財産運用の確率学・番外版
博打好き父さんの凍死ガイド
入門編
このホームページの更新を長らくお休みする前、投機絡みの話題を取り上げたのですが 今回はこぼれ話を一つ。
前回は概念的な内容しか書かなかったのですが、チョット実際の現場を見てみましょう。
嬉しいこともある反面、チョット悲しくなる事の方が圧倒的に多いんですよねえ。
この文章は「財産運用の確率学・投機で逝こう編」の続編です。 |
2002年の日本、北関東の某所に 博打好きな個人凍死家が住んでおりました。
学生時代は
授業よりも遊びが大好きで、中でも競馬がお気に入り。
中山だけでは飽き足らず、旅行ついでに輓曳競馬なんかにまで足を伸ばしていたのでございます。
それでもどうにか大学は卒業できたようですが、博打の通算成績は決して語ろうとはいたしません。
そんな彼も 今では勤め人、妻子を養う身になってしまいました。
昔は、「自動車だぁ、バイクだぁ、スキーだぁ」と無軌道に浪費を繰り返していたようですが、最近は反省したのか
チョットは貯蓄に目覚めたようです。
ところが、素直に銀行貯金をしていればいいものを、博徒の血が騒ぐのか
芳しい経済ゲームに手を出しているようです。
最近は 貯蓄の多くを株式なんぞで回している様子。
本人は「正統派長期投資家?」を標榜しているようですが、超大型有名株から小型ボロ株まで
銘柄選択は節操がありません。
小ぶりなポートフォリオにもかかわらず、何の基準か
12銘柄も保有中。
そんな彼ですが、今を遡ること 半年前、お正月休みの真っ最中
彼はネットを彷徨いながら 投資情報を集めておりました。
当時、キヤノソやリ⊃ーといった正当派優良銘柄は
テロ後の投売り価格から
かなり良い線まで戻していましたので、出遅れ銘柄を物色するのが目的です。
そこで目にとまったのが、コレ。(文中に失礼な記述があるので 匿名にさせていただきます。)
仮に 「観音タイプライター社」と 名づけておきましょう。(え、もうバレた?)
この会社 日本が誇ハイテク企業「観音」の関連会社なんですが、絵に描いたような株価低迷振り。
ヤフーファイナンスより
リンク
この「観音タイプライター社」、立派な名前にかかわらず 少なくとも ここ5年は投資家を納得させられるだけの利益を上げておりません。
なにせ、312億円の株主資本がありながら、一昨年の経常利益はタッタの5億7千万円。
更に、今期は 諸般の事情で赤字決算。
コレなら 事業などやらずに、資金を大口定期にしておいたほうが まだマシな状態といえるでしょう。
もちろん、株式を買うことは 会社の未来を買うことですから、将来性があれば 現在の利益が少なくても問題にならないのですが、この会社に限っては明るい展望はあまり見えてきません。
主な事業は その名の通り
プリンターやコピー機の部品製造なんですが、収益の殆どを親会社に依存しております。
この不景気の世ですから 景気が上向けば
利益も上がるんでしょうが、親会社以上の成長は期待できません。
自社独自の事業も立ち上げようとはしているんですが、電気部品メーカーが「介護機器」や「堆肥製造装置」を作っても投資家は見向きもしないでしょう。
そんなわけで 事業概要と損益計算書を見る限り 博打好きな凍死家でも 買いたくなる株ではないのですが、よくよく決算書を読んでみると まあビックリ。
観音タイプライター社H13年12月期決算短信
この会社 時価総額が90億円しかないにもかかわらず、貸借対照表を見てみると 現金と有価証券で118億円!!も溜め込んでおります。
日経会社情報2002-Uより引用
その上、有利子負債は0(ゼロ)。
発行済み株数は 約3千万株ですから、一株当たりの現金は約400円もある計算。
こんな会社の株が300円近辺で売られている!!のですから、出血大サービスです。
4万円の入った金庫を3万円で買うようなものですから、非常にリスクの低い投資といえるでしょう。
というわけで、博打大好き個人凍死家は
お正月明けから早速仕込みを開始したわけです。
取引量が極めて少ないマイナー銘柄ですが、そこは この超不人気株、チョット安めの値段でも面白いように買い集めることが出来たのでございます。
結局、4月までの間に
小型自動車1台分ほどの株が集まってきました。
本文中では
かなり美味い話が書いてありますが、株式投資のリスクは決して小さいものではありません。 このような企業は
