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第248話:舞い降りる翼

作:◆/91wkRNFvY

"蒼い殺戮者"は暗闇の中を進む。
 
 先程の石碑の下から現れた扉の前で逡巡し、結果進むことにした。
 自らリスクを負う必要も無いが、この全てが不明瞭な世界では少しでも情報が欲しい。
 石碑から察するに、この地下には何か『原因』のような存在があってもおかしくはない。
 
 数日間は問題ないが、残りの燃料の事もある。
 何が起こるか判らない以上、極力無駄遣いは避けなければならない。
 そう判断した"蒼い殺戮者"は、可能な限り出力を落とし洞窟内を進んでいた。
 マッピングは常に行っている。これならば暗闇でも、戻るだけならば相当な速度を出すことも出来る。
 自分では太刀打ち出来ない相手に出くわすことも考えられるのだ。
 
 以前は、逃走の手段など考えた事は無かった。
 逃げる必要も無く、自分が最強だったからだ。いや、最強だと思い込んでいた。
 自分が負けるはずが無いと、負ける事などあるはずが無いと。
 だが、出会ってしまった。負けてしまった。
 あの砂漠で、あの少女に、蒼い瞳の刀使いに。

 ━━━━火乃香━━━━

 たった一人で数十機のザ・サードの自動歩兵と死闘を繰り広げた。
 最高水準の遮蔽装置を装備した自分の、超々至近距離からの音速を遥かに超える狙撃をも切り裂いた。
 親友の仇敵のはずの自分と肩を並べて戦場を歩いた。
 その際、一時的に役に立たなくなってしまった自分を彼女は斬る事も出来た。
 殺したいと思っているはずの、自分が持ち込んだ厄介ごとを引き受けてくれた。
 惑星を統治するもの「ザ・サード」と刃を交えてまで、自分の片翼を守ってくれた。

 以前は、何が彼女をそうさせるのかは全く理解できなかった。
 だが、今なら、自分の理由を見つけた今なら。少しは理解できる。
 自分の理由、この想いが彼女をあそこまで強くさせるのか。


 不意に視界が開ける。長い通路を抜け、洞窟の中の巨大な空間に出たようだ。
 地底湖らしく、巨大な鍾乳石や水溜りが見受けられた。今出てきた通路以外にも、いくつかの通路がある。
 周囲を確認する、動体反応な無い。
 
 いや。
 
 暗視モードで遠方を確認する。
 ジャケットを着た少年が、ショートカットの女性と銃撃戦を繰り広げていた。
 銃撃戦というより、少年が女性を追い回しているようにも見える。

 少年は、このゲームに乗ってしまったのだろうか。
 こんな時、浄眼機ならば何と命令するだろうか。
 あの刀使いならどうするだろうか、自分の片翼ならば何と言うだろうか。
 様々な疑問が生まれる。
 
"蒼い殺戮者"は、隠密接敵モードで静かに近寄っていく。
 物陰に隠れ様子を伺う、明らかに女性が劣勢だ。
 火乃香やしずくに出会う前の"蒼い殺戮者"であれば、この戦いの勝者を間違いなく強襲していた。

『殺さずに生きる方法があるのなら、それを見つけたいと思った』
 
 いつか、浄眼機に語った言葉だ。
 迷って、迷って、迷い抜いて、それで出した答えならば、あながち間違ってはいないのだろう。
 心はもう、決まっていた。
 
 モード選択。ミリタリー、MAX。
 
 そして"蒼い殺戮者"は少年と女性へ向かって飛び出した。


 ショットガンを2発ほど撃ったが、上手いこと岩陰に隠れられてしまい、無駄弾になってしまった。
 この妙な形のパースエイダーは、見たところ完全な整備がされているとは言えない。
 ここぞというときに暴発されても困るので、出来るだけショットガンで仕留めたい。

 女も応射してくるものの、凄腕のパースエイダー使いでも、
 特に明るいわけでもないここで、走ってるキノに当てるのは難しいだろう。

 付かず離れずのを維持しながら、時折落ちている石を投げつけ、飛び込むタイミングを計る。
 今度は数個同時に女に向かって投げつける。
 命中、当たり所が悪かったのか、女は少しバランスを崩す。
 それで十分だった、キノは一気に開いていた距離を詰め、ショットガンをぶっ放した。
 
