remove
powerd by nog twitter

第125話:傑作シリーズ開幕?

作:◆cCdWxdhReU

「萩原子荻……」
僕はショックを隠せなく、その名を呟いた。
死者の蘇生。
あの男が言っていたのは事実だったのか。
それとも……
「あん? 萩原?」
僕の呟きを聞き零崎が声をあげる。
「知ってるのか?」
「いやまぁ一度やりあったからな。あれだろう『策士』とかいう卑怯臭い手を使う女。結局あのときは殺せなかった」
一度やりあった? こいつ子荻ちゃんと戦ったことまであるのか?
あの男が最高と言える評価もしていたわけだし、底が知れない。
「ああ、彼女は僕の前で死んだ。だがこの名簿に載っているんだ」
「死んだねぇ。まぁここなら何があってもおかしくないんじゃねーか。なぁ凪」
零崎はそう言い、凪ちゃんに同意を求める。
「そうだな。最初の剣士然り、呪印しかり、それについさっきのあのこともな」
「あのこと?」
「そう、さっきって言っていいくらい前な」
「ちょうどいい。説明してやれ零崎」
「ああ」
そう言って零崎は今までの経緯、凪ちゃんと会ってからのことを話し始めた。

さーてやーっと俺の出番ってわけだぜ。
凪やら『欠陥製品』にばっかりおいしいところ持ってかれたくねーかんな。
え? いったいなんのことだって?
気にすんな世の中にゃいろいろ事情があんだよ。まったく傑作だよな。
これからは戯言遣いのお話じゃなく、人間失格のお話をしようじゃないか。
時を遡ること約2時間ってとこか
俺と凪が同盟、同盟ねえ、普段は使いやしない言葉をこんな状況で吐けるなんて皮肉なもんだ。
まぁとにかく同盟を組んですぐの時間に遡る。

「しゃーねー、おまえの提案に乗ってやらぁ」
かははと笑いながら俺は言った。
あの『欠陥製品』が今の俺を見たらどんなことを言うんだろうか。
笑うか? 笑うだろうなあの鏡面は。
「で、おまえの名は? 人の名前を聞いたんなら自分も名乗るのが礼儀ってもんだ」
俺は黒髪の女に尋ねる。
「俺の名は霧間凪、よろしく頼もうか。零崎」
いきなり呼び捨てかよ。まさかこの殺人鬼が女子高生に呼び捨てされるとはな、
さっきの凪の杖にしてもこのゲームにしても、まったく体験したことないことばかり体験させてもらえるぜ。ほんと傑作だよ。
「なぁ、凪、あんたその格好からすると高校生だろ? 一応俺の方が年上だと思うんだが」
ささやかながらの抵抗を俺は講じてみる。
「あぁ高校生だ。別にいいだろ。まさか零崎さんなんて呼ばれたいのか?」
「いやそれは流石に嫌だが――」
瞬間強烈な破裂音が俺の鼓膜を振動させた。
銃の音、日頃聞き慣れていた。俺にとっての日常、普通の人間にとっては非日常の音が轟いた。
「!?」
音に反応して俺と凪は警戒する。
「近いな。かなり近くで誰かが銃を撃ったのか?」
「へっ、どうやらそうらしい。
俺やおまえみてーにゲームに乗らない人間ばっかりってわけじゃねーようだ」
「そんなこと言ってる場合か。外の成り行きを見て、問題なければ行くぞ零崎」

そう言って凪は俺が蹴飛ばして開け放たれたままの扉の横の壁にくっつき、ことの成り行きを探る。
5分。
体感した時間としちゃ、そんくらいの時間を倉庫の中で凪と待つ。
その間にこの辺りを何人かが歩く走る音が聞こえ、その足音はそのまま遠ざかっていった。
「どうやら今出て行けば問題はなさそうだな。どこかに行ってしまったようだし」
そう言って凪は扉をを足早に出ていく。
外はまだ暗く、この闇の中を逃げるのは楽だ。逆に追うのは難しいって意味でもあるんだがな。
まぁ夜目が効く俺ならば、この程度の闇、問題なく殺しきってみせる。
暗くたって人を殺す。明るくたって人を殺す。それが殺人鬼、零崎一賊だ。
「おい待てって凪」
そう言いながら俺も凪の後を追い、駆ける。

凪の後を追い駆ける。ことになったのは数秒で終わっちまった。
説明させてもらうと、俺らがいた倉庫っつーのは家に設けられたガレージのようなもんだ。
家のサブって言った方がいいくらいの大きさで、その民家の庭に家と併設する形で建てられている。
そんでまぁその庭を通って外にでようとしたら、女の子がいたってわけだ。
たぶん中学生って感じだろうか、背が低くて大人の色気ってもんが無いまだまだガキだ。
頭の上に天使のわっかみてーな巫山戯たアクセサリーをつけてやがる。
そいつがなんだと思う? 鉄パイプ持って立って寝てやがった。
まったく立って寝るなんて真似、流石に兄貴でもやんねーぞ。
ホントに器用なガキだなこいつ。
「おい大丈夫かおまえ?」
凪が女の子に声をかける。
「待て凪」
それを俺が止める。
「なんだ零崎、女の子をここに置いておくのは危険だろう」
苛立たげに凪は振り向いた。


