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第253話:無力と、無力ではないもの

作:◆l8jfhXC/BA

(……ばかみたい。泣いてわめいても意味がないのに)
 自分自身が滑稽すぎて、クリーオウは溜め息をついた。
 図書館で出会った二人との情報交換。そして放送。
 ──老人と子供が一緒に喋っているような声で伝えられたのは、見知った少年の名前だった。
 世界が自分から切り離されたかのような感覚。他人の声とも思える自分の絶叫。
 すべてが空になっていく。誰かに宥められたり励まされたような気もするが、他人事のように頭から通り抜けていった。
 今はもう、自分を貶められるくらいには安定しているが──安定しているだけで、心の中は先程よりも暗く淀んでいた。
(……なにもできなかった。なにもしてあげられなかった)
 マジク。
 同じ学校に通っていた。ずっと一緒に旅をしていた。
 自分とは違い魔術が使える。自分とは違い戦える力を持っている。自分とは違って──もっと生き延びることが出来たはずなのに。
 彼に対してなにもしてあげられなかったことが、クリーオウの虚無感と自己嫌悪を増大させていた。
(わたしだけが、無力)
 クエロもゼルガディスも戦士だ。サラと名乗った女性は自らのことを魔術師だと言っていた。
 もう一人の少年の方──空目恭一の方はよくわからないが、情報交換の時の会話から自分よりも相当頭が回ることがわかった。
(戦えないし、頭もよくない。……何も役に立てないね、わたし)
 以前の旅をしていた頃の彼女なら想像もつかないほど、クリーオウは落ち込んでいた。

「落ち着いたか」
「あ……うん 」
 悪循環する思いに心を沈ませていると、突然声が投げかけられた。
 ──顔を上げた先には、空目恭一の姿があった。
 少し異質な響きを持つ名前(名前が下に来るらしい)と、かなり異質な雰囲気を持っている、自分と同世代の少年。
(この人は、何でこうしていられるんだろう)
 まるでこれがそのまま日常だと言っているかのように、落ち着き払っている。
 戦いに慣れ切った歴戦の兵には見えない。すべてを見通す賢者とも、少し違う気がする。
(達観してる──すべてに絶望してるみたい)
 今、こんな風になれたらどんなに楽だろう。
 このゲームのどこかで生きているオーフェン。このゲームのどこかで死んでいるマジク。
 彼らのことを考えずにいられたら、どんなに楽だろう。
「──」
「えっと……なに?」
 何も言わずに、自分を見ている──見つめているのではなく、まるで道ばたに落ちている石を見ているかのような少年に、クリーオウはただ戸惑った。
 彼女が少し不安を抱き始めた頃、やっと彼は口を開いた。
「君の知り合いが死んだのは、君の責任ではない」
「え?」
「人を殺す機会と手段が十分に与えられているこの状況下で、コンタクトがとれないまま知り合いが死んでいってもそれは君の無力が原因ではない。
その知り合いの運が悪かっただけだ」
「…………」
 わかっては、いる。理解はしている。でも、
「自らの手の及ばないところで起きた事象を自らの責にしてはいけない。
 すべての問題を抱き込み自らを傷つけその傷を舐める行為は死者に対する愚弄にしかならない」
「…………」
 でも、
「自己完結しておくのは精神安定を図る行為としては間違ってはいないし個人の勝手だが、
切迫した状況に加え集団行動を取っている今現在ではマイナスにしかならない」
「────」
 声が喉から出る前に、反論する気力はなくなっていた。
 彼の紡いでいる言葉があまりに率直であり図星すぎて、何も言えなかった。
 かなりひどい顔をしているであろう自分を見つめながら、恭一は更に言葉を続けた。
「死んだ彼の事を思うのならば、己の出来ることをすることだ。
思考を停止させずに脳を働かせれば、何をすればいいのか、何をすべきでないのかは誰でも理解できる」
 なにか。自分ができるなにか。自分が今考えるべきなにか。
 ──以前、オーフェンに言われたことを思い出す。
 自分とは違い、諦めることも絶望することもしなかった彼は、奇跡と同じなにかがあると言っていた。
(……わたしにも何かができる? わたしにもなにかが見つけられる?)
 戦えない。頭も回らない。……それでも、ここで思考停止に陥っているよりはまし。
 悔しいくらいに同意できる意見だった。そんな簡単なことにすら気づかずに座り込んでいた、先程までの自分を殴ってやりたくなるくらいだ。
「……うん、わかった。何かやらなきゃオーフェンにも会えないし、ここからも出られないよね」
 ここで泣いているよりも行動した方がマジクへの弔いになるし、脱出を考えているであろうオーフェンに対しても間接的に協力できる。
 一度沈んでしまった心は完全には立ち上がってはいない。だが、今は前進しなければすべてがこぼれ落ちていってしまう。
 ──やっとそこまでを、脳ではなく心で区切りをつけられて、クリーオウは大きく息を吐いた。
「……、ありがとう、恭一」
「礼を言われるようなことをしてはいない」
 そう言うと、踵を返して本が積まれている机に戻っていって、何事もなかったかのように本を読み始めた。
(マジク──)
 胸を切り裂かれるような感情を必死にしまい込む。泣くのは後回しだ。
 ──と。
「誰か来た。足音が二人分聞こえる」
 引き戸の向こうで見張りをしていたゼルガディスが中に入ってきた。
 資料になりそうな蔵書を漁っていたサラと、それを手伝っていたクエロも手を止めて彼に注目する。
「まぁ、出迎えるしかあるまい。……一応、武器はあるしな」
 サラがつぶやいた。ゼルガディスが腰の剣に手をかけ、クエロが本を机に置いて軽く身構える。
 ……恭一はそのまま読書を続けていたが、一応注意は引き戸の向こう側にあるようだ。

(……マジク、わたし、あなたの分までがんばるから)
 部屋を包む緊張感を噛みしめながら、クリーオウははっきりと決意した。

【残り88人】

【D−2(学校内3階図書室)/1日目・06:15】
[共通思考]:向かってくる参加者と交渉

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康、なんとか落ち着いた
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:みんなと協力して脱出する、オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康
[装備]: 図書室の本(読書中)
[道具]: 支給品一式/原子爆弾と書いてある?(詳細真偽共に不明)
[思考]: 書物を読み続ける。ゲームの仕組みを解明しても良い。
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 健康
[装備]: ナイフ
[道具]: 高位咒式弾、支給品一式
[思考]: ゼルガディスに同行する
+自分の魔杖剣を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)

【ゼルガディス・グレイワーズ】
[状態]:健康、クエロを結構疑っている
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式
[思考]:リナとアメリアを探す

【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子
[道具]: 支給品一式/巨大ロボット?(詳細真偽共に不明)
[思考]: 刻印の解除方法を捜す。ゼルガディスらと情報を交換する
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。

※ある程度の情報は交換済み。ただし刻印についての情報を三人に話したかどうかは不明


『人捜し屋さんチーム』
【D-2/学校内3階のどこか/1日目・06:15】

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:デイパック(支給品一式/せんべい詰め合わせ)
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/学校内の何者かと接触し、情報収集

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/建物内の何者かと接触し、情報収集


2005/05/09  改行調整、一マス開け追加

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