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第267話:Are You Enemy

作:◆xSp2cIn2/A

 一人の少年が、薄暗い洞窟の中、岩に持たれて真っ黒な天井を見上げていた。
そして天井を見上げるその目は、どこか虚ろだった。
 よく見ると、彼は少年ではなく、精悍な顔立ちの少女だと分かる。
「これで、これでいいんですよね……師匠」
 少女がポツリと呟く。その時、
「それはどうかな?」
唐突に彼女の目の前から声が聞こえてきた。女のようでも、男のようでもある
不思議な声だった。少女がゆっくりと顔を下げる。
「それはどうかな?君は本当にそれでいいと思っているのかな?」
 そう言うそいつは黒帽子をかぶっていて、筒のようなシルエットをしていた。
「誰……ですか?……」
 少女が黒帽子を見て、警戒するように訊いた。その手はすでに、腰のナイフにのびている。
「殺そうとしている相手の名前なんかどうだっていいだろう」
 黒帽子の言葉に、少女はナイフを握っていた手をこわばらせた。
カランカランと、ナイフが硬い地面を転がる音が洞窟内に響く。
「しかし、君のような奴がいると思うと彼女が心配だな。気絶させてきたのは失敗だったか?」
――カチャリ
 銃を構える音に、遠くを見ていた黒帽子は、視線を少女に戻す。
黒光りする拳銃の銃口が、黒帽子を完全に捕らえていた。
 それを見る黒帽子に、全く同様の色はない。
そして、少女の方にも、まったく迷いの色は無かった。

「ぱぁん」
 一ミリのずれも無く、黒帽子の心臓を捕らえていた銃口から、鉛の弾丸が吐き出される。
 しかし、黒帽子の行動は早かった。少女が引き金を引く前に横に動いて、弾丸が黒帽子の元いた
場所を通り過ぎる頃には、完全に射線上からずれていた。
 そして、放たれた弾丸が反対側の壁を削る頃には、もう勝負が付いていた。
黒帽子の持っていた包丁が、少女の首筋に添えられていたからだ。
「ここの入り口があった家から頂戴してきたんだ。いや、何も持っていなかったから助かったよ」
少女はもう動かなかった。動けば、黒帽子の包丁が彼女の頚動脈を掻っ切るのは明確だったからだ。
「本当は、こんなことはしたくないんだがね。どうやら僕の存在に制限がかかっているみたいで、君が本当に世界の敵かどうか
 確信が持てないんだ。いやはや、本当に困った」
 そう言って、黒帽子は困っているような、楽しんでいるような、左右非対称の表情を浮かべた。
「さて、もう一度訊こう。君は本当に、それでいいと思っているのかい?」
「……ボクは――」
 少女はゆっくりと口を開いた。
「これでいいと思っています。師匠は、ボクのために死んだ……だからボクは、この島にいる人達全員を敵に回してでも
 絶対に生き残ります。だから――」
「だから?」
「だからここで、貴方に殺されるわけには行かない」

 それは寂しそうな、しかし決意に満ちた声だった。
その少女を、黒帽子は真剣な目で見つめている。
 どれくらいその時間が続いただろうか……唐突に、黒帽子が口を開いた。
「どうやら、君は世界の敵ではないようだ。君は相手の意思と自分の意思を取り違えているが、しかし真っ直ぐだ。
 世界の敵のように歪んでいない。……失礼したね、どうやら僕の間違いのようだ」
 黒帽子はすまなさそうな、哀れんでいるような、左右非対称の表情を浮かべると、首筋に突きつけていた包丁を離した。
「それではさようなら、キノくん。お気をつけて」
 黒帽子はそれだけ言うと、キノが目を離した一瞬のうちに、初めからそこに居なかったかのように消えうせた。
 キノと呼ばれた少女は、ナイフを拾って腰に戻すと立ち上がる。
(君は相手の意思と自分の意思を取り違えている)
 キノは目を閉じて、さっきの黒帽子が言った言葉を反芻する。
「あ……そういえば、なんでさっきの人は、ボクの名前を知っていたんだろう……」
 キノはまあいいか、と言うと、奥へと続く通路を歩き出した。


【C3C4D3D4の地下に広がる地底湖・1日目・11:00】
【残り88人】

【キノ】
[状態]:通常。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り9発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【宮下籐花(ブギーポップ)】
 [状態]:健康
 [装備]:ブギーポップの衣装、包丁。
 [道具]:支給品一式。
 [思考]:世界の敵を探す。

2005/04/30 修正スレ59-60

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