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第063話:Hound Dog

作:◆jB1onXN0Ak

「ここでひとまず一夜を明かそう、すべては明日だ」
クルツの言葉にうなずくパイフウ、彼らの目の前には巨大な城があった。
城の門は開け放たれており、中には人の気配はない。
もっともこれだけ広いのだ、出入り口は他にもあるに違いない。
適当な一室を見繕いそこに腰を落ち着ける2人、さてと…そこで扉をノックする音。
2人は顔を見合わせ、アイコンタクトを取るとすばやく部屋の両サイドに陣取り、相手が部屋に入るのを待つ。
「そろそろ来る頃だと思ってたよ」
その相手が部屋に入ってきた瞬間、パイフウは叫ばずにはいられなかった。
「ディートリッヒ!!」
「へぇ、名前覚えててくれたんだ」
軍服姿の美青年はにっこりと天使もかくやの美貌で微笑む。
その微笑みかき消すように銃声、目にも留まらぬ早業でパイフウが銃を抜き撃ったのだ。
その弾丸すべてがディートリッヒに命中したかに思えたしかし。
「さすがだね、魔術師、君にに借りておいてよかったよ」
その弾丸はすべて彼の体の目の前で停止していた。
「ちなみにただ止めるだけじゃつまらないよね?」
ディートリッヒが呟くと同時に静止していた弾丸が突如ベクトルを変える、その先にいたのは
「クルツ!!」
パイフウの叫びと同時に血煙があがりベッドに倒れ付すクルツ、その足と肩から鮮血が溢れ出す。
クルツは何か言いたげだったが、苦痛のあまり動けずにいる。
それを見て満足げにうなずくディートリッヒ。

「そうそう君は黙っててくれ、今夜はパイフウさんにちょっと重要な話を持ち掛けにきたんだからね」
そう言ってディートリッヒは手にしたケースから何か装置を取り出し、部屋の電気を消す
と、壁に映像が浮かび上がる…どうやらプロジェクターのようだった。
プロジェクターの画像は彼女にとって見慣れた風景を写している、
「これが…どうしたっていうのよ?」
火の出るような視線でディートリッヒを睨むパイフウ
「まぁ待って、面白いのはこれからだから…ほら」
ディートリッヒが示す先を見るパイフウ、そこには何人かの子供たちが写っている。
「だからこれが…」
さらに文句を言おうとしたパイフウの目が大きく見開かれる。


何故なら先ほどまで遊んでいた子供たちが急に次々と倒れていったからだ、いや子供たちだけではない
大人たちも次々と倒れていく、その中の1人にカメラがズームする。
わずかに覗く襟元に特徴的な赤斑…これは
「天然痘!!」

「ええ、よくわかりましたね」
しかも、いかに天然痘の感染力が凄まじくてもこれだけ急激に発生するはずがない、
こいつら…
「町に細菌兵器をばら撒いたのね!!なんてことを!!」
「ご名答、さて…本題に入りましょうか、タウンの人間たちがすべて息絶えるまでに一週間」
「ワクチンはここにあります」
ディートリッヒが勿体ぶって胸ポケットからアンプルを取り出す。
「働き次第だけど、その条件はわかるよね?」
「私にあんたたちの犬になれってこと?」
「ええ」
やはり…予想通りの言葉にぐらりと体制を崩すパイフウ、しかし。
「馬鹿言わないでよ…だいたいあなたが見せた映像が本物とは限らないじゃないの」
「それにね…見ず知らずの他人が何千人死のうが関係ないわ」
パイフゥは精一杯の虚勢を張る、だが彼女にはわかっていた、あの映像がまぎれもなく
本物のエンポリウムタウンの物だということを。

そしてディートリッヒはそんな彼女の虚勢などとうに見抜いていた。
「君は思ったよりもひどい人だなぁ…君のお友達が聞いたら嘆くよ、多分」
「ま、君が決断できないなら君のお友達に頼むことにするけど?どうかなあ」
お友達…その言葉に烈火のごとく反応するパイフゥ
「あんたまさか!?」
「そのまさか、かなぁ…」
「許さない!!ほのちゃんだけは…」
火乃香は自分にとって理想の存在である、その彼女がこんな人の皮をかぶった悪魔に汚されようとしている。
「許さないならどうするのかな…吼えるだけじゃ現実は覆せない、わかるよね?」
微笑を絶やさないディートリッヒ、それとは対照的にパイフウは悲痛な表情で歯を食いしばる、そして
パイフゥは銃口をクルツに向ける。


「ちょ!ちょっと!!冗談はやめて!!」
冗談じゃないということはクルツにもわかっていた、だが彼といえどもこの状況では
これくらいの言葉しか口に出来なかった。

「ごめんなさい…許して」
ディートリッヒが外に出ると同時に銃声、さらにそれに付随しての凄まじい争いの物音
それらがすべて静まるまで10秒と少し…
力なくドアが開け放たれ、中からパィフウがふらりと現れる、部屋の中には蜂の巣にされたクルツの遺体があった。

「約束よ…ワクチンを」
だがディートリッヒはアンプルをそのまま床に落とし、粉々に踏み潰してしまった。
「あんた!!なんて事を!!」
殴りかかろうとしたパイフウだが、その瞬間凄まじい激痛にうずくまってしまう。
「犬が飼い主に使っていい言葉じゃないよね?」
どういう仕掛けかわからないが、どうやらディートリッヒはパイフウに何かをしたらしい。

「それに言ったよね、働き次第だって…なんならほのちゃんに手伝ってもらう?」
「あんたの…穢れた口で"ほのちゃん"なんて二度と口にしないで!」
口を利くのも辛いはずの激痛の中、それでも言い返すパイフウ
「大好きなんだね、何千・何万の人間たちよりも彼女が…でも不毛だよ、リリアンの女の子たちといい
 男性としてはもったいないかぎりなんだけどな」
満面の笑みでパイフウの呪詛に応じるディートリッヒ、そのまま後手に手を振りながら彼は悠々と廊下へと去って行く
「こっ…この悪魔」
そう背中に声をかけるのがやっとのパイフゥだった。


そして…
やたらとだだっ広い城の中、トイレに迷って…結果とんでもない話を聞いてしまった。
「あ…あんた」
廊下の曲がり角にて坂井悠二とディートリッヒはばったりと鉢合わせしてしまった。

「君は、坂井悠二くんだっけ?」
相変わらずの微笑で応じるディートリッヒ
「早く逃げた方がいいよ、この城はもうすぐ怖い女の人のせいで血の海に変わるから…それに」
ディートリッヒは悠二の耳元で囁く
「シャナちゃんだっけ?可愛いよね」
「!!」
「今から全力で走ればこの城で出会ったお友達にピンチを伝えることが出来るかもしれない
 でも君は死ぬかもしれない、そしたらシャナちゃんにはもう会えない、ここが思案のしどころだよね」
微笑みついでに悪魔の囁きも忘れない。
そのまま廊下の向こうに足を進めるディートリッヒ、そして悠二が言い返そうと顔を上げたとき
行き止まりのはずの廊下のどこにも彼の姿はなかったのだった。

【パイフウ】
[状態]健康
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない)
[道具]デイバック一式。
[思考]主催側の犬になり、殺戮開始/火乃香を捜したい。

【坂井悠二】
[状態]:通常。
[装備]:なし/狙撃銃PSG-1は部屋に置いてきています
[道具]:なし/デイパック(支給品一式)も部屋です
[思考]:思案中

【クルツ・ウェーバー:死亡】 残り103名
【G-4/城内/一日目3:00】

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