作:◆eUaeu3dols
「おや、もう起きていたのか。おはようクエロ」
サラが空目を伴って保健室を訪れたのは、そろそろ3時を過ぎるかという時間だった。
「ええ、少し前に起きたわ」
「そうか。既に着替えも済ませているのは残念だ」
「着替えを済ませているのが残念?」
早々に何を言い出すのかと勘ぐるクエロ。
サラは「うむ」と頷き、手に持っていたワイシャツを掲げて見せた。
「裸ワイシャツでクエロの悩殺度アップ大作戦などを考えていたのだが」
「………………は?」
クエロの脳内で疑念が渦巻く。
(どういうつもりなの。衣服を取り上げて動きにくくさせる気?
それともワイシャツに何かを仕込んで……いいえ、そんな事をしてもすぐにばれる。
そもそも公言したという事は公言自体に意味が……)
堅苦しく決意を固めていたのが災いし困惑するクエロ。
クリーオウがくすりと笑った。
「もう、サラ。クエロが困ってるよ」
「そうか、それは残念だ。軽いジョークだったのだが」
「…………結構よ」
クエロは一気に疲れた様子で肩を落とした。
考えてみれば、自分の支給品を無意味に『巨大ロボット』などと吹く相手だ。
唐突にジョークを飛ばす可能性を考えるべきだった。
そしてサラは考える。
(そうか、そこまで戸惑うか)
裸ワイシャツはもちろんジョークだ。
だが、サラのジョークは時に本質を見抜く為のフェイクとしても使われる。
『本当に意味の無いジョーク』も乱発する以上、これを見分けるのは人間業では不可能だ。
奇人や変態、異星人とか無貌の神なら可能かもしれない。あと世界の中心とか。
(以前に放ったジョークは彼女にバッサリ切り捨てられた。なのに今度はこの有様だ)
サラは真面目な話を想定していた程度では無いと推測した。
そう、例えば……
(例えば、自分に何か仕掛けてくる事を想定したなどが有り得るだろう)
推測を元に推論を組み立てる。
(議事録で疑っている様子は見せなかったはずだ。
…………ああ、『だから』気づかれたのか)
例えば一発だけ減っている弾丸とそれに合致する謎の剣。
クエロを露骨に疑っていたゼルガディスが死んだという状況証拠。
自分が疑われるに足る種を撒いたと自覚していて、それが話題に出なかった。
なら、その裏で疑われている事を予想するのは十分に可能なはずだ。
(もしかすると、疑いの度合いを測る為にわざと疑われる事をした……考えすぎか。
どこまで疑われたかを確信する材料は無いはずだが、どうしたものか)
材料は無いはずだ。だが、だからといって辿り着いてないと限らない。
サラは、それに気づけない。
「ところで少し話が有るのだが、良いだろうか」
「話……?」
「クエロが持ち帰った剣と、あの弾丸についてだ」
(今度こそ来たわね)
クエロは改めて気を引き締める。
「ええ、良いわよ。でも……あの時の事に少し触れるかもしれないわね」
少し表情に影を落とし、クリーオウを横目で見る。
(この子を同席させても良いのかしら?)
