作:◆R0w/LGL.9c
「♪めーめー目ー さんずい つけたら 泪なの──♪」
ここは名も無い地下道です。
ドクロちゃんは脱水症状からも復活して陽気に歩いていました。
まったく井戸に落ちたり流されたりしたのに元気ピンピンです。この天使。
え? 僕は誰かって?
僕は背景たる地下道の壁です。
自慢じゃないですが、堅牢長大にて地下水豊富、完全無欠で将来有望な壁です。
さあ僕を殴<ごがあぁん!>
あいててて………
今度はシームレスパイアスで、何かの民族の踊りのような動きをし始めたドクロちゃんが勢いあまって僕の体の一部を粉砕したようです。
僕の一部は数百の細かい破片に変形、ドクロちゃんの周りに飛び散りました。
こらドクロちゃん! 僕を撲殺しようとしたら駄目だよ!
ええ僕はさっき見ていたのです。僕の友のイド君がドクロちゃんに撲殺、粉砕されているところを──!
「♪せめせめ責め〜る さんずい つけたら 漬けるなの──♪」
僕は親友のイド君の分まで生きますとも! 僕は凄く大きいので部分部分を破砕した程度では死にません。
流石に全体の5割以上破壊されると僕でも危険な状態になります。その点でも全面破壊されないように注意せねば!
しかし僕の"壁神経超融合"により判別した結果、このままではドクロちゃんは1人の青年と対面します。
さらになんと彼は強力な殺人者のようです!
僕はなんとかドクロちゃんに注意を呼びかけたいところですが、悲しいかな僕は壁。喋る口はついていません。
不本意ながら僕は何も出来ないまま殺人者とドクロちゃんとの対面を静観しなければなりません。
ドクロちゃん、どうか死なないで──!
「あれ?」
ドクロちゃんがついに青年と対面しました。
彼の名前はアーヴィング・ナイトウォーカー。武器は強力な対戦車狙撃銃を持っています。
どうか何事も無く、少しの会話を済ませて分かれますように──!
「お兄さん、だぁれ?」
明らかに常人の姿ではない彼にドクロちゃんは無邪気に話しかけます。
もうドクロちゃん! よく見てよ、銃で撃たれてるっぽい怪我に左腕がフックだよ!?
「え、あぁ…君は?」
「もぉ──っ質問に質問で返しちゃ駄目だよ♪」
「そう…だね。俺は──」
「ボクは三塚井ドクロ! ドクロちゃんって呼んでね!」
「え?」
ああああ! もうこのアホ天使! 話を問答無用で進めたら駄目でしょっ!
僕は何もできずこの青年が修羅モードを発動させないかハラハラ見ています。
「お兄さんはこんなところで何をしてるの?」
「俺は、ミラって女の子を探してるんだけど…君は知らない?」
「ミラちゃん……? うーん知らないような知らないような……」
知らないんじゃないかい!
僕の音速ツッコミも誰にも聞こえないと少々切なくなります。
「知らないのか……なんでどこにも居ないんだろうな……」
"壁神経超融合"が彼から立ち上る異様なオーラを感知しました! ドクロちゃん逃げて!
あああ! もうこんなときにこの天使は呑気に顎に手をやって名探偵おうムルみたいな表情をしています!
「どうしてだろう……」
「うん! よく分からないけど、困ってるならボクが手伝ってあげるよ──」
その瞬間、殺人者の手に凶悪な対戦車狙撃銃が出現しました! ドクロちゃんは気づいてません!
「そしてこの愛の天使によってめぐり合った2人は!」
<ばぁん!>爆竹一箱を一点集中させたような破裂音と共に音速の弾丸がドクロちゃんの体めがけて放たれました──
いつの間にかシームレスパイアスを握ってたドクロちゃんは目を閉じながら自分の演説に聞き入ってます!
しかしその演説の手振りなのでしょうか、ドクロちゃんが音速を超越する速度でバットを振りました。
<かきぃぃん!>
丁度その振られたバットが狂気の弾丸にジャストミート。弾丸は半ば形を変形させつつ近くの僕の体に突き刺さりました!