「そうじゃねえ」
「何?」
瞬間、凪の頭に向かい鉄パイプの突きが向かう。
「――っ!?」
当たれば頭蓋骨くれーはイっちまう勢いのその突きを、頭で動くんじゃなく既に体に刻まれた感覚で凪は体を捻り避ける。
凪の美しい漆黒の髪が数本鉄パイプに触れる。まさに間一髪ってか。
「ぴぴるぴー」
そのまま袈裟懸けに鉄パイプを振るい、凪を狙うガキ。
杖で受け流し、バックステップして俺の横まで下がり、凪は杖をガキに向かって構える。
「いったい、なんだこの女の子は? 錯乱してるのか。ぴぴなんだ?奇声を発してるし」
「下がれ凪」
俺が手で凪を制す。
「こいつは人間じゃねえ」
「何?」
出刃包丁を右手で弄びながら言う。
「俺を誰だと思ってる? 生粋の殺『人』鬼だぜ。
こちとら数えてらんねーほど人を殺してる。人かそうじゃねーかくれーわかる」
「ぴぴるぴー」
ガキは今度は俺をターゲットにロックオンしたようだ。
やってくれるぜ、この零崎人識に喧嘩を売るってことがどうなるか、教えてやろう。
「へへへ、今まで何人も人外の力を持った人間を殺してきたが、人外はさすがに久しぶりだぜ」
「殺すな、零崎」
「さーてな?」
「おい!」
少女が俺に向かって鉄パイプを振り上げ斬りかかってくる。
相対するように俺は駆け抜ける。


そしてすれ違って数歩進んで俺は止まる。
「ぴぴ……ぴ――」
血を撒き散らして崩れ落ちるガキ。
「ま、こんなもんかね。どうだ? 俺の実力って物を実か、グゲっ」
凪に杖で思い切り殴られた。バットを持つようにしてスイングされた杖は俺の頭に綺麗にヒットする。
さっきの動きといい、この女、やっぱり腕はかなりいい。
とっさに力をずらさなきゃ、怪我してるとこだ。
「零崎ィっ! 殺すなって言ったろうが!」
「つつつ、何すんだよ凪。殺してねー、殺してねーって」
「何?」
「見てみろよ。血が酷いが急所は切ってねー。足の腱と利き腕の腱を斬ってやったんだよ」
そう。
起きてこないのはショックで気絶しているからだろう。
一応これからのことを考えれば、人間じゃない上にゲームに乗ろうとしてるやつを殺すべきだ。
だがまぁ一応凪の頼みだってんだからな。
「譲歩してこれくらいでいいだろ。まぁこれから歩けねーし利き手で物も持てねーが。本人も文句ねーだろ」
文句あると思うが、と呟く凪を無視して獲物の出刃包丁を振るい、血を払う。
「やっぱ殺してバラして並べて揃えて晒さねーとなんかしっくりこねーな」

「俺も人のことは言えないが、おまえ予想外のことしすぎだ。こういうことするならこれからは前もって言えよ」
そう言って凪は怒った顔をして先に行ってしまう。
それを見送りつつ、俺は背後の少女を見下ろす。
さっき斬るときに気付いたが、このわっか、どうやらかなりの切れ味の刃物らしい。
俺のコレクションに勝るとも劣らないだろう。
丁度いい、正直この出刃包丁だけじゃあ心細かったからな。
俺はそっとわっかを親指の腹と残りの4本の指で挟むように掴む。
その両刃のわっかは普通の人間が持てば手を深く切ってしまうだろう。
だが刃物のスペシャリストの俺ならば実戦で使いこなすことも可能だ。
俺はデイパックにそのわっかを納める。

「わりーな。命あるだけましと思ってくれ」
そう言ってわびるように少女に向かい片手をあげる。
「おい零崎! なにしてる。置いていくぞ!」
凪の声が響いた。
「へいへい。お嬢さんは短気なこって」
そうぼやきつつ俺は彼女の後を追う。


「でまぁそのあと森の中を散策してたらおまえに出会ったってわけだ」
目の前の鏡面、『欠陥製品』に今までのことの次第を説明し終えた。
「……………………………………」
「なんだ? 『欠陥製品』? そんな変な顔して。わかっただろ、俺の今までのこと」
鏡面は俺のことを見続けるだけでなにも言わない・
「あのさー零崎」
「? なんだよ」
「その女の子からわっか取ってきたこと、凪ちゃんに言ったかい?」
「いや?」
「君の後ろでさー」
瞬間背後の怒気を感じる。殺気ではない、怒気だ。だが俺には殺気よりもこっちのほうがよっぽど怖い。
「ぜーろーざーきー」
「かはは、なんだよ凪、だってあの場で言ったらまたなんか言うだろ?」
またも杖が俺の頭に飛んできたのは言うまでもない。


【残り96人】
【F−4/森の中/1日目・05:00】
【いーちゃん(082)】
[状態]: 健康 子荻ちゃんの名前を見て錯乱中
[装備]: なし
[道具]: なし
[思考]: お互いに見張りあい体力を回復

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 サバイバルナイフ 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:とりあえず隠れて体力を回復、および状況の変化を待つ

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]:血の付いた出刃包丁 天使の輪
[道具]:デイバッグ(支給品一式)サバイバルナイフ
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。体力を回復

周囲には糸で作られたトラップが張られている。触れると3人が気付くが触れた人間は気付かないしくみ。

【【D-3/住宅街/1日目・02:55】】

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部負傷。ぴぴるモード。道に放置。右手腱、左足腱を斬られている。天使の輪もない。
    また、傷が深いのでぴぴるを使ってもかなりの時間は治ることはない。出血もけっこう。
[装備]: 鉄パイプ
[道具]: 無し
[思考]: 不明。もしかするとぴぴるモード切れたかな?
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

←BACK 目次へ (詳細版) NEXT→
第124話 第125話 第126話
第118話 霧間凪 第134話
第118話 いーちゃん 第134話
第118話 零崎人識 第134話
第065話 ドクロちゃん 第175話