双眼鏡を分解してみたら(2)
高倍率ズーム小型双眼鏡の場合
前回の双眼鏡比較で「13〜50倍」なんて製品を扱ったのですが、結果は筆者の想像を上回る物でした。
この調子ではどのような用途にも役に立ちそうにありませんし、転売するのも憚られます。
あの通りの見えですが、中古品なので内部に汚れやカビの可能性も否定できません。
筆者の手元に転がり込んだのも何かの縁。
分解してズーム双眼鏡の仕組みを研究する役に立っていただきましょう。
警告
双眼鏡は微妙な調整の上に成り立っている光学機器です。
一度分解すると、形は元通りに直っても正常には機能しません。
お使いの双眼鏡を分解するのは絶対に止めてください。
当サイトは分解に伴う一切のリスクを担保しません。
まずは外装から
以前分解したZ型双眼鏡と違って表から見えるネジはありませんが、両側のゴムパッドをはずしてみると 下にはプリズム調整用のネジ2本づつとカバー止めのネジが隠されています。
ちなみに、ゴムの目当ても接着剤で固定されていて、簡単に剥がす事が出来ます。
こちらもアイピースを組み立てたネジが隠れていました。
どうやら外装部品は簡単にはずせそうです。
レンズに手をつけてみると
外装はどうにかなりそうなので レンズのほうを見てみましょう。
対物レンズはネジ止め式で固定されています。
試しにドライバーで突いてみると、簡単に回ってしまう。
調子に乗って止金をはずしてしまいました。
前回は外せなかったので専門工具の入手を考えていたのですが、こちらは組付け甘いようです。
レンズは当然ですがアクロマート・レンズになっています。
対物レンズは表側のみマルチコートで裏面はシングルコートになっています。
レンズの焦点距離は約110mmかと思われます。
当然、プリズムはコートされていません。
カバーを外してみましょう
上で見つけたネジを一本外せば銀色のカバーが全部外れてきます。
中を覗いて見ると、小さなプリズムには遮光用のカバーが着けられ、プリズムは止金で固定されています。
フォーカシングは対物レンズを遮光筒ごと動かして行っています。
接眼レンズを分解しましょう
続いてはこの双眼鏡の諸悪の根源、接眼レンズに手をつけましょう。
ネジを3本はず図と簡単に外側のレンズがセルごと外れてきます。
接眼レンズの外面は緩やかな凹面になっていますが、内面はかなりの凸面になっています。
レンズはセルにねじ込み式の押さえで固定されているだけです。
外してみると、合せレンズになっています。
両面とも単層コーティングがされているようです。
それにしても、双眼鏡でここまでの凸レンズが使われているのを見るのは初めてです。
50倍の倍率をえるためにはアイピースの焦点距離を2mm程度にしなければいけませんから、このようなレンズが使われているのでしょう。
各種収差の補正は厳しそうです。
本体の方に目を転じると、可動式のユニットが収められています。
左が低倍率時で、右が高倍率時になっています。
ズームレンズを外してみると、
レンズは外筒に刻まれたカムに沿って動いています。
可動レンズは前後に2群に分かれている、フィールドスコープの可変レンズなどでは一般的な形式です。
観察してみると、前群のレンズは計1cmにも満たず この双眼鏡の倍率を物語っています。
ここも、この双眼鏡の見え味を害しているようです。
外筒からレンズセルを外して、レンズを取り出して見ましょう。
止金を外すのはあっけないほど簡単です。
中からは小豆大の凹レンズ2枚が出てきました。
どちらもノーコートのレンズを使っています。
写真に写った埃の具合からも大きさが見て取れるかと思います。
双眼鏡というより、顕微鏡の対物レンズのような部品です。
今度は後群の方を見てみましょう。
こちらは双眼鏡らしい大きさのセルに収められています。
分解してみると合せレンズが出てきました。(もちろん凸レンズ)
こちらは片面はアンバー・コーティングされています。
小さなレンズは前群の凹レンズの1枚、右側のレンズが後群の凸レンズ
設計のしわ寄せが感じられるアイピースでした。
枚数も多く、コストがかかっているのは確かなようです。
「4群6枚」と書くと、ニコンの高級アイピースと同じなんですが。
プリズム筒を分解しましょう
レンズ部分の分解は終わってしまいましたが、プリズムと機械部分が残っています。
まず、対物レンズ筒を左右とも外してしまいます。
擦動部分にはこれでもかとグリースが塗られています。
ここでプリズム筒とズーム操作を行っている機械部分を分離してしまいます。
これで片側2個のプリズムが裸になりました。
裏側に隠れていた第1のプリズムには必要のない遮光カバーは着けられていません。
抑え金を外してプリズムを取り出してみます。
前回と同じように、接着剤の固定は簡単に剥がす事が出来ます。
すると、この双眼鏡では第1プリズムと第2プリズムの大きさが違っています。(もちろん第1プリズムのほうが大きい)
小型化の為にこんな所が工夫されているんですねえ。
機械部分を分解しましょう
残った部品は、ズーム操作部だけになりました。
以前、双眼鏡比較で取り上げた中型のズーム双眼鏡は歯車で左右のレンズを動かしていましたが、この双眼鏡ではどうやっているのでしょうか。
ギアが入るだけのスペースはなさそうです。
分解して観察してみると、左右の接眼鏡が金属の板ばねのような部品で接続されています。
目印に紙片をつけて、ズームを動かしてみると、レンズの動きが分かるでしょうか。
もっと分かりやすくするべく更に分解してみましょう。
このように回転部分が連結されています。
歯車を使わないこの方式だとスペースを取らないため、小型双眼鏡のズーム化も容易でしょう。
ニコン「リビノ」やビクセンの小型ズーム双眼鏡も同様の形式を採用しているものと思われます。
反対側も完全に分解してみましょう。
仕組みが分かってしまえば、組み立て・分解は簡単ですね。
これで双眼鏡は完全にばらばらになってしまいました。
まとめ
分解してみると、アイピースや機械部分は手間がかかった構造になっています。
そのコストが値段に跳ね返っているのでしょう。
もちろん、値段と見えの良さは別な問題なのですが。
高倍率を追いかけた弊害は接眼レンズの構成を見れば明らかです。
誰が設計したとしても、このスペックではまともな双眼鏡は実現しないでしょう。
まあ、分解しても内部にカビや汚れがなかった訳で、この前のテストはこの双眼鏡の本当の性能のようです。
困ったものです。
御注意
私はこうやって分解した双眼鏡の部品をゴミとして処分するわけですが、光学ガラスは一般のガラスと異なる組成になっているため普通の「ガラス・ゴミ」に出してはいけません。
「燃えないゴミ」などで適切に廃棄してください。
こうして考えると、光学ガラスの「脱鉛・脱砒素」の対策は必要なものなんですね。