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第408話:戯言は止まらない

作:◆Sf10UnKI5A

 海岸傍の草原を二人の少女――片方の精神は男だが――が歩いている。
 匂宮出夢と長門有希の二人は、マージョリーから逃げた後に市街地に隠れて体力を回復。
 その後、SOS団最後の生き残りである古泉と、行方不明になった坂井悠二を探して歩き続けていた。
 しかし、かなりの距離を歩きはしたが、結局二人以外の誰かにすら会えずにいた。
 ―― 一旦戯言遣いのお兄さんとこに戻っかぁ……?
 出夢の後ろを歩く長門は、今はしっかりとした足取りをしている。
 しかし、人間としては規格外である自分に、いつまでも付き合わせるわけにいかない。
 ――どっちにしても、まずは少し休んでからだな。
 二人の歩く先には、一軒の大きな建家がある。


 海岸からほど近いD−1にある公民館の中では、頭脳派四名による情報交換が続いていた。。
「――とまあ、ありえないほど馬鹿らしい話だったけれど、それが平和島静雄って男なんだよね」
「自販機投げてナイフを腹筋で弾き返す、か。今更どんなバケモンが出てこようと疑わへんわ……」
 溜め息をつく緋崎ことベリアル。
 自分の怪我が、正真正銘の化け物によって負わされたものだとまでは言わない。
「さ、次はそっちが情報を出す番だ」
「そやったな。おらガユス、お前の番やで」
 言いつつガユスの体を小突く。
「……ああ、クエロのことだったな。あの女は……」
 未だに鬱々とした暗い顔をしているガユスは、そのまま話し始めようとして――

 突然、強烈な衝撃音と共に部屋の扉が破壊され、ガユスの言葉は中断させられた。

 ――いきなり何や!? これ以上の面倒は御免やで……!
 ベリアルを初めとし、全員が疑問を顔に浮かべ、鍵と蝶つがいの壊れた扉を見る。
 そこに立っていたのは、
「どぉ――もこーんにーちはーァッ! 何か話し声が聞こえたから、不っ法侵入してみましたぁ!!
まことにお騒がせしております……って選挙カーかっつーのっ! ぎゃははははっ!!!」
「…………」
 けたたましく騒ぎ立てる少女と、対称的な無言無表情の少女だった。

「……あんたら、何もンや一体……」
 闖入者に対し、ベリアルは呆れと警戒が入り混じった声をかける。
「あーん? お兄さん、『殺し屋』に向かって名前を聞くのかい?
どうなっても知らねーぜ? もっとも『元・殺し屋』だけどな――ぎゃはははっ!」
「…………」
 返ってきたのは、物騒な内容の叫びと無言だった。
「つ――――っかっさぁー、みんなそんなに僕に注目しないでくれるかなあ?
そんな風に見つめられたら、いやあん出夢ちゃんは体の芯の奥まで
火照って震えて痺ッれちゃうぅーううううう……イエーっ!!」
『…………少し落ち着けそして黙れ』
 ベリアル、臨也、ガユスの声が見事に重なった。

「……で、出夢君? 君はゲームに乗ってるのかい?」
 たまたま一番近くにいた臨也が問いかけた。
「生憎ながら、殺戮は一日一時間って決めてるのさ。
大事な一時間をあんたらみたいな弱そうな人に使う気は無いね」
 ある意味予想通りの、微妙にズレた回答が返ってくる。
「そっちの子は?」
「……長門有希」
 今度は意外なことに、ここに来て初めて長門が口を開いた。
 しかしその口はすぐに閉まり、また出夢が話し出す。
「おいおいおいおいお兄さん。一方的な質問はちょーっと卑怯じゃないかい?」
「まあ、それもそうだね」
「だろ? つーわけでっ質問ターイム。三つ受けたからこっちも三つな。
まず、坂井悠二って男を知ってるか?」
 答えはノー。
「んじゃ、古泉って男は?」
 これもノー。
「なんでぇ外れかよ。そいじゃ、最後の一つだけどさあ――」
 一拍の間が空き、
「そこのお姉さんの名前、教えてほっしいなあー」

