双眼鏡の性能比較(4) 後編
ズーム双眼鏡は本当に使えないのか。
1回目・2回目に続き、ここまでは常識的な結果しか出てきません。
はたして、ズーム双眼鏡に逆転は出来るのでしょうか。
ズーム双眼鏡の利点が生かせる場所はあるのでしょうか。
第2ラウンド 視野と解像力をチェック
ここまでの結果はズーム双眼鏡につらいものでした。
でも、ここでやめてしまってはズーム機の隠れた美点を見落としてしまうかもしれません。
別なシチュエーションで両者を比較してみましょう。
今度は一点集中型の性能と視野分散型の性能が同時に試される景色で両者を比べてみましょう。。
縮小前の写真はこちら
写真では分かりにくいにですが、道に沿って標識・信号機・携帯電話基地局が並び、周囲には木立が茂っています。
各目標を捕らえるには解像度が求められ、高倍率機が有利でしょう。
一方、周囲の風景を眺めるには広い視野が必要ですし、木々の密集した場所では双眼鏡の解像力が要求されます。
まず、ズーム双眼鏡で見てみましょう。
左から10倍・20倍・30倍での撮影です。
10倍時は何の苦労もなく撮影可能。
観察も全く苦になりません。
同じ時に、ニコン「スポーツスター2」10X25でも撮影を行っているので、参考までに掲載しておきます。
ニコンはポケットサイズのダハ双眼鏡ですから、大型のポロ双眼鏡と比べるのは酷ですね。
このニコンの実視野は5度ですから、ズーム双眼鏡はそれより僅かに視野しかないことが分かります。
大型のポロ双眼鏡でポケットサイズのダハ双眼鏡と同じレベルの視野しかないのはもんだいなのでは。
このズーム双眼鏡と視野の問題については後日じっくり考察いたしましょう。
ズーム双眼鏡に戻って、20倍に倍率を上げると10倍より視野が狭くなります。
写真で見るとずいぶん信号がはっきり見えるようになったとお考えでしょうが、観察上ではあまり変化がありませんでした。
10倍時でも信号したのも字は全部判読できましたから、メリットは文字がくっきり見やすくなったことくらいでしょうか。
まだ、このくらいの倍率では手持ちの観察でもどうにかなりますし、視野の暗さもさほど不快になりません。
どちらかと言うと視野の狭さが気になりますが、本来はズームを戻せばいいことなので。
次に30倍。急に視野が狭くなり、暗くなっているのが写真上も明らかです。
この景色ではここまで高倍率にしてもメリットはありません。
しいて想像すれば、この標識に何か異常や汚れがあって遠くから観察しなければいけない状況でなければ意味がないと感じます。
この程度の観察であれば、7倍でもまともな双眼鏡であれば描写できるのですから。
高倍率の副作用として暗く狭い視野に苛まれ、手ブレで酔っ払いそうになるのは仕事でもごめんです。
対照用に7X50の写真を載せます。
観察をしていて生き返ったように思いました。
視野が広い分景色の中の散歩が楽しいですし、周囲に広い範囲から情報が得られます。
また遠景の標識や携帯基地局でも、ズームで倍率をいじって観察できた情報は、この7倍の双眼鏡で得られます。
もっと小さな点、たとえば標識の細かい紋様の判別などでは濃い倍率機の出番がありそうですが、それは苦痛を伴う作業になりそうです。
倍率と明るさ・視野は反比例しますが、これではちょっといただけません。
信号・携帯電話基地局・標識・背景の木々。
全て7X50のほうが見やすく観察しやすかったと結論せねばなりません。
倍率だけ高くなっても、使いやすくないことを実感させられました。
ここまでやってきてズーム双眼鏡の良さを見つけることが出来ません。
本来は同サイズの高倍率短焦点双眼鏡も合わせて比較するべきなのですが、手元に現物がないものですから。
第三ラウンド 月夜にチェック
さらに比較を進めるため夜にもズーム双眼鏡を持ち出してみました。
この夜はきれいだったので手持ちと三脚固定で月を観察しました。
まず10倍。
写真は三脚固定で撮影しました。露出がオーバーしていますが、お許しください。
この倍率で中型のクレーターまで見えて不満はないと感じるのですが。
手持ちでも全く違和感が有りません。
20倍、細かい表面の模様を見ようと思うと、三脚固定のほうが便利です。
手持ちでは手ぶれが気になり始めますが、月のように大きさのある対照ではさほど気になりませんでした。
30倍の写真です。細かい表面まで写っています。
眼視でも三脚固定では迫力の眺めが体験できました。
しかし、手持ちでの使用はほぼ不可能で、不快感がありました。
次に7X50で撮影した写真です。
写真上はずいぶん小さく見えますが、情報量はあまり落ちていません。
小型のクレーターは識別できませんが、眺めとしてはきれいです。
個人的には7X50の眺めで十分だと思いますが、月面散歩を楽しみたい方だと30倍の見えに迫力を感じるかもしれません。
また、細かいクレーターの観察には高倍率が必要であると感じました。
もちろん三脚は必須ですよ。
結論
今回、様々な比較を行いましたが、個人的にはズーム双眼鏡を積極的に見直すことはできません。
通常の利用では、低倍率でも解像力があれば双眼鏡の魅力を味わうことが出来るためです。
特定のものを詳細に観察したり、識別したりする用途では高倍率が必要なのは確かですし、迫力ある視野を楽しめるのも事実でしょう。
低倍率で目標を探し、ズームして詳細を見るという使い方は便利なようにも思えます。
ただ、一般に市販されているズーム双眼鏡では低倍率でも視界が狭すぎ使いにくく、高倍率でも加速度的に視野が狭められていくのは今回の実験の結果が示しています。
どうしても高倍率が必要であれば、高倍率単焦点の双眼鏡を使ったほうがよさそうです。
ズーム双眼鏡の低倍率時よりは実視野が小さくなりますが、格段に見やすいでしょう。
実験していて手持ちで使える限界は、短時間でも20倍までのようです。
長時間使うのであれば10倍時のほうが疲労が少なくなります。
30倍ズームは三脚固定で明るい対象のときに限られそうです。
もし始めて双眼鏡を買うのであれば、倍率にはごまかされず、しっかりとした6〜8倍の双眼鏡を選ぶべきでしょう。
低倍率機のほうが快適で使いやすく、しっかりした機種では高倍率機と同等以上の情報が得られるのですから。
高倍率に惹かれたとしても、単焦点機を買うべきです。
間違っても初めての双眼鏡でズーム機は絶対に手を出してはいけません。
これらは、熟練者がデメリットを知った上で、特定の用途に使うべき品でしょう。
巷で人気の小型で高倍率の双眼鏡はどういった用途を想定しているのでしょうか。