作:◆xSp2cIn2/A
雨が降っている。
その量はすでに初めの倍以上になっており、一メートル先も満足に見られないほどだった。
そんな中、雑草を踏み分け二人の人間が歩いているのが見える。
一人はセーラー服を着た無表情の少女。もう一人は革ジャケットを着た長髪の少女。
長門有紀と匂宮出夢だ。
両者とも、降りしきる雨に全身ずぶぬれ。服は身体に、髪は額に、それぞれ張り付いている。
「おねーさん!!」
出夢がどなった。雨の音で、そうしても声がはっきり聞き取れない。
「やっぱり雨宿りしよーぜ! こうも降って来るとは思わなかった!」
出夢の声がちゃんと聴こえたのか、長門はこくりと頷く。
「んじゃ、そこにある倉庫に行こう。服も乾かさなくちゃな。おねーさん、下着が透けててかなりエロいぜ! ぎゃははははは!!」
出夢はあくまで陽気(というよりハイ)に、長門は無表情で、少し進路を変える。その倉庫とやらは雨で全く見えないが、二人にはしっかりと見えているようだ。
そこからさらに数メートル進むと、ようやく倉庫が見えてきた。古びた工場倉庫で、もう使っていないのか、その壁面はところどころ錆びている。
倉庫の鉄扉は開いていた、二人はそのまま何のためらいもなく倉庫に足を踏み入れる。
「うわ! なんだこりゃ?」
出夢が大げさに驚く。
無理もない。倉庫の中は見るも無残に荒れ果てており、そこら中にフレームの曲がったコンテナや、ぐしゃぐしゃに潰されたダンボールが散乱していたのだ。
出夢は入り口に長門を残すと、台風にあった後のような倉庫内を探索することにした。
出夢はしばらく、壊れた機材や崩れたダンボールの山、何かの足跡のように割れたコンクリートの床などを調べていたが、床のある一点を見て立ち止まる。
そこにあったものを出夢は指でつまんで拾うと、自分の目の前にかざす。鮮やかな紅色をするそれは、人間の髪の毛だった。
「紅い毛……こいつぁまさか死色の髪の毛か? もしそうだとしたらここに死色が居たってことだよなぁ……つーことはこれもあの死色の真紅の仕業か?
……ぎゃはははは!! マジでやばい所だったぜ! いくら僕が強いからって、おねーさんを庇いながらじゃ死ぬっつーの!」
出夢はひとしきり哄笑すると
「ったく、おにーさんじゃねぇが……戯言だよな」
そう言って、入り口へと引き返す。
「おねーさーん! とりあえず大丈夫だったぜ。ここで休もう。」
二人は倉庫内に散らばっているダンボールや木材を集め、火をおこすことにした。
木材をやぐらのように組み、ダンボールを火種にする。
ダンボールなどを漁っているときに三ダース程チャッカマンが入っていた箱を見つけたので、それで火をつけることにした。
出夢がダンボールに火をつけると、小さかった火はすぐに乾いた木材へと燃え移り、パチパチと音を立て始める。
それから二人は、さらに折れたパイプなどを使って簡易物干し台をこしらえ、びしょびしょになった服を脱いで焚き火の近くに干した。
下着姿になった二人は炎を挟んで向かい合うようにしてすわり、会話を交わし始めた。
「で、とりあえず坂井とその古泉って奴を探すってことで、いいんだな?」
「坂井悠二をさがす利点がわたしには無い。古泉一樹のみを探すべき」
「そう言うなよおねーさん。あんたらが分かれた経緯は聞いたが、坂井は僕が殺させねーよ」
「あなたもそう。わたしはあなたも殺してしまうかもしれない」
「あ? なにいってんだよ。さっきも言ったが僕は最強の次に強いんだ。おねーさんが殺し屋を殺すなんて百億年はえーよ」
「そう」
「そうだよ。そういや、その古泉ってやつはなんだい? おねーさんの恋人? ヒュゥ 妬けるねぇ」
「SOS団の団員。仲間」
「ふうん。仲間、ねぇ。ぎゃははは!! おねーさんはあんまり団体行動が得意そうにゃぁ、見えねーけどな」
出夢の言葉に、長門は沈黙し、顔を伏せる。
その鉄面皮が僅かに揺らいだように、出夢には見えた。
「そう。でも」
長門が、伏せていた顔を上げる。
それはいつもの彼女では、なかった。
「彼らはわたしを仲間として扱った。彼はわたしを対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスだと知っても、仲間として扱った」
それは彼女にとって初めて、じぶんの感情を表に出す行為だったのかもしれない。
「わたしはそんな彼を、彼らを、ただの観察対象とは思えなくなった。僅かなノイズが生まれた」
長門有希は、無表情のまま、泣いていた。
顔面の筋肉が常に硬直しているのではないかと思われるようなあの彫像のような顔の上を、熱い涙が流れていく。
「しかし彼らはいなくなった。僅かだったノイズはわたしを蝕むようになった。そのノイズは徐々にわたしを支配している。これもその、ノイズ」
それを見る出夢は笑っていた。
口の端を片方だけ軽く持ち上げ、白い歯を僅かに覗かせて、少しだけほっとしたように。
「なぁんだ。おねーさん、泣けるじゃんか。仲間が死んでも泣かないような、妹が死んでも泣かないような、僕みたいな奴かと思った」
出夢はその笑みを濃くする。
「でも泣けるなら僕は負けねーよ。その弱さが僕にはないから……その分、僕の勝ちだ」
長門は泣いていて、出夢は笑っていて、外は雨がふっていて。
「雨が止んだら探しに行こう。古泉と、坂井を。僕がこんなことを言うのはちゃんちゃらおかしいが、今じゃ坂井だって、おねーさんだって、仲間だ」
長門が僅かに首を傾け、うなずいた。
【E-4/倉庫内/1日目・14:40】
『生き残りコンビ』
【匂宮出夢】
[状態]:平常
[装備]:なし
[道具]:デイバック一式。
[思考]:生き残る。あまり殺したくは無い。長門と共に悠二・古泉を探す。
【長門有希】
[状態]:平常/僅かに感情らしきモノが芽生える
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?
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