規模が極めて小さく、株式の流動性は頼りないものです。 仮に いつの日か正しい評価をされる日が来ても、それが10年後では 極めて低い収益しか上げなかったことになります。 博打好き凍死家も 実際のこの株に投資したのは全株式投資額の20%未満なのです。 |
で、仕込を終えて2ヶ月ちょっと、博打好き個人凍死家の元に一通の封筒が送られてきたのであります。
なんと、持ち株が公開買付の対象になってしまったのでありました。
よく米国安物経済映画で、悪役乗っ取り屋が
美男子主人公の会社に戦争を仕掛ける手段に使われるヤツで、「TOB」なんぞと呼ばれております。
説明書類に目を通しますと、こんなことが書いております。
観音タイプライター社 株主の皆様へ この度、「観音タイプライター社」は 「観音販売社」の完全子会社にさせていただくことになりました。 つきましては、お持ちの株式は、「観音販売」社が一株409円で公開買付いたします。 どうしても売ってくれないなら、「観音販売」社の株と交換します。 交換比率は 「観音タイプライター」社1株に付き、観音販売株0.365株です。 「観音タイプライター」社の役員は皆賛成してくれています。 我々は すでに「観音タイプライター社」株の56%を持っているから そのつもりで。 親会社:観音販売 |
博打好きの個人凍死資家は 最初は
とても良い話かと思ったようです。
彼の平均買い付け単価は
一株当たり302円でしたから、あっという間に30%オーバーの利ざやが転がり込む寸法です。
彼の賭博人生最大の収益ですから、コンピューターの前で踊りだしそうになったくらいです。
でも、彼は あっという間に冷静に戻ってしまいました。
観音タイプライター社は
118億31百万円の現金・有価証券を保有しています。
親会社である観音販売株式会社が保有している
観音タイプライター株は発行済み株式の54.3%。
118億31百万円X0.457=54億06百万円
て ことは、一般株主の取り分は現金・有価証券だけで
54億円はある計算。
現金資産は、土地や棚卸資産と違って
決算書の額面を割ることはないはずです。
もちろん、観音タイプライター社は現金だけでなく、工場・敷地・生産設備・棚卸資産を持っています。
最新の決算書を見る限り、資本総額は211億19百万円持っているはずです。
これらは ミズモノですから
額面どおりの価値があるとは考えられないのですが、それでも
何らかの価値を残しているはずです。
それなのに、観音販売社が 完全子会社するために組んだ予算は54億97百万円だけ。
公開買付説明書より抜粋
一般株主には 現金・有価証券相当額しか還元されない計算です。
で 買収した親会社は
土地・建物などの固定資産はもちろん
売掛金・受取手形の類まで一切合財を只で手に入る寸法?
資本総額は211億、一株あたりで956円ですから、409円を差し引いた
547円は どこに消えるんでしょう?
ううん。
考えれば考えるほど 奥の深い問題!
収益に期待の出来ない会社とはいえ、工場や設備は本当に無価値なのか?
売掛金や棚卸資産の換金価値は、どのように考えるべきか?
逆に、従業員や生産設備は
処理を誤ると損失を生みかねません。
リストラ費用、あるいは親会社のリスクは
どのように計算されるのか?
博打好きなだけの初心者凍死家には手に余ること 確実です。
もうこうなっては、どう悪あがきをしても 個人凍死家の取りうる選択肢は 親会社の公開買付に応じるしかありません。
親会社の提案で 最もいやらしいのは、409円で買うと言っておきながら 株式交換を選択すると 途端に不利な立場に置かれる点です。
買収前の時点で
親会社「観音販売」株は一株900円前後、買収発表後も1000円前後で取引されておりました。
買い付けの締め切りを過ぎた瞬間に
409円で売れたはずの株券が
365円に磨り減る寸法です。
おまけに、とびっきりの資産株が
普通の景気敏感株に化けるんですから
もう踏んだり蹴ったり。
親会社は 発行株式の過半数を既に抑えているのですから、抵抗の余地は完全にゼロ。
ま、そう悪い話ではないのですが 割り切れない思いが残る凍死家の体験でした。
しつこいようですが再度、警告
どのような種類のものでも、株式はハイリスクな投資です。
特に、今回取り上げたような小型株は 一般に極めて危険な投資と考えら得れており、概ね
その通りです。
ここに筆者が書いたことは決して鵜呑みにしないでください。
チョット利益が出て舞い上がっているだけのシロートに過ぎません。
投資・投機・賭博はご自身の責任で行ってください。
それでも小型ボロ株に手を出そうとする方はこちらもお読みください。