 読まれていたのか、近距離過ぎたのか、弾が開ける前にギリギリ避けられてしまう。
 だが、避けたての不安定な状態。それを待っていた。
 ショットガンを投げ捨て、瞬時に折りたたみナイフに持ち構え、女の首めがけ突き出す。  

「━━━━ッ!?」
 
 女の顔が驚愕に歪む。
 だが、ナイフは女の首に刺さることは無く、キノは横っ飛び、さらに距離をとって岩陰に隠れた。

 刹那、轟音と共に舞い降りてきたのは"蒼い殺戮者"だった。

 風見は唖然としていた、殺されると思った間際、自分と少年の間に割って入った蒼い機体。
 人では無い、機竜でも無さそうだ。

「撤退する、走れるか?」
 電子音がかった、しかし明瞭な声。こちらに背を向け、少年が飛びのいた方を警戒している。
「え、えぇ、あなたは・・・」
 風見には応えず、蒼い機体は足元のショットガンを拾い、遠くへ投げ捨てる。
「お前に危害を加えるつもりは無い、撤退するが、走れるか?」 
「走れるわ、でも何処へ?」

 敵では無いようだ。気持ちを切り替え、目の前の蒼い機体に返答する。
「俺が入ってきた入り口がある、そこまで後退する。少し離れろ、お前を回収して一気に離脱する」

 ここで問答しても仕方ない、殺したいなら放っておけば良かったわけだから。

「・・・・・・解った、任せるわ」
 逡巡の後、少年が隠れた方向とは逆の方向へ走る。

 瞬間、少年が物陰から拳銃を持って飛び出し、撃ち込む。
 正確無比な射撃が装甲を叩くが、ザ・サードの誇る積層装甲を撃ち抜けるほどではない。
"蒼い殺戮者"は回避行動をとりつつ接近、木刀で足元をすくう。
きわどい所で"蒼い殺戮者"の斬撃から逃れた少年は、発砲しながら"蒼い殺戮者"と距離をとり、再び岩陰に隠れた。

 しばしの静寂。遠くへと女性が走る音だけが空間に響く。それも暫くすると消えてゆく。
 少年が岩陰にいることはセンサーで確認済み、感度が悪くなったとは言え、これだけの至近距離ならばはっきり判る。
 
 女性が撤退する時間を稼いだ後、"蒼い殺戮者"も後退。フェイクの為に女性の向かった方向とは別の方向へと飛び去る。
 薄暗く足場も不安定な地底湖ではそこまでの距離を稼げるわけも無く、
 一度は違う方向へ飛んだものの、たやすく女性に追いついた。

「つかまれ、離脱する」
 手を伸ばすが、返ってきたのはやや怪訝な目と、
「あなたを信用して良い訳?」
 という言葉だった。
「ここで死ぬつもりは無い、自分からこの状況に乗るつもりも無い。この空間から抜け出したいと思っている。
 だが、ここから脱出する為には捜さねばならない者がいる、お前にはいないのか?」
「確かに・・・ね。私もバカとエロと友人と老人を捜してるの。これは協力しようって事かしら?」
「そうだ、だが今ここで話している時間は無い、この地底湖から離脱する方が先だ」
「解ったわ、とりあえず外に出ましょ、詳しい話はそこで」
 今度は女性から手を伸ばす。 
 手を取った"蒼い殺戮者"は、なるべく騒音を立てないように浮上。巡航モードで来た道を戻る。
「そういえば、あなたの名前を聞いて無かったわね、私は風見、風見千里よ」
 見上げる風見を見ずに、言った。
「"蒼い殺戮者"(ブルー・ブレイカー)と、呼べ」


【残り90人】
【C3C4D3D4の地下に広がる地底湖・1日目・10:25】

【蒼い殺戮者(ブルー・ブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙。
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。

【風見千里】
[状態]:精神的ダメージ、やや回復。
[装備]:グロック19(残り8発・空マガジンは投げ捨てた)、頑丈な腕時計。
[道具]:2人分の支給品、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー。
[思考]:状況を整理したい、仲間と合流。

【BBと風見はD4の石碑へ向かう】

【キノ】
[状態]:通常。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り10発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。
   :とりあえずショットガンの回収。

【地底湖にはC3D4の出口以外にも、他にいくつかの通路があります】

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