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第126話:Crazy

作:◆wkPb3VBx02

天樹錬を殺害した後、長髪の男ことジェイスはデイバックを漁っていた。
男は水や食料には目もくれず、支給されたアイテムのみを求めていた。
水や食料は必要になってから奪えばいいが、支給されたアイテムは話が別だ。盗られる前に盗る、殺られる前に殺る。早い者勝ちだ。
デイバックから出てきたのは一枚の紙切れ。二つ折りにされたそれを開くと、こう印刷されていた。
『AM3:00にG-8』
三時にG-8に来いということだろうか、と考えていると地面にぶちまけた荷物の中に光る物を見つけた。
拾い上げると、それが何かの鍵であることが分かった。
「……ククッ」
男は舌の奥で何かを転がすように嗤う。もしかしたら俺は最高についてるかもしれない、と。
鍵をポケットに捻じ込み男は歩き始める。右手に血塗られた剣を下げ、狂喜から来る嗤いを堪えながら。


懐中電灯でマップを照らしながら、長髪の男はG-8を目指して歩き続ける。
今いるのがG-7辺りだなと思案しつつも、唇の端が歪むのを止められない。
先程、咽喉を裂かれて絶命した少女(021 ティファナ)の死体を見つけた時、男は確信した。
自分以外にもこのゲームに乗った奴がいる、と。
大抵そういう奴は自分の腕に自身がある奴だ。臆病者にはその資格が無いのだから。
そして俺は、その臆病者どもを狩ってやろう。死人はただ腐りながら臆病者を嘲笑ってやる。屍を踏み砕き、血を浴び、命乞いをする奴の首を嗤いながら刎ねてやる。
そのためには必要な者がある。もし、もし俺が目指す先に期待通りに物があるとすれば、


(俺はこのゲームで生き残っちまうかもしれない)
また自嘲する。死人が生き残るとは傑作だ。死に場所は裏切り者には用意されてないのかもしれない。
男は気付いていなかった。彼を後ろから、こっそりと尾行している者がいることに。また、尾行している者も気付いていなかった。自分が尾行している相手が、どれほど狂気と危険に満ちているのか。
男は足を止め、前方を見て嬉しそうに口の両端を吊り上げてぶるると震えた。
「クククッ……」
男は唇の両端が裂けてしまったような禍々しい笑みを浮かべながら前に進み、感嘆の溜息を吐く。
彼の目線を釘付けにする物が、目の前の草原にぽつりと置かれていた。
それは白く、それは大きく、それは屈強で、力強い。
「クックックッ……クハッ」
哄笑は堰を切ったかのように口から溢れ出し、大津波の如く空間を満たしていった。
男の前にそれが停まっている。男はそれが自らに語り掛けてくるような錯覚に陥った。
―――思 い っ き り ト バ し て く れ
「ああ、いいぜ」
―――思 い っ き り 使 っ て く れ
「ああ、勿論だ」
―――思 い っ き り 、 楽 し ん で く れ
一拍の間、深呼吸の間を置いて、
「当然だ」
と男は答えた。

男の眼前にある物、それは降り積もったばかりの新雪のような色を持つ一台のトラックだった。

(G-7/1日目/3:12)
【残り人数】96人

【ジェイス】
【状態】身体に問題は無いが精神は錯乱気味。
【道具】断罪者ヨルガ、トラック
【装備】荷物一式
【思考】見付け次第殺害する

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