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第035話:暗闇の中

作:◆cCdWxdhReU

こういう状況になるとわかっていたら、
こんな制服なんかじゃなくライダースーツを着ておけばよかったな。
霧間凪(048)は灰暗い倉庫の中、ガラクタを跨ぎつつ嘆息する。
服には誇りが付着してしまい、お世辞にも綺麗とは言えない有様だ。
凪は現在D-3、住宅地帯にいる。その目的はもちろんこの殺し合いの中で生き残る。
ひいてはこの状況から脱出するために必要なものを集めるためだ。
心の中でどれだけ脱出してやる。死にたくないなどと言うのは馬鹿でも出来る。
だがそれに対し、何もしなければそれは妄言を吐くのと変わらない。
1時間程住宅街を歩き回り、いくつかの使えそうなものは見つかっていた。
缶詰が三つに救急箱、他にも鋏や糸、針などの雑貨を既にバックパックに詰め込んでいる。
あとは外との連絡手段なんかが手に入ればいいんだが……。
ガタガタと右手に杖を持ちながら器用にガラクタを動かし、使えそうなものを探す。
なにやら古めかしい瓶やらバケツ。鉄の箱などそれは様々だ。
ふと目に入ったダンボールを開けると、見た目にも新しいホルスターに収まったサバイバルナイフが目に入る。
手に持ってみるとそのナイフは重量感もあり、ケースから出して見ても切れ味もなかなかのようである。
実戦での使用も可能と判断した凪はナイフを持って行くことにし、制服の内ポケットに収める。
他には何もなさそうだな。
ガラクタをあらかた調べ終わり、
入ったときよりも多少は片付いたように見える倉庫を見回し凪は思った。
ただし、一部ガラクタがタワーのようになってしまっているが、
触らなければ問題はなさそうなので凪は放置しておくことにした。
周りに人の気配はない。

しかもここはやや入り組んだ位置にある住宅の倉庫だ。
目立つような真似をしなければ見つかることはないであろう。
凪は手近にあった箱に腰掛け、バックパックから取り出した水を煽る。
結構な時間、埃の多いところで行動し続けた体にはそれはとても心地よく、
体の中の澱みを洗い流してくれているようだ。
とりあえずはこの呪だかっていうのを外しておかないと話にならないな。
というか本当に呪なんてものがあるのか?
だがあの剣士達の死に様を見る限り、そ
れを嘘だと言うよりは本当に呪はあると考えたほうが理屈が通る部分が多い。
この支給品にしてもその力の一端があるようにも思える。
どちらにしてもまだなにも手がかりと呼べる代物も無い今では、
この状況から身を守るしか方法というものは存在しないのであるが。

3分という常人には短いであろう休憩を終え、凪は立ち上がる。
当てはないがとりあえずもう少し清潔なところに行こう。
ここでは息が詰まって仕方が無い。
出口である扉に、支給品の杖を手に向かう。
と、そのとき

ガッシャーーーーーーーーン!!!!

金属、木製品、陶器、様々な音の交じり合った盛大な不協和音が背後に響き渡る。
凪は警戒する。積んでおいたガラクタに立ち上がったときに触れてしまったらしい。
この大きな音を誰かが聞いていたら大変まずい。
特に殺し合いをしようなんて輩が来た場合にはだ。
息を潜め、外の気配を探る。静けさの中、凪の鼓動が騒音へと変貌する。

………………。
どうやら、周りには誰も居なかったらしい。
しかし、いつまでもここに居るのは得策ではないことはわかりきっていることだ。早くどこかに移動しよう。
そう思い、凪は杖を構え外に出ようと――
「いるのはわかってんだぜ。ネズミさんよー」
ハスキーな声が広がる。
く、気付かれていた!? しかし気配は感じなかったのに何故?
杖を持った右手に力がこもる。
「出てきてくんねーならよー、」
空気が止まる。
「こっちから行くぜーっ!!」
その刹那、扉が蹴り飛ばされ、出刃包丁を構えた銀髪の小柄な少年が飛び込んでくる。
「いようねーちゃん、どうする俺を殺すかい? それとも殺されるかい?」
顔に刺青を入れた少年はそう問う。
「悪いが殺す気も殺される気も無いな」
凪は杖を構え、緊張を保ちつつ少年に言う。
少年の右手に持った出刃包丁は適当に構えているといった印象にも関わらず、少年には隙といったものがまったく無い。
「そうかい。だがそんな戯言が通じると思ってんのかよ、あんた。そんな杖一本で」
「ああ、降りかかる火の粉くらいは払わせてもらうがね」
銀髪の少年を睨み付ける。
少年も凪を見つめ返してくる。
倉庫の中でしばし時は止まり、空気が凍る。
そして少年は突然笑い始めた。
「くくく、傑作だぁな。背が高くて腕もいい、予定では殺しとくはずだったんだが、好みの女を殺してもつまんねーや。見逃してやんよ」
少年は笑顔で言う。
「じゃあな、ねーちゃん。音は出さないようにしとけ。次会ったときは殺すかもしんねーからな」


そう言って堂々と背を見せて歩き始める。
まるで後ろから凪が攻撃しても当たることなど絶対に無いかの如く。
「待て」
凪は少年の背に向かって声をあげる。
「ぁん? なんだやっぱり殺されっ、なーーーーー!!!!――」
瞬間、凪の手の中、金属製のその平凡な杖から巨大な鰐の顎が生まれた。
石で出来た巨大な鰐、そのあまりにも予想外な伏兵が少年へと突き進む。
床のコンクリートを削り、噴煙を巻き上げその巨大な質量が小柄な少年へと叩き込まれる。
鰐の顎は少年に喰らいついた。それは少年の体を巻き込み体全体をその口の中に収める。
いつもの少年なら避けられたのかもしれない。しかし、彼はまったくの油断をしていた。
凪が武器を杖しか持たないこと。
その杖がただの杖だと思ったこと。
そして相手が女とタカを括ってしまったこと。
鰐の顎で体を挟まれ、身動きが取れなくなりながら少年は言った。
「ちっくしょー、卑怯だぞ。殺す気はないって言ったじゃねーかよ」
「ああ言ったな。殺す気は無い。だが捕まえる気はある」
凪は少年に向かい、フフンと笑みを浮かべ、少年はなんだよそれと毒づいた。


【残り108名】

【D-3/住宅街/1日目・02:30】

【霧間凪(048)】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 サバイバルナイフ 制服
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:少年(零崎人識)を捕獲。とりあえず殺すつもりは無い

【少年(零崎人識)083】
[状態]:平常
[装備]:血の付いた出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:捕獲されている。凪に対して殺意はあまり無い

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