岩盤を突き破った弾丸は僕の体内で瞬時に分解、あたりの地質に豊富な鉛と鉄分を加えて消えました。ビバ鉱物資源。
「あれ、おかしいな……なんで死なないんだろう」
<ばぁん!><ばぁん!><ばぁん!>連続で狂気の凶器がドクロちゃんの体を血の華に変えようと襲いきます。
「2人は! 愛し合う2人は! 出会い、無事の再開を喜んで抱き合い!」
<ぎぃん!><かっ!><びしっ!>ドクロちゃんは再び全てを弾きます。しかもは弾いている本人は状況を理解していません。
彼女は脳内で展開されてるスペクトルに熱中です。この危険極まりないソニックブーム発生させているスイングなど言わばオマケ!
それらを全て左手一本でやってのけるのがドクロちゃんの脅威です。腕相撲したくないランキングがかなり高いです。
一方ドクロちゃんに弾丸を弾き返された彼は何の不幸か、対戦車狙撃銃に跳ね返った銃弾が直撃しました。
発射された初速以上の速度で跳ね返ってきた銃弾は狙撃銃を完全粉砕、さらに暴発まで起こして彼の唯一の右手を吹き飛ばしてしまったのです!
「あ、あぁ…う、痛、い……」
「そしてその後2人は! もう──お兄さんのえっち!」
ドクロちゃんがはぢらいから3m前にいる両手を失った青年に向かってシームレスパイアスを投げつけました。
エレベーターでブザーが鳴ると真っ先に睨まれそうなバットは、ミサイルのように青年に頭に一直線!
「────」
思わず先端が水蒸気爆発を起こすほど加速したバットは有無言わず空間ごと青年の頭を<がうん!>と消滅させました。
青年の頭が明らかに元より質量が少ないパーツに分かれて、シームレスパイアスは僕の体こと壁に根元まで突き刺さりました。
最後に彼は何か言おうとしていました。しかしそれは大気を切り裂き、生命を一瞬で有機的な肥料に変えてしまう一撃に阻まれて聞こえませんでした。
「あ、ああ──! ごめんなさいっ!」
青年は完全に肩の上が無くなり、時々筋肉の収縮で動くスプラッタな物体に変わってしまいました。
ドクロちゃんは壁に突き刺さったバットを片手で引きずり出します。痛てててててて! もっと優しく!
突き刺さってたシームレスパイアスには傷一つついてません。恐らくドクロちゃんの天使パワーでしょうか。
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪」
ドクロちゃんがバットをチアリーダーのようにくるくる回転させ魔法の擬音を唱えます。
しかし魔法の擬音の効果は、突き刺さった僕のクレーターを治しただけで、頭部が完全に消失している彼の死体はぴくりともしません。
それどころか彼の飛び散った死肉と血漿から新しい生命が、植物の芽がぽこぽこ生えだしました。
「あれぇー? 何でかな?」
もう忘れたの!? ドクロちゃんの天使の不思議パワーが弱まってるし、それはエスカリボルグじゃないでしょ!
「どどど、どうしよう! このままじゃお兄さんの体から妙に色の赤い花が咲いちゃうっ!」
そもそも天使力の弱まった今じゃあ完全復活させるのは無理じゃあ……
ちょっと待てっ! 復活させられないドクロちゃんって、ものすごくデンジャラス。
彼女は愛用のバットが何でも出来ちゃうバットじゃないことを思い出して納得したような顔になりました。
「ボボボク、エスカリボルグ探してくるからお兄さんちょっと待ってて!」
ドクロちゃんはシームレスパイアス軽々担ぎ上げて、今度は勢いよく走り出しました。
しかし以前負傷した左足のせいで思いっきりすっ転びます。
「きゃうん! いたぁ──い……もぅ桜君ボク初めてなんだからもっと優しく……」
意味不明な寝言を呟きつつドクロちゃんは歩き出しました。
どうやらさっきのぴぴるで傷がまた少し塞がったようです。天使の異常な回復力も加担しているのでしょうか。
僕はその場に残された哀れな青年の死体に黙祷を数秒捧げ、意識はドクロちゃんを追い始めました。
──これは、ちょっぴりバイオレンスだけど悪気のない天使ドクロちゃんが繰り広げる、愛と親切さと少しバトルロワイヤルな物語。
【E-1/地下通路/1日目・14:40】
【アーヴィング・ナイトウォーカー:死亡】残り72人
【ドクロちゃん】
[状態]:左足腱は、歩けるまでに回復。
右手はまだ使えません。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: エスカリボルグを探さなきゃ!
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