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第279話:不幸の打ち止め

ギギナから逃れたヘイズとコミクロンはF-6エリアの砂浜で休息していた。
「あー、くそ。右手が動かないのがこんなに不便だったとは…パンの袋が開けられん」
「命が有るだけいいじゃねえか。<天才も不滅ではないと言うことほど、
 凡人にとって慰めになることはない>って言うしな。ほらよ」
ヘイズがコミクロンの袋を手に取り、パンッと小気味いい音がした。
「悪いな。しかし今のは誰の言葉だ?俺の世界じゃ聞かない台詞だ」
「ゲーテっつう昔の詩人だ、ちっとわ慰めになったか?」
「十分だ。それに詩か…、こういうのが趣味か?ヴァ−ミリオン」
パンを頬張りながら意外そうにコミクロンが返事を返す。
どうやらある程度の疲労は取れた様だ。
「いいや、俺が最近出会った読書と水玉模様が好きなお姫様が名言集を読んでてな。盗み読みした。
 他にもあるぜ、<天才とは、何よりもまず苦悩を受け止める先駆的な能力のことである>
 …どうだ?博識っぽく見えるだろ?」
「後の方はあえて無視するが、俺には相応しい言葉だな。ただ現状この大天才には思考すべきことが
 多すぎて苦悩どころじゃない」
ヘイズの言葉を軽く聞き流しながらコミクロンは右腕を見る。
相変わらずまともに動かないが、魔術師の自分には致命傷ではない。
「一番の問題は著しい能力低下だ。医療関係の構成にかけては、予定ではなく大陸一を自負していた
 この大天才が傷口をふさぐのが精一杯だとはな…。次にこの<呪いの刻印>
 とかいうもんをどうにか…ムグッ!ムグムゴムッガ!」
ぶつぶつとつぶやくコミクロンの口をヘイズはふさぎ、有機コードをわめくコミクロンの頭につなぐ。

有機コード伝いならコミクロンの頭に声を直接送ることができる。
(ぺらぺら喋るな馬鹿。刻印には盗聴機能があり、音声は開催者側に筒抜けだって
 教えといただろーが!これ以上独り言を漏らしてたら、魂を消し飛ばされちまうぞ!)
(すまん。少し冷静さを欠いてたみたいだ。こんなことで死んだら笑いもんにもならないな)
(刻印のほうは今俺が情報処理に特化したI−ブレインで、己の情報を偽って侵入してる。
 論理回路とは若干異なる系統の構造や、未知の力の働いている部分も多いんで
 分からないことが多いんだが…今お前の脳にだいたいの構造を送ってみる)
ヘイズが送って来たのは、幾種類の魔術構成から成る<呪いの刻印>の構造式だった。
(うおっ!なんだこりゃあ?随分と複雑でしかも強力な構成だ)
コミクロンが派手に驚く。ヘイズはなかなかのリアクションだと思いながら、
(何か分かるか?)
(人の精神…いや魂その物と強く結び付いてるようだ…無理に引き剥がすと、
 恐らく魂がダメージを受ける。最悪死ぬな)
主催者が説明していた事だが、ハッタリではなかったらしい。ヘイズは天を仰いだ。
(厄介なもんつけられちまったぜ。取るのミスれば即昇天かよ)
まだ不幸は打ち止めではないらしい。

しばらく二人ですったもんだしながら、I−ブレインの機能低下による演算効率の悪さと、
手強いガードにてこずりながらコミクロンの協力でなんとか解析してゆく。
しかし、ある地点で二人の全く知らない構造にぶつかってしまった。
(ヴァーミリオン、ここから先は俺の知らない魔術の構造だ)
(ここまで分かりゃあ上出来だぜコミクロン。とりあえずはここまで解析した構造を
 元にして俺が刻印の解除構成式を組み立てる。だが俺のI−ブレインは記憶容量不足だ。
 代わりにお前の脳に構成式を保存する…良し、終わった)

「この世界に来て二つ目の収穫だ。ようやく運が回ってきたな」
二人は有機コードをはずして今後の予定を立てることにした。ヘイズが地図を広げる。
「とりあえず構成式の完成が優先だな。こういうのに詳しそうな奴らが集まるのは…」
「海洋遊園地だ」
「なあコミクロン、学校にいい思い出が無いからって何でそんな所に行きたがるんだ?」
「学校が嫌いなんじゃないぞ。絶対に。ただ俺は遊園地というのに興味があるんだ」
ヘイズはFのエリアをなぞりながら地図をにらんむ。
「じゃあまずは島を横断する。遊園地に着いたら北上して公民館→学校の順で回ってみるか」
「異義なし、だ。日が暮れるまでには着いときたいな。残ってるならエドゲイン君も回収したい」
「そういえば俺達丸腰だな…パンの袋に砂でも詰めとくか。目潰しに使えそうだ」
しゃがんで砂を集めるヘイズを見ながらコミクロンはつぶやく。
「クレア、いーちゃん、しずくを探すのは後回しか…」
なんだか名残惜しそうだった。
二人の魔法使いは荷物をまとめて歩き出した。反撃のために。


【F-6/砂浜/一日目10:40】
【凸凹魔術師】

【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:健康
[装備]:砂袋
[道具]:支給品一式
[思考]:刻印解除構成式の完成。騎士剣を探す。
[備考]:刻印の性能に気付いています。


【コミクロン】
[状態]:軽傷(傷自体は塞いだが、右腕が動かない)
[装備]:未完成の刻印解除構成式(頭の中)
[道具]:無し
[思考]:刻印解除構成式の完成。クレア、いーちゃん、しずくを探す。
[備考]:服が赤く染まっています。

【残り85人】

2005/04/30 修正スレ79

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