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第314話:乾いた血の朝

作:◆R0w/LGL.9c

「ありゃ無理だな」
すごい速さで走り去っていく男を見て<人間失格>はつぶやく。
相手はこちらに気づいていたようだが歯牙にもかけず走り去っていった。
「ありゃあどう見ても殺し屋とかそんな感じだわな。
 流石に物騒なヤツが三人集まったら何が起こるか」
独白を呟いてシニカルな笑みを浮かべる。
でもいいナイフ持ってたな。少し惜しい。
手に持つ血にまみれた包丁を見下ろす。
後で研いでおくか。いつまでも切れ味の鈍いもの使うなんて勘弁だな。
やたら切れ味のいい、兄貴の持ってた大鋏を思い浮かべる。
とりあえず凪のところへ戻るか。

がさがさ
凪ちゃんのもたれかかった木の枝が揺れる。
「おーい戻ってきたずぇっとわっ!?」
零崎の声、と同時に凪ちゃんが後ろの木を蹴りつけた。
あいつの乗っている木を思いっきり蹴られ、枝から落ちた。
ひょいっと体を猫のように一回転させ着地する。ビバ・身の軽さ。
「おいおい凪っちさんよぉぉ。俺以外のヤツが近づくはず無ぇんだから木を揺らさないでくれっかよぉ。
 俺が例えばスペランカーなら今のでお陀仏さんだぜ?」
「糸に掛かった奴かもしれん。一応の用心だ」
「それに零崎、スペランカー先生はそんな木の上なんていう死地には赴かないよ」
「それもそうだな。ん? おやおや? <人食い>の匂宮はどこへ行ったんだ?」
大げさにあたりを見回して聞く。相変わらずリアクションが巨大な奴だ。
ちょうど出夢くんが出て行って10分。入れ違いすれ違いになった形だ。
「僕と凪ちゃんとドクロちゃんで出夢くんを手ゴメにしようとしたら愛想をつかされて・・・」
がきん。がつんがつん。
わりかし本気で殴られた。軽い冗談のつもりなんです。追撃はやめてください。
ドクロちゃんは意味が分からなかったのかほけーっとしている。ずっとそのままの君でいてくれ。

「あいつは仲間を追っかけていった。それより糸に掛かった奴はどうだったんだ?」
「ああ〜。駄目だった。もう駄目駄目。完全に人殺しって感じの男で見向きもしないで走り去っていった」
かははっ、と笑いながら説明になってないような説明をした。人殺しかどうか一目でわかる殺人鬼も便利だな。
「うん? おっ! そこのぴぴるのガキが持ってるのって愚神礼賛<シームレスパイアス>じゃねぇか!
 大将のバットだぜ!」
ぐいっと釘バットを引っ張って──離さないドクロちゃんをげしげし蹴りながら──重さを確かめてみる。
「この凶悪な重さは間違い無ぇ…零崎一族のエースの武器だぜ。
 もっとも、この場合はスラッガーって呼んだほうが好いかもしれないけどなっ」
ぱっとバットを放して、その反動でドクロちゃんが転んでいる。ひどいなあ零崎。女の子は大切にしないと。
まぁこいつの基本方針は、老若男女差別なく、だし。
「で、お前はその引っかかって外れた糸を戻してきたのか?」
「糸? なんの事だ?」
おい。
神様、こいつはアホですか?
「張りなおして来い」
びしっと零崎が行ったほうを指す。
零崎はずずいっと僕の目を見てきた。手伝え、ということなのだろう
「…欠陥製品♪」
「嫌だ」
「戯言遣い☆」
「お断りだ」
「…愛してるぜ」
「甘えるな」
言い争う僕と零崎。いい加減僕だって張りなおすなんていう単純作業は勘弁だった。
「いいから二人で行け」
「「はい」」
凪ちゃんの一声で僕らは再三の罠修復作業に向かった。

「ただいま」
ようやく糸を張りなおして戻ってきた。
精神的に疲れた。木の根に座り込む。
どうやらドクロちゃんは眠ったようだ。零崎のバッグを枕にして、釘バットを抱えて寝ている。

「零崎。石ころなんか拾ってきてどうするつもりだ?」
「ここらの石ころは質が良くてな。砥石の代わりに使えそうだからな。
 いい加減この包丁も血糊落とさねぇと錆びるっつーの」
そういって零崎はデイパックの水をこぼして、包丁を研ぎ始めた。
ああもったいない。そういえば僕のデイパックどうしたっけ。
うーん。喋るベスパのエルメス君はちょっと惜しかったかも。
しばらくして凪ちゃんが立ち上がって歩き出した。
「どうしたんだい凪ちゃん?」
「小用だ」
小用?小さな用事?それっていったい。
「何ならついていこうか?」
「来たら殺す」
殺す言われました。隣では零崎が肩を上下させている。笑ってるのか?
そう思ってる間に凪ちゃんは森の奥へ進んでいった。
「そっちは崖があるから気をつけろよ凪」
消えていったほうに声を上げる零崎。
ああ小用ってトイレね。なら最初からそういえばいいのに。
僕は零崎の研磨作業を見ていた。
さらに少しして、彼女が戻ってきたときは愉快な仲間が二人ほど増えていた──

【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/零崎人識/霧間凪/三塚井ドクロ)
【F−4/森の中/1日目・09:15】
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 サバイバルナイフ 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:出雲とアリュセをどうしようか

【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
    右手はまだ使えません。 睡眠中。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
  ※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]: 出刃包丁
[道具]:デイバッグ(支給品一式)  砥石
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 罠に掛かった奴を探す
[備考]:包丁の血糊が消えました。

【出雲・覚】
[状態]:左腕に銃創あり(出血は止まりました)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/うまか棒50本セット/バニースーツ一式
[思考]:千里、新庄、ついでに馬鹿佐山と合流/アリュセの面倒を見る

【アリュセ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:リリア、カイルロッド、イルダーナフと合流/覚の面倒を見る

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