サラがそれに応え。
「どうする、クリーオウ。あの時の話題に触れるかもしれないが」
「聞く。仲間外れは嫌だもの」
返答を任されたクリーオウから即答が返る。
「だ、そうだ。さて、ついでに君達はどうする?」
「ついでとはヒドイなあ。まあ、僕も拝聴しましょうか」
「………………」
せつらも腰掛け、空目は少し離れた場所で読書を続行した。
「そうか、では始めよう」
疑いの札を切り合うカードゲームが始まった。
「まず、クエロの持ち帰った魔杖剣そのものについて説明をお願いできるだろうか。
昼過ぎはクエロが酷く消耗していたし、詳しい話が訊けなかったからな」
(疲れが酷かった、ね。そう取ってくれるのはありがたいわ)
知っていたら話していてしかるべき事も、気にせず話すことが出来るだろう。
手札が増えた事を有り難みつつ、慎重に返事を返す。
「その前に、あなたの調べた結果を聞けないかしら。
他にも有った魔杖剣というのが気になるわ」
話の内容は、建前上はどちらが先に話そうと同じ内容だ。
しかし、実際は相手の話に『合わせる』形で情報が出される。
後攻を取った方が有利に情報を操作できるのだ。
「確かにわたしの方でも魔杖剣と弾丸について調べていたが、
その前に弾丸の本来の機能を確認しておきたいのだ。よろしく頼む」
状況の優位性を武器に切り返すサラ。
(ここで食い下がる建前は……無いわね)
クエロには情報を集める『建前』が不足している。
内心で舌打ちしつつ、折れた。無理に食い下がるのは危険だ。
「ええ、判ったわ。 マニュアルに書いてあった内容によると、あの剣は魔杖剣『贖罪者マグナス』。
弾丸を篭めて使うことにより強力な防御障壁を発動できるわ」
サラが剣と弾丸を調べた事によりどういう成果を得たのかは判らないが、
それほど詳しいことは判っていないはずだ。
そのまま札を切り続ける。
「だけどかなり使いにくいわ。発動にも時間がかかるし、脳にも負担が掛かる。
それに魔力だとかそういう物を持つ人間じゃないと使えないの。
私も今は使えないけど、元の世界で咒式という物が使えたから……」
「なるほど。
おそらく、魔力さえ有れば素人でも一つ術を使える杖というところか」
「ええ、そういう事みたいね」
(素人でも一つ、ね)
魔杖剣が咒式を使うための媒体である事を確信する材料は無いだろう。
防御障壁以外の使い方も有る事は予想されているかもしれない。
だが、建前が『弾丸を消費して防御障壁を生み出す使いにくい杖』な事は変わらない。
「とりあえず、あの剣と弾丸は私が担当するという事でいいかしら?
サラとピロテースは使えるでしょうけど、使い勝手は良くないわ」
今の所、これを断れる理由は無いはずだ。
「ふむ……念のために聞いておこう。空目、クリーオウ、せつら。
君達は元の世界で魔法の類を使った事は?」
「えっと……身体がドラゴンになっちゃった時は色々出来たけど、
あたし自身はそういう才能は無いかな」
(身体がドラゴンになっちゃった……?)
数人ほどその状況に多少の好奇心を覚えたが、とりあえずはスルー。
「俺も魔術師の真似事をした事は有るが、その時に力を借りた相手が居ない。
使えんと見て良いだろうな」
空目も使えない。
「僕は使えるかもしれませんが、脳に負荷を掛けてまで使う気にはなれませんね」
せつらの答えも予想通り。
クエロはサラへと視線を移し、視線と視線が絡み合う。
「ああ、剣はクエロに任せるとしよう」
そしてサラは、意外なほどすんなりと贖罪者マグナスを差し出した。
だが、剣だけ。
(弾丸だけ渡さない理由が有るの? まさか……)
問い掛けるクエロ。
「弾丸はどうするの? 他に使い道は無いでしょう?」
「ああ、その事についてだが、話がある」
サラが懐から柄だけの剣を取りだした。クエロにも見覚えのあるそれは……
(断罪者ヨルガ。良かった、内なるナリシアではなかったのね)
砕けた魔杖剣が『自分の切り札』でなかった事に内心で安堵するクエロ。
だが、この砕けた魔杖剣は『サラの切り札』だろう。
「この通り、これは既に刀身が砕けている。本来の機能は失われているだろう。それでも」
剣先を部屋の隅にあるバケツに向ける。
そして弾倉に術として完成された理の力を篭め、引き金を引いた。
サラの魔術が宝珠により増幅され、魔杖剣ヨルガを駆け抜け……刀身を通らず放出される。
本来の使い道、咒式ならば完成しない。しかし、別世界の魔術は既に完成している。
バケツの中の血を溶かす洗浄液が泡だったかと思うと、ぷかりと浮き上がる。
保健室の中空に浮かび上がる薄赤い水球。
中に閉じ込められているワイヤーがぐるぐると回り、蛇のようにとぐろを巻く。
輪廻を司る蛇を模して輪を作り、高速で洗浄液の中で踊り回る。
踊る極細の蛇は、既に殆ど溶け落ちていた血痕を脱皮すると……
ぱしゅっ
一瞬だけの龍の幻を伴い赤い羊水から飛び出して、保健室の床に生まれ出た。
「ワイヤー洗浄のシメ完了だ。使う時はドラゴンワイヤーと必殺技名を叫んでくれたまえ」
「ありがたく『普通に』使わせてもらいますよ」
苦笑しながらワイヤーを拾い上げるせつら。
ワイヤーの表面には血糊はもちろん、水滴一つだって残っていない。
「すごい、サラ!」
デモンストレーションに素直に感嘆するクリーオウ。
「とまあこの通り。わたしはこの剣をわたしなりに『使う』ことができる」
サラは朗々と宣言した。
(……何処まで使えるの?)
