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第064話:『竜』対『修羅』

作:◆1UKGMaw/Nc

 ――ミラ、ミラ、どこにいるの?
 一人はいやだよ。さびしいよ――

 森の中を、アーヴィング・ナイトウォーカー(以下、アーヴィー)は歩いてゆく。
 その手に狙撃銃を携え、うつろな目であたりを見回しながら。
 絶対に見つけることのできない人を、ただただ求め続ける。
 ふいに、足を止める。
 誰かがいる。
 姿は見えないけれど、誰かがいる。
 ミラかな?

 アーヴィーが足を止めたのを確認したのか、その誰かの声が聞こえた。
「こちらは争うつもりはない。君と話がしたいだけだ。
 ……今から出て行くが、撃たないでもらえないだろうか」

 ――ミラじゃなかった。
 でも、ミラのことを知ってる人かもしれないな――

「わ、分かりました。ぼ、僕も争う気なんてありません。ほ、本当です。
 僕も、あ、あなたに尋ねたいことが、あ、ありますから……」
 アーヴィーのその言葉を真実と受け取ったのか、しばらくして少し離れた木の影から男が姿を現した。
「私は竜堂始。君の名前を教えてもらえないだろうか」
「は、はい。ア、アーヴィング・ナイトウォーカーです」
 ファーストコンタクトがうまくいったことで少し安堵したのか、始の顔に僅かに笑みが浮かんだ。
「アーヴィング君、私は人を探している。竜堂終という名の少年と、鳥羽茉理という名の女性を見なかっただろうか」
 アーヴィーはしばし考える。
 ここで出会った人物はまだ一人だけだ。
「い、いえ、見てません。背の高い男の人には会いましたけど、その人たちは、し、知りません」
 始は、その言葉に僅かに落胆した表情を見せる。
 だが、すぐにまた元の表情に戻ると、アーヴィーに礼を言った。

「そうか。いや、ありがとう。ところで君も私に聞きたいことがあるんだったね」
 そうだ、ミラのことを尋ねなくては。
「は、はい、あの、ミラっていう小さい女の子を見ませんでしたか?」
「ミラ……?」
 怪訝な顔を見せる。
 参加者名簿には一通り目を通したが、ミラという名前はなかったはずだ。
「いや、見ていない。というより、その少女はここにはいないはずだよ」

 アーヴィーは、目の前の男が何を言っているのか分からなかった。
 ミラがいない?
 そんなわけはない。
 なんでそんな嘘をつくのだろうか。

「参加者名簿は確認したかい? これがそうだ、見てみるといい」
 言って名簿を取り出す始。
 そこまでいうなら確認しようと一歩踏み出したところで、勝手に右腕が跳ね上がり始の額にポイント。
 左の義手で銃身を支えてそのまま引き金を引いた。

 ――ターン!

 あれ? とアーヴィーが思ったときには、とっさに回避しようとした始の額から血飛沫が舞っていた。
「くっ!?」
 銃弾はかすめるだけに終わったのか、目の色を変えるとアーヴィーに向かって駆ける。
「はあぁっ!」
 渾身のパンチがアーヴィーの頬を捉える。
 成す術もなく吹き飛んだアーヴィーは背後の木に叩きつけられ、白目をむいて気絶した。

「どういうことだ?」
 会話はうまく進んでいた。
 なにより、このアーヴィング・ナイトウォーカーという青年からは敵意が全く感じられなかった。
 なのに、この結末だ。
 額の血を拭い、アーヴィーを見る。
 右手にはまだ狙撃銃を握ったままだ。
 とりあえず武装解除しようと近づき、かがみ込もうとした時――またアーヴィーの右手が跳ね上がった。

「な」という始の言葉と銃声が同時。
 始の身体が銃弾に弾かれ、のけぞる。
 着弾した額には、淡く光る、だが幾分欠けた竜の鱗。
 相殺しきれなかった衝撃に、その内側から新たな鮮血が舞った。
(!……やはり、力が弱まっている! まずい!!)
 そう思った始の鼓膜に、再び銃声。先ほどと寸分違わぬ位置に、再び衝撃。
 欠けた鱗に明らかなひび割れが走る。
 普段ならばどうという事はない衝撃に脳が揺さぶられ、足の動きが始の意思を離れる。
「ぐぅっ!?」
(この…、男は……!)
 そして、始は見た。
 白目をむき、よだれまで垂らして、明らかに気絶しているアーヴィーの顔と。
 神業的な速度で排夾し、三度照準を合わせる二本の腕の、非現実的なアンバランス。
 その銃口の向く先は――
(すまん……茉理ちゃん! 終!)

 ――銃声。

 最後の銃声で少しだけ意識が回復した。
 朦朧としたままのアーヴィーの瞳に大輪の紅い花が映る。
 アーヴィーは「きれいだな」と感想を漏らし、「きれいだね」と傍らでミラが言ってくれたような気がした。

【竜堂始 死亡】
【残り102名】
【G-4/森の中/1日目・02:30】

【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:ミラを探さなきゃ
    (ミラはエントリーされていませんが、探す気でいます)
    (ミラはエントリーされていないという情報を得ました)

[備考]:H-3 → G-4へと移動しています。
    竜堂始のデイバッグは、現状G-4に放置されています。内容不明。

2005/04/03 修正スレ3

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