 その言葉の意味を真に理解していたのは、問いかけた出夢と質問対象の子荻だけ。

(何故、話し相手の俺じゃなくて子荻ちゃんを……?)
 疑念を持った臨也の返答が遅れる。そして、
「――確か、萩原子荻やったなあ」
 臨也のわずかな変化を見たベリアルは、横から素早く口を挟んだ。
 その言葉を聞いた出夢の表情は、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま深く頷く。
「なっげえ髪に、その物腰、その眼……間違いねえか。
にしても、『策師』の萩原子荻までいやがるたあな。
哀川潤だけでも僕ちゃん震えて漏らしちゃいそうなのにさあ……」
 ぶつぶつと一人呟く出夢。
「おいガキ、何の話しとるんや?」
「お兄さん達とは違う世界の話さ。関わらない方が身のため――つってももう手遅れか。
こんな島まで連れてこられちゃあなあ」
 出夢は、ゆっくりとした手の動きで長門を廊下へ下がらせた。
「その肩の物を撃つなよ『策師』。今お前が撃ったら、僕は全身全霊全力をかけてここの全員を殺戮しなきゃならねえ」
 物騒なことを言いながら、出夢もゆっくりと下がった。
「お兄さん達に大サービスで、つまらないことを話してやるよ。
そこにいる『策師』は、殺戮奇術集団である匂宮雑技団と、
殺人鬼集団の零崎一賊を敵に回して対等に渡りあったっつー唯一の存在だ。
僕がその雑技団でさんざっぱら言われたことはなあ――」
 一拍の間が空いた。

「――『死色の真紅・哀川潤と策師・萩原子荻には関わるな』」

 沈黙は長くは続かず、打ち切ったのは出夢自身。
「こんな島でゲームなんかに巻き込まれてなきゃ勝負してるんだけどな。
血の臭いがプンプンするし、戯言遣いのお兄さんのことも気になるし、僕は逃げさせてもらうぜ。
そんっじゃあ、アッッディオ―――― ォォォスッ!!」
「ちょっ、待――」
 既に廊下を走る出夢に、静止の言葉は届かない。
 結局出夢は、突然現れ好き勝手喋りあっという間に消えてしまった。
 部屋に残ったのは、困り顔の臨也と、無表情を貫く子荻と、
その二人をあからさまな疑念の目で見るベリアルとガユスだった。

「いやぁ、悪いなおねーさん。まさかあんな化け物がいるとは思わねえっての、ぎゃははっ!」
「それはもういい。降ろして」
 マージョリー・ドーから逃げた時と同じ様に、長門は出夢の腕に抱きかかえられていた。
 わりぃわりぃ、と一応の謝罪をしつつ、出夢は長門を降ろした。
「んじゃ、一回お兄さんところに戻ろーぜ。もしかすっと古泉ってのがいるかもしれねぇしな」
 長門の返事も聞かずに出夢は歩き出す。結局長門もその後に続いて歩き始めた。
 既に彼らの戻る場所には、誰も残っていないと知らぬままに。

【D-1/公民館外/1日目・14:00頃】

『生き残りコンビ』
【匂宮出夢】
[状態]:平常
[装備]:シームレスパイアスはドクロちゃんへ。
[道具]:デイバック一式。
[思考]:生き残る。あまり殺したくは無い。長門と共に悠二・古泉を探す。
    子荻から距離を置く。

【長門有希】
[状態]:平常/僅かに感情らしきモノが芽生える
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?

[チーム備考]:F−4の森林部を目指して移動。


【D-1/公民館/1日目・14:00頃】

『ざれ竜デュラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿(裂傷傷)左腿(刺傷)右腕(裂傷)の三箇所を負傷(処置済み)、及びそれに伴い軽い貧血。かなり疲労。
[装備]:知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、グルカナイフ、探知機、リボルバー(弾数ゼロ)
[道具]:デイパックその1(支給品一式、ナイフ、アイテム名と場所がマーキングされた詳細地図)
     デイパックその2(食料二人分、リボルバー(弾数ゼロ)、咒式用弾頭、手斧、缶詰、救急箱、ミズーを撃った弾丸)
[思考]:1.休息。 2.戦力(武器、人員)を確保した上で、クエロをどうにかする。3.子荻と臨也に強い疑念。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕と肋骨の一部を骨折(処置済み)。かなり疲労。
[装備]:光の剣、蟲の紋章の剣
[道具]:デイパック(支給品一式) 、風邪薬の小瓶、懐中電灯
[思考]:1.休息しながら子荻たちと交渉。 2.とりあえずガユスと組んで最低限の危機対応能力を確保。 
     3.カプセルを探す。  4.子荻と臨也に強い疑念。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は、まだ正確に判断できていません)

【折原臨也】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター、禁止エリア解除機
[思考]:1.セルティを探す&ゲームからの脱出? 2.萩原子荻達に解除機のことを隠す。
     3.ガユス達にライフルの真実を隠し通す 4.ベリアルから情報や物資を引き出す。場合によっては強奪。
     5.子荻の正体にひそかに興味を持つ。

【萩原子荻】
[状態]:正常(臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている)
[装備]:ライフル
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:1.セルティを探す&ゲームからの脱出? 2.哀川潤から逃げ切る。
    3.ガユス達にライフルの真実を隠し通す  4.この状況をどうしたものか。

2005/07/16 修正スレ149
2005/07/16 修正スレ152-4

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