サラは引き金を引き、術は発動した。
それだけならサラが自前の魔術を使っただけかもしれない。
いや、自前なのは間違いない。
問題は魔杖剣の機能を利用したかどうかだ。
(判別しようがないか)
魔杖剣を使う前に出来なかった事が出来るようになっているかどうか。
それには、魔杖剣を使う前の全力を知らなければならない。
だが、サラが魔術を使ってみせるのはこの大層なデモンストレーションが初めてだ。
出来ないフリだとしても、それを見抜くには判断材料が足りなすぎる。
サラは攻勢を続ける。
「更にこの剣を調べて仕組みを解析してみた所、わたしもこの剣で弾丸を使う事が出来そうだ」
そういうわけで、弾丸を分けてもらえるだろうか」
(……まずは慎重に行こうかしら)
下手な返答をすれば咒式との関係まで気づかれかねない。
「解析したって……異世界のアイテムなんでしょう? 本当に使えるの?」
如何にも驚いたという表情を浮かべ、返事を返す前に逆に質問を投げかけた。
魔杖剣の仕組みを知識も無く理解出来ているはずがない。
その問いに対し、サラは淡々と答えを返す。
「問題無い。もちろん、先に言ったように本来の使い方は出来ないだろう。
剣に仕込まれた術式とでもいう物を発動させる部分は詳しく解明出来なかった」
(そう、そこは判っていないのね)
本来の用途で魔杖剣を使う為には咒式を使いこなす必要がある。
つまり、『咒式を知らない素人には使えない』のだ。
クエロは『魔杖剣と弾丸は知らない物で、説明書が有ったから使えた』と説明した。
今更明かせば、経歴に隠し事をしていたという傷が付いてしまう。
つまり、サラに咒式をどうやって発動させるかに気づかれてはまずいのだ。
「もっとも、逆に言えばそれ以外の機能は理解した。後はフィーリングだ。
本来の術式の代わりに、わたしの魔術を流し込んでその機能の恩恵を受ける。
制御の要となる刀身が失われているのは痛いが、
それでもこの刃無き剣と特殊な弾丸から得られるメリットは十分にすぎる。
それに、刀身も修復できないこともない」
「どうやって?」
「この剣は極めて精密な作りをしている。
極々微細なチューブが通っていたりして、調べるのはなかなか骨だった」
それは刀身に組み込まれたカーボンナノチューブだ。
サラは理科室の顕微鏡を蒸留水のレンズで更に拡大する事でそれを発見した。
「だがどうやら、細い導電体で緻密に繋げば機能を回復させることが出来るようだ」
「細い導電体って……何処に捜しに行くつもり?」
「いや、捜す必要はない」
サラの視線が指している物に気づき、それに視線が集まる。
「……なるほど。ぼくが代用品に使っていた導線ですね」
「その通りだ」
サラは頷いた。
「しかし、接続にはそれなりの精密さを必要とする。
設計図は出来ているのだが……せつら、君に頼めるだろうか?」
「良いですよ。地下湖を見に行く前にさっと仕上げてから行きましょう」
「では、お願いしよう」
超極細の妖糸を操り信じがたい程の魔技を現実の物とするのがせつらの本来の力だ。
細かい作業はうってつけと言える。
