるか分からないので、二つほど自分のデイパックに移してエルメスにまたがった。
「墓場ドロボー」
「緊急の事態だ」
「死者に一言ぐらい弔いの言葉を捧げるもんじゃないの?」
「身内に神がいると信仰もいい加減になるってなもんだ」
「さいですか」
 うろ覚えの弔詞を呟いたことが悟られず、内心安堵の息を付くベルガーだった。

【D-8/平原/1日目・10:35】

【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:心身ともに平常
[装備]:エルメス(乗車中) 贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:道なりにA−1へ移動。慶滋保胤、セルティと合流。
    テッサ、リナ、シャナ、ダナティアの知人捜し。
 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。

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