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月と流星の夜に
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「父上」

アイラの兄マリクルが父王マナナンに

神妙な顔つきで話し始めた。

「行方不明のソファラ家の公子を発見しました。」

「……そうか」

イザークの公爵家であるソファラ家はイザーク城の西に城を構えている。

周りを山に囲まれ、イザーク中で最も守備の堅い城であり、

国力でもイザーク本家の次に位置していた。

それゆえに、イザーク本家とソファラ家は親しい間柄にあった。

二つの強力な国の統治によりイザークは治められていたのだった。

そのソファラ家の公子が失踪したのは、ついニ週間ほど前、

イザーク城内ではマリクルとマナナンしか知らない極秘事項であった。

ソファラ家は公子失踪による国内混乱を恐れたのだ。

「…して、今何処に?」

「それが…」

マリクルは困った顔をして説明し始めた。



ここ数日でアイラの剣の技術が急に伸び始めた。

どうやら、夜にこっそり城を抜け出して何処かに行っているようだった。

剣の修行だろうが、帰ってくるときには、

誰かと打ち合ったようにボロボロになって帰ってくるのだ。

不審に思ったマリクルは、こっそりとアイラのあとをつけてみたのだった。

すると、アイラは金髪の男と剣の修行をしていた。

その男の顔、剣技、そしてその……金髪。

間違いない

その男は、行方不明中のソファラ家公子その人だった。



「…………というわけで」

「………困った奴らじゃ」

ふうとマナナン王は溜息をつき、天を仰いだ。

公子の放浪癖にも、アイラのお転婆にも慣れている。

二人とも昔から変わってない…子供のままだ。

しかし、今は年頃の男女、何が起きても不思議ではない。

「(…まぁアイラではそれほど問題はないか…)」



そして、王が落ち着いていられる理由はもうひとつあった。

ソファラ家は昔から礼節を重んじている、いきなりそんなことはするまい、

そういうことだ。

「…一応ソファラに書状を送りましょうか?」

「ああ」





「………」

二人は無言で剣を打ち合う。

剣と剣のぶつかり合う音だけが

深い森の中に吸いこまれて行った。

アイラはほぼ毎日、この男のもとに通っていった

強くなりたい…その一心で

「…可笑しなことだな…」

と金髪の男がニヤリというか、なんとも形容しがたい

皮肉めいた笑い顔で相手の剣士を見つめた。

おそらくこれが彼の笑い顔なのだろう

「……何が」

アイラは相手の力に押されぬように

剣を持つ手に力をこめながら、

さも答えるのが面倒だとでも言うように

ぶしつけに言った。

金髪の男はそのことは全く気にも止めないで

言葉を続ける。

「最初お前は俺に剣を向けてきたんだぞ…まあそれは今でもだが」

「何が言いたい」

キィィンと音がした。

アイラが男の剣をはじき、男の喉元に剣を近づける。

「…腕を上げたな…それも悪意、いや殺意を持った目でだ」

男は降参の仕草をすると剣をしまい、地面に腰を下ろした。

「………」

アイラは何も答えずにその近くに腰を下ろす。

「俺は一瞬その目に飲まれちまったよ、

 なんて猛々しい獣の目をしているんだろうってな。

 そのお前が、今は俺と一緒に剣の修行をしている」

男は髪をくしゃくしゃと掻きあげる。

男の見上げる空には星が無数に瞬いていて、

月は満月…いや明日辺りが完全な満月であろう…であった。

「流星…」

アイラは空を見上げながら、ぽそりとつぶやく

「私は強くなりたい…兄上や父上の手伝いをしたい、死んだ母上とも約束した

 『強く生きる』と…だが、実際は私は常に守られている…弱い…『女』なんだ、

 だから…せめて流星剣が使えればみんなを守ることができるんじゃないかって…」

アイラはぶるっと震え自分の肩を抱く

イザークは北の土地なので夜はかなり冷え込むのだ。

男は顔を空に向けたまま話し始めた。

「俺がお前に初めて会ったとき放った技を覚えているか?」

「ああ…まるで月の光の煌きだった」

「それを教えてくれた者が俺に言った言葉がある、

 『強くなるということは何も剣技だけに限ったことではない

  大切なのは心…使う者が心を剣に乗せていることが大切なのだ』」

「心を剣に…」

と呟くとアイラは立ちあがった。

そろそろ夜の闇が激しくなってきたからだ。

城に帰らないといけなかった。

「ありがとう…何かすっきりしたよ」

礼を述べて立ち去ろうとしたとき、

男が不意に呼び止めた。

「おい」

「何だ?」

男の顔は月を背にしていてよく見えなかったが

彼の金髪は光に照らされてきらきらと

まるで金剛石のように光っていた。

男は一度口を開き何かを言おうとした、

が、思いとどまったように一度口を閉じ

こう言った

「お前は剣を持つ姿が一番綺麗だ…」





「……………」

かちゃり、とアイラは無言のまま扉を閉め

そのまま、ばふっ、と自分のベットに倒れこむ

どうやってここまで帰ってきたのか、よく覚えていない、

ただ、あの男の言葉が、がんがんと頭の中で鳴り響く

「(一体私はどうしたのだろう…?)」

心臓の鼓動がどくどくと聞こえる。

顔が耳の先まで火照ったように熱い。

部屋は目を閉じても開いても深淵の闇に包まれていた。





こうしてイザークの夜は更に暗黒へと更けていった………




to be continued・・・



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