せつらはサラから鋼線とヨルガと設計図を受け取ると、
少し離れて長机にそれらを並べ、軽快に作業を始めた。
針に糸を通すように精密な作業だが、彼にとってこの程度は話を聞きながら出来る事らしい。
「そういうわけで、弾丸の半分はわたしが頂こう。
クエロは元々戦い向きではないのだろうし、今はその様子だからな。
それに、脳を傷めるような障壁を連続で使う事は出来ないだろう」
否……と答える事は出来ない。
クエロはあまり強くないように装っているのだ。
仕方がないとはいえ、魔杖剣の使用によるデメリット(消耗)を喋っていた事も裏目に出た。
「……ええ、良いわ」
クエロはサラの手から2発の弾丸を受け取った。
これで交渉は成立したと見ていいだろう。
予想したより状況は悪かったが、この状況でこの結果なら上々といえる。
しかしクエロには、だからこそ腑に落ちない事があった。
自分の立場を危うくする危険を踏まえてもそれを確認しておく。
「でも、何故砕けた魔杖剣を使うの?」
魔杖剣を魔術の増幅具として使えるなら、それを理由に贖罪者マグナスを奪う事も出来るはずだ。
それにサラも弾丸を使えると言う以上、弾丸もあと1発は奪っておけただろう。
1発使うだけで大きく消耗してしまうなら連発は困難なのだから。
サラはあっさりとそれに答える。
「わたしが贖罪者マグナスを使えば、この砕けた魔杖剣は余ってしまうし、クエロの武器も無くなる。
これ以上被害を出さないためには戦闘力の低い者にも自衛力は有った方が良い。何か問題が?」
(どういうこと?)
内心で混乱しつつも、それを表に出さずに答える。
「……そう、ありがとう」
「そういえば、空目とクリーオウも武器が無かったな。護身用に何か持っておくといい」
「え、あたしより空目の方が……」
サラの言葉にとまどうクリーオウ。だが、空目は首を振る。
「見たところ、俺よりクリーオウの方が鍛えている。
何か有るならクリーオウに回してくれ」
「じゃあクリーオウはぼくの銃を使うといい。ぼくはワイヤーが有ればそれで良いからね」
「あ、うん。ありがとう、せつら」
早くも作業を終えつつあるせつらがクリーオウに自分の銃を手渡す。
どことなく和やかな人の輪。
それを横目に見ながらクエロは考える。
(……わたしはまだあの輪に含まれているの?)
空目やサラなら弾丸の減少と状況からゼルガディスの殺害に気づくと見たが、その様子が無い。
単に隠しているだけだと思っていたが、それすらも確信が持てなくなってきた。
(まさか。楽観的に考えすぎよ)
戦闘力の無いクリーオウと空目を守らせるために敢えて戦力を残した。それだけだろう。
もしそうだとしても、外敵よりは協力できると考えている、と見ていい。
それも、ある程度の戦力を預けて良いほどに思っている。
(……でも、やっぱり話が合わないわ)
もしゼルガディス殺害に気づかれているならば、
魔杖剣から強大な殺傷力が生まれる事も気づかれているはずなのだ。
それほどの戦力の保持を認めている、あるいは……
(まさか……対抗出来る自信が有るの?)
考えられる事は一つ。
サラは魔杖剣を解析できた上、修復も出来る。ここまでは間違いない。
それに加えて魔杖剣と弾丸による魔術の強化が可能なのも本当で、完璧に使いこなせるとしたら……
(……つくづくとんでもない化け物揃いだわ)
それはつまり、もしも彼女と対立する事が有った時に、
魔杖剣による高位咒式が決定打にならない可能性が出てきたという事だ。
下手な手は打てない。
……だが。
逆に言えば、味方としてこれほど心強い相手もそう居ない。
(せいぜい利用させてもらうわ)
そう考え、クエロは有事にもサラとの正面衝突を避けるよう思考を組み立て始めた。
(さて、うまく行っただろうか)
全く尻尾を出さずに信用しているフリをする事で、それを信じ込ませる。
どの程度まで疑いに気づかれていたのか判らないのは痛いが、少しは効果が有ったはずだ。
加えて弾丸を自分も使えると主張すると共に弾丸の半分を奪う事で、
自分達を裏切る事に大きな危険性を想像させる。
自分の切り札を相手も同じ数だけ使えるかもしれない。
冷静で慎重な人間ならそんな相手に正面衝突を挑む事は無いし、
もし衝突するとしても真っ先に奇襲による排除対象として選ぶだろう。
だが、『誰が誰を狙う』事が予想される奇襲など不意打ちにはならない。
サラが仕掛けたのは疑惑で編んだ守りの網だ。
サラが確実に、本当に咒式弾を使えるかどうかは関係ない。
人を疑う事が出来る人間には『かもしれない』という疑惑だけで十分なのだ。
大胆なハッタリはサラのもっとも得意とする所だった。
(もっとも、それにしてもこれは少し賭だっただろうか)
クエロに魔杖剣と2発の弾丸を敢えて残したのは、数々の嘘を信じ込ませると共に、
下手に追いつめる事で危険な行動に出さないための心理的誘導策という意味合いも有った。
魔杖剣と弾丸をこれ以上に取り上げていたら、おそらく取り返そうとしてきただろう。
そうなれば激突が早まるだけでむしろ危険だ。
だがある程度の余裕を与えたという事は、裏を返せば戦いになった時に危険だという事だ。
その時も被害を出さないため出来る限りの事は布陣は整えたが、
不慮の事態を考慮すると万全と言うには少し足りないだろう。
(もっとも、十分に有利な状況さえ作れば後は出たとこ勝負だ)
大胆でありながら繊細、というには誉めすぎだろう。
サラは繊細に見えて意外と大雑把だった。
かくして疑惑のカードゲームは一局目の終了を迎える。
クエロはサラのハッタリに引っかかりながらも相手への疑惑は損なわず。
サラもクエロの疑い度合いには気づかずとも有利な札をばらまいて攻勢を仕掛けた。
* * *
「魔杖剣の修理も終わりました。ここに置いておいて良いですか?」
「ああ、それで良い」
「それじゃ、僕は地下湖の方に行ってきます」
「いってらっしゃい」
皆に見送られ、せつらはワイヤーを持って地下湖へと旅だった。
これでこの場に残るのは、サラ、クエロ、空目、クリーオウの4人となる。
「ではわたしも、その議事録にある予定通りしばらく寝させてもらう。
クエロ、隣のベッドを使って良いだろうか?」
「ええ、私は構わないわ」
隣で寝るとなれば、すぐ間近に無防備な姿を晒す事になる。
(今は味方……そういう意味かしらね)
クエロは一瞬意外に思ったが、すぐにそう思い直した。
「もしピロテース以外の誰かが来る様だったらすぐに起こしてくれ。
これでも寝起きは良い方だ」
「任せて。
せつらから銃ももらったし、何かあっても少しくらい時間を稼いでみせるから!」
クリーオウが銃を見せて言う。
慢心している様子は無い。
銃を得た所で、この殺人ゲームの中で安心を得る程の寄る辺にはならない。
それを確認して、皆は頷いた。
「頼りにしているわ」
クエロがそう言うと、クリーオウは少し嬉しそうに笑った。
(さて、他にやるべき事は寝る事だけか)
やれる事は色々有ったが、やれるだけはやっただろう。
装備の融通も情報のカードゲームも終わった。
そしてクエロに対する対策は、この最後のおまけこと添い寝作戦によってひとまず完了する。
そこまで考えた所で、ふと改良案を思いつきクエロに声を掛けた。
「では、隣で寝させてもらう。
ところで、わたしは同じベッドで仲良く寝ても良いのだがどうだろうか?」
「私にそういう趣味は無いわ」
すげなく断られた。
「……残念だ」
大人しく眠る事にする。
クエロが無防備な自分に危害を加える事はまず有り得ない。
この状況ではサラが危害を受ければクエロ以外に疑われる者が居ないのだし、
クエロにとってこのチームはとても価値のある事は間違いないからだ。
(だから、今は眠る。そして――)
サラすやすやと寝息を立て、深い眠りに沈んでいった。
その無防備な様子を見ながらクエロは考えこむ。
(サラは死体を使い捨てられる合理的思考を持つが、今の所は敵では無い。
それどころか今の状況ではこうやって無防備な姿も見せる。だけど……)
クエロはサラの目的が読めないでいた。
クリーオウ、ピロテースやゼルガディスなどと違い、人捜しに懸命になる様子は無い。
参加者のダナティアという女性は仲間らしいが、合流に躍起になってはいない。
これは秋せつらにも言えるが、彼にはまだ捜し屋という仕事意識が存在する。
空目の厭世的な感とはかなり近い気がする。
だが、彼ほど流れに身を委ねる性格ではないようだ。
他の仲間をダシにすれば利用は出来るだろう。
自分を敵とは思っていない
にも関わらず目的の読めない人間に、少々の不気味さを感じながらも……
「……まあいいわ。おやすみなさい、サラ」
今の所、互いを害する事は無いだろう。
(それなら、少なくとも今は利用できる)
そう結論を出すと、クエロもまた浅い眠りに就いた。
【D-2/学校1階・保健室/1日目・15:30】
【六人の反抗者】
>共通行動
・18時に城地下に集合
・ピロテースは城周辺の森に調査に向かっている。
・せつらは地下湖とその辺の地上部分に調査に向かっている。
・オーフェン、リナ、アシュラムを探す
・古泉→長門(『去年の雪山合宿のあの人の話』)と
悠二→シャナ(『港のC-8に行った』)の伝言を、当人に会ったら伝える
>アイテムの変化
強臓式拳銃『魔弾の射手』:せつら→クリーオウ
ブギーポップのワイヤー :バケツの中→せつら
ヨルガ柄&刀身+鋼線 :簡易修復完了。鋼線はせつらから。
高位咒式弾×4 :クエロ4→クエロ2/サラ2
【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]: 健康
[装備]: 強臓式拳銃『魔弾の射手』
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図。ペットボトル残り1と1/3。パンが少し減っている)。
缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)。議事録
[思考]: みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい
[行動]: 空目と共に起きておき、誰か来たら警戒。
【空目恭一】
[状態]: 健康。感染。
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式。《地獄天使号》の入ったデイパック(出た途端に大暴れ)
[思考]: 刻印の解除。生存し、脱出する。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。
クエロによるゼルガディス殺害をほぼ確信。
[行動]: クリーオウと共に起きておき、誰か来たら警戒。
【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲労により再度睡眠中。
[装備]: 毛布。魔杖剣<贖罪者マグナス>
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾×2
[思考]: 集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
魔杖剣<内なるナリシア>を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: サラの目的に疑問を抱く。
空目とサラに犯行に気づかれたと気づいているが、少し自信無し。
【サラ・バーリン】
[状態]: 睡眠中。健康。感染。
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、魔杖剣<断罪者ヨルガ>(簡易修復済み)
[道具]: 支給品二式(地下ルートが書かれた地図)、高位咒式弾×2
『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵、危険人物がメモされた紙。刻印に関する実験結果のメモ
[思考]: 刻印の解除方法を捜す。まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。クエロを警戒。
クエロがどの程度まで、疑われている事に気づいているかは判らない。
【秋せつら】
[状態]: 健康。クエロを少し警戒
[装備]: ブギーポップのワイヤー
[道具]: 支給品一式(地下ルートが書かれた地図)
[思考]: ピロテースをアシュラムに会わせる。刻印解除に関係する人物をサラに会わせる。依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]: 刻印の機能を知る。
[行動]: 地底湖と商店街周辺を調査、ゼルガディスの死体を探す。
ピロテースは別行動中です。
せつらも別行動を開始しました。
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第427話 | クエロ | 第470話 |
第427話 | 秋せつら | 第476話 |
第427話 | クリーオウ | 第470話 |
第404話 | サラ・バーリン | 第470話 |