remove
powerd by nog twitter

第313話:神様なんていないけどもし居たら

作:◆qEUaErayeY

【このレディと共に倒れていたので既に死亡したか気絶しているものと思っていたが──いやはや、無事でよかった!
それにしても、ふむ、君は何者だね? 魂からして人間でも吸血鬼でもダンピールでも食鬼人でもないようだが……】

肺の痛みに堪えつつ目の前の相手との間合いを計る。警戒心は解かない。
こいつ、オレが普通の人間じゃないって気づいてる? なら近からず遠からず曖昧に答えるのが得策か。
後は話題転化。大丈夫、カードで鍛えたポーカーフェイスで切り抜ける。顔に出やすい少女は今は居ない。
「確かに“普通の”人間では無いけど一応人間。他のやつより治癒力が高いだけ。
 オレから見たらあんたのが全然吸血鬼に見えないよ」
【我輩はゲルハルト・フォン・バルシュタイン! 子爵の位を賜り、グローワース島のー】
…いや、繰り返せとは言ってないから。

【傷の具合はどうかね?】
「…まぁ、なんとか」
【いやはや、全く君の回復力には敬意を表するよ!】
「そりゃどうも」

とりあえずあの後、簡単な自己紹介(もちろん自分が不死人であることは伏せてあるが)と情報交換を
済ました結果、お互い殺意が無い事が分かり、それから他愛も、少なくとも自分にとって本当に他愛も無い
会話を続ける事、数十分。とっとと何処かに行くのかと思ったら(きっと自分がそう願ってただけだけど)
どうやらこの長ったらしい名前の血液子爵はコミュニケーションを止める気は無いらしい。
文字通り何も言わないから分からないけど(もともと意思疎通は苦手だ)たぶん怪我をして動けない
自分を気遣って残っててくれているのだと思う。本当はもう動ける程度には回復してるんだけど。
まぁ、どっちにしろ今襲われたら対抗する術が無いから正直ありがたい。相手が素人ならともかく
先ほどのウルペンのような特殊な攻撃を仕掛けてくるようなやつが出てきたらひとたまりもない。
この島には変な奴ばかり集めらてるらしい。小さな溜め息を一つ、完治したばかりの肺から吐き出す。
…どうやらオレの周りに集まるやつは、お人好しか、明らかに敵意を露にしているやつの可能性が高いらしいな。

【服は着替えたほうが良いであろうな。そんな血みどろの格好ではレデイに対する第一印象は最悪の部類に属するだろう。
あぁ、いや他の紳士淑女に対してもだがね!】
「分かってるよ」
慣れないやりとりに、最初は戸惑いつつも、数分で違和感が無くなったのは
自分の適応力のおかげと言うか、頼るのは視覚じゃなくて聴覚だけど似たような口うるさい旅連れがいるせいと言うか、
はたまた非日常が日常茶飯事故と言うか。そもそも自分自身が非日常の塊なのだから人(?)のこと言えないし。
そんな事を考えていると不死人として何十年も生きてきた自分に、大半の人間があたりまえに持ってる日常を
少しづつ分け与えてくれたのが他ならぬ、霊感の強いネガティブ思考の少女だったのだと改めて思い知らされた。

ごろんとコンクリートの上に再び寝転がる。背中がひんやりと冷たい。真昼といってもそんなに気温は高くないようで
降り注ぐ日差しも眩しくはあるが熱波というには程遠い。そもそもこの世界に季節なんてものが存在するのかは知らないが
過ごし易い気候だ。全く、こんなとこを配慮するくらいなら、最初から俺たちを巻き込まないで、どこかもっと遠くの
次元で殺し合いなり何なりしてもらいたかった。教会のやつらはこの状況を見てもまだ神様が存在すると思うだろうか?

透き通るような青空は以前変らない。流れる雲は白い。自分達が居た世界とは大違いだ。
…っと、そろそろ無駄な思考は中断。今は生き残る方法を最優先で考える。
とりあえず今後の方針は固まってる。時間的にもう始まるであろう放送を聞いて死亡者と禁止エリアを
確認した後、武器を調達しつつ人気が集まりそうな場所へ移動。子爵とは此処で別れよう。
キーリに再開出来たら、また怪我してるとか言われるだろうけど、きっと何だかんだ言って人に負けないくらい
あいつも擦り傷だらけでいるような気がする。早く見つけなきゃ。

ぐるぐるといろいろな考えが頭を占領する。するとネガティブ思考なのは自分も同じようで最悪の事態が頭の隅を掠めた。
今まで考えないようにしてた事。じわじわと範囲を広げていく。それはまるで大地震のP波のような災害直前の警鐘。
いや、直前と言っては語弊がある。P波が発せられる時点で災害はすでに確定事項であり、始まっているのだ。
今の自分にとっての最悪の災害、それは…。
もしキーリが死んでいたら…自分はどうするだろう。

自殺する?
…それは絶対ありえない。そんな簡単に死ねないし。痛いのやだし。

ゲームに乗る?
…昔のように兵士として淡々と人を殺す姿を思い浮かべるのは、そんなに難しいことでは無い。むしろ…。

協力者を集めて脱出する? もう、キーリは居ないのに?
………あぁ、興味ねぇ!!

ガバッと勢いをつけて起き上がる。赤銅色の瞳にはもう青い空は映ってない。
脱水症状も治った。肺も完治した。あとは放送を待つのみ。
そっと目を閉じて心を静める。どんな結果が出ても冷静に対処できるように。

そして第二回目の放送が始まる。どうか杞憂でありますように…。

【No Life Brothers?】
【C-8/港町/1日目・12:00】

【ハーヴェイ】
[状態]:完治。動くのに支障無し
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:武器調達をしつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
 [状態]:健康状態 
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
      アメリアのデイパック(支給品一式)
 [思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている
 [補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません
     この時点で子爵はアメリアの名前を知りません

※アメリアはD−4エリアに埋葬されました。(ただし、墓に名前はありません)
*ハーヴェイは不死人・核の事については話してません。
  子爵も祐巳の食人鬼について話してません。

2005/05/11 修正スレ95-96

←BACK 目次へ (詳細版) NEXT→
第312話 第313話 第314話
第286話 ハーヴェイ 第350話
第286話 